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ふらんす堂編集日記 By YAMAOKA Kimiko

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2013年 06月 05日 ( 1 )

  • 愉快な一代記。
    [ 2013-06 -05 19:50 ]
1

愉快な一代記。

6月5日(水)

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蛍袋。
蛍袋を見つけるとそばに行ってしゃがんで顔を近づけてわたしの秘密を打ち明けたくなる。
なになに、おまえみたいな能天気な人間には秘密なんて、ないだろうって。
フフフフ……ありましてよ!
大人だから……。
「大人になるっていうことは秘密を持つっていうことですわ」と、小説『氷点』のヒロインの陽子が美しい顔をきりりとさせて継母の夏枝に言うくだりがあって、高校生のわたしは(へえ~、そうなんだ)とニキビ面を掻きながら思ったりしたのだった。


新刊紹介をしたい。

小谷延子句集『楓の実』(ふうのみ)。

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著者の小谷延子(こたにのぶこ)さんは、俳誌「風」で俳句を学び、「風」終刊ののちは、俳誌「万象」(大坪景章主宰)、俳誌「風港」(千田一路主宰)、俳誌「りいの」(檜山哲彦主宰)の三誌に所属して俳句をつづけている。
序句は「風」所属当初より直接指導を受けて来た中山純子氏よりいただき、栞は「風」時代からともに学び、いまは「りいの」に所属しておられる句友の山崎祐子さんが寄せておられる。

 楓の実のころがる雪の四高あと

より「楓の実」と中山純子氏が命名した。この「四高」とは「風」の主宰者だった澤木欣一の母校であり、「風」誌の発行所の場所でもあったということ。

今は文学館・四高交流館の名で、旧制第四高等学校のおもかげのある赤煉瓦の建物が残り、あたりに楓の喬木が並びます。楓の丸い実が落ちるころ、金沢はもう雪の季節です。

と「あとがき」に書く著者は金沢にお住まいだ。
 
 風花やえにしのあまた句に添へり   中山純子

序句である。句集を読み進むとこの「えにしのあまた」が俳句を通して詠まれている。

 曼珠沙華あまさず摘んで供花とせん   (細見綾子先生ご逝去)
 爛漫の花をまぶたに逝かれしか     (高島旬雄先生)
 冬薔薇とミサ曲のなか逝きませり    (柏禎先生)

「俳縁」にあった方たちを詠んだ句をいくつかとりあげてみた。
栞を書かれた句友の山崎祐子さんは、著者の小谷さんのよき理解者だ。
この度の栞のタイトルは「存在感のある自在」。
 
 凍雲の風のかたちに凍てにけり
 つまだちてゆく花冷の鏡の間
 手びさしの肘の三角夏きたる
 緑さす離宮に若きデスマスク
 自動ドア祭の街へひらきけり
 一枚の画布をあふれてひまはり黄
 人にもの問ふに膝折る水の秋
 ばらばらに運ぶマネキン年の暮

小谷さんも私も「風」で写生を学んだ。小谷さんの俳句は、静が動に変わっていく瞬間が見えるような写生句だと思う。しかも自在に、である。二句目には「ベルサイユ宮殿」の前書があるが、花冷えの宮殿の大理石と、そこを背筋を正して歩き出す作者の姿が見えるようだ。手びさしの肘の空間には陽光が差し、美しい緑に風が吹き抜け、自動ドアから祭の世界へ放り出される。黄色の絵の具が塗り重ねられ、画布はそのまま大自然に置かれた景色の一部となる。水の秋のおだやかな日本の風景、年の暮の賑やかさが句から伝わってくる。

 病む夫へ冬の銀河のあふれ出よ
 水音の消え炎天のあるばかり
 夕市の誰もふれゆき花氷
 湧水に火祭の松浸しおく
 鶯のこゑに素足のあしたかな
 月光に木槿はけふの花こぼす
 花野ゆく素顔の昏れてゐたりけり
 寒紅をひき行くあてはありませぬ
 酢を打つて飯つぶ立たす山桜
 鵙高音ぐぢやぐぢやになるもんじや焼
 虫の音を聴きわけてゐる旅寝かな
 笹鳴や次の間といふ薄あかり
 父の忌の雪の青菜を掘り出せり
 うしろより海ふくれくる揚花火
 けさ秋の線路をあるく烏かな
 ピエタ像たとへば冬のすみれかな

俳句を始めたのは平成元年、すでに二十余年の歳月が流れました。この度、第一句集『楓の実』を上梓することにいたしました。仕事や家事に追われ句作を何度か挫折しそうになりましたが、今このように句集の形にできることを、無上の幸せと思っております。(略)『楓の実』は、私の暮らしの小さな実感を句にしたものです。未熟な句集ですが、明日の一句に出会うためにも今までの句を纏めたいと思いました。

ふたたび「あとがき」より。「明日の一句に出会うために」句集を纏めたと書かれている。それでこその句集刊行だ。眼差しは常に未来に向けて。素敵ですね。小谷さん。

この装丁は君嶋真理子さん。

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帯を取ったところ。右半ばあたりにあるのが「楓の実」。「かえでの実」である。テーマ色はこのあたたかな茶色にちかい朱。そしてオリーブ色。

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グラシン(薄紙)で巻いてあるので写真ではどうしても色がぼけてしまう。実物はこのグラシンを通しての表情がいいのだが。

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カバーをとった表紙。小口折表紙である。

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用紙の風合いがすこし分かるかしら。

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見返しと栞。

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扉。
実はわたしはこの本のなかでも特にこの扉が好き。いろんな木の実が並んでいて可愛らしいでしょう。色相いといい綺羅のある用紙といい優しい表情をしている。

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今日いただいたお手紙に、「装幀を褒められます!わたしもとても気に入ってます」とあり担当の愛さんとほっとしたところである。


この句集を読んでいて思わず笑ってしまった句がいくつかある。

 短夜や袋叩きにあひし夢
 探梅のをんな三人崖よぢる
 ひとり夜の泣くだけないて鰻食ふ
 朝顔の百をかぞへて朝ごはん

「袋叩き」の句も笑えるが、この女三人が崖をよぢ登っている、というのが凄い。小谷さんもきっと加わっておられるだろう。「探梅」にやってきて崖をよぢのぼる女三人。もうそれほど若くない女たちだ。
小谷延子さんってけっこう面白い人なんじゃないかって思った。
実は山崎祐子さんと何度かふらんす堂にご来社くださったのであるが、おおかたわたしは出かけていたお目にかかることが出来なかった。数年前に最初にご来社くださったときに少しお目にかかったのみである。もっとお話してみたかったなあ……。

 サングラス我に愉快な一代記

いつかこの一代記を書き上げましたら、是非読ませてくださいませ。

小谷さん!
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▲ by fragie777 | 2013-06-05 19:50 | Comments(0)
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