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2月6日(金) 旧暦12月19日
紅梅。 なんとも華やかに。 仕事場の時計が時刻を知らせた。 わたしは席をたって、 「セブンでお昼買ってきまーす」といそいそとドアへとむかった。 すかさずパートのTさんが、 「あのう、まだ11時ですよ」 「何?……お昼じゃないの!」 スタッフ達が笑っている。 わたしはスゴスゴと席に戻ったのだった。 わたしのお腹は確実に12時となっていたのだ。。 新刊紹介をしたい。 四六判フランス装カバー掛け 帯有り 190頁 二句組 著者の杉美春(すぎ・みはる)さんの第2句集である。杉美春さんは、1956年東京生まれ。2005年「天為」入会、2013年「小熊座」入会。2015年「天為」同人、2018年「小熊座」同人、2021年「天為」退会、2021年「天為」退会、季刊俳句同人誌「天晴」創刊編集人、2023年「秋」入会、2024年「秋」同人。現代俳句協会会員、俳人協会会員。2018年に句集『櫂の音』を上梓している。 本句集に、高野ムツオ「小熊座」主宰が帯文を、佐怒賀正美「秋」主宰が跋文を、栗林浩さんが栞文を寄せている。 杉美春は感覚の触手をどこまでも伸ばす。 洋の東西を越え、時間と空間を跨ぎ、貪欲に言葉を探る。 その先に展開される洗練濾過されたしなやかな抒情こそ彼女の俳句の魅力の源泉だ。 高野ムツオさんの帯文である。 佐怒賀正美さんは。、「作者の本句集の第一の特色は、現代のカタカナ語の多用であろう。」と記し、本句集のカタカナ語を用いた俳句をたくさんあげて鑑賞をほどこしている。一部のみ紹介したい。 夏の月煌々としてディストピア 鳥渡るメタバースからメタバース アバターの何度も生くる冬銀河 セレンディピティー初鴉から羽一枚 ドローンの繫ぐ離島や虫すだく これらの句を見ても難解にはならず新語の意味を柔軟に生活に取り込んでいることが分かる。これらはけっしてペダンティックな操作ではなく、現代とは、実際に外来語がカタカナ化して生なまのかたちで跋扈している時代でもある。 そして、栗林浩さんは、「強い芸術指向」と題して、「芸術全般に造詣の深い杉さん」の俳句について語りながらも「叙景句も日常句もある」と記し、俳句にふれている。 シンバルの両手を抜けて春の風 太古より海の心音聴く鯨 冬の虹母国へ架けて逝かれけり 追悼 師有馬明人 霜の夜のかちりと嵌る木のパズル サルビアや扁桃腺を見せて泣く 行く秋やきれいに畳む包装紙 本句集の担当はPさんである。 春は曙硯の海に注ぐ水 浮身して一枚の空二枚の耳 逆上がりして春光を裏返す 花伝ふ尻の重たき冬の蜂 水しぶきごと抱きとむる裸の子 鎖場の鉄の匂ひや夏来たる 蝶生まる微かに水の匂ひ立て 朗読の母音明るき巴里祭 浮身して一枚の空二枚の耳 水面に身体をうかせてみる。プールでのことか。通常は二足歩行をしている人間は、空と水平になることなんてまずない。プールに身をうかせてみた。まっさきに目にはいってくるのは広い空だ。そして、耳はほぼ水面下にある。きわめて静かだ。そして耳はおおきくひろがって周囲の音をとらえようとする。この感触わかる。耳のみならず人間の身体も一枚のように平べったくなる。この句のおもしろさは空を一枚ととらえ、人間の側に関しては、耳をクローズアップさせて二枚と捉えたこと。この句を選んだPさんは、お風呂のなかでもやるそうである。そして、そういう時は耳のみが敏感になるのだそうである。 花伝ふ尻の重たき冬の蜂 「冬の蜂」を詠んだ一句である。すでに勢いをなくし生き延びようとしている哀れな冬の蜂のさまがよく見えてくる。上五の「花つたふ」によって、なにかにすがりながら移動している蜂であることがわかる。そして中七の「尻の重たき」で蜂の動きが具体化された。読み手にも蜂の必死なる懸命さがみえてくる一句である。蜂の動くようすを細心に描くことで「冬の蜂」の季題を巧みに詠み止めた一句であると思う。 蝶生まる微かに水の匂ひ立て 作者の杉美春さんも自選にいれている一句だ。蝶がうまれる春となった。蝶が生まれるときの様子を見ていると、たたまれていた羽は最初はしっとりとして水分を含んでいるようだが、その羽がひらかれていくのと同時に、水分は蒸発してかるがるとした羽へと変わっていく。そんな様子をみていたのだろうか。羽から水分が蒸発していくときに、ふっと水の匂いをかぎ取ったのか。この句「水の匂ひして」ではなく、「水の匂ひたて」であることによって、それが蝶から発せられた「水の匂ひ」であることに、作者は気づいているのである。 サルビアや扁桃腺を見せて泣く 面白い一句だ。栗林さんが栞文でふれ、杉美春さんも自選にえらんでいる。「「サルビア」の句は一瞬の赤子の訴えを見事に活写している。」と栗林さん。たしかに扁桃腺を見せて泣くのは赤ん坊くらいかもしれない。真っ赤な顔をくちゃくちゃにして大泣きをしている赤ん坊がいる。『扁桃腺を見せて」という具体的な描写がいいとおもう。そしてサルビアの花である。こちらも赤子の顔にまけないくらい真っ赤である。しかもサルビアの花は気取りがない花であり、生命力が横溢している花である。赤子といい勝負というところか。命と命のぶつかりあい。赤の衝突である。 水筆で伸ばす群青夏つばめ この句は、佐怒賀正美さんが跋文でふれている一句であり、作者も自選にいれている。「夏燕が飛ぶたびに、すーいすーいと空に水筆のように群青色を伸ばしていると感じた。」と佐怒賀さん。そうか、わたしときたら、そうではなくて、水彩画を描いていて群青色をたっぷりと水をふくませてキャンバスに描いていたところ、夏つばめが到来した、とばかり思ってしまった。担当のPさんはどう詠んだか聞いたところ、佐怒賀正美さんと同じ答えだった。そうよね。その方が一句にひろがりがあり、勢いもある。清々しい一句である。 校正スタッフの幸香さんは、〈パスワード忘れ枯れ野を出られない〉を選んでいる。 これも面白い一句である。 第一句集『櫂の音』から七年半が経ちました。この間に世界では新型コロナウイルスによるパンデミックやウクライナでの戦争、ガザ侵攻、震災など様々な出来事がありました。個人的には乳癌による入院、恩師有馬朗人の逝去、母の急逝など、悲しい出来事があった一方、ひとり娘の結婚や孫の誕生など、嬉しいこともいろいろありました。その間も俳句はつねに側にあり、心の支えとなり、喜びや悲しみの表現手段となってくれました。俳句を通じて、以前には思いもよらなかった人たちと知り合い、句座を共にし、親交を深めることができたのは、大きな喜びです。 「あとがき」を抜粋して紹介した。 本句集の装幀は、君嶋真理子さん。 華やぎのある一冊となった。 冬の虹母国へ架けて逝かれけり 最後に、杉さんの恩師の一人、有馬朗人先生への追悼句を引いておこう。 これもなかなか広やかな地球俳句のような趣の追悼句になった。「冬の虹」が儚く寂しいが、故人は思いを「母国」へ残しながらも、すでに天上から世界を俯瞰しているようでもある。(佐怒賀正美/跋より) 杉美春さんに、上梓後の思いをうかがった。 (1)本が出来上がってお手元に届いたときのお気持ちはいかがでしたか? まずはほっとしました。装丁が美しくかわいらしくて嬉しかったです。第一句集刊行から7年半が経ち、俳句の環境もずいぶん変わりました。現在は「小熊座」「秋」に所属し、俳句同人誌「天晴」の編集人をしています。また、現代俳句協会の副編集長として会員誌『現代俳句』の編集もお手伝いしています。 新しい俳縁にも恵まれましたので、第二句集は自己紹介代わりにもなります。 (2)この句集に籠めたお気持ちがあればお聞かせ下さい。 言葉や表現にこだわりつつ、思いが伝えられる俳句、詩情のある俳句を載せたいと思いました。 新しい表現を模索して、次に進むための一歩としたいと思います。 杉美春さん 巻末には 「蝶生まる」と題した章が「付録」としてあります。 九句すべて「蝶」の句で、英訳が付されています。 二句のみ紹介します。 てのひらの薄き詩集や初蝶来 First butterfly comes landing on my palm a thin collection of poems 秋の蝶地祇のまばたきかもしれず Autumn butterflies may be the blink of earthly deities 杉美春さま 第二句集のご上梓おめでとうございます。 更なるご健吟をお祈りもうしあげております。
by fragie777
| 2026-02-06 19:29
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