カテゴリ
以前の記事
最新のコメント
検索
外部リンク
画像一覧
|
9月13日(金) 旧暦8月11日
韮の花。(ニラノハナ) 夕暮れなどその白さにはっとすることがある。 蟻が2匹いる。 こちらは蜂。 蜜が甘いのだろうか。 よくみるとほかの花にも虫がむらがっていた。 今日の讀賣新聞の長谷川櫂さんによる「四季」は、中間一司句集『すばる』より。 黒揚羽ふはりと次の風に乗り 中間一司 「黒揚羽は屈強の羽にものをいわせて、次々に風を乗り切ってゆく」と長谷川さん。ことしはあまり黒揚羽をみかけなかったように思う。黒揚羽のみならず、夏の蝶全体が少なかったのではないか。これも異常な暑さのゆえ? 新刊紹介をしたい。 四六判ソフトカバー装帯有り 322頁 3句組 著者の森俊人(もり・しゅんじん)さんは、すでにこの世におられない。昨年の2023年の12月9日に亡くなれている。1933年のお生まれであるから、享年90。本句集はご自身で上梓されるおつもりであったものを、ご息女の隅田聡子さんが、その意志をついでまとめられたものである。本句集は大きく二つの章にわかれている。隅田聡子さんの「付記」によると、第1章は、「静観」と題して、2011年から2016年12月まで、「第一句集以後から母を見送るまでの間に作った句です。」とあり、「ゆくりなき日々」と題された第2章は「一日一句として一年間、三六五句にまとめるつもりだったようですが、「予」としてパソコンに残っていた句もそのまま載せています。」とある。およそ2句集ほどのボリュームのある句集となっている。森俊人さんは第1句集『自在』を2012年にふらんす堂より上梓されている。本句集はそのご縁によってお作りさせていただくことになった。友岡子郷さんの帯文にあるように「森俊人さんは、長年、植物の環境と生育にかかわってきたひと。」である。本句集をよめばおのずとっそのことはわかる。 第2章となった「ゆくりなき日々」によせた「あとがき」を紹介したい。 最近の急激な地球温暖化、気象の異変、気候の変動など、季節のずれが進むなかで、四季、二十四節気、七十二候という古い生活・文化・気象の変化を反映した暦の分割による句の割り付けをした。季語という我が国の文芸上の分類とのずれができた。 句集名を「ゆくりなき日々」とした。 ゆくりなしとは、不意に、思いがけないなど、たまたまとか、偶然とかと理解されているが、その出会いからは逃れられなかった事実である。つまり、必然であり、偶然ではない。そんな日々の記録を綴った句集である。 ご本人に明確な編集意図があっての句集構成による「ゆくりなき日々」となった。 本句集の担当は、文己さん。 鴨引いて風の湖面となりにけり 蟻の道ビルとビルとをつなぎたる 園児らのおじぎ揃はず新松子 春帽のしつとり重し小糠雨 水打つて一人の客を待ちにけり 暮れ早しまだ温かき川原石 蟻の道ビルとビルとをつなぎたる 第1章「静観」の春の部にある句である。なんとも長い蟻の道である。いや、ビルとビルの間は隣接しているのかもしれない。その隙間に泥の地面があって、そこをつなぐようにして蟻が一列になっていたのかもしれない、現実は、と。こう書いてしまったら面白くもない。しかし、この一句を読んだすぐの印象は、まず足元の蟻に視線はあつめられ、そして一挙に視線は高く空にそびえるビル群へとひろがっていく。そしてふたたび蟻へともどりそのビル群をつないでいる蟻の道を意識するのである。蟻の道がつなぐものには不自由はしないだろうか、ビルとビルとは、何とも大きく出た。これって、蟻の道がえんえんと長く続いてビルとビルとをつないでいるって思うと面白い構図となる。まずはそう読めるし、そういう構図を作者は読者に期待しているのかもしれない。働きものの蟻だったらやるかもな。しかし、実際としては隣接する狭い地面で繋がっていたのをそのように詠んで気持ちのよい一句に仕上げたとも考えられる。 園児らのおじぎ揃はず新松子 第1章「静観」の夏の部に収められた一句である。「新松子(しんちぢり)」は、秋の季語で「あたらしくできた松かさのこと」。青青として瑞々しい。そんな勢いのあるできたての松かさの下で、幼稚園児が挨拶をしている。園児たちは勝手気ままにお辞儀をしている長閑な風景を作者はかたわらで楽しみながら見ているのだろう。園児たちには、「新松子」の存在などはあずかりしらぬことだろうが、作者にとっては、不揃いなお辞儀をするにぎやかな園児たちも初々しい新松子もひとしく可愛らしい存在なのである。新鮮な空気みなぎる愛すべき風景。 刈り稲の匂ひの中へ棺出づ 亡き人を見送るときの一句である。あるいは「農」に生きた人かもしれない。稲刈りをおえて、稲がそこここに掛けられて匂っている。そんな中への出棺である。農に生き農に死んだ人であるとしたら、このような情況はある意味祝福された死への旅立ちなのかもしれない。しかし、この一句、どのような感情も詠み込まれていない。しかし、いい句だとわたしはおもう。人の生活のいとなみがみえ、そしてそれを囲む自然の風景がみえてくる。見送る人たちも、逝く人も稲の香につつまれているのだ。そして、稲の香は残された人々にとって大いなる慰めのようにも思えてくる。〈また一つ交はりの減り秋の雲〉という句がつづく。良きお仲間にかこまれている作者である。 囀りの中の破調は何に鳥ぞ 囀りを聞いている。にぎやかだ。すると突然、不協和音のごとく囀りをみだす破調の鳥声が聞こえた。こういう経験ってある。変な声がまじるのよね。それを一句にした。いったい何の鳥? 「何に鳥ぞ」と止めることによって、作者の驚きが並大抵でないことがわかる。 どんぐりの朝日の影を伸ばしけり 「ゆくりなき日々」に収録されている一句である。どんぐりをシンプルに詠んだ一句である。この句、どんぐりが大きくみえてくる。そして生き生きと。それは「朝日」だからだろう。「影が伸びる」ではなく「影を伸ばしけり」で詩になった。あくまで主体はどんぐりにある。 遥かなる羊水たどる柚子湯かな 句集の後半におかれた一句である。不思議な感じの一句。「柚子湯」に身を沈めている。柚子の香りがしてすこぶる良い気持ちである。肢体をのびやかにして、身体中の細胞が甦っていくような、そう、まるで母の胎内にいたときのようなゆったりと守られているそんな心地になった。かつて自身がこの世に生まれいづる前に浮かんでいたところ、この感触はまさに、なんて、そんな遙かなる記憶が呼び起こされるような思いにつつまれる。この一句の魅力は、「遙かなる羊水たどる」と上5中7で羊水の記憶を読者によびおこし、そして「柚子湯」に帰着させたところである。「柚子湯」という気持ち良きものが読み手の身体までもうけとめてくれるそんな思いに一瞬させる、詩情ある一句となった。 校正スタッフのみおさんは、「〈何の群れも一羽は起きて浮寝鳥〉がとても好きです。眠れない鴨もいるのでしょうか…」 九十歳を機に、一日一季語の句を、明石海峡を望む城址内外の小径で徒然なるままの二本の歩歩の間に詠みました。師・友岡子郷の生前の最終句集『海の音』を乗せた海風を直に感じるほどの距離で、様々な海の音が届きます。対岸の淡路島は生まれ育った島です。海に耳を傾けながらの日々に浮かぶ句を、一日一季語にて、重複を避けながら、七十二候ごとにまとめました。所々の余白の頁には、気分転換に、句に因む自作の漢詩を入れました。 「あとがき」の後半を紹介した。 本句集は「あとがき」に記されているように七十二候ごとにまとめられている。そしてところどころ森俊人さんによる「漢詩」がおかれている。 装釘は、君嶋真理子さん。 カバーに使われている絵は、「明石公園」と題した森俊人さんの手によるもの。 このように漢詩が収められている。 「短日」と題された漢詩をひとつ紹介しておきたい。 短 日 短日西風忽寂然 光陰転瞬落暉鮮 高啼一鳥行何処 変幻飛雲自在天 「付記」で隅田聡子さんは、こう記す。 巻末に父が散歩の途中で撮った写真を載せました。マクロルーペも活躍しました。 背伸びしたりしゃがんだり、崖の上にのぼったり、夕日のシャッターチャンスのために懸命に急ぎ足で歩いたり。 巻末には、森俊人さんが撮った植物や虫の写真がならぶ。どれも美しく撮られている。 そして森俊人さんのお姿。 冬麗や波音近く二本杖 ゆくりなく野にて遇ひたり森苺 森 俊人 この句集刊行の実現のためにご尽力をされた隅田聡子さんより、所感をいただいた。 到着の電話やメールが届き始めました。 巻末に写真を載せた翼くんのお宅では、リビングの特等席に「ゆくりなき日々」をおいてくれているとのこと。 父はひとりっ子なので 親戚はほとんど母方。 すっかりご無沙汰の叔父叔母、従姉妹にも句集を発送して、到着の連絡で近況のやりとりまで出来ました。 母方の親戚からは 第一部「静観」の感想が多かったです。 「病みたるを忘れゐるかにかき氷」は、その現場に居合わせたメンバーとっては、母の食べっぷりそのものの句です。 句集のお蔭で素敵な植物画を描かれる父の職場の方のご連絡先も知ることができて Facebookで植物の奥深さを楽しみつつ、父と二人でしゃがみ込んで見つめた道端の草花を思い出しています。 父を私はヘンテコ親子(オシロイバナの種をせっせと集めながら父が自分で言っておりました。)確かに…かなりヘンテコ、バカボンとバカボンのパパみたいだと振り返っております。 この本の上梓にお力をいただいた皆さまに感謝申し上げます。 隅田聡子さま お父さまに句集上梓にむけて、大変であったとおもいます。 隅田さまが願わなかったら、この度の句集『ゆくりなき日々』はこの世に生まれて来なかったでしょう。 本当にお疲れさまでした。 天上で、森俊人さまがさぞ喜ばれていることでしょう。 ふらんす堂もこうしてご縁をいただきましたこと、とてもうれしく思っております。 夏つばめ白紙の朝の来りけり 森 俊人
by fragie777
| 2024-09-13 20:22
|
Comments(0)
|
ファン申請 |
||