ふらんす堂編集日記 By YAMAOKA Kimiko

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「俳句は七十歳からが面白い」という綾部仁喜先生の言葉が今胸に響いています。

5月20日(水)  旧暦4月4日


「俳句は七十歳からが面白い」という綾部仁喜先生の言葉が今胸に響いています。_f0071480_15102736.jpg
柿の花。

ちょっとピンぼけである。

「俳句は七十歳からが面白い」という綾部仁喜先生の言葉が今胸に響いています。_f0071480_15102968.jpg
可愛らしい花である。

この花の下で、男女の友人ふたりが楽しそうに話している。
近づいていくと、
「いやね、わたしたち同い年なのよ」って、
「そう、それもひと月ちがいなんだ」って、
とても楽しそう。
柿の花の下での会話にふさわしいって思いながら、わたしも楽しくなってしまった。




新刊紹介をしたい。

陽美保子句集『水のにほひ(みずのにおい)』

「俳句は七十歳からが面白い」という綾部仁喜先生の言葉が今胸に響いています。_f0071480_15104285.jpg
四六判並製カバー装クータバインディング 172頁 2句組

陽美保子(よう・みほこ)さんの第2句集である。陽さんは、1957年島根県松江市生まれ。北海道札幌市在住。2000年「泉」入会、綾部仁喜に師事。2005年「泉」賞受賞、2008年第22回俳壇賞受賞、2012年第1句集『遙かなる水』にて、第16回北海道俳人協会賞受賞。現在は俳人協会評議委員、「泉」編集長。本句集に「泉」主宰の藤本美和子さんが、帯文を寄せている。

眼前の草木虫魚を見つめる陽美保子の眼差しの彼方には生地松江の山河、ことに宍道湖の景が見えているに違いない。
産土で育まれた詩魂が定型という器を得て水のように輝き始める。確かな手触りと清潔な光に満ちた作品世界。韻律の裡に対象と一体となった作者の息遣いを感受するばかりだ。 

帯文を紹介した。
第1句集名は「遙かなる水」、そして本句集名は「水のにほひ」とどちらも水を想起させる句集名である。
「句集名は、〈星空は水のにほひの雪後かな〉から採りました。水辺が好きなので水にちなんだ句集名にしたいと思いました。鮭がふるさとの川の匂いを忘れないように、生まれ故郷、松江の宍道湖の水の匂いが記憶の底にあるのかもしれないと思うこの頃です。」
とあとがきにあり、藤本美和子さんの帯文にもあるように「松江の宍道湖の水」への思いがこの句集を貫いている。「遙か遠くにかがやいていた水」が年を経て、作者の身体にぐっと迫ってきて、森羅万象のなかに水のにおいを感じる日々であるのかもしれない。

本句集を最初から読んでいくと気づくのであるが、その骨太の気迫ある詠みぶりに圧倒される句集である。
 手をぬぐふ雪ひとつかみ鰊群来
 抜き出せる魚卵のねばる雪解風
最初におかれた二句である。
陽美保子さんが、住んでいる北海道の景を詠んだものだと思う。
一句一句に気合いを感じるのであるが、これは作者があえて意図した詠みぶりではなくて、陽美保子さんの俳句に対する通常の向き合い方なのだとわたしは思った。甘さがないのである。 

本句集の担当は、Pさん。
Pさんの好きな句をあげてもらった。

 郭公や火に蹄鉄のすきとほり
 白鳥の一羽首立て日暮来る
 あららぎは雪つむ木なり灰均
 白鳥の声のそろひて胸そろふ
 昇りつつ朝日ととのふ霜の花
 人疎み来て寒禽の美しき
 一日の息の充ちたるマスク捨つ
 木の息となりゆく梟の寝息
 虫のこゑ止みて柩を通しけり
 手の平は甲よりさみし紙風船
      
 郭公や火に蹄鉄のすきとほり

季語は「郭公」である。中7下5がなんとも迫力がある。蹄鉄を打ってつくる作業をしているのだろうか、省略をきかせた句である。読み手には炎の美しい動きに浮かびあがる蹄鉄の黒々とした形がみえてくる。遠く郭公が鳴いているのか。郭公のやや淋しげな鳴き声を遠くおき、眼前の炎と蹄鉄、現場から生まれた力強い一句であるとも。

 白鳥の一羽首立て日暮来る

北海道に住んでおられる陽美保子さんにとって、「白鳥」は馴染みの鳥なのかもしれない。。掲句、一羽の白鳥がピンと首を立てた。一瞬時間がとまったかのごとく、天につきさすように首を立てたのである。作者の目もそこに釘付けになったのか。作者とその一羽の白鳥、緊縛した時間、ふっとその緊張がほぐれたとき、日差しがかげり日暮れがやってきたことに気づいたのだ。「首立て」で垂直な動きみせ、「日暮来る」で時間の経過をみせる、垂直と水平の動きがさりげなく詠み込まれている。〈白鳥の声のそろひて胸そろふ〉も「声」という聴覚から「胸そろふ」という視覚へと読者をたくみに誘う。

 人疎み来て寒禽の美しき

この句も鳥を詠んだ一句であることに今気づく。陽さんは、ひょっとして鳥好き? などとおもったりして。イ行の音が効果的につかわれている。イ行の音ではじまり、「美しき」とイ行の音でおわるのも、余韻をのこして効果的である。たたみかけるような文体も巧みであると思う。こういう気持ちは、わたしにもよくわかる。具体的な鳥の名をあげず、「寒禽」としたことも、「カンキン」という言葉の響きが、句に緊張感をあたえて、作者の心の屈託がある鋭さをもってつきさすように読者に伝わってくる。

 手の平は甲よりさみし紙風船

この句を前にして、いま自分のてのひらを見つめてみた。う~む。たしかに手の甲よりも平のほうが語るものがある。手相だって手のひらにあるわけよね。この句、手のひらが「さみし」いと作者は思ったのである。ふっと手の平をみたときにというのではなく、「紙風船」を就きながらそう思ったのか。わたしには下5におかれた「紙風船」の季語が、気になる。「紙風船」というはかなくて軽量のもの。これをついた時にそうおもったのかもしれないが、「紙風船」の季語によって、手の平のさびしさも一瞬のものとして軽量化された、そのさみしさもふっと消えてしまう、そういうものとしての「さみしさ」をこの一句で詠んだのかと。

 正面を見せたる鶴の凍てにけり

これはわたしの好きな一句である。作者の気合いを感じる一句だ。凍て鶴と見合っている作者がいる。多くを語っていないけれど、凍て鶴のありようが緊迫感をもって迫ってくる。「けり」の切れ字がそれ以上でもそれ以下でもない凍て鶴のフォルムを美しく語って効果的である。そしてそれに向き合う作者のまなざしの厳しさもみえてくるのだ。


校正スタッフのみおさんは、〈まつすぐな幹に囲まれ冴返る〉森の中の凜とした空気が伝わってくるようです

校正スタッフの幸香さんは、〈日めくりの紙の軽さの春の雪〉特に惹かれました



『水のにほひ』は、『遥かなる水』に続く私の第二句集です。
本集には、二〇一一年から二〇二五年春までの約十五年間の句をまとめました。この間、夫、俳句の師、禅の師を始め多くの大切な人々を見送りました。また、子供たちが結婚し、新しい生命も生まれました。人の生死を身近にした十五年間でした。いつの間にか六十代も終わりに近づき、この年になって改めて生死という不思議を思うとともに、どれほどの偶然が重なって出会いがあったかと思うと、出会ってくれた人々や自然への感謝の念でいっぱいになります。

「あとがき」を抜粋して紹介した。


本句集の装丁は、君嶋真理子さん。


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「俳句は七十歳からが面白い」という綾部仁喜先生の言葉が今胸に響いています。_f0071480_15104617.jpg
タイトルはパール箔である。


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表紙、

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扉。

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 リラことに白きが薫る師恩かな


「泉」入会後、早くも二十五年以上経ちました。熱心に指導して下さいました故綾部仁喜先生、藤本美和子主宰、句友の皆様に心から感謝致します。また、ご多忙な中、句集名と選句の助言をして下さり、帯文を賜りました藤本美和子主宰には、日頃のご懇切なご指導と併せ、厚く御礼を申し上げます。


上梓後のお気持ちをいただいた。

句集を手にしてとても嬉しく思うと同時に、珠のような藤本美和子主宰の帯文と素晴らしい装丁に包まれて、これで私の過去の俳句も成仏せざるを得ないだろう(笑)とほっとしました。自分自身の中で一区切りついてすっきりしました。「俳句は七十歳からが面白い」という綾部仁喜先生の言葉が今胸に響いています。これからもっと面白くなるのかとちょっとわくわくしています。俳句とともにある贅沢な時間をこれからも大切にしていきたいと改めて思っています。


 筆談の言葉は褪せず霜柱


わたしも綾部仁喜先生にはたくさんの「筆談」をいただいた。
この句によってそのことを思い出している。
「霜柱」の季語であることで、俳句に対して厳しい姿勢をつらぬいた綾部先生であったことを思う。
そして、石田波郷の師系につらなることを誇りにされていた綾部先生だった。



陽美保子さま。
第2句集のご上梓おめでとうございます。
好きな句がたくさんありましたが、ご紹介しきれず残念です。
更なるご健吟をお祈りもうしあげます。




 一灯を地べたに置きぬ草の市    陽美保子



 

「俳句は七十歳からが面白い」という綾部仁喜先生の言葉が今胸に響いています。_f0071480_15103183.jpg


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by fragie777 | 2026-05-20 18:34 | Comments(2)
Commented by kaikoma at 2026-05-20 20:38
陽さんは1957年生まれでは?(1967年になってますが)
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Commented by fragie777 at 2026-05-20 21:32
kaikomaさま

ご指摘ありがとうございます。
今お直ししました。

(yamaoka)
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