10月4日(水)
気持ちのよい朝となる。自転車をとばしてゆくとあたり一面金木犀の香りがたちこめている。この辺はどこの家にも、そう三軒に一軒くらいのわりで金木犀が植えられており、その匂いが途切れることが無い。金木犀の風にのって仕事場へ到着。
今日の読売新聞の長谷川櫂氏による「四季」には石田郷子さんの俳句が紹介されている。小社刊行の『木の名前』からだ。「柚子の実に飛行機雲のあたらしき」なんと気持ちのいい句なんでしょう。金木犀といい、柚子といい秋の青空には黄色がバツグンに似合う。
午後には装幀の君嶋真理子さんが来社。部屋に入ってくるやいなや、わたしたちの方に顔をぬっとつきだして目を指さして「ウフフ、どうですか」と言う。ええ、なんだ、とよく見れば、あれまあ君嶋さんの目がえらくぱっちりしている。「ど、どうしたの?」「睫毛パーマかけちゃいましたあ!」ということ。まあ、睫毛が見事なまでにクリッとひっくり返ってそこだけ社交界デビューといった雰囲気。今さっきかけてきて、ふらんす堂に直行したということであるので、少女漫画の主人公のごとき睫毛となって、短い睫毛のわたしにはとても羨ましい。「いいなあ、わたしもかけようかな?」と言うと、「どんなに短くてもちゃんとかかるそうですよ」と君嶋さん。(そっ、どんなに短くてもね)逆さ睫毛でなやんでいる中井愛も、「睫毛パーマ」は大変効果的らしいと言われ「わたしもやろうかな」と心を動かしている様子。そんなこんなで睫毛パーマはじわじわとわたしたちのこころに侵食し、ふらんす堂のスタッフが全員睫毛パーマをかけて、睫毛だけみんな派手になったらどんなもんでしょう。
君嶋さんは再びキューバ旅行に今月9日からトライするということで、海を渡るための美しい睫毛なんですって。だから今日は頑張って三本の装幀を仕上げて貰う。
君嶋さん、気をつけて楽しい旅行を。そして睫毛パーマが重力に耐えていつまでもご健勝でありますように。
天つつぬけに木犀と豚にほふ 飯田龍太