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9月4日(木)
綾部仁喜氏の第四句集が出来上がってくる。 集名は「沈黙」。 タイトルの由縁は、氏がここ数年間、声をうしなったまま人口呼吸装置につながれて病臥の日々を送っていることによるものではない。 「俳句はものの言えない文芸である」 という氏の俳句信条を、この句集『沈黙』において結実させんという思いによるものだ。 華美を排し、重さを嫌い、簡素さをきわめたこの質朴な一句集のページを繰ると、静かにして力強い俳句の声が立ち上がってくる。 雪吊の中にも雪の降りにけり 露けさは石のあげたる石の声 三月の咽喉切つて雲軽くせり この句集に収録されている作品のほとんどは、病院のベッドから空を仰いでつくられたものだ。 氏の奥さまもまた、二度にわたる大病のため別の病院で闘病されている。 死んでも怒るなと妻言ふ雪無尽 妻言はず吾また言はず雪降れり また、病床で畏友石田勝彦の訃報を聞く。 脳天に四万六千日の雷 わたしにとって、石田勝彦、綾部仁喜のお二人は格別のご恩のある方たちだ。 ふらんす堂をひとりではじめてから、ずっと支えてきていただいた。その俳誌「泉」の方々とともに…。 石田先生が亡くなり、綾部先生もこうして闘病の日々を送っておられる…。 そのことがふらんす堂にとってどんなにさびしく悲しいことか……。 人の思いによってふらんす堂はここまで来たのだから、わたしはそういう方々の思いにどうこたえられるのだろうか… 大切な方々が亡くなられたり、病にたおれたりすることが多くなるこのごろ、そのいただいた「思い」がわたしのなかで日々増幅していく……。 「泉」編集部の藤本美和子さんには、この句集『沈黙』ができあがるまで、なにからなにまで本当にお世話になった。その藤本さんが電話のむこうで、 「この本のカバーの縦に貫いている一本の線ね、これは、わたしは『滝』に見えるの…どうしても…」と言う。 「……滝……ああ……」。 そう思うやふっと滝の音がたちあらわれ、あたりを涼しさが支配し、いっそうの静けさがまいおりてきた。 綾部先生は、いまベッドのうえでこの句集を手にとっておられるだろうか……。 沈黙のたとへば風の吾亦紅 (句集より)
by fragie777
| 2008-09-04 19:45
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