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2月26日（水） 旧暦2月3日
 神代植物園の白梅。  ここにはたくさんの梅の木があり、梅の種類の多彩さにおどろく。  ふらんす堂では、スタッフのうち文己さんだけが電車とバスを使って出勤する。 この１、２週間は、午前中は在宅勤務、出社は昼からということにした。 通常の時間だとラッシュにぶつかってしまうのだ。 ということでたくさんの仕事を抱えて、文己さん、さきほど帰って行った。 「新型コロナウイルス」について、いたずらに怖がっていても、ということはある。 Pさんが、「この記事はなかなかいいかもしれない」とヤフーのサイトを教えてくれた。 興味のある方は、是非お読みになっておくといいかもしれません。 かなり、クールに対応できるかもしれない。 ともかくすでに多くの人間が罹患しているかもしれないのだが、怖いのは高齢者や病気療養中の人、自分がかかることよりも、人に移さないように気をつけよ、この1，2週間が勝負であるということ、サーズなどに比べてなぜ伝染性が強いかなど詳しく説明されている。 全ての情報が正しいとは限りませんが、参考になると思います。 あとで振り返って、あんなに心配したのがおかしいくらいって笑えるようになれば幸いである。 すべて杞憂だったと。。。。  神代植物園。 白い花がびっしりと咲いているあの木も梅の木だと思う。 ▲
by fragie777
| 2020-02-26 18:23
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2月25日（火） 北野梅花祭 旧暦2月2日
 神代植物園に咲いていた山茱萸の花。 万作もそうだが、早春に咲く一連の黄色の花のひとつである。  この日、春一番が吹き荒れていて写真のピントを合わせるのがたいへん。 合ったと思うと風が邪魔する。  だからこんな感じになってしまう。。。 新型コロナウイルスの影響によって、3月3日に行われる予定だった「俳人協会」の行事はすべて中止となったということである。「懇親会」のみではなく、 ※今日いただいた葉書によると総会は中止ではなく規定通り開催とのこと。（間違った情報でごめんなさい） 3月の「ふらんす堂句会」もすべて中止とさせていただく。 俳人の方たちは句会や吟行会にとくに熱心である。 そういう会を中止とするには、状況を見据えた判断力とそれに基づく決断力が必要だ。 多くの人間の命が関わっている、と考えれば中止とすることで後悔することはないと思う。 自己を守ることは他者を守ることであり、他者を守ることは自身を守ることだ。 抜き差しならないところにいる、という危機感が必要だ。ってわたしは思っているのだが、、、 24日付けの讀賣新聞の「枝折」に、『シリーズ自句自解Ⅱベスト100 酒井弘司』が採りあげられている。 昭和29年、高校入学の年の句から、信州生家、「海程」創刊、神奈川の新居にまつわる句など、来し方を振り返る。 朝のはじめ辛夷の空をみていたり 弘司 歩かねば山吹の黄に近づけず ててっぽっぽう山鳩は春つれてくる クレソンの水を提げゆく春の人 まんさくの光を蹴って来る少女 大皿のわくわくしてる春キャベツ われも光春の光の宇宙塵 大きな海よ差別越えゆく春の海よ この星のいのちはいくつ春立てり 地球は、「水の星」とも呼ばれる。ときに、ふっと思うことがある。 それは、この星に、どれくらいのいのちがあるだろうか、と。人類は約七十一億人と言われるが、草も木も昆虫も魚などもくわえていけば、これは膨大な数になる。 たくさんの数のいのちと一緒に暮らしていると、いのちの大切さが身にしみる。 （句集『谷戸抄』平成二十四年） 「水の星」と呼ばれる地球がいま不穏な状況にさらされつつある。 わたしたちはどこに行こうとしているのか。。。 ▲
by fragie777
| 2020-02-25 18:33
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2月24日（月） 霞始靆（かすみはじめてたなびく） 旧暦2月1日
 深大寺に咲いていた馬酔木の花   いろんな種類がある。 どれがお好き？ この日は雨が降ったあとだったのだろうか。 みな濡れていた。 今日の毎日新聞の岩岡中正さんによる「俳句月評」に、伊藤敬子著『鈴木花蓑の百句』がとりあげられている。 伊藤敬子『鈴木花蓑の百句』（ふらんす堂）は、大正末「写生の鬼」と呼ばれた名手の丁寧な紹介である。今日の俳句状況の中で、あらためて写生の原点からその有効性を確認する点に、本書の意義がある。本書から「客観写生」がたんなる没我ではなく、写生する確かな主体形成だったことがわかる。 金屏の隅に追儺のこぼれ豆 団栗の葎に落ちてくゞる音 こうした一見細かに見える写生も、深い凝視を通して対象の生命に肉迫し、次のように主体性（主観）をもって飛躍する。 大いなる春日の翼垂れてあり 薔薇色の暈して日あり浮氷 冬が終わり春がはじまる季節の変わり目に、訃報を聞くことが多い。 数日前だったろうか、比較文学者の芳賀徹氏の訃報を知った。 芳賀徹氏には編集者時代に原稿を貰いにそのご自宅まで伺ったこともあり、また、数年前にはすこし親しくお話をした記憶がある。 今日は今手もとにある氏の著書『詩歌の森へ』（中公新書」より、一つだけ選んで紹介し、氏を追悼したい。 「少年の大きな秘密」と題して、詩人・木下夕爾について書いたものである。木下夕爾の俳句について触れている。 木下夕爾は早稲田高等学院でフランス語を勉強していたが、そのころから詩を堀口大學に、戦後になって俳句を久保田万太郎に学んだ。家庭の事情で薬剤師の資格をとり、昭和十三年（1638）、二十四歳のときに故郷の広島県福山市にもどり、町はずれで家業の薬屋を営みながら終生詩と俳句を書いて暮した。 福山といえば阿部候の城下だった美しい町、詩人菅茶山にも作家井伏鱒二にもゆかりが深い。いちど木下薬局を訪ねて夕爾先生から風薬などを買ってみたかった。彼の田舎暮しの抒情のなつかしさに触れれば、誰しもそう思う。 水ぐるまひかりやまずよ蕗の薹 家々や菜の花いろの燈をともし よく折れる鉛筆の芯春の蝉 郭公鳴き豆腐は水にふかくしづむ よしきりや入江のいだく夕明り 昭和の蕪村。日本のフランシス・ジェムか。「いなかの夜」と同じ『児童詩集』のもう一つの珠玉、「ひばりのす」も忘れられない。 ひばりのす みつけた まだだれも知らない あそこだ 水車小屋のわき しんりょうしょの赤い屋根のみえる あのむぎばたけだ 小さいたまごが五つならんでる まだだれにもいわない 赤い屋根の「しんりょうしょ」のある、ちょっとハイカラな郊外の麦畑。そこにひばりの巣を見つけた少年の興奮。だがそれを人に言うだけで小さな卵はこわれそう。だから秘密にする。胸がふくらんで独りごとになってしまうほどの少年の大きな秘密。ーー皇太子妃時代の美智子様もこの詩がお好きで、美しく英訳してお送りくださったことがあった。 芳賀徹氏のご冥福をお祈りもうしあげたい。 木下夕爾の俳句といえば、ふらんす堂文庫に木下夕爾句集『菜の花集』（成瀬櫻桃子篇・解説）があり、多くの木下夕爾ファンに愛読された。が、いまは品切れ状態である。 先日ご来社くださった詩人の浅井眞人さんも、「夕爾の俳句が好きです、詩よりも」とおっしゃっていた。 二月は個人的にも死の気配が濃い月となった。 愛猫・ヤマトの死のみならず、同級生の死があり、そしてもう一人、30年以上にわたって髪をカットしてくれていた美容師のAさんが亡くなった。 急死であってその死が病死であるのか、あるいは自殺であるのか定かではない。 美容室に倒れていたところを発見されたのである。 カットの腕はすこぶるよくほれぼれする許りであったが、人間的には尋常でない偏執狂的なものがある人だった。マニアックな話題にことかかずそれがわたしなどには面白かった。自分がやや常軌を逸している人間であることを彼自身がよく知っていた。 「今日は左と右をややアンシンメトリーにしておきました」 「今回は、うしろのここ、少し角度をつけておきまいした」 鏡の前にすわればお任せで、出来上がった髪型を不満だとおもったことは一度もない。 お客の話などはほとんど聞かず、機関銃のように言葉が飛び出す。 わたしは聞いてもらいたい話などは別にないのでそれがラクだった。 唯一困ったことは、シャンプーの時に力がはいりすぎて痛いこと。それを一度言ったことがあったけれど、やっぱり痛かった。 これからどこで髪を切ってもらおうか。。 淋しい風が身体を通りすぎていく。 ▲
by fragie777
| 2020-02-24 18:33
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2月23日（日） 天皇誕生日 旧暦1月23日
 仙川・武者小路実篤邸の椿。 いかなる状況にあっても「美しさ」は大切にしていきたい。 好きな番組がある。 そこで語られたことばだ。 青春が幸福に値するのは 美しいものを見る能力を 備えているためです。 美しいものを見る能力を保っていれば 人は決して老いぬものです。 ーーフランツ・カフカ 今日の朝日新聞の青木亮人さんによる「俳句時評」で、伊藤敬子著『鈴木花蓑の百句』がとりあげられている。 昼顔や浅間の煙とこしなへ 花蓑 「ホトトギス」昭和初期の句で、伊藤敬子著『鈴木花蓑の百句』（ふらんす堂2月）は次のように説く。「足元の咲く小さな昼顔の花、前へ目をやれば煙を吹き出している浅間山の雄壮な姿」。夏の青空の下、永遠（とこしなへ）のように白煙を吐く赤茶けた浅間山と、淡紅に染まる白色の昼顔の可憐さが共鳴しつつ暑気を彩る句だ。この花蓑句は、後に「ホトトギス」の山口青邨が中国を訪れた際の著名句に示唆を与えたかに感じられる。 青木亮人さんがここで言っておられる青邨の有名句は、知る人はああ、あの句ねって思いだされたことだろうが、ちょっと紹介しておきたい。 たんぽゝや長江濁るとこしなへ 青邨 上五に植物の季語をおき、下五で「とこしなへ」と結んだところ、句の形もよく似ている。青邨の方が人口に膾炙しているが、花蓑の句もいい句だ。虚子の提唱のもとに昭和5年から昭和14年までの間100回に亘って行われた「武蔵野探勝会」には、花蓑も青邨も熱心に参加している。先輩格にあたる花蓑に素十もその手法において大いなる影響を受けたように、青邨も当然のことながら一目おいていたことはあるだろう。お互いに切磋琢磨しながら影響しあって秀作をものしていったのだと思う。花蓑の句が昭和5年「ホトトギス」8月号に掲載され、青邨の句は句集『雪國』に収録され昭和12年の作となっている。この句、「百句シリーズ」の岸本尚毅著『山口青邨の百句』にも採りあげられ鑑賞されている。併せてお読みいただければと思う。 昨日の朝からお腹の調子がよくなくて、不安定だったがやっと落ち着いてきた。 今日は、仙川にある武者小路実篤公園に行って、ぼんやりと過ごした。 東北大震災後の環境汚染があやぶまれ外出を控えるようになった時、わたしはやはりこの庭に来たのだった。その時は空高く風に揺れながら辛夷が咲いていた。その光景は忘れることができない。  竹林で風の音を聞く。  気持ちがいい。  池が二つあるのだが、こちらは鯉の池。  ベンチに腰をかけてしばらくの時間をすごす。   武蔵野のおもかげをそのまま宿す庭である。 近くにこんな場所があることが嬉しい。 今日は夕方午後4時より、新橋の「新橋亭」にて、俳人の本井英氏の「鴫立庵」の庵主になられたお祝いの会があり伺う予定でいたが、お腹の調子が本調子でないのでやむを得ず欠席のご連絡をしたのだった。 「未来図」の山田真砂年氏が、お招きのお電話をくださったのであるが残念である。 きっと良き会となったのではないかと思う。 本井英氏は、いまふらんす堂ホームページで「俳句日記」の連載をしていただいている。 本井英庵主さま この度はおめでとうございます。 心よりお祝いを申し上げます。   ▲
by fragie777
| 2020-02-23 18:33
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2月22日（土） 旧暦1月29日
 今日の神代植物園の寒桜。 3月3日の京王プラザにおける俳人協会四賞授与式について、お知らせをいただいた。 新型コロナウイルスの感染が心配されるため、ということで、「総会、授与式」は予定通り行い、「懇親会は中止します」ということである。 いろいろと対策がたいへんである。 午前中はご近所の神代植物園まで足を伸ばした。 梅と椿がきっと美しいだろう。 春一番が吹き荒れて風はつよかった。 まだ早かったせいか人影はすくなく、マスクをはずしてわたしは思う存分深呼吸をした。 梅も椿も盛りであったが、一本の寒桜が見事だった。   見ている人間はわたしだけである。   夢のなかにいるようにわたしはしばらく見上げていたのだった。 「週間新潮」の2月27日号の嵐山光三郎さんの「新々句歌歳時記」に、ふけとしこ句集『眠たい羊』の一句が紹介されている。 結んで開いて手を打てば春 ふけとしこ かろやかで句がメロディーの風に吹かれて踊っています。なつかしの唱歌「むすんでひらいて……」ですね。みんなで声を出して、指を動かして、肩をゆすりながら、はい手を打ちましょう。。パチーンと手の平を打つ音とともに、ほら、春がやってきたぞ。いい感じだなあ。俳句を身体化している。「歳時記」を読みこなして、草木探訪や山野吟行し、自在に遊んでいる。これぞ俳句生活の極意。句集『眠たい羊』（令和元年・ふらんす堂） 今日は猫の日なんですって。 22（ニャーニャー） ヤマトが死んで一週間経つ。 その日、まだあたたかな亡骸を抱えて、わたしはどうしてよいか分からずパニック状態になっていた。とっさに思い浮かんだのが、友人で俳人の川島葵さんである。猫のことならなんでも知っている。葵さんはヤマトにも会っている。 「葵さん！ ヤマト死んじゃった。。どうしよう」って泣きべそ状態で電話をしたところ葵さんは静かにわたしがやるべきことを教えてくれた。葵さんの声を聞いていたら気持ちが落ち着いてきて助けられたのだった。 火葬に付されたヤマトは今お骨となって柔らかな布でくるまれお菓子の缶にいれられて、わたしの寝室の朝日のあたる明るい出窓におかれている。ヤマトを貰いに行ったときに一緒だったPさんにも分骨をした。 ヤマトをくださった大島弓子さんにヤマトが死んだことをお知らせした。 いただいたお葉書に「ヤマトちゃんは長生きをしましたね」とあり、たぶんヤマトは19才か20才でしょうと教えてくださった。 そうか、20才だったかもしれないのだ。。 頑張って長生きをしてくれたんだと思うと、改めて涙がこぼれた。  わたしの腕の中のヤマト。 女子です。 ▲
by fragie777
| 2020-02-22 19:03
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2月21日（金） 二の午 旧暦1月28日
 黄水仙。 リトアニアの木村文さんが、リトアニア国会図書館で、木村文訳サロメーヤ・ネリス詩集『あさはやくに（ANKSTI RYTĄ）』の「あさはやくに」の詩の一節を朗読している場面をおくってくださった。 つくづくと若いっていいなあって思う。 新型コロナウイルスの脅威は日々大きくなっている。 あまり楽観視してはいられない。 今朝のミーティングで、3月の「横浜句会」の中止を決断した。 句会を決行すれば、皆さん熱心なのでいらしてくださる。 ご高齢の方も少なくない。 やはり主催者側が責任をもって決断しなくてはならないと思った次第である。 「新宿句会」「吉祥寺句会」についても慎重に考えていきたいと思う。 新刊紹介をしたい。  四六判ペーパーバックスタイル帯あり 170頁 二句組 著者の河原地英武（かわらじ・ひでたけ）さんは、昭和34年（1959）長野県松本市生まれ、現在は滋賀県草津市在住。平成11年（1999）栗田やすしに師事、平成17年（2000）「伊吹嶺」7周年記念賞（文章）受賞、平成20年（2008）第6回伊吹嶺賞受賞、平成24年（2012）「伊吹嶺」副主宰、平成30年「伊吹嶺」主宰。俳人協会評議員、国際俳句交流協会監事。評論集『平成秀句』（平成28年刊）、第1句集『火酒』（平成28年刊）。 本句集は第2句集となる。 句集名は「憂国」。 憂国の友に注ぎたり花見酒 という句が収録されているが、命名はその一句によるのみならず、 句集名について一言しておきたい。ふだん勤務先の大学で国際政治学を講じていることもあり、時局的な問題に関心をもち、この国の将来に危機感を募らせている。それがときどき作品にも表れているようだ。三島文学の愛読者ではないけれども、わたしのそんな思いを表題に込めた次第である。 と「あとがき」にある。 帰り来し故国一面つちふれり 愛国の自問自答や時雨来る 討論は白熱バレンタインの日 年末の授業改憲論じ合ふ 短日の机上に伏せし獄中記 勤王の志士の本持ち煤逃す 痛きほど絞る雑巾開戦日 このように句集中には、国際政治学者として真率な顔が時として現れる。 国を思い、国の将来を案じる一人の人間としての顔だ。 本句集の担当は、文己さん。 筍を三和土に寝かせ先斗町 踊子のみな違ひたる帯結び 嵯峨菊に深き青空ありにけり 愛国の自問自答や時雨来る 子規堂へ土足で上がる敗戦日 鹿威し尻揺さぶつて戻りけり 春耕や伊吹の裾に光満ち 春宵や洋食店に夢二の絵 白蓮を揺らし揺らして風きたり 青空のどこか煤けて四月果つ 一心に待つ便りあり秋簾 踊子のみな違ひたる帯結び 盆踊りの踊子だろうか、それぞれが帯の結び方が違うといのだ。よく観察している。踊り子の髪型や年齢や姿恰好などは観察するところであるが、わたしは帯結びまで観察したことはなかった。「みな違ひたる帯結び」という措辞によって、踊子が俄然いきいきとみえてくる。それぞれの個性や華やかさ踊子たちの溌剌とした気配までが伝わってくる。踊りに興じる踊り子たちがきわやかに立ち上がってくる。 子規堂へ土足で上がる敗戦日 子規堂って恥ずかしいことに知らなかった。いまサイトで調べてみたら「子規堂は、正岡家の菩提寺である正宗寺（しょうじゅうじ）境内に建ち、子規が17歳まで暮らした家を復元した記念堂である。子規堂内には、子規の直筆原稿や遺墨・遺品などを展示しており、筆まめで鋭敏な子規の性格を感じとる事ができる。勉強部屋や愛用の机などもみもの。」とある。敗戦日に作者は「子規堂」を訪ねたのだ。子規堂は土足であがってはいけないのだろうか、きっとそんなことはないのだろう。しかし、土足で上がることをあえて作者は意識したのである。なにか土足であがってはいけないような躊躇させるものがかすかに心にあった。子規への思いがそう思わせたのだ。そしてさらにその日が敗戦日であったことで余計に作者の心は複雑な陰影をまとい屈折した。 面接の机向きあふ寒さかな 学生さんを面接しているのだろうか。机を向き合わせて顔と顔を互いに見合わせて試問しているのか。当然作者の河原地さんは、面接をする側である。その面接によって相手の運命は大きく変わるかもしれない、そういう関係だ。机の距離はちかくても心の距離ははるかに遠い。その距離に寒さが忍び込んでくる。ああ、寒い。 古書店に主とふたりクリスマス 学者さんらしいクリスマスの過ごし方である。古本屋さんの主人とはよく知った仲である。心置きなくいろんな話ができる。本の匂いに囲まれて傍らには石油ストーブが置かれ、クリスマスだからお客さんも少なくて、くつろいで満たされた気持ちでいるのだ。本は買ったのだろうか、いや買わなかったかもしれない、今日は買わなくてもまたいつか捜していた本があれば、あるいは予期せぬ出会いがあれば買うだろう。主人だってやや馴染みのお客と話すことが楽しい。素敵なクリスマスだ。 雨白く弾きとばせり鶏頭花 この一句、面白いと思った。鶏頭にあたって雨粒が白く飛んだ。それをあたかも鶏頭がはじき飛ばしたかのように詠んだ一句だ。よく景がみえてくる。はげしい雨の勢い、鶏頭の赤、白の雨粒、鶏頭のごつごつとした質感まで見えてくる。 「伊吹嶺」副主宰としての五年間と、主宰一年目に発表した作品のうち三百句を自選して一書とした。わたしの第二句集である。指導者として未熟であるわたしに対し、栗田やすし先生（現「伊吹嶺」顧問）は何も注文をつけることなくすべて任せて下さった。その雅量を心からありがたく感じている。主宰になり「伊吹嶺」がいかに多くの人々に支えられているかを知った。仲間に深く感謝する。 「あとがき」の言葉である。 「伊吹嶺」は、澤木欣一、細見綾子を師系とする結社である。 綾子忌の大河に跳ぬるあめんばう 薄日さす電話ボックス欣一忌 本句集の装幀は和兎さん。 ペーパーバックススタイルのシンプルな本であるが、「憂国」という句集名が軽くならないように心がけた。  しかし、 説明的であってはならない。  帯を太くした。    表紙はきわめてシンプルである。   扉。   迫力を感じさせる仕上がりとなった。 句集名は勇ましいですが、中身は意外と穏健で、拍子抜けする人もいるかと思いますが、これが私の個性ですからどうしようもないことですね。 完成を楽しみにしております。 これは河原地英武さんが、進行の途中で担当に文己さんにくださったメールである。 静かな憂いが句集の底を流れている、とわたしは思っている。 南瓜抱く母の腕の濡れてをり この句好きな一句である。本句集中では地味な一句であるかもしれないし、南瓜を抱いているお母さまの腕が濡れていることのみの詠んだ一句である。だが、この母の濡れている腕がわたしにはとてもまぶしく思えるのだ。きっと河原地さんもそうだったのではないだろうか。南瓜は新鮮で瑞瑞しく、濡れた母の腕も新鮮だったのだ。そのことに感動した作者の心が見えてくるのだ。お母さまへの並々ならぬ思いも見えてくる。母に抱かれた南瓜、腕を濡らした母、すべてが尊い現実である。そのことが素晴らしい。 ▲
by fragie777
| 2020-02-21 19:17
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2月20日（木） 土脉潤起（つちのしょううるおいおこる） 旧暦1月27日
 綺麗な梅が咲いている。  ちゃんと札が下げられていて「紅千鳥」とある。 きっと「何という梅ですか？」って聞かれることが多いのだろう。  今日は曇り日。 ……ヤマトのいない世界の空だ…… とつくづくと見上げる。 実はヤマトの死とほぼ同時期に大学時代の友人の訃報があった。。。 ヤマトを思うと同時にその友人の顔もうかんでくる。 悲しみの二月となった。 ブログを見てくださっている方々から、いろいろなかたちでお悔やみをいただく。 そのつど涙が出る。 ヤマトへのお気持ち、とてもありがたいです。 俳人の津久井紀代さんが下さったお手紙には、思わず笑ってしまった。 津久井さんも猫好きである。 ヤマトちゃんが天へ帰られたこと大変ショックを受けています。 とあり、 わが家のクロ 20才 一週間家出 張り書きをしたり、警察に行ったり 十日後に 三軒先の大邸宅にぬくぬくと保護されていて、 今はうちでやすやすと、 ヤマトちゃんは18才、もう少しがんばってほしかったですね。 ヤマトは19才であるが、ほんともう少し頑張ってせめてクロちゃんみたいに20才まで元気でいてほしかった。 このクロちゃんには笑った。 いいなあ、 実はわたしはクロちゃんがまだ小さな子猫のときに津久井さん家で会っているのである。 津久井紀代さんの第3句集『てのひら』の句稿をいただきに行った時だったと思う。 元気な猫でテーブルに乗ったり、それはもう自由に元気にのびのびしていた。 わたしんとこのヤマトはすごいビビりで人前には決して姿を現さない猫であった。 このヘンがちがうのかもしれない。 人が来る度にストレスを溜めていたのかな。。。 などと思うとまた泣けてくる。 まっ、仕方ないな。。。。 H賞受賞詩人である野木京子さんの『空を流れる川―ヒロシマ幻視行』の電子書籍版が配信になった。 すでに紙の本は品切れになっており、この度野木京子さんのご希望もあり電子書籍化が決まったのだった。 被爆の都市・広島について書かれた優れたエッセイを収録しており、品切れにするには惜しいエッセイ集だった。 詩人・野木京子の原点にも触れることのできるものだ。 紙の本が品切れになっても、電子書籍化によってこの一冊は世界とつながっている、読もうと思えば読めるということが大切なことだと思う。 このブログを書いていたら、いま句集制作をおすすめしている京都の小川弘子さにんより、お悔やみのお電話をいただいた。 「ヤマトちゃんの写真を毎日みてます。いい目をしてますね。わたしも4年前に猫を亡くしました。いまでもまだ悲しいです。」とおっしゃる。 こうして慰めのことばをいただく度に、お気持ちをありがたく本当にうれしく思う。 わたしが思っている以上に愛されていたヤマトかもしれない。。。 午後に文己さんより、 「yamaokaさん、これ」って手渡されたものがこれ。  「名探偵コナン」の「瞳の中の暗殺者」のDVDである。 実はすこしまえにビデオを撮ってみるんだって言ってだでしょ。 あれね、家に帰ってみようと思ったら、肝心のコナンが撮れてなくてそのあとの5分間の番組を撮っていたのである。 とんだお笑いぐさ。 もう、ヤレヤレ。。。 で、しょんぼりしていたら、文己さんがヤイテきてくれたのだった。 「コナン」の中でも一番のおすすめなんですって。 さっそく今日帰ってみるつもり。 ▲
by fragie777
| 2020-02-20 18:21
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2月19日（水） 雨水 旧暦1月26日
 国立・城山公園に咲いていたまんさくの花。 早春の花である。 早春といえば、まだまだ冷たい空気を思うのだがどうも今年はすっかりあたたかくなって、あの早春の感触が体感できずに終わってしまいそうである。 「先週からね、ずっと思い出せない駅の名前があるのよ。」とわたしは仕事の手をとめて言った。 「こういうのってさ、すぐに調べないで思い出すようにした方がいいって言うじゃない。だから、一緒懸命思い出そうとしてるんだけど、まだだめ」 「京王線ですか？」ってスタッフが聞く。 「そう、でも言わないでね！ 絶対思い出すんだから！！」 ところが、、 「代田橋（だいたばし）？」ってPさんがにやっとして言う。 「ああ、なんで言っちゃうの！！そうなのよお。もう！」とわたしは抗議をする。 「いや、ひとつだけっていうと、代田橋しか考えられないから、言ってみました」だって。 ほかのスタッフ達はこのやりとりを聞いて笑っている。 代田橋という駅は、各駅に乗らない限り通過してしまう駅で、新宿に近いのだけど地味な駅なのである。 わたし、多分降りたことないかも。。。。 だけど、言うなっていうのに言っちゃうなんて許せないよね。。。  冊子「第10回 田中裕明賞」の電子書籍がまもなく配信になる。 電子書籍では、選考会のみならず、吟行会、授賞式、お祝いの会をすべて収録している。今回は選考委員の方の交替もあって、新しい選考委員の方も加わったお祝いの会となった。 これまでの選考委員の方々の「田中裕明賞」への思い、そして新しい選考委員の方々の思いなどが収録されているので、興味のある方は是非に読んでいただきたいと思う。 いろいろと反省点も含めて語っていただき、その辺は今後の「田中裕明賞」へと生かしていきたいと思う。 田中裕明夫人である森賀まりさんが語られたことも、わたしたちを大いに励ますものであった。 1回から10回まで最初は手探り状態のまま、ミスもおおく、選者の方々にサポートをいただきながら、なんとかやってきた。よくやってこられたと思うこともある。 授賞式に吟行会を入れるなんて、と思われた方々もあったかもしれないが、わたしは絶対それをしたいと思ったのだ。 そしてそれは今後も続けていきたいと思っている。 第11回田中裕明賞への応募句集もすでに選考委員の方々にお送りした。 選者交替によって、応募句集がどうなるか、すこし心配したところもあったが、たくさん応募があり力のある句集が揃った。選考委員の方たちは頭を悩ませるところかもしれないが、そのことをまず喜びたいと思う。  冊子「第10回田中裕明賞」 ▲
by fragie777
| 2020-02-19 18:24
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2月18日（火） 旧暦1月25日
 谷保天神の梅。 リトアニアに無事についた木村文さんから文己さんあてにメールが入った。 こんにちは。リトアニアの木村です。 リトアニアのみなさまに詩集をお渡しして、大変すてきな反響をいただいております。 「表紙デザインがいい」「装丁がいい」「紙がいい」とふらんす堂の本のクオリティがリトアニア人のみなさんを唸らせています。 ということ。 嬉しいですね。。。。 「リトアニアの木村」って、リトアニアにいることの喜びが伝わって来ますね、木村さん！ 木村文さんのまっすぐな眼差しは、リトアニアの人たちの心をきっと捉えるとわたしは思っている。。。。 去る15日（日）の夕べに、ふらんす堂より句集『カフェにて』を上梓された能城檀さんの出版を祝う会があり、お招きいただいたPさんが出席した。 以下はPさんのレポートです。   会場はオ－バカナル紀尾井町店、『カフェにて』というタイトルにぴったりな会場でした。 手作りでアットホームな会でした。 句友の方々との仲の良さが伝わってくるあたたかな会で、能城さんのお人柄に触れた思いがいたしました。  ウェルカムボードも手作りです。  立食の各テーブルに能城さんの句集から引かれた句がファイリングして置いてありました。  出席者が『カフェにて』から好きな句を一句引いて貼り出しました。  ご挨拶される能城檀さん。 皆さま、本日はお忙しい中ありがとうございます。 皆さまが来て下さったことだけでも心からお礼を申し上げたいと思います。 今回の句集は30年分くらいを圧縮して一冊にしたような句集になります。 やっと出たと言われますとその通りなんですが、まずは一番に報告すべきというか「やっと出せました」と報告したいのは大牧広先生になります。 大牧先生の下で俳句を勉強できたことは、自分の成長に繋がったように思っています。 私は「港」の他にも「船団」にも所属しておりますが、本当は今日は坪内稔典さんもお誘いしたのですが、ちょっと今日はご予定の都合でご出席適いませんでした。 でも「よかったね」というお言葉を頂いたことをご報告させて頂きます。 装画で使わせて頂いた金子國義さんにご子息の金子修さんにもご案内したんですが、お仕事や個展の準備の都合で、修さんもご欠席です。 個展の際は『カフェにて』を置いてくださるとのことで、「え～！」と驚いてしまいました。 金子國義さんの絵はもちろん素晴らしいのですが中身が「この人だれ？」状態になってしまうと思うので、読んでがっかりされないことを祈るばかりです。 今日この会は、皆さんに本当にご協力頂いて、司会の木村晋介さんさん、受付をやっていただいた堀口さん、ハレパネとかボードとか作ってくださった高坂小太郎さん。 そしてなんと言ってもこの会をやろうよと言って下さり、ご序文も書いて下さいました仲寒蝉さん、お帰りの際におわたししようと思っているプチプレゼントを手ずから持ってきて下さった本山さん、皆さんあってのことだとございます。 いろんな方のお手を煩わせまして、お世話なったおかげで、この会を開くことが出来ました。 もちろん「「閑々亭」のメンバーもそうだし、「牧」の会のメンバーもそうだし、皆さんのあたたかい心遣いの御陰で俳句ができているなと感じております。 小泉瀬衣子さんには、句集を作る際、大牧先生がご病気だったのでご相談は瀬衣子さんにさせていただきました。感謝申し上げます。 櫂未知子さんにも「港」に入った当初、よく「頑張ってね」とお声を掛けて頂いたのを憶えております。本当に皆さまありがとうございました。 最後になりますが、「俳句に行くよ」というと「いってらっしゃい」と言ってくれる、家族に感謝したいと思います。 本当に皆さまのお陰様です。 ＊ ＊ ＊ 能城檀さま、第1句集『カフェにて』のご出版おめでとうございます。 素晴らしいお仲間に恵まれておられること、何よりと存じます。 心よりお祝いを申し上げます。  ▲
by fragie777
| 2020-02-18 19:03
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2月17日（月） 旧暦1月24日
 谷保天神の白梅。 この日は曇り空だった。 新聞の記事を紹介したい。 昨日の朝日新聞の「風信」に、山本みち子さんの句集『涙壺』が紹介されている。 80歳の著者の第1句集。 初蝶とわたしエリアをひよいと出る 少年の耳のピクピク春立つ日 昨日の讀賣新聞の長谷川櫂さんによる「四季」は『原田喬全句集』より。 流氷やわが音楽はその中より 原田喬 早春、オホーツク海を埋める流氷。真っ白な氷原にしか見えないが、耳を澄ませば沈黙の彼方からさまざまな音が聞こえる。寒流の音、氷と氷がぶつかり触れ合う音、生き物たちのささやき。大自然の奏でる春の音楽。『原田喬全句集』から。 今日の毎日新聞の「新刊紹介」には、伊藤敬子著『鈴木花蓑の百句』が紹介されている。 鑑賞書。〈大いなる春日の翼たれてあり〉などで知られる鈴木花蓑の主要な作品を挙げ、的確な解説・鑑賞を記した一書。「写生の鬼」といわれた花蓑の全容を精選された句から知ることができる。 おなじく今日の毎日新聞の坪内稔典さんによる「季語刻々」は、くにしちあき句集『国境の村』より。 茹でやうか煮やうか焼こか春キャベツ くにしちあき 句集「国境の村」（ふらんす堂）から。「焼こうか」とすると、前の二つの動作と同じ言い方になるが、「焼こか」とつづめた言い方をしてリズムを引き締めた。その引き締めた気配が、季語「春キャベツ」をごく自然に呼び出した感じ。句の前半はゆるやかに、後半はきりっと言葉が響いており、一句が「言葉の楽器」になっている。 新刊紹介をしたい。  四六判ペーパーバックスタイル帯なし 138頁 本詩集は、リトアニアの女性詩人サロメーヤ・ネリス（Salomėja Nėris）（1904～1954）の処女作『あさはやくに（„Anksti rytą“）』を木村文（きむら・あや）さんが日本ではじめて邦訳したものである。サロメーヤ・ネリスは20世紀前半のリトアニアを代表する詩人である。リトアニア大学（現ヴィタウタス・マグヌス大学）在学中の1927年の23歳の時に出版したものが本詩集である。1938年『ニガヨモギで花咲く（„Diemedžiu žydėsiu“）』で国家文学賞を受賞。1945年、モスクワで病気により死去。50歳で亡くなっている。 訳者の木村文（きむら・あや）さんは、1993年東京生まれ、2016年お茶の水女子大学生活科学部卒業。2017年度リトアニア政府奨学生としてリトアニア国立教育大学に留学。2018年よりお茶の水大学生活工学共同専攻後期博士課程に在籍。リトアニア語翻訳者であり、博物館研究者である。 木村文さんのリトアニアへの情熱は半端なものじゃない。 今回の訳詩集『あさはやくに』も若い情熱をささげ、精魂をこめたものである。 サロメーヤ・ネリスの20代の詩の作品を、おなじく20代の木村文さんが訳する、この詩集はそうやって生まれたものである。 ゆえに詩集は一環して清新の気がみなぎっている。 それでは、詩集のタイトルとなった「あさはやくに」を紹介したい。まず、リトアニア語で、そして邦訳。 ANKSTI RYTĄ Anksti rytą parašyta Daug naujų skambių vardų. Versiu knygą neskaitytą Nuo rytų lig vakarų. Anksti rytą baltos laumės Laimę lėmė man jaunai; Ir išbūrė ir nulėmė Būti jauna amžinai. Saulė žeria anksti rytą Daug auksinių valandų. Rytą auksu parašytą Mano vardą ten randu. ＊ Žemė kryžkeliais žegnojas. Tiems visiems, kur be sparnų, Pavergė dulkėtas kojas. Aš su saule ateinu. Šiltas vakaras dainuoja: Rytoj pievos sužydės, Rytoj bus gražu, kaip rojuj, Dainų dainos suaidės, Nubarstysiu anksti rytą Pilką kelią gėlėmis. Laimę kryžkeliuos skaitytą Palydėsiu dainomis. あさはやくに あさはやくに書かれた たくさんの新しいひびきの名前。 読まれていない本をめくろう 東から西まで。 あさはやくに白い魔女たちが わかいわたしの幸せを決めた； そして予言し運命づけた 永遠にわかくいることを。 黄金の時間をあさはやくに 太陽がたくさん注いだ。 あさに金いろで書かれた わたしの名前をそこで見つける。 ＊ 大地が十字路をわたる。 つばさがない、そのすべてに、 すすけた脚をささげる。 わたしは太陽とやってくる。 あたたかなよるが歌う： 明日は平原が花さくぞ、 明日は美しくなるぞ、楽園みたいさ、 歌という歌が鳴りひびくのさ、 花々をあさはやくに 灰いろの道に広げよう。 十字路で読まれた幸せに 歌と一緒についていこう。 本詩集の担当は文己さん。文己さんは訳者の木村文さんと同じ歳。文己さんが好きだという詩を紹介したい。 「LAUKIAMAJAI 待合室に」と「PAVASARĮ 春に」が好きということだが、ここでは「待合室に」を。 LAUKIAMAJAI Pilka žemė, pilki dangūs, Kaukia vėjai alkani. Tu viena, kaip saulių bangos. Šviesius burtus dalini. Tegu vėjai mane kelia Lig padangių debesų. Tegramzdina į bedugnę — Man jau nieko nebaisu. Ilgesiu virpės krūtinė, Juodos sutemos nukris — Tu ineisi paskutinė, Paskutinė pro duris. Grakščios palmės, baltos gėlės Žydės, vys ir vėl žydės. Šviesios akys žibuoklėlės, Kaip ugnis tolios žvaigždės. Ges žvaigždutės, merksis akys, Nenuskintos gėlės vys. — Ges dienų pavasarinių Paskutinis spindulys. ＊ Tiek šviesos, tiek gėlių — Aš apsvaigus tyliu. Tos taurės kupina krūtinė. O, kad ji būtų paskutinė! Ateik, ateik, tavęs aš laukiu — Dabar visi veidai be kaukių. Ateik, ateik — aš taip bijau, Juk aukuras užges tuojau. 待合室に 灰いろの大地、灰いろの空、 うなる空腹の風たち。 きみはひとり、太陽の波のようだ。 明るい魔術をきみは分かつ。 風にわたしを持ち上げさせなさい 天空の雲々まで。 落ちなさい谷底まで─ わたしにはもう何も怖くない。 恋しさで胸がふるえるだろう、 黒いたそがれが落ちるだろう─ きみはさいごに入りゆく、 さいごはドアごしに。 優雅なやしの木々、白い花々は さくだろう、散ってまたさくだろう。 ミスミソウのお花の明るい両目は、 まるで遠くの星々の火だ。 悪くなりゆく星々、閉じゆく両目、 つまれていない花々が散っていく。─ 悪くなりゆく春の日々 さいごのひざし。 ＊ 光と花々と、そのどちらも─ わたしは酔ってしずかになる。 そのさかずきを胸があふれさせる。 ああ、あれがさいごだったのに！ 来るのだ、来るのだ、きみをわたしは待つ─ 今みなのかおに仮面はなし。 来るのだ、来るのだ─わたしはとてもおそれている、 ほらすぐに聖餐台は消えゆく。 この詩集を編んだサロメーヤ・ネリスは、リトアニアの詩人です。ネリスが生まれたころ、現在リトアニアとよばれている土地の大半がロシア帝国の領土で、他の一部は東プロイセン領であり、「リトアニア」という国名は地図上にはありませんでした。ネリスが生まれたキルシャイ村は、ロシア帝国領側にありました。 当時、ロシア帝政の領土であった場所では、19世紀後半からネリスが生まれた1904年まで、ラテンアルファベット表記の（この本の表記のような）リトアニア語の出版物は厳しく禁止されていました。そのため、リトアニア語の本は東プロイセンで印刷され、国境をひっそりと越えて密輸され、農民達のネットワークにより命がけで流通されていたと言われています。 リトアニアは1918年2月16日に独立宣言をしました。しかしその独立は、1940年にソ連に侵攻されたことでいったん終止符を打つことになります。ネリスの作品のほとんどは、この短い期間に発表されています。本作は、1927年にネリスが大学在学中に発表した処女詩集です。 リトアニアのたどった歴史と同様に、ネリスその人についての評価も一筋縄ではいきません。サロメーヤ・ネリスは、その名前を冠した道や高校があり、学校の教科書にもその作品が載っているように、国を代表する詩人としての地位を確立しています。しかし、その文学的な才能が時間を超えて多くの読者を魅了する一方で、ネリスの政治的な立ち位置（晩年はソ連政府に協力する立場を取っていた）は、ソ連からの独立後のリトアニアを生きる人々に対して、ある種の複雑な感情を引き起こしていることもあるようです。 読者の皆さんにお願いがあります。ここまで、サロメーヤ・ネリスの生きた時代の背景を説明しましたが、一度忘れてください。まずは、１篇１篇の詩の中に、リトアニア語の息づかいやそのうつくしさを見つけてください。 「あとがきに代えて」を紹介した。 サロメーヤ・ネリスの生きた複雑な政治的、歴史的背景が語られている。リトアニア語がたどった苦難の道は、わたしたち日本人にはおよそ考えられないものだ。自身の言語表現が禁じられるということ、それが意味するもの。翻訳者の木村文さんは、そういう歴史的政治的背景は心からはらって、言葉のもつ音や息づかいや気配などを味わって欲しいという。 本誌集の装幀は君嶋真理子さん。  何案かのうちこの案をまっさきに気に入ってくださった。 装画は金泊押し。  シンプルであるが、金箔の美しさをリトアニアの人達にも知って欲しいとおもった。   扉。  本文。  この対訳詩集が生きたリトアニア語にふれあうきっかけとなり、いつか読者の方がリトアニアを訪れることを願うばかりです。（「あとがきに代えて」より） 木村文さんは、今日リトアニアに向けて出発した。「博物館の研究」が専らであるが、詩集も持ってリトアニアの人たちに読んでもらうということだ。ブックフェアにも出品する。 発つまえに、この本の宣伝のためのポストカードをふらんす堂におくってくれた。  詩の一節と訳が記されている。 ひとつだけ紹介したい。 O tu, gododams saulės godelę, Eisi pajūrin gintarų rinkti. Eisi vakarių svajų svajoti, Ilgesio dainą jūrai dainuoti. そしてきみは、太陽の夢を夢みながら、 海辺にこはくを集めに行くのさ。 西の夢を見に行って、 なつかしの歌を海に歌うのさ。 わたしが好きだった詩篇は「MIŠKU 森によって「IŠVAKARĖS 宵」。 本詩集について、リトアニア語と日本語での朗読を聞く機会があれば、と願っている。 ▲
by fragie777
| 2020-02-17 19:11
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