ふらんす堂編集日記 By YAMAOKA Kimiko

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古典において、あるいは俳人たちに鳥はどのように詠まれていたか。便利な一冊である。

2月16日(月)  旧暦12月29日


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百舌鳥(♂)


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2月は矢のように過ぎ去っていく。
すでにもう半ばをすぎているではないか。

角谷昌子著『俳句の水脈を探る』の再版が出来上がってくる。
予約注文をしてくださった皆さま、
お待たせしました!





新刊紹介をしたい。

高橋多見歩著『鳥の歌(とりのうた)』

古典において、あるいは俳人たちに鳥はどのように詠まれていたか。便利な一冊である。_f0071480_16265699.jpg


四六判変型ペーパーバックスタイル帯無し 154頁

本著は、短詩形文芸における「鳥」のアンソロジーである。著者の高橋多見歩(たかはし・たみほ)さんは、本著の出版を企画したのであるが、すでにこの世にはいない。入稿するべくまとめられたのだが、急死されたのだった。津久井紀代さんをはじめ俳誌「天晴」の俳句の仲間が多見歩さんの志をついで資金をだしあって刊行されたものである。ご本人の「あとがき」はないのであるが、「はじめに」は整えられていた。

本書を書くきっかけは下記のテレビ番組を視聴した事による。NHK総合TVの番組「ダーウィンが来た! 聞いてびっくり鳥語講座」(令和三年五月二三日放送)。紹介された四十雀の研究を進められているのは、動物言語学が専門の京都大学の鈴木俊貴博士(令和三年放送当時)である。きっと素晴らしい成果を纏められ、人間を含めた動物間のコミュニケーションの実態が明らかとなるであろう。又コミュニケーションの新たな技術が生まれるのではと期待される。

とあって、テレビを見たことがきっかけとなって、まずは俳句で鳥がどう詠まれているかを調べはじめ、俳句のみならず和歌などにおいてもと興のおもむくままに興味を発展させていかれたのである。それを俳誌「天晴」(津久井紀代代表)に連載というかたちで発表されてこられたのだった。
全体を3章にわけて、第1章は「江戸・明治期の俳人」として「芭蕉、蕪村、一茶、子規、虚子、漱石」の6名の俳人の句、第2章は「和歌にみる」として、「万葉集、古事記、風土記、古今和歌集、新古今和歌集、枕草子」にみられる鳥の歌、第3章は、「大正後期以降」として「原石鼎、川端茅舎、中村草田男、加藤楸邨、石田波郷、森澄雄、飯島晴子、有馬朗人」の8名の俳人の句を紹介している。巻末にはデータ篇として、それぞれの表現者の鳥の句の紹介句数や種別などが記載してある。
「芭蕉」を紹介してみたい。

【芭蕉】鳥の句は九一句(九・三%)、種別は二五種。内訳をみると、杜鵑(二五)、鶴・雀(六)、雲雀・鶯(五)、千鳥・雁(四)、鸛・水鶏(三)、鴨・鳰・雉・鷹・鶉(二)、燕・鳩・鴉・四十雀・啄木鳥・鷺・五位鷺・郭公・都鳥・鵜・鴫(一)。テキストは『袖珍版 芭蕉全句』堀信夫監修(小学館)。

といった具合である。

本著を拝読したかぎりでは、俳人や歌人の読む鳥はそれほど多くなく、詠まれる鳥はおおかた決まっている。
巻末の索引には、本著に掲載のそれぞれの俳人歌人の鳥の作品を羅列してあるので、よき資料となるのではないだろうか。
また、作者別のみならず、鳥の種類別の索引もあり、大いに参考になるのではないか。

本文からすこし紹介をしてみたい。

加藤楸邨の項から。
加藤楸邨(明治三八年~平成五年)鉄道員であった父に伴い少年時代を日本各地で過ごし、後に母の故郷金沢に転居。波郷・草田男らとともに人間探求派と呼ばれ、「寒雷」を創刊・主宰。金子兜太や森澄雄等多様な俳人が楸邨門から育った。(略)
使用したテキスト中、鳥の句は二九〇句、約一〇%(九・六)の頻度で江戸期の俳人レベルの多さであり、又種別も四四種と多い。特徴的な点は、鵙が三番目の多さで特に好みの鳥の様であり、又鶯は全て笹鳴で詠まれている。そして個体数が少なく、又知識がなければ気が付かない様な、日雀・筒鳥・イカル等の鳥も登場する。楸邨にとって鳥は重きを為すテーマの一つである。

 見ゆる敵見えぬ敵鵙力満ち
 鳴かねば見えぬもののあるなり百舌鳴けり

秋に山から下りてきた鵙は、縄張り宣言である高鳴きをして縄張りを確保し、自ら生き延び子孫を残す。テリトリー内を巡回し、見える敵は勿論、見つけていない敵も追い出してゆく。両句とも鵙のこの生態を詠っている。しかし更に深い句意がある様な気がする。

楸邨のもとに、出征するにあたり多くの弟子が挨拶にやってきたときに、楸邨はそれぞれに句を贈っている。

 またあとに鵙は火を吐くばかりなり
 鵙の舌焔のごとく征かんとす
 鰯雲流るるよりも静かに征く

一句目は石田波郷に、二句目は金子兜太に、三句目は沢木欣一にと、三者三様のその場の雰囲気が見えて興味深い。

こんな風に鳥の句をめぐっての思わぬエピソードも知ることができる1冊である。


本書の装幀は、君嶋真理子さん。

細身の読みやすい一冊である。


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多見歩さんは生前、鳥に関する文章を「天晴」に発表されていた。多見歩さんは日ごと鳥の声に耳を傾け、話しかけ、対話を続けられた。野鳥の会にも入られていた。小さな鳥と会話することに自分の人生を重ねられていた人であった。
多見歩さんは几帳面で温厚な人。「天晴」の柱としてわれわれを導いてくださった。多見歩さんの遺されたものを一冊に纏めることが出来たことに感慨深いものがある。
出版にあたりどこからか多見歩さんの「ありがとう」、という声が聞こえてきそうな気がしてならない。そんな気配りと繊細な感性をおもちの方であった。
多見歩さん、『鳥の声』を纏めましたよ。

「天晴」津久井紀代代表、編集人の杉美春さん、「天晴」一同のみなさまによる「あとがきに代えて」である。

以下は、「松尾芭蕉」の項より

 鷹の目も今や暮ぬと鳴くうづら

鷹は上空から鼠等の小動物を識別する鋭い視力と、見つけた獲物を急降下して捕らえる高い運動能力を持つ、名ハンターである。しかし夕暮れともなれば自慢の目も利かなくなり狩は出来ない。鶉は安心して歌いながら餌を啄んでいるという、鳥の生態を捕食される側に立ってとらえた句である。

「天晴」の皆さまの思いと助けによって、この世に生み出された一冊である。



高橋多見歩さんは、2019年にふらんす堂より第1句集『蹲る鳩』を刊行されている。
有馬朗人氏が序文を寄せている。
句集『蹲り鳩』より。


 うずくまる鳩に隣りて日向ぼこ    高橋多見歩


→「詩人のごとき犬の背」「編集日記」。




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神代植物園ではじめてあった翡翠。




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by fragie777 | 2026-02-16 18:26 | Comments(0)


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