ふらんす堂編集日記 By YAMAOKA Kimiko

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一冊を手にすることはかなわず。。。

12月19日(金) 浅草羽子板市 旧暦10月30日


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井の頭公園には、まだひとところ冬紅葉が残っていた。


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まさに燃えるような色だった。




新聞の広告で目にしたのだが、来年はマリリン・モンローの生誕100年にあたるという。
36歳という美しさの絶頂で死んだモンローであるが、生きていれば100歳ということか。
永遠の美貌をほこるモンローに、生誕100年という歳月が流れたのか。
それが驚きである。




新刊紹介をしたい。

土井めいこ句集『SAUDADE(サウダージ)』


一冊を手にすることはかなわず。。。_f0071480_18190256.jpg
四六判小口折り表紙装 108頁 3句組。


著者の土井めいこ(どい・めいこ)さんの第1句集である。そして最後の句集となってしまった。土井めいこさんは、1948年東京都生まれ。2010年より俳句を始める。2012年に大木あまりさんと出会ったことで、あまりさんご指導の句会に参加し、指導を受ける。初秋に大木あまりさんを通して、土井めいこさんの句稿をいただいた。闘病中であり、回復がむずかしいゆえにできるだけ早く句集にして欲しいということであった。ということで、印刷屋さん、製本屋さん等の協力を得て、できるだけ早く本にすべくがんばった。が、本を手にとっていただくことができず、この11月6日に亡くなられたのだった。装丁の色校正までは手にとってご覧いただいたのが、せめてもの慰めであるが。
本句集は、2010年から2015年の16年間の作品を収録したものである。序文を大木あまりさんが寄せている。
師弟関係をこえてとても仲良しであったと、大木あまりさんがおっしゃっていたが、序文はめいこさんの日々によりそったこまやかな思いのあるものとなった。

句集『SAUDADE』は、家族を詠んだ句が多い。どの句も、すっと心に入ってくる。

と書き、たくさんの句をあげて鑑賞をしている。そのうちのいくつかを紹介しておきたい。

 杖を置き花野に入りし小さき母
 ハンモック親子で揺れて波の音
 瀑布背に家族写真の若かりし
 鉄道の好きな婆と子柿若葉
 幼子と小さき餅食べ老ゆるかな
 校庭を走る母子や風光る

二句目の「親子で揺れて」の幸福感は、読む者を幸せな気持ちにさせる。ことに、自慢の孫、玲央君を詠んだ句は楽しい。彼はブラジル人の父と日本人の母を持つハーフの美しい男の子。

 夏夕べ扉の影に猫の居て
 路地裏の間合ひ程よき恋の猫
 三毛猫の鼻先乾き霞草
 目の大き小さき三毛猫クリスマス
 さくさくと猫の踏み入る小判草
 日だまりを猫と一緒の二日かな

猫好きのめいこさんらしく、猫に注ぐ視線は優しい。一句目、物陰が好きな猫の本性をよく捉えている。そして、「夏夕べ」で昼間は休み夜間活動する猫の生態を簡潔に表現してい好きのめいこさんらしく、猫に注ぐ視線は優しい。一句目、物陰が好きな猫の本性をよく捉えている。そして、「夏夕べ」で昼間は休み夜間活動する猫の生態を簡潔に表現している。五句目、猫の揺らす小判草が風に鳴っている音まで聞こえてきそうである。

句稿をいただいた時は、すでにホスピスへ入っておられた土井めいこさんであった。担当のわたしとのやりとりはすべて夫君の土井正明氏をとおしてのこととなった。病状はあまり詳しく伺えぬぬまま、わたしはともかく急いで作業をすすめることとなったのである。

句集名「SAUDADE」については、土井正明氏より説明をいただいた。
「「SAUDADE(サウダージ)はポルトガル語で「郷愁」「憧憬」「思慕」「切なさ」「愛」などの感情を幅広く含む、日本語の単一の言葉では表現しきれない独特な感情を表す言葉です。又、サウダージはポルトガルやブラジルなどの文化に深く根付いており、単なる感情表現を超えて、それを象徴する言葉とも言えます。」

土井めいこさんは、正明氏のお仕事の関係でかつてブラジルで暮らしたことがある。
そこでの思い出をこめての句集名「SAUDADE」であるか。

好きな句をいくつかあげたい。

 春色に染まりし街やカプチーノ
 春泥をたつぷりつけし滑り台
 古民家の吊るし飾りや土佐水木
 夏夕べ扉の影に猫の居て
 噴水や遊ぶ子供の歯の白く
 吊り橋の秋日を踏みてピカソ館
 団栗の形こだはる幼かな
 初雪を小指で触るる赤子かな
 バス待つ子半袖シャツに楡の影
 餅つきの順を待つ子の耳赤し

意識したわけではないが、子どもを詠んだ句が多いことに気づいた。小さな子ども(あるいはお孫さん)がとりわけお好きな土井めいこさんであったのだろう。

 春泥をたつぷりつけし滑り台

直接的には子どもは詠まれていないが、子どもの気配がたっぷりある一句である。すでに滑り台で遊んでいた子どもたちは家にかえったのだろうか。子どもが泥靴のまますべったその靴跡があちこちについている。春の泥は水気をたくさん含んでいて、たぶん滑り台にもその水分がまだ残っているのではないか。目の前に滑り台から活発に遊ぶ子どもの姿やにぎわいの声が浮かびあがってくるようだ。滑り台は勲章のごと春泥を誇っている。

 古民家の吊るし飾りや土佐水木

古民家はわたしも時々行く。国立の谷保に一軒あってそこで休んでお弁当をたべたりする。風通しがよくて、土間があって囲炉裏があり、茅葺きの屋根である。そして古民家は決して明るくはない。どこか薄暗い。昭和の暗さか。それもまたいい。そんな古民家にはときどき紙や布でつくった「吊るし飾り」があって、もうすっとそこにあったようになじんでいる。そんなすべてが古い趣のなかに、明るい色の土佐水木の花が活けられていた。あるいは間口ちかくに植えられていたのか。土佐水木の華やかな黄色が古民家の暗さを背景にいつまでも瑞々しく残像としてせまってくる一句。

 夏夕べ扉の影に猫の居て

「物陰が好きな猫の本性をよく捉えている。そして、「夏夕べ」で昼間は休み夜間活動する猫の生態を簡潔に表現している」と大木あまりさんが序文で鑑賞しておられるように、猫って、あらそんなとこにいたのっていうところにいることが多い。この一句、夏の真昼の暑さがさった夕暮れのひんやり感が感じられる一句だ。事実を述べtだけの一句なのになぜだろう。「夏夕べ」であること、「扉の影」であること、そして「猫」がいること、この三つの条件がそろえば、涼しくないなんて言わせない。猛暑を耐えて、いまはひっそりと扉の影にくつろぐ猫をみていて、人間もほっとしているのだ。

 団栗の形こだはる幼かな

およそ地上で、団栗の形にこだわるなんて、幼子をおいて他にはいないだろう。栗鼠にとっては、食材としての団栗であるからそのフォルムは関係ない。大人たちやすこし大人に近づいた子どもたちは、団栗の種類などはこだわったり区別してみせたりするだろうけど。この一句における「幼な」にとっての「形」は種類以前のフォルムなんだと思う。さっき拾った団栗の形といま拾った団栗のちがい、尖っていたり、丸かったり、小さかったり、いびつだったり、それをこだわっているのである。幼い魂が自然のものにふれたときの新鮮な発見を、作者もまた新鮮な驚きの心でとらえた一句である。

 バス待つ子半袖シャツに楡の影

これも子どもを詠んだ一句。観察がこまやかである。季語は「半袖シャツ」。子どもと同じ列に作者も並んでバスを待っていた。なかなかバスは来ない。ふっと子どもの半袖のシャツに木の影がさしている。ここに目をとめるのはやはり俳句作者ならではと思う。そしてこの一句、「木の影」であったらわたしは心引かれてないと覆う。「楡」の影というのにぐっときた。うまく言えないのだが、子どものシャツに木の影がさすということならいくらでもあるが、「楡の影」がさすと認識できることってあまりないんじゃないか。そう、土井めいこさんは、差し込んでいる影が「楡」であることを知っていたのである。「楡」という木への挨拶でもある。半袖シャツの子どもと楡の木なんて、なんだか冒険の語がはじまりそうな気配、と思ったりもするyamaokaである。

校正スタッフの幸香さんは、〈餅つきの順を待つ子の耳赤し〉「温かい視線を感じます。とてもなつかしい気持ちになりました」

おなじく校正スタッフのみおさんは、〈木枯の窓叩く音銀磨く〉「銀器を磨く作業の静けさが思われます」



この句集は一九八三年から五年余りブラジル・サンパウロで生活した思い出や、家族にブラジル人の血を引く孫が生まれて、その健やかな成長を見守りたい気持ちを込めた、現世への私・めいこのSAUDADE(サウダージ)です……。
拙い俳句ですが、お手に取っていただければ幸いです。
この場を借りて、句会で色々アドバイスをくださった句会仲間の皆様、そして本句集をまとめるにあたって最後に選句の労を執ってくださった大木あまり先生に厚く御礼申し上げます。

「あとがき」を紹介した。
ご自身の死を覚悟されたうえでの「あとがき」となった。

装丁は和兎さん。

装画は、土井めいこさんが大事にされていた思い出の「オーナメント」の図柄をスキャンして用いた。
土井さんのたつてのご希望だった。


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 転がりし素焼きの鉢の弁慶草


本集は、どのページを開いても即物的に対象を詠んだ清新な句に逢うことができる。
土井めいこさんの句集『SAUDADE』が多くの人に読まれることを心から願っている。
                       (大木あまり/序)


土井正明氏に上梓後のお言葉をいただいた。

がんセンターに入院して、心半ばでこの世を去る現世に対するサウダージとしての想いを句集として残したいと決心し、あまり先生や15年以上にわたって寄り添って下さった友人達の励ましと協力があって完成した遺稿句集だと思います。


土井めいこさんには句集を手にとっていただけなかったことが、本当に悔しい。
装丁の色校正まではご覧いただいた。
せめてその色校正を柩におさめたいという、土井正明氏に色校正をお届けするためにお会いしたときのこと。

「来年の2月ごろまでは大丈夫と言われていたのですが、こんなに早く逝くとは……」と、土井氏はのどをつまらせた。


土井めいこさまのご冥福をこころからお祈りもうしあげます。


 十月の森を歩いて孤愁かな     めいこ


「あとがき」の最後におかれた一句である。






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10月の森。






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by fragie777 | 2025-12-19 20:39 | Comments(0)


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