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12月9日(火) 旧暦10月20日
枯れてゆく木々。 空の青さが目にしみる。 昨夜の東北地方の地震。 夜中だったので今朝まで知らない人も多かったと思う。 わたしは湯船につかってiPhoneで本を読み始めたところだった。 一週間は大型地震がくる可能性もあるということ、 被害地のかたたちは落ち着かない日々であろうとおもう。 被害がこれ以上おおきくならないことを心よりお祈りもうしあげております。 新刊紹介をしたい。 四六判ハードカバー装帯有り 186頁 二句組 俳人・吉田成子(よしだ・しげこ)さんの新句集である。吉田成子さんは、昭和11年(1936)大阪生れ。俳誌「草苑」で発行人、編集長をながくされてきた俳人である。ふらんす堂より刊行の『桂信子の百句』の執筆者でもある。現代俳句協会参与、関西現代俳句協会顧問。本句集は前句集『日永』につぐ第四句集となる。宇多喜代子氏が帯文を寄せている。帯裏は宇多喜代子抄出の十五句である。数句抜粋したい。 炎昼を病む静けさに水の音 孕鹿何見るとなき眼を向けて うしろから来るもの冬も足音も 父の日のあの戦争を知る眼鏡 寒卵不揃ひ十個光り合ふ 日々の暮らしに 浮沈するちょっとした出来事や 心からなる深い思いを 強い骨格と柔軟な言葉で 成句した一句一句 この作者ならではの 確かな俳句。 宇多喜代子 本句集の担当は、Pさん。 たくさんの好きな句を選んであったが、こちらも数句に絞って紹介したい。 日の当たるところ床鳴る雪の寺 峰雲や歩いて心立てなほす 一木の茂りを窓に一日病む 人日の煮物に赤きもの加へ 万緑や死ぬ不安より病む不安 春の鹿つまらなさうに付いてくる 豆ごはん炊きてひとりの家灯す 痩身の目玉が歩みくる炎暑 着ぶくれて昨日は強気今日弱気 さくらんぼ老いて年の差なき姉妹 日の当たるところ床鳴る雪の寺 日が差し込んできているところの廊下は人があるく度に鳴る。一般の家屋ではないらしい。もう古くなった廊下なんだろう。上五中七を読みくだすと暖かな足元がみえてくる。が、下五によって一挙に寒さがおそってくる。雪におおわれた寺である。それはもう寒い。この下五の「雪の寺」がこの一句の「気」を支配している。日当たりのよき廊下の一箇所、しかし、古寺である。人があるけば鳴り出す。が、その音も雪に吸い込まれてゆく。静けさと穏やかさにつつまれた雪の寺。しかし、寒い。。 万緑や死ぬ不安より病む不安 この一句は、わたしくらいのR女にとって非常に説得力がある。Pさんも選んだということは、彼女の年齢でもそうなんだろうか。「死」というのは、「生」が断ち切られるその一瞬を言うが、「病」はもっと具体的に人間を苦しめる。高齢になれば、病むということは逃れようもなくさまざまなものに向き合わなくてはならない。この句、なんといっても「万緑」の季語が、中七下五の不安感に王手をかけている。おそろしいまでに命のエネルギーにあふれた「万緑」である。それと対峙するには、「真白き吾子の歯」のような生命の輝きをもってせねばならない。圧倒的な満目の茂りのなかで、老いてゆく身を案じているのだ。「an」の音の響きが句のリズムをととのえている。 着ぶくれて昨日は強気今日弱気 句集名となった一句と「あとがき」にある。おもしろい一句だ。「着ぶくれ」はどっちかというと、身体にバリケードを巡らす感じで、「強気」な気分にさせる。誰かがぶつかってきてもまあ着ぶくれていれば、ね。この句のおもしろさは、「昨日は強気今日弱気」だ。強気で押し通せないことが、人間の人間たるものか。「昨日は弱気今日強気」だったらつまらない一句だ。「着ぶくれ」のなかで己と格闘する人間がみえてくる。本句集には「着ぶくれ」の句がたくさんある。そのうちのいくつか、〈着ぶくれてビラも署名も拒みたり〉〈着ぶくれて太平洋を振り返る〉。宇多喜代子さんが帯文によせた「強い骨格」を思わせる句である。 さくらんぼ老いて年の差なき姉妹 歳をとってくると、身体はちぢみしわしわになり、個体差はうすれてくるのかもしれない。若かったころは、個性が歴然としてあり、一,二歳の差だっておろそかならずということだったろう。この句、肉体的に年の差が感じられなくなったということとともに、心情的にも長い間姉妹としてやってきて共に老いて、歳の差を感じられなくなったという意味合いもある。仲良し姉妹だったんだわ、きっと。兄弟だとこうは行かないかもね。「さくらんぼ」の季語が、とてもいい。かわいらしく歳をかさねてきた仲の良い姉妹。いいな、私もお姉さんか妹が欲しかった。 父の日のあの戦争を知る眼鏡 宇多さんが帯にあげておられた一句。ドキッとした一句である。「父の日」という季語の使い方が巧みである。遺された眼鏡は、すでにこの世にいない父の眼鏡である。それを見ている作者には、それは単なる眼鏡ではなく、第二次世界大戦を父とともにあった眼鏡である、その眼鏡は父の見た戦争を見た眼鏡なのだ。「あの戦争」という措辞が、現実にあった戦争をよみがえらせるのである。二度とあってはいけない戦争を。 校正スタッフの幸香さんは、 〈花の種蒔きしその夜の星近し〉 ⇒発芽を楽しみに末気持ちが高まってゆくようです。 ほかに、 明日あると思ふ灯を消す冬の家 更衣しばらく山河よそよそし 能面の裏側も見て梅雨深し 三・一一 目覚めて窓に空がある 緑さす椅子に戦禍の新聞紙 原爆ドーム冬青空のがらんどう この句集は平成二十四年から令和七年までの作品から二九六句を選んだ第四句集です。第三句集『日永』の出版以来十三年がたちました。この間元気で俳句を作り続けることが出来ましたお蔭で作品も溜まりました。このあたりで作品の整理をしておかなければとの思いで句集を思い立ちました。 「あとがき」を抜粋して紹介した。 装丁は、君嶋真理子さん。 吉田成子さんはとても気に入ってくださった。 見返しは赤で。 椿の花を型押しで。 扉。 句集名の『昨日今日』は「着ぶくれて昨日は強気今日弱気」からとりました。近頃はまさにこの作品のような日々ですが、俳句があったこと、また俳句の縁で多くの仲間との交流があったことで今日の私があると思っています。 もう何事にも「頑張る」と言える齢ではありませんが、この先も同じように句作りを楽しめたら幸いです。(あとがき) 上梓後のお気持ちをいただいた。 出版の発端は溜った作品の整理をしたい思いが強かったのですが、手にしました時、出版してよかったと強く思いました。 この先の句作りへの力が湧きました。 私の年齢を考えますと、次の句集出版は無理かと思いますので、最後の句集と思うと一層愛着を覚えます。 装丁も見本で一目で気に入ったデザインですが、出来上がりを見て、私の作品にとても似合っている感じがしました。 宇多喜代子様からも「装丁が句集名によく合っている」との感想をいただきました。 お蔭様でいい句集を出版できまして嬉しく思っています。 「この先の句作りへの力が湧きました」というお言葉はとてもうれしい。 線状降水帯黙々と鰻食ぶ 吉田成子 句集後半におかれた一句。 このふてぶてしいまでの力強さ。 最後の句集なんて、おっしゃらず、 次の句集刊行をめざしてくださいませ。 よく肥えた鴨。
by fragie777
| 2025-12-09 19:48
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