ふらんす堂編集日記 By YAMAOKA Kimiko

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「生きると死ぬ、いまと昔の、さかい目がにじむ」詩集。

11月23日(日) 虹蔵不見(にじかくれてみえず) 勤労感謝の日 旧暦10月4日


「生きると死ぬ、いまと昔の、さかい目がにじむ」詩集。_f0071480_14353166.jpg

冬紅葉。

後ろは名栗湖。


「生きると死ぬ、いまと昔の、さかい目がにじむ」詩集。_f0071480_14361448.jpg

まぶしい湖。

今日は勤労感謝の日である。
わたしはわたしにもうすこしがんばって働けよ、って檄を送った。
朝、腕立て伏せを10回やったら、みごとにへたった。




新刊紹介をしたい。

森水陽一郎詩集『孤牛(こぎゅう)』

「生きると死ぬ、いまと昔の、さかい目がにじむ」詩集。_f0071480_14364656.jpg


B6判ハードカバー装 98頁

静謐なたたずまいの詩集である。第1詩集『九月十九日』(ふらんす堂 2015年刊)につぐ第3詩集となるものである。第1詩集『九月十九日』で、第18回小野十三郎賞を受賞されている。10年目となる本詩集の刊行である。20篇の詩の作品を収録してある。

拝読したのであるが、そうスラスラとは読ませてくれない作品である。行きつ戻りつしながら意味をさぐりながらわたしは読んだのだった。多分それは作者が意図したことでもあるのではないか、そんな風におもいながら。詩のことばが一行ずつ記されていく、あるいは書かれていく、というよりも、刻みつけられていく、そんな印象をもった詩集だった。日本が近代をむかえ急速に発展をしていくその過程で置き去りにされたもの、あるいは忘れ去ろうとしているもの、無きものとされたもの、それらが語るものをすくいあげ詩の言葉として打ちつけていく。
そう言ってしまうと簡単すぎるか。それだけではくくれないものを見え隠れさせながら、やわらかく軽やかなリズムをともなった言葉もおもたくひびく。
そして語られているものは、批評性をもちながらも答えはないままそこにあるものとしてあり、それらの背後には物語がひそんでいるのである。明快なものとしてあるのではない、あるときは薄闇をともない、腐臭をただよわせ、それらの言葉は読み手の肉体に打ち込んでくるようななにか。なんと言ったらいいのだろうか。
語り部としての祈り、そんなことをも思った詩集だった。
詩の作品を読んでもらうことにつきる。


担当はPさん。
「長壁のチョウヘイ」の一節にあった、
「生きると死ぬ、いまと昔の、さかい目がにじ」む詩集だと思いました。とPさん。
Pさんの好きな詩をあげてもらったが、その一つをまず紹介したい。


 九相図


 銀蠅飛び交う、夏の葦原(あしはら)縫う細道のはて
 郵便の届かぬトタンのあばら小屋ありて
 捨て犬、迷い犬を寄り添わせ、川べりに生き

 なさけとちゃう、鍋にして食うためや
 歯のない笑みで、十八番(おはこ)の軽口を叩く
 白ざんばらのコウじいさんは、嘘かまことか
 若いころは梅田の劇場で胸から白鳩を出し
 連帯保証の鎖を断ち切って、高野山に逃れ
 作務に音(ね)を上げ、亡き父の影でも探すように
 閉山後の生野(いくの)銀山で、汚れ水の番に従事した
 
 気まぐれな水は、市川(いちかわ)の流れに揺れ運ばれ
 河川敷にずらりと牛皮の干されたゼロ番地で
 野草粥と、コンビニ廃棄の弁当に生かされた
 地に足つけた雲水として、川べりの人となる

 小僧らもどうや、今日はカスうどんやど
 釣竿片手に踏み入れた僕たちに向けて
 終わりなく吠え立てる赤毛の痩犬たちも
 凪(なぎ)の午後に立ち返り、草のベッドに伏して
 
 見てみ、あれはみぃんな、ご先祖さんや
 血ぃたどったら、わしとおんなじ故郷や
 よう働いて、死(い)んでも役に立ってえらいわ

 草の穂揺らす青風に運ばれ、すえた獣の匂いが
 ぷんと鼻先をくすぐり、羽音の影が後追いする

 寡黙な牛は、くびきに縛られ日本の土を耕し
 ときにいわれなき、井戸汚しの罪をかぶり
 名を奪われ、学びの場所さえも奪われかけ

 ススキを焦がす冬火事の、市川の河川敷に
 ポツンと焼け残った、あばら家の墓碑あり
 野草の花束も、ワンカップの献杯もなく

 銀蠅の途絶えた、灰の葦原縫う細道のはて
 すでに九相図が、肉の鎖ほどかれた午後


「九相図」とは、「屋外に置かれた死体が朽ちていく経過を9段階に分けて描いた仏教絵画」とのこと。

もう一篇、Pさんの好きな詩を紹介したい。

 かげろう橋


 台風のない夏は、かげろう橋に去りびとが立つ
 九月の入り、日が落ちて鶴首(つるくび)の並びが白く明るむと
 羽化したオオシロカゲロウがぼたん雪の嵐となり
 ふぶいては散り、うごめく羽の雪原で橋をおおう

 スリップ事故は勘弁と、両たもとに× 印の看板が立ち
 センターラインをなくした、闇間(やみま)の一〇〇メートル
 彼岸と此岸(しがん)のあわいがにじんで、三途の口がひらく
 
 羽虫の一本橋を前にして、立ち尽くす人影はすでに老い
 一歩、また一歩と、踏み出した足裏に、失命(しつめい)の業をおう
 奪うことの哀しみは、目に映らずとも、営みに降り積もり

 乾きの川音ごしに、古い影が立ち上がり、羽が舞い集う
 ひとがたにぼうと浮かぶ、若かりし去りびと、穢れもなく

 一歩、また一歩近づけば、羽の輪郭ゆるみ、岸を離れる
 白髪にふれなでる、抱擁の手もなく、ことづてもなく

 去りびとはただ闇に憂う、鉄の雨降らす、明日の台風を

本詩集は、詩人・森水陽一郎さんのすべての計らいのもとに上梓されたものである。
装丁もご本人によるもの。


「生きると死ぬ、いまと昔の、さかい目がにじむ」詩集。_f0071480_14364991.jpg

「生きると死ぬ、いまと昔の、さかい目がにじむ」詩集。_f0071480_14365201.jpg


「生きると死ぬ、いまと昔の、さかい目がにじむ」詩集。_f0071480_14365404.jpg

ここにある像は、彫刻家・沢田英男氏の作品である。

「生きると死ぬ、いまと昔の、さかい目がにじむ」詩集。_f0071480_14365881.jpg

「生きると死ぬ、いまと昔の、さかい目がにじむ」詩集。_f0071480_14370241.jpg

表紙は、淡いベージュの布クロス装。
文字は、黒メタルの箔押し。

「生きると死ぬ、いまと昔の、さかい目がにじむ」詩集。_f0071480_14371701.jpg
角背がうつくしい。

「生きると死ぬ、いまと昔の、さかい目がにじむ」詩集。_f0071480_14372623.jpg
不思議な図柄が型押しされている。


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「生きると死ぬ、いまと昔の、さかい目がにじむ」詩集。_f0071480_14373028.jpg

「生きると死ぬ、いまと昔の、さかい目がにじむ」詩集。_f0071480_14424912.jpg
見返しの碧は、詩を読んでいくと響いてくるものがある。

「生きると死ぬ、いまと昔の、さかい目がにじむ」詩集。_f0071480_14373368.jpg

扉。
表紙の型押しはこの図柄を押したもの。

意味はあるのだが、種明かしはなし。
森水さんによると
「横並びの図柄の意図は、詩集を読むことであぶり出される」ということ。


「生きると死ぬ、いまと昔の、さかい目がにじむ」詩集。_f0071480_14374349.jpg
最初の頁におかれた詩行。

 村ばなれの緑紙は、切手もなく遅達(ちたつ)で届く
 十年後の自分から、百年後の墓標から


「生きると死ぬ、いまと昔の、さかい目がにじむ」詩集。_f0071480_14425471.jpg


「生きると死ぬ、いまと昔の、さかい目がにじむ」詩集。_f0071480_14425970.jpg

もう一篇、詩を紹介しておきたい。

 長壁のチョウヘイ


 いっそ天守閣に住んだらどうやと
 笑われるぐらい、なごう通いましたでな
 おてんとさんの機嫌うかごうて、えんやら
 牡蠣がら焼いた石灰に、つなぎの苆(すさ)、そいで砂もな
 海藻のりでこねて、コテにのせては塗ってならして
 お城一周するうちに、黒うカビて、くすみますのや

 五十年、飯くわせてもろた恩返しやないけど
 こないして小旗手に、頭の体操と老後の運動がてら
 城内ガイドの、ボランティアしてますのやけど
 ホラばっかりまぜこむもんで、苦笑いもおおてね
 七月三日、これ何の日かわかります?
 終戦間際の夜おそう、姫路で大空襲がありましたのや
 やたらめったら焼夷弾落とされたうちの一発が
 黒布で覆った天守閣の、てっぺんを突き破りましてな
 さいわい不発やったそうで、すぐそばに鎮座する
 長壁(おさかべ)の明神さんが、守ってくださったゆうて
 これはめでたい、あやかろうという話でしょうな
 その冬に生まれた私に、長い壁と書いてチョウヘイ
 なんか左官の運命を定められたような名前ですけど
 南方で散った親父とちごうてチョウヘイ、徴兵されず
 どうやら墓には入れそうで、まあ御利益の名前ですわ
 
 そや、墓で思い出したけど、あんさんのすぐ後ろ
 立派な大手門でしょ、陸軍の自動車を通らすために
 明治に作り直されて、いまのは昭和初期の新顔さん
 見てみ、門の脇のこの石、転用石ゆうて、元は石棺や
 逆さかぶせで、わざと下の石組みに、隙間を作っとる
 こうして手ぇ入れるとな、がらんどうの闇がようわかる
 嘘つきでも、手は無事、ローマとは慈悲がちがいます
 午後五時に、門が閉まるでしょ、ひと気が散るでしょ
 そうなると穴の奥の闇が、夜に溶け出してつながるん
 生きると死ぬ、いまと昔の、さかい目がにじんでな
 人によっては、遠い真昼の、母親の子守歌が聞こえたり
 すぐ裏にあった練兵場を歩く、軍靴(ぐんか)の足並みが響いたり
 きっとそのうちの一人でしょうな、私ら職人連中の噂に
 明け方の待ちびと、そない名前の白髪のばあさまがいて
 あまりにも毎日らしいから、いっぺん見にいったんです
 遠巻きに声かけて、左官仕事の、素性のさわりを明かすと
 なら安心とばかりに、靖国では会えんかったからここにと
 ご親族ですか?  そう掘ってみたが、明かすとかなわない
 ばあさまは濁して、今日で最後にしますから、おゆるしを
 肩下げの巾着から、小さなタッパを出して、つまんだのは
 みずみずしく光る、梨の細切りで、うちの一本が、穴の奥
 線香でも手向けるように、遠い渇きの、夏に渡ろうとして



著者の森水陽一郎さんにご上梓後のお気持ちをうかがった。


1)本が出来上がってお手元に届いたときのお気持ちはいかがでしたか?
たたずまいの美しさにほころんでいます。
ほとんど無理問答にも近い、ミリ単位の微調整のラリーを重ねた結果、しっぽの先までこだわりのあんこが詰まった、食べごたえのある「たい焼き詩集」に仕上がりました。隠し味は、胸底にじわりと残る、涙の塩風味。どうぞご賞味あれ。

2)この詩集に籠めたお気持ちがあればお聞かせ下さい。
編み終えて、あらためて気づかされました。
実験的な試みや、衒学的な虚栄とは遠く離れた、まだ詩と出会うことのない自分、読み手に向けての、心の揺れをいざなう物語しか書けないし、書きたくないのだなと。深い深い森の奥、小さな種火を一から育て、偶然の迷いびとと言葉なく語らい、結果としてこの世界に、ささやかな黎明の風を起こしたいのだなと。
それを私は、人の根っこを介してつながる「物語詩」と呼びますが、散文詩と何が違うのだとたずねないでください。きっと答えは、物語の数だけ隠れているはずで、輪郭を羽織らせるたびに、するりと袖口から抜け出してしまうはずですから。
無粋になるので、込めた思いは一言だけ。
 ふるさとの寝土を遠くさらいけり


森水さんより「詩集『孤牛』の読み方に、あらたな広がりをもたらすかもしれません。」というメールとともに、詩人・十田撓子さんの「note」をご紹介くださった。
読みが深まります。

是非にアクセスを。

→https://note.com/antonina_tohko/n/n9e46930872e2


そして、こちらは、森水陽一郎さんのブログ。写真も美しいブログです。
詩集について触れておられます。

→https://yoichiromorimizu.blogspot.com/



先日、ある詩人の方と電話で話をしているときに、この詩集『孤牛』のことに触れられた。

「この一冊を読んだとき、正直驚きました。この詩集がどのようにうけとめられるのだろうか、とても興味があります」と。





「生きると死ぬ、いまと昔の、さかい目がにじむ」詩集。_f0071480_14362003.jpg

眠りにつく山々。







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by fragie777 | 2025-11-23 18:24 | Comments(0)


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