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1月16日(木) 旧暦12月17日
冬の空は青い。 風邪は熱もさがり、咳が残っているが大分よくなった。 在宅で仕事。 昨日は仕事をするのがさすがにキツかったが、今日はほぼ正常にもどった感がある。 しかし、咳はなかなかぬけず、咳き込んでしまうと苦しい。 家にいると書棚に手をのばして本などを手にとったりして道草をくってしまう。 昨年に書棚の本を三分の一くらいに減らしたところ、(あら、こんな本持ってたんだ)なんて、自分の蔵書がよくみえてくるようになった。と言っても大昔に読んだ本ばかりで、「最新エッセイ」なんて帯に記されていても、すでに著者は大方亡くなっている。しかし、眼の前にある本はそれほど遠い過去の本とは思えず、それを読んだときのことはつい最近のことのよう。で、ちょっとその時間のへだたりに、不思議な感覚を覚える。 新刊紹介をしたい。 著者の中戸川由実(なかとがわ・ゆみ)さんは、俳人・中戸川朝人のご息女である。 昭和33年(1958)横浜生まれ。横浜市在住。平成12年(2001)「方円」に入会し、中戸川朝人に師事。平成14年(2003)方円賞受賞。平成15年「方円」同人。平成22年方円同人賞、平成23年(2011)「方円」編集長。平成27年「方円」退会。季刊同人誌「残心」創刊。 現在「残心」代表。俳人協会会員。本句集『プリズムⅡ』は前句集『プリズム』につぐ第2句集となる。 帯をよせている島端謙吉氏の文章を紹介したい。 前著『プリズム』に次ぐ第二句集。 十年を経た作者の個性は、想い濃く温みを加えて、さらに豊かに開く。 その分光のなんと清々しくあざやかであるか。 作者はそれを十分に知らせてくれた。 著者の中戸川由実さんは、「あとがき」にこのように書かれている。 第一句集『プリズム』から十年、昨年は父朝人の十三回忌、母の三回忌であった。コロナ禍を経て「今・ここ・われ」をいっそう強く意識し、俳句とともにある幸せを実感している。何の関係も無いように見える一つ一つの些事が全て「今」に繋がっている。〈俳句はいきいきと生きる主体のあらわれ〉との師の教えはゆるがない道しるべである。光を透して彩色を放つプリズムのように、一瞬の心のゆらぎを句に刻みたいという思いは変わらない。 本句集の担当は、Pさん。好きな句をあげてもらった。 六月の文目をたたせ烏骨鶏 水鳥に張りつめている水の青 寒明や風切羽の光撒き 波の紋踏みて汐干の人戻る 卯の花のこぼれつぐ日々母癒ゆる 指栞して春眠の膝の本 同窓のいつまでも女子梅ふふむ 喜雨を聴く歯科の寝椅子の傾きに 年の湯に佳きことうかべ数へをり 六月の文目をたたせ烏骨鶏 この句であるが、文目(あやめ)という言葉を知らず(お恥ずかしい)広辞苑で引いてしまった。模様、色合いなどの意味がある。そして烏骨鶏も詳しく知らない。無知文盲です。烏骨鶏とは、その字のごとく、烏骨は黒い骨のことで、烏骨鶏は骨のみならず皮膚、内臓も黒いらしい。烏骨鶏のスープは飲んだことがあるけれど、そんなことちっとも知らなかった。さて、この句、「文目をたたせ」という措辞がいい。烏骨鶏の多くは白い羽毛であるようだが、六月という水分を含んだ月は、烏骨鶏の羽毛も陰翳が深くあり、白の羽毛がより白くややふっくらと思える季節なのだろう。六月であることがいい。わたしも引かれた一句だった。 波の紋踏みて汐干の人戻る 映像がきわやかに浮かんでくるような一句である。波打ち際をもどってくる人がいる。その様子を「波の紋踏みて」と叙したことで、波の一つ一つが立ち上がってくるような鮮明感と、「汐干の人」という措辞が、上質な日本画を見ているような気配をただよわせる。先の「文目」にしてもそうであるが、中戸川さんは、言葉の選択にセンスがおありである。よくある景を詩に昇華させるよう巧みに言葉をあしらうことのできる方だ。 喜雨を聴く歯科の寝椅子の傾きに おもしろい一句である。季語「喜雨」はなかなか詠まれにくい季題だ。日照りがつづいてやっと降ってくれた雨。農仕事にたずさわる人にとっては恵みの雨だ。作者は、その雨の音を歯医者の診療中に聴いているという。その設定がまず面白い。「寝椅子の傾き」に聴くというのであるから、情況はよく見えてくる。いやはや、歯の治療中であるのだからそう安穏とはしていられないだろう。しかし、作者は耳を澄ましているのだ、喜雨の気配に。歯科の椅子で治療をうけているというやや緊張する時間と精神の集中度が、「キ音」と「イ行の音」の巧みに配されたこの一句によって表されている。「傾きに」という下5の終わらせ方も効果的。 聖堂に楽の満ちたり革手套 この一句は、わたしが好きな句である。聖堂は多分キリスト教の会堂だろう。楽とはそこで歌われている賛美歌か。聖らかな空気と歌声がその場を支配している。この句を面白いとおもったのは、下五の「革手套」である。ちょっと思い込みが激しいといわれてしまうかもしれないけど、「革手套」のリアル感がいい。清浄な雰囲気をこわすかのように「革手套」とあり、この革手套だけが、その実在としての人間を表しているのだ。なかなかひと筋縄ではいかない革手套のような気もする。そんな風にも詠めてこの「革手套」の妙な存在感がわたしは好きである。 小説の中の雨音黒葡萄 この一句は、作者も自選句にあげておられる句である。「小説の中の雨音」にちょっと驚いた。あまり俳句には詠まれてないようにも思える。しかし、こう詠まれるとその雨音が聞こえてくるようだ。この雨音、決して激しいものでなく、どちらかというとシトシトとふり、作者はそれに耳を澄ましている。すべてが静寂さにつつまれている。そして「黒葡萄」である。やや不穏な世界の雨音なのかもしれない、と思えてきてゾクゾクする。不気味な光を放つ黒葡萄の存在感がいい。いったいどんな小説をお読みだったのだろうか。すきな一句である。 校正スタッフのみおさんの好きな一句は、〈長き夜のじゆごんのやうな抱き枕〉「あっという間に眠り落ちそうですね」と。 装幀は君嶋真理子さん。 中戸川由実さんは、フランス装をご希望された。 そして、ピーコックグリーンを、テーマ色にと。 見返しのピーコックグリーンが美しい。 扉。 天アンカットで。 春北風の空へ脚立を伸ばしけり 二〇一五年に立ちあげた季刊小冊子「残心」も佳き仲間に恵まれ支えられて今夏三十六号を重ねることができた。(あとがき) 上梓後の所感をいただいた。 (1)本が出来上がってお手元に届いたときのお気持ちはいかがでしたか? 母の忌に捧げることができた安堵と歓び、憧れだったフランス装丁の美しさに感動いたしました。 (2)この句集に籠めたお気持ちがあればお聞かせ下さい 父・朝人亡きあと、師に問いかけながらの句作りも13年という歳月が流れました。 過ぎゆくしかない時間と、その時に動いた心をこの句集にいくばくかは籠められたと思います。 (3)句集を上梓されて、今後の句作への思いなどございましたらお聞かせ下さい 読み返せばその歳月の時空を行ったりきたりできる歓びを噛みしめています。 これからも今を大切に、こころのトレースとなるような句を詠んでいきたいと思います。 中戸川由実さん。 昨年の10月29日のご来社のときに。 寒明や風切羽の光撒き 中戸川由実 寒明けが待たれます。 この度の第2句集のご上梓、まことにおめでとうございました。
by fragie777
| 2025-01-16 17:49
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