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6月5日(水) 芒種 旧暦4月29日
睡蓮。 神代植物園にて。 睡蓮をながめていると、とおりすぎてゆく二人の女性が話をしていく。 「あら、きれいね。なんの花?」 「ああ、あれ、蓮の花よ」ともう一人。 (ちがうんですけど!)って声が出そうになったのだけど、クスって笑ってやりすごすことにした。 きっといつか、蓮の花ではなくて「睡蓮」って気づくときがあるとおもう。 そん時の顔がみてみたい、なんて決しておもいませんことよ。。。。 新刊紹介をしたい。 四六判ソフトカバー装帯有り 194頁 二句組 著者の青木百舌鳥(あおき・、もず)さんは、昭和48年(1973)東京生まれ、埼玉県の上尾市でそだち、現在は東京・新宿区在住。平成3年(1991)本井英より俳句の手ほどきをうける。平成4年(1992)慶應義塾大学俳句研究会に入会。髙田風人子主宰「惜春」入会。平成19年(2007)「夏潮」(本井英主宰)創刊に参加。平成27年(2015)「夏潮」第6回黒潮賞受賞。現在は、「夏潮」会員・運営委員。本句集は、平成19年(2007)から令和5年(2023)までの作品を収録した第1句集であり、本井英主宰が序文を寄せている。 抜粋して紹介したい。 青木百舌鳥さんが句集を出されるという。百舌鳥さんに初めて出会ったのは、もう三十年以上も昔、彼はまだ高校生だった。その後慶應義塾大学に進学した百舌鳥さんは俳句研究会に所属、私とは共に俳句を詠む仲間になった。その後、彼は俳誌「惜春」、「夏潮」を通して虚子の唱えた「花鳥諷詠」の道を歩みはじめ、今なお大いなる努力を傾けて、虚子の俳句世界を、さらには虚子が目指したであろう俳句世界を心に描いている。 浮苗の田植機追うて流れける 季題は「田植」である。「田植機」は現代の田植えでは欠かせない機械。初期は手で押しながら四条ほどを植えていたようであるが、現今ではトラクター式の大型機で、八条とか十条を一気に植えていく。詳しいことは判らないが田面への田植機の沈み方は以前より深い感じで、ある程度の水深の中に田植えが行われていくようにも見える。 そこで掲出句のような場面が眼前でなされたのである。「カッチャ、カッチャ」とストロークして植えていく中で、一つの早苗が着床できずに、田水に浮き上がってしまった。その早苗はどうなるかと見ていると、進む「田植機」の後部に生まれた水流に乗って、「田植機」を追うように流れた、というのである。 まことに落ち着いた観察と、その観察の結果を的確に伝える措辞によって、読者を田植えの現場に拉致するほどの力強い写生句となった。ともかく早く一句にしてしまおう、などという「ぞんざい」な気持ちは微塵も無く、どこまでも、「その場面」を正確に伝えたいという誠実が一句に満ちている。この句を見た瞬間、私は小躍りして喜んだ。そして虚子に見せたいと思った。虚子も必ず選ぶと思った。但し虚子が現代の「田植機」を知っていたなら。 青木百舌鳥さんは、高校生のころに本井英主宰に出会い、俳句をつくるようになられた。その出会いを「あとがき」で活き活きとしるされているので、是非に本文で読んでほしい。本井英さんの教師としての登場の仕方、おもわず吹いてしまうほど。 本句集の担当は文己さん。 薄氷の毀れて水に馴染みけり 今朝寒き風の奥なる雉の声 螢火や人の如くに坂のぼる 煙草に火海酸漿はまだ鳴らず 先生の傘か花野に動かざる 螢火や人の如くに坂のぼる わたしもこの句にはちょっと驚いてしまった。そしてとても印象的な一句である。この句のまえに〈螢火の星座ほどなるあはひ置く〉というのがあって、蛍火をみて星座をよびおこし、その蛍火との距離を詠んでいるのだが、つぎの句になるとにわかに蛍火が現実性をおびてくる。「人のごとくに坂のぼる」という比喩がいったいどういうことかと一瞬おもってしまう、。山の斜面だろうかあるいは急勾配の道であろうか、そこをぐいぐいと登っていく、いやひらりひらりか、いずれにして坂をひるまずにのぼっていく蛍火をみて、蛍火であっても現実に逞しく生きているものと実感したのだ。この「人の如くに」というおもいきった比喩が、蛍火を現実の世界へと呼び寄せリアルな存在であるものと読み手に認識させるのだ。古来詩歌によまれてきた蛍についての風趣などははぎ取られて、逞しい生きものとしての蛍火を認識させる一句である。こんな風に詠まれた蛍ははじめてである。 先生の傘か花野に動かざる 「花野」は秋の季語。秋草が咲き乱れて虫の声などもし、霧などが立ちこめていてしっとりと濡れていたり、淋しい情趣がある。小雨ふるなかを吟行にやってきたのだろうか、先生はすこし離れて先をあるいて行ったのだろうか、それともあとから遅れているのだろろうか、ともかくも作者の居る場所からすこし離れてしまった。ああ、あそこにいる、とその傘で気づいて、ときどきそちらを見やるが、いっこうに動く気配がない。雨はふりつづけ、身体は冷えてきた。しかし、先生は一心不乱に俳句をつくっているのか、動かない。このままいったいいつまで、そんな作者の不安な心象もみえてくる。この句「傘」「花野」で情景はよくみえてくる。そして「先生」であることによって、気やすくはかかわれない作者との関係性もみえ、寂寥さをます花野であまりにも静かな先生、作者の不安な面持ちの一句となった。物ののみを詠みながらも景は眼前にたちあがり、そしえ作者の心情もみえてくる一句だ。 恋猫にごはんかと訊(き)くごはんと言ふ 本句集には猫がときどき登場する。青木百舌鳥さんは猫を飼っておられるようだ。そして猫好きである。掲句などは、猫とよく馴染んでいなければ詠めない句だと思う。猫もまた人間にこころを許しているのだ。「恋猫」であれば、食事などはそこそこに恋の相手を求めて落ち着かない。発情している猫にはおいそれと近づかない方がいい。しかし、猫のことをよく分かっている作者は、そんな恋猫の様子を機敏にとらえて、「この猫は腹をすかしているな」と見た。で、猫に聞いたのである、すると飼い主に信頼をおいている猫ゆえに「そうニャー」と答えたのだ。この関係性をきづくのは誰でもできることじゃないってわたしは思う。〈猫と我ともに暮らして夏痩なつや)せす〉という句もあって、ああ、やっぱりって思った。こうでなくっちゃね。 田植機を愛馬のごとくぽんぽんと 青木百舌鳥さんは、小諸で「稲作体験」もされているようだ。この句の前には、〈浮苗(うきなへ)の田植機追うて流れける〉の句がおかれ、本井英主宰が、序文で「力強い写生句」として絶賛しておられる。掲句は、その田植がおわったあとの様子を一句にした。かつては田植機などはなくて人間による作業だった。田植機が登場して労働は画期的にラクになった。田植の一仕事をおえた田植機をその安堵感からおもわず愛馬のように敲いてねぎらったのである。あるいは、そんな仕草をしている農夫をみての一句か。農作業に生きる人間のおおらかな仕草を気持ち良く詠んだ一句だとおもった。下五の「ぽんぽん」との措辞に、一仕事終え気持ちが軽やかに開放されたことが伝わってくる。 我がために生きるさみしさ根深汁 句集の後半におかれた句である。青木百舌鳥さんの句は、およそ心情をかたらず季題そのものを景や事物のなかで軽快にフットワークよく詠んでいく俳句だ。わたしは好きである。颯爽として余計なことは語らず。そして詠まれている季語の豊富なこと、いかに自然に無理なく季題を詠むか、それに徹しておられるように思った。そういう流れのなかでの一句であり、そしてこちら側につきささるような一句だった。句集の前半に〈風の蒲公英(た んぽぽ)我に子のなかりける〉という句があって、おもわず立ち止まってしまったのだが、掲句はその延長戦上にある。そしてこの句「根深汁」の季語がすごくいい。根深汁は葱と味噌の汁物である。風邪などをひいたときに食すと発汗性があっていいらしい。作者は風邪を引いて根深汁をつくって自身をいたわっている。そして「我がために生きる」ことが「さみしい」ということに気づかされたのだ。誰かのために生きるのではなく、我がために生きるということ、それは他者のためにこころをくばる関係性がない、ということだ。それはさびしい。軽快で明るい嫌味のない句集であるが、この一句によって、青木百舌鳥さんの真のさびしさに触れたような気がした。 好きな句はたくさんあった。〈祭着の子や祭着の父追うて〉〈花椎の匂ひ日向に出れば消ゆ〉〈痂(かさぶた)の落ちしを蟻の運びけり〉〈紙抜いてクリアファイルを団扇とす〉〈渋皮煮すすめてくれて耳遠く〉などなど。 校正スタッフの幸香さんは、桐山さんは「〈雪降つてくる雪空の中途より〉が特に好きでした。」 大学卒業後は句会出席の機会が減り作句もめっきり減ったが、平成十九年に英先生が「夏潮」を創刊することとなり、作句を再開した。本句集『めらめら』は私の第一句集であるが、この平成十九年から令和五年の句となる。句集をまとめるにあたり、児玉和子氏、前北かおる氏に多大なご助力をいただき、改めて英先生の御選もいただいた。日頃は空想句も作るが、本句集は実体験に基づく句に絞った。特に作句地は示さなかったが、自ら見返してみると信濃での作が多い。これは「夏潮」入会後、縁あって小諸市の小山美直氏に懇意にしていただき、氏が小諸のため俳人のために営む「俳句田んぼ」で稲作体験をしたり、「こもろ日盛俳句祭」に参加したりと、「信州小諸の美直さん」をたびたび訪ねた賜物である。なお、表紙は古くからの友人で、切絵作家のcut_art さとうみよ氏に制作していただいた。 「あとがき」を抜粋して紹介した。 本句集の装釘は君嶋真理子さん。 そして、 カバーの絵は、切り絵作家のcut_art さとうみよ氏である。 彼の俳句はまだまだ進化するに違いない。(本井英/序) ご上梓後のお気持ちをうかがった。 (1)本が出来上がってお手元に届いたときのお気持ちはいかがでしたか? 上品な装丁に出来上がり安堵しました。 友人の切絵作家cut_artさとうみよさんの作品を使わせてもらったのですが、それを装丁にどう用いるべきか、が今回一番悩んだところだったような。素敵な装丁の句集となりました。ありがとうございました。 (2)今回の句集に籠めたお気持ちがあればお聞かせ下さい こんなふうに俳句を詠んでいる人がいますよ、と。どなたかに「ふーん」と思っていただければ「良し」です。 (3)句集を上梓されて、今後の句作への思いなどございましたらお聞かせ下さい。 訪ねたい土地、釣りたい魚、食べたいアレコレ……出合いたいものが相当な数あふれているので、それぞれに向かいつつ俳句を詠んでゆきたいです。 青木百舌鳥さんです。 立派なカメラをいつももっておられるようだ。 崖に張りついて猩々袴(しやう々じやうばかま)撮る 青木百舌鳥 写真を撮ることに夢中になってお怪我などなさいませぬように。 ご健吟をお祈りもうしあげております。
by fragie777
| 2024-06-05 20:02
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