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8月28日(水) 旧暦7月25日
睦みあうカラスって思ったら、 親子のカラスだった。 親が子ガラスに餌をあたえていたのである。 坂本宮尾著『竹下しづの女の百句』が出来上がってくる。 タンポポの装画のなかなか可愛らしい一冊となった。 竹下しづの女という明治から昭和にかけて生きたこの俳人の代表句は知っていても、なかなかその全体像にふれる機会がない。本著を通して、しづの女がどのような俳句をつくったか、知るきっかけになればと思う。 坂本宮尾さんの解説によれば、かの有名な〈短夜や乳ぜり泣く児を須可捨焉乎(すてつちまをか)〉含む七句が、「ホトトギス」の巻頭をとったとき、俳壇では「黒船が来た」と大騒ぎをしたという。 「黒船と怖れられたしづの女は、明治半ば生まれの女性ながら、ピアノ、バイオリン、薩摩琵琶を弾きこなし、読書家で、乗馬も得意なモダンな女性であった。彼女は日本の詩は抒情ばかりであると嘆き、俳句に理性をもたせ、主観を詠むことを自身の課題として試行錯誤を重ねた。 しづの女の句はしばしば難しい漢字や構文を用いて堅苦しく、また複雑な内容を一句に盛り込もうとして定型をはみだして破調となる。師高浜虚子が「佶屈聱牙(きっくつごうが)」の句と評したように、一見して難解で取っつきにくい印象を与える。しかしじっくりと味わえば、その句は誰も詠んだことがないような新鮮さと力強さで読み手を魅了する。さらに作品の背後に、波瀾の大正から戦中、戦後の社会を、颯爽と独立独行の姿勢を貫いて生きたあっぱれな女性が浮かびあがってくる。」 時代を先取りして生きる進取のスピリットを持った女性であることがわかる。 では、いったいどんな句をつくったのだろうか。 鑑賞をふくめて本文を紹介していきたい。 執筆者の坂本宮尾さんは、生活者しづの女に触れながら、その作品を紹介していく。 三井銀行の扉の秋風を衝いて出し 『颯』大正九年 (颯(はやて)は本来の字を表記できず) 「ホトトギス」(大10・3)に入選した。上五を「銀行の」ではなく、「三井銀行の」と字余りにしたことで、調べは滞ったが、句は印象鮮明になった。三井という財閥系列の銀行名は、堂々とした近代建築を想起させ、強い意志を示す下五と呼応して斬新な句に仕上がった。 水原秋櫻子は作品の新しさを認め、下五は「衝いて出づ」とするほうが調子がしっかりする、と的確な鑑賞した(「現代俳句思潮と句業」)。伝統的な詩歌の世界では、秋風はもの淋しさを感じさせるが、ここでは爽快な風と捉えており、そこにモダンな雰囲気がある。 春雪の白きよりなほ潔かりし 「雪折れ笹」福岡日日新聞 昭和八年四月一日 伴蔵は入浴中に脳溢血で倒れて、四十八歳の若さで亡くなった。第一次大戦を契機に産業構造が農業から工業へと変化してゆくなかで、農学校の校長の職務は心労が多く、激務であった。しづの女は「一片の私心なく、一抹の陰影をもとめぬ八荒晴明」であったと夫を偲び、葬儀の夜の春雪と引き比べて彼の清廉潔白な人格を讃えている。春の雪であるだけに、ことさらに純白の輝きが感じられ、深い敬愛の情がこもった悼句となった。 一家は校長官舎を出て、借家に移ることになる。 若くして夫を失ったしづの女は、これよりかなりの苦労をすることになる。しかし、肝っ玉母さんのごとく果敢に二男三女を育てる。 夫の死後、しづの女は福岡県立図書館に勤める。〈書庫の窓つぎ〳〵 にあくさくらかな〉 留守の子に青いばつたは碧く蜚ぶ 「成層圏」一巻四号 昭和十二年 第三連は出征兵士の留守宅の様子。簡潔な言葉で、幼い子どもの日々の淋しさを表現している。「蜚とぶ」は、飛ぶの意。幼い子どもはバッタを眺めているが、青いバッタが突然金色になるような心躍る変化は起きるはずもない。この句は、戦争という状況を離れて、ぽつんと家に残された子どもの目に映る景を詠んだ句として鑑賞することもできよう。 「軍国」は出征を主題にして三つの視点から構成した連作で、それぞれ完成度の高い十句が揃った。息子、教え子を兵士として送り出す立場からの真剣な創作である。 梅白しかつしかつしと誰か咳く 『解説 しづの女句文集』 昭和十五年 「かつしかつし」という咳の擬音語にリアルな響きがある。この中七は、通常の風邪の咳のゴホンゴホンなどと比べると、いかにも力無く、不気味で、重病を思わせる。目の前に咳をしている人がいるわけではなく、しづの女の不安な耳が、姿は見えないがどこかで咳く不気味な音を捉えているのである。 梅が咲き、ようやく暖かくなり、卒業を迎える時期になった。「成層圏」の会員もそれぞれ社く。しづの女は聞こえてくる乾いた咳を聞きながら、長やが男の健康への不安を募らせている。 やがてこの長男は結核で亡くなるのである。 国を裁つは誰が手ぞ吾が手単衣裁つ 「現代俳句」 昭和二十一年十一月号 戦争がようやく終わった。戦中は衣類に気を配る余裕がなかったが、単衣ものを仕立てることができるようになった。しづの女は敗戦国の戦後処理という重要な決断がもつ緊迫感を、物資不足のなかで貴重な布を裁断するときの緊張感と重ねて、歯切れよく、堂々とした文体で詠んでいる。俳句という小さな詩型のなかに、重要な国家の政策と、個人の生活を並置して、知的な構成をもつ作品に仕上げている。 この句を発表したのは、石田波郷が昭和二十一年に創刊した総合俳誌「現代俳句」である。 稲妻のぬばたまの闇独り棲む 『解説 しづの女句文集』昭和二十三年 しづの女の生家は行橋市の豪農であったが、夫伴蔵が亡くなってからは、故郷の土地を手放さざるを得なかった。家屋敷も人手に渡っており、田の片隅に電気も引かず、井戸もない粗末な小屋を建てて住むことになる。 最愛の息子を喪ったしづの女の心は、虚脱状態になっていた。真っ暗闇を裂いて時折稲妻が走る夜である。稲妻の閃光と漆黒の闇が鋭いコントラストをなすなかで、脳裡にさまざまなことが思い浮かんだに違いない。 ぽつりと置かれた下五は、底知れない孤独を描きだしている。孤心が生んだ詩情豊かな名吟である。 明治から昭和の前期にかけては激動の時代であったと思う。しづの女の作品を語るには、その時代背景を抜きにしては語れないものがある。 ふたたび「解説」を紹介する。 しづの女は近代的自我に目覚めた女性俳人として、青年のような理想に燃えて、情に寄りかからない理性の句、また地に足のついた生活者としての句のあり方を模索した。彼女は進取の気性に富み、旺盛な批判精神の持主であり、社会で働く体験ももち、広い社会的な視野をそなえていた。客観写生が提唱されていた「ホトトギス」にありながら、主観を詠みたいと願い、内容にふさわしい表現法を求めて果敢に挑戦を重ねた。有季定型を守りながら俳句の新しい領域を開拓する過程は時間がかかり、理屈が勝ちすぎた句、荒削りな句もあるが、やがて誰にも真似のできない独自の句風を確立した。 たんぽぽと女の智慧と金色なり 竹下しづの女 カバー表紙の装画は、この一句より。 この女の智恵への信頼、すなわち我への信頼だったのだと思う。 野に咲くたんぽぽと女の智恵へのオマージュである。 好きな一句である。 目下、家の冷蔵庫にパクチーがわんさかある。 どうしようかなあ、とネットでレシピを検索したら、 あるじゃない、いろんな食べ方が。 檸檬とナンプラーは買ってかえる必要があるな。 あとは鶏肉か。。 おおそれと赤ワイン。 赤ワインは冷やして飲んでいるのだけど美味い。
by fragie777
| 2024-08-28 18:50
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Comments(7)
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村山半信
at 2024-08-29 05:37
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竹下しづの女の俳句、大好きです。ましてや坂本宮尾さんの解説ならば、ますます読みたくなります。早速注文いたします。
私も赤ワインはセラーで冷やしたうえ氷を入れて飲みます。コーラで割って、スペーイン流カリモーチョも甘くて爽やか。
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fragie777 at 2024-08-29 09:29
村山半信さま
おはようございます。 しづの女は九州・福岡の生まれ。 なかなかあっぱれな女性です。 友人に福岡出身の女性がいますが、九州女はパワフルですね。 赤ワインをコーラで割る! やったことありませんが、やってみたいとも。 しかし、体重の増加が気になります、 (yamaoka)
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村山半信
at 2024-08-29 10:11
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かつての師、金子兜太も、何かの会話の時、「しづの女先生」と呼び、尊敬していたことが窺われました。
学生向けの機関誌『成層圏』で多くの仲間たちとともに指導を受け、戦後俳句の隆盛を築きましたね。
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fragie777 at 2024-08-30 20:56
村山半信さま
よくご存じですね。 さすがです。 わたしはこの一書で「しづの女」についてずいぶん学んだように思えます。 そちらは台風は大丈夫でしたか。 仙川は、その渦中にあるようです。 (yamaoka)
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村山半信
at 2024-08-31 06:09
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台風のこと一行に志賀直哉 半信駄句
台風10号は長崎県島原半島にいったん上陸し、九州を熊本から大分へ縦断していきました。別府の温泉で長旅の汗(?)を流していったのでしょうか。こちら長崎は風雨がそれほどでもなく、新聞もいつもの時間に届きました。 今回のノロノロ台風、意外にも東海~関東に大きな被害を及ぼしていますね。やがて熱帯低気圧に変わるそうですが、被害が無いことを祈っています。 名著『杉田久女』に続く坂本宮尾さんの『竹下しづの女の百句』、注文いたしました。読むのが楽しみです。
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村山半信
at 2024-08-31 06:26
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fragie777 at 2024-08-31 21:22
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