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10月4日(金) 旧暦9月2日
秋蝶。 今日は高野素十の忌日である。 昨日は飯田蛇笏だった。 日原傳著『素十の一句』より今日の日付のものを紹介したい。 蟷螂(とうろう)のとぶ蟷螂をうしろに見 高野素十 「芹」所収昭和五十一年八月号 今日は素十の忌日。昭和五十一年十月四日早朝に神奈川県相模原市の自宅で亡くなった。享年八十三。掲句は素十の絶句とされる。「とぶ」を前の蟷螂の動作ととるか、後の蟷螂の動作ととるかで読みが分かれるが、前者とするのが素直な解釈であろう。蟷螂は飛ぶのは上手くない。翅を広げて短い距離をふわりと飛ぶのみ。句の後半は飛ぶ蟷螂に成り変わって後方を見ているような感じがする。絶句の末尾が「見」の字であるとは、写生を信条とした素十の俳句人生を象徴するところがある。季語=蟷螂(秋) 写生に徹し、写生の句で生涯をとじた俳人だった。 新刊紹介をしたい。 46判ペーパバックスタイル 212頁 二句組 藤井あかり(ふじい・あかり)さんは、1980年神奈川県うまれ。2008年「椋」入会。石田郷子に師事。2010年第1回椋年間賞受賞。2015年第5回北斗賞受賞。第1句集『封緘』(文学の森刊)上梓。2016年、『封緘』により第39回俳人協会新人賞受賞。本句集は第2句集となり、「椋」の石田郷子代表が序句を寄せている。 さやけさの風の扉を押しにけり 郷 子 句集名となった「メゾティント」とは、百科事典マイペディアによると、 銅版画技法の一つ。凹版の一種で,版面をのこぎり歯状のロッカーで縦横にひっかいて無数の線を作ったのち,この線の凸部をつぶして図柄を出す。つぶされた部分はインキが付かないため白く浮かび上がる。微妙な明暗の変化が得られ,絵画的効果に富む。17世紀中ごろドイツで発明され,18―19世紀の英国で特に盛んに制作された。日本では長谷川潔,浜口陽三が有名。 とある。 つまりは、本句集の装釘は、そのイメージを思わせるものだろう。 ほかの色をよせつけず、白と黒によって繊細な明暗をあらわし、つよく訴えかけるものがある。 向日性というよりも深淵なるものへとむかう奥行きがある。 そしてこの句集名となった「メゾティント」のイメージは、この句集の世界を貫くものである。 本句集は、編年体形式ではない。章分けもなく、1頁二句組によって並べられた俳句が、読者のまえにつぎつぎと立ち現れていく。著者の藤井あかりさんによって読ませる句集として、あえていえば演出されたものである。そういう意味でも斬新である。並べられた俳句は、ある意味連作のようにしかし連作俳句のようにあからさまではなく、次の句が前の句の気配をかすかにとどめながら展開していく、しかし、あまりにもそれはさりげないはからいのようであるが、誤解をおそれずにいえばどこか不穏な物語性を秘めている。しかし、そのことが季節の自然な循環のなかでなされていることによって、ある安らぎをあたえている。ともいえようか。並べられた俳句が反響しあいながらも、一句一句の独立性はきっかりと保たれている。そこにこの人の力量を思う。 主体は人間にありその身体を喚起させる俳句がおおく、季語もまた人間の身体を一度くぐり抜けて(スキャニングされて)作品化される、そのような思いをもったのだった。〈残雪を隔ててならば向き合へる〉〈秋蝶の映りたる気がして水面〉「秋蝶が映りたる」のではなく「秋蝶が映りたる気がして」なのである。 俳句によって何を表現したいかをすでに明確にしている藤井あかりさんにによって編集された本句集は、完成度が高く、ドラマ性をひめながら読み手を飽きさせない。 藤井あかりさんは、すでにひとりの俳句作家としての顔を持ち得ているのではないだろうか。 句集の流れのなかに身をおいて読まれることをおすすめしたい句集である。 本句集の担当はPさん。 たくさん好き句があったようだが、すこし減らしてもらった。 青葉木菟仮死から蘇るまでを 紫陽花を生けてより日々過ぎやすく 青葉騒栞の少し前から読む 秋蝶の翅より薄き瞼かも 手廂を外したるとき秋燕 林檎剥く眉間を昏くしてゐたり 冬館ランプは光から古び 胸に火の回る速さや冬河原 沈黙の舌の分厚き日永かな 虎鶫棺の中と同じ闇 手花火を終へ原稿に戻りたり すれ違ふ秋風よりも颯と人 君にとつての雪が私の詩 歌ひをる喉を冬の泉とも 秋蝶の翅より薄き瞼かも この一句はわたしも好きな一句である。「瞼かな」と断定するのではなく、「瞼かも」と推測しているのである。そのことはこの作者のある志向を示している。その秋蝶の瞼に思いをとどめたということ、そしてその瞼はきっと秋蝶の羽よりも薄いはず、とさらに繊細な部分に心をさしむける、「瞼かな」という写生の一句であればよく見た一句となるが、しかし、実際のところどうであるかは観察するのは難しい。作者にとっては「薄き瞼」をもつかもしれぬ「秋蝶」の命のかそけさが胸に響いているのだ。それを「羽より薄き瞼かも」という措辞によって、表現したのだと思う。 林檎剥く眉間を昏くしてゐたり 眉間を暗くして林檎を剥いている。心に屈託があるのだろう。林檎という瑞々しい果物も眉間の暗さでその明るさを失っている。気持ちの重さが、剥かれている林檎の皮の重さと響き合うかのように、ある沈鬱な時間が流れていく。「眉間を昏く」が巧みであると思う。 沈黙の舌の分厚き日永かな 「日永」という季語に身体感覚を取り合わせた。「舌の分厚き」の措辞に驚くとともに、「日永」の季語と取り合わせたことにも驚く。押し黙る口中に舌が分厚くある、この舌の分厚さが不気味に邪魔くさいようであるが、こんな風によまれると俳味もある。舌が分厚いと感じるまでの沈黙とはなかなか生半可ではない。しかも日永である。じっと舌の分厚いまま耐えるしかないのか。 君にとつての雪が私の詩 「君」は、いろいろな関係性が考えられるが、句集の流れからするとつぎに〈子にいつか来る晩年や竜の玉〉があるので、あるいはご自身の子どものことを詠んだ句とも。目の前の雪を無邪気によろこぶ子どもの姿が愛おしくそして美しくもある。すぐ溶けてしまう雪のごとく、目の前の景も一瞬である。であるからこそ永遠にとどめておきたい一瞬の景なのである。「私の詩」の下5によって、この作者の内奥の核に突き当たったようにおもえてくる一句だ。 歌ひをる喉を冬の泉とも わたしも好きな一句である。「冬の泉」は喩となっているが、ここでも肉体が詠まれている。しかも「喉」。「冬の泉」であることによって、歌う身体の力強さとあふれるような生命力を表出している。「喉」という一点に読者の目を釘付けにしつつ、そこから冬の泉が湧きいでるかのようにも思わせる一句だ。 鶏頭にもう一度日の暮れにけり これはわたしの好きな一句である。比較的自意識のつよい句がおおいなかでところどころ季語をすっきりと詠み込んだ句が配してある。この句もそのうちの一句。「もう一度」という措辞が、鶏頭というたくさんの俳人たちにいろいろと詠まれてきた花の、複雑な奥行きをもった存在感によく合っている。鶏頭は時間に耐える花かもしれない、そんな強靱さも思う。 校正スタッフのみおさん。 一冊通しての濃密さに圧倒されました。 〈無くなりてをりぬ暖かかりし場所〉読んでいるこちらも胸が詰まるような淋しさ。 本当に濃密な一冊であると思う。 装釘は和兎さんとなっているが、多くは藤井あかりさんのご希望を和兎さんが具体化したものである。 書体は、藤井あかりさんの俳句の世界にふさわしいものをと選んでみた。 「いつもお導きいただき、この度は序句を賜りました石田郷子先生に、心よりお礼申し上げます。」(あとがき) 「秋水に幼な子の名を訊きかへす 郷子」と前書きがあり、(石田郷子さんの句集『万の枝』に収録された一句である。) 立つ風と書きて子の名や露時雨 と俳句で応えている。 そんな師と弟子のやりとりがしみじみと素敵である。 このあかりさんの一句、季語の「露時雨」に作者の心の深さがみえる。 上梓後のお気持ちをうかがった。 (1)本が出来上がってお手元に届いたときのお気持ちはいかがでしたか? 製本所では我が家がすぐ近所と分かり、台車を押して届けに来てくださることに。「良かったらすぐ開けて見てください」と言われ、その場で包みを解きました。「きれいに仕上がっています」と伝えると、「良かった」と安堵されたその表情を見て、本当に色々な方が関わってくださったのだと改めて感じました。 (2)この句集に籠めたお気持ちがあればお聞かせ下さい 元々この句集には表題句があったのですが、入稿間際にその句を落とすことにしました。新たな表題を考えたのですが、「メゾティント」以上にしっくり来るものが見つからず、この技法に対する長年の憧れから、自分の句に少しでも通じるものがあればと祈るような気持ちで、そのままとしました。 (3)句集を上梓されて、今後の句作への思いなどございましたらお聞かせ下さい。 第二句集で最後になるか第三句集を出すことがあるか、今はまだ分かりませんが、もし出すとしたら表題はもう心にあるので、その幻の本に向かって書いていきます。 藤井あかりさん。 藤井あかりさま 第2句集のご上梓おめでとうございます。 一篇の小説をよむかのごとく、ドキドキしながら拝読しました。 表題はすでにある「幻の句集」、 いいですね! つぎもふらんす堂で是非に刊行させてくださいませ。 ドキドキしながら待っております。 冬の虹忘れてそして忘れ去る 藤井あかり 藤井あかりさんにとって、季節は救済なのではないか、 句集を拝読して、ふっとそう思ったのだった。 今朝の仙川商店街。
by fragie777
| 2024-10-04 20:33
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