11月15日(木)
写真は沖縄・首里城正殿の唐破風妻飾(からはふうつまかざり)。
昨夜、メールにてさっそく小笠原鳥類さんから、新刊の岸田将幸詩集『丘の陰に取り残された馬の群れ』についてその感想をいただく。
「『丘の陰に取り残された馬の群れ』。カヴァーに描かれている馬が、木材の彫刻のようで、静かに考えている表情のようでもあり、土の養分を根から吸って平和に生きているのか、それとも戦慄なのか、とても謎なのです(描いた人は誰でしょうか。どこかに書いてあるのかもしれないですが名前が見当たらないのです)。本の中身も充実しており、体内をどこまでも探査して確認して書き込むような、全てを文字として提出するような感覚がありました。「苔(コケッ、泡(アワッ、泥(ドロッ、」この人が書く文字は、文字ではないような、単語ではないような。もっと有機的な、生物が起き上がり、掘り出されます。」
そう、このカバーの馬の画は内容とひびきあってなかなか衝撃的である。誰のものによるか、いったいいつごろにかかれたものなのか、小笠原さんにはそっとお教えしたのであるが、秘密である。小笠原さんは「大昔の怪物だと思いました。」というコメントをくださった。興味のある方は是非、お買い上げいただきこの不思議な画を体験して下さい。
昼休み、歯医者さんに行っていたカトさんが戻ってくるや「yamaokaさあん、わったし、もうフィンランドに行けませーん」って顏をくしゃくしゃにして言う。「思ってたより、虫歯がたくさんあって、ものすごくお金がかかっちゃうんですう」ってもう泣きそうなくらい…。聞くところによると、深刻なのが5,6本あって「女のひとだからねえ、いい歯にしとかないとねえ」という歯医者さんの説得によって、たいそうな歯にするらしい。「笑ったときに銀歯なんていやでしょ」って言われたらしい。(ウンそりゃわたしもヤダナ)「わたし、大きな口をあけて笑えないこれからの人生なんて、ぜったいイヤなんです!」とカトさん。「フフフフッ、じゃあ、しようがないよ。まあ、せいぜい頑張ってふらんす堂で働くのね」「いやあ、ひどい…」「そうそう、あなたの担当のあの結社の歳時記、どうなった、進んでるの? ほら、どんどん催促しなくっちゃねっ」とわたし。「もうほんとに…、わかりました!」と言いながら「おばあちゃんの遺産まだ残ってたかなあ、それ使わせてもらえんかなあ」などと、あれこれ胸算用をしている。
夕方、俳人の山本左門さんから久しぶりの電話がある。彼はふらんす堂からすでに『星痕集』『殉教』『星蝕』と三冊の句集を刊行している。現代俳句協会新人賞をかつて受賞された。わたしとほぼ同世代でさきほどの電話のおしゃべりでわかったのであるが、大学も同じ、学部も専攻も同じということがわかり「あら、まあ」とおどろくとともに、「きっとどこかでニアミスをしていたかもね」などと軽口をたたける人だ。まだ一度もお会いしたことがなく、「ボク一度もあったことない人なんて信用できないよ、こんど東京に行くから」って言うのでわたしはあきれはてながら「句集を三冊もふらんす堂でつくりながら、信用できないなんて…」と笑い飛ばす。「会いましょう」とお互いに言いつづけていて、もう20年くらい経っちゃった…。「樺美智子忌噴水に雨降りしきる」こういう句をいまだつくるくらいだから、老成やら老熟などとはほど遠く、いまだ青春をひきずっている。