カテゴリ
以前の記事
最新のコメント
検索
外部リンク
画像一覧
|
7月26日(金) 旧暦6月21日
昨夕は新宿のビル街を行く。 暑い一日だったが、夕立が来そうな気配。 帰る頃は日が暮れ、雨粒がぽつりぽつり。 西新宿に行ったのだが、あまり足をふみいれることのないところだった。 新刊紹介をしたい。 四六判ハードカバー装帯有り 212頁 2句組 著者の渡邊顯(わたなべ・あきら)さんは、昭和22年(1947)樺太生まれ、現在は東京・大田区在住。平成8年(1996)「玉藻」に入会、平成17年第一句集『滴』刊行。令和元年(2019)「香雨」入会。令和4年(2022)毎日俳壇年間優秀作、令和5年(2023)角川全国俳句大賞 自由題部門大賞受賞 令和5年12月 毎日俳壇賞年間優秀秀作 俳人協会会員。本句集は第3句集であり、片山由美子主宰が栞文を寄せている。 本句集は、渡邊顯さんが、「あとがき」で書かれているように喜寿を記念して刊行されたものである。 片山由美子主宰の栞を抜粋して紹介したい。 渡邊顯さんとの出会いと「香雨」入会までのいきさつをつまびらかにしながら、その人柄にもふれ、毎日俳壇賞をとられた二句について触れている。タイトルは「俳句再開に向けて」。 学校に工事が入る夏休み という句があって、夏休みを詠んだものとしては異色であると一席に推した。それをご覧になった毎日新聞特別編集委員で桐朋学園大学の学長をされていた梅津時比古氏が、エッセイに引用して称賛された。夏休みに訪れたキャンパスの光景として実感があったのだろう。この句をその年の毎日俳壇賞の優秀二句のうちのひとつに選んだ。 中断の会議再開秋扇 翌年はこの句を毎日俳壇賞の最優秀作としてに選ぶに至った。「秋扇」という季語の斡旋がじつに良いと思う。なぜ中断していたのか、そもそも何の会議だったのかなど何も言っていないのだが、中断を余儀なくされていた会議が再開されたもののすんなりとは進んでいないのではないかというような雰囲気を「秋扇」が語っている。 渡邊顯さんは、句集制作をすすめるにあたって何度もふらんす堂にいらしてくださり、担当のPさんと打ち合わせをされたのだった。 光芒をとどめて昏し朴の花 睡蓮の水底揺らす花の影 新涼やバターの硬さ丁度良く 春雨の降るとはなしにあがりけり 枯菊の切られし茎のまだ青く 故郷は何も変はらず茄子畑 Pさんの好きな句である。 光芒をとどめて昏し朴の花 繊細な一句である。花びらを大きく広げた朴の花にひかりの穂先がとどまっている。そしてなおも「昏し」なのである。朴の花の奥行きを感じさせる一句だ。朴の花に時間はゆっくりと過ぎていく。作者もまた朴の花をみあげながら、そのゆっくりと過ぎ去る時間に身をゆだねていたのだろう。もはや、作者と朴の花しか世界には存在しないかのように時は流れていく。 睡蓮の水底揺らす花の影 この一句もまた、写生の一句だ。しかもなかなか見えにくい「睡蓮」の水底へと視線とどかせている。「花の影」が睡蓮の水底で揺れているのだが、あえて「水底揺らす」としたことによって、花に意志があるかのように影を立ち上がらせたことによって、睡蓮の花全体に生気が生まれた。美しい景であり、詩情のある一句となった。 枯菊の切られし茎のまだ青く この句もまた枯菊というものがよく見えてくる一句だ。先入観を排して目の前の枯菊そのものを見ている作者がいる。枯れているはずの菊として見えている菊の切断面に青いところが残っていることに目を止めたのである。下5の「まだ青く」という言いっ放しの叙法によって、青の余韻が読者に目にのこる。それのみならず、「青」はいまだに切り口に生気をとどめている「青」であって、無残に切られて枯れていく菊のあわれさも呼び起こしている。カ行の音が効果的であり、すっきりとした詠みぶりとなっている。わたしも好きな一句。 コスモスや風追ふ風の戻り来る コスモスに風はつきものである。この句もコスモスの風を詠んでいるが、「風追ふ風の戻り来る」という風の様子をこのように叙したことでユニークな一句になった。たしかにコスモスは風に吹かれて行ったり来たりして揺れている。掲句は「コスモスや」まずおいて、風の様子のみを詠んでいるのだが、まさにその風はコスモスを巻き込んでいる。 羽音から先づは飛び出す稲雀 これもうなずける一句だ。羽音がしてその方をみると稲雀が飛び出すってこと、よくある。しかし、この句「羽音して」ではなく「羽音から」によって稲雀の動きのみに焦点をあわせた。「羽音して」であったらそれに気づいた人間が浮かんできてしまうが、「羽音」からで音から飛び出した稲雀の勢いがみえてくる。一瞬の羽音から即座にとびだす稲雀が見えてくる一句だ。 喜寿を記念して第三句集を纏める事が出来ました。「香雨」主宰の片山由美子先生や銀座支部の佐藤博美先生の御指導の賜と感謝申し上げます。 私如き一般会員に過ぎぬ分際で第三句集を出すなど、不遜の極みと言わざるを得ません。しかし、句集は俳句を愛する者の生きた足跡と思っていますので、恥を承知で纏めた次第です。(略) 入会に際して、片山主宰は選を厳しくする方針と言われましたが、まことに厳しい指導を頂戴しています。なにしろ四句欄には二度だけで、二句欄には三度も落とされていますから。 しかし、厳しい選はありがたいことだと感謝しています。何故、取られなかったのか反省する機会が次の飛躍に繋がるからです。虚子曰く、「落とす親切」が俳人を育てるのでしょう。お陰で、令和四年に毎日俳壇の年間優秀賞、令和五年に角川全国俳句大賞ならびに毎日俳壇最優秀賞を頂くことができました。 句集名は「長楽」としました。中国古代の瓦に長楽無極とあることから頂いた次第です。皆様に長く楽しんで頂ける句集であれば幸いです。 収載した句は、令和元年から四年及び五年の一部までの香雨時代を中心として、それ以前の句でメモが残っているものを色々と搔き集めて載せましたが、明らかに香雨時代のものに比べてそれ以外の句が見劣りすることは否めません。 しかし、喜寿記念ということなので、老境の生き様の一端をお示しするべきであると思い載せました。 「あとがき」を抜粋して紹介した。 装幀は君嶋真理子さん。 落ち着いた上品な仕上がりとなった。 タイトルは黒メタル箔。 花布は、黒、栞紐はグレー。 春雨の降るとはなしにあがりけり 若々しい渡邊さんが喜寿とは信じられないが、益々充実した日々を過ごされることを祈りつつ、『長楽』の刊行をお祝いしたい。(片山由美子/栞) 上梓後のお気持ちをうかがった。 (1)本が出来上がってお手元に届いたときのお気持ちはいかがでしたか? 装丁と帯の取り合せが素晴らしく、格調の高い句集に見えます。 (2)この句集に籠めたお気持ちがあればお聞かせ下さい 身の程を弁えず、句集を出してしまい、お叱りを受けそうですが、喜寿記念ということでお赦し下さい。 (3)句集を上梓されて、今後の句作への思いなどございましたらお聞かせ下さい。 これからも励んで傘寿記念の句集をまとめられると良いのですが。 2月27日、ご来社のときに。 渡邊顯さま 喜寿そして御句集のご上梓、 まことにおめでとうございます。 ますますのご健勝をお祈りもうしあげております。 そして、 傘寿の記念の句集をぜひにまたお作りさせてくださいませ。 冠雪の山ことごとく神となる 渡邊 顯 糸蜻蛉。 近くにもっと小さな赤い虫がいる。
by fragie777
| 2024-07-26 19:13
|
Comments(0)
|
ファン申請 |
||