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4月12日(金) 旧暦3月4日
古木の桜。 木肌の暗さがいい。 葉と一緒に咲く桜が好きかな。。 「ふらんす堂通信180号」の編集期間である。 おおかたゲラが整って校正も済み、わたしの机の上にドカと置かれた。 ゴールデンウイーク前には発送したいという希望があるので、この土日に目を通しておきたい。 今度のコラムはパートのTさんも加わって、「凝ってないけどおいしい!わたしのおすすめ料理」がお題。 今回の君嶋真理子さんのイラストは、鉛筆タッチのもの。 いつもと感じがちがって新鮮である。 わたしたちのお料理も、盛りだくさん!?。 お楽しみに。。。 新刊紹介をしたい。 四六判クータバインディング製本カバー装帯有り 188頁 二句組 著者の鈴木総史(すずき・そうし)さんは、平成8年(1996)東京都生まれ、現在は島根県在住。平成26年(2014)俳句甲子園をきっかけに作句を開始、平成27年(2015)「群青」入会、令和3年(2021)「雪華」入会。令和4年(2022)第37回北海道新聞俳句賞本賞受賞。令和5年(2023)第11回星野立子賞新人賞受賞。「群青」同人。「雪華」同人。俳人協会会員。本句集は、第1句集であり、「群青」の櫂未知子代表が序文を、おなじく「群青」の佐藤郁良代表が跋文を、そして「雪華」の橋本喜夫主宰が栞文を寄せている。 序・跋、栞文どれも著者の鈴木総史さんへのあたたかな愛情にあふれた懇切のものである。それぞれすこしの抜粋となってしまうが、紹介をしたい。 氷湖いま雪のさざなみ立ちにけり 「氷湖」と「雪」、二つの季語が同居している作品であるが、この句は北国の厳しい自然をみごとに描き得ているといって過言ではない。結氷し、静まり返った湖面にまた新たな雪が降り積もる。その時、どこからか吹いてきた風が繊細な波をかたちづくる。その瞬間を総史は逃さず一句にした。 こういった作品は、その場にいさえすれば可能であろうと思われる向きもあるかもしれない。しかし、この句は客人としてのまなざしと、その地に根差した生活者としての視点の融合から生まれたものであった。(略) 『氷湖いま』異彩を放つだろう。すなわち、地方に立脚するのみの風土詠ではなく、かといってのっぺりとした都市風景でもなく――誤解をおそれずにいえば、「洗練された風土詠」ということになる。 櫂未知子さんの序文より紹介した。櫂未知子さんは、北海道を郷里とする方だ。北海道を詠んだ句への切り込みはさすが鋭い。 老ゆるとふ美しさあり尾白鷲 近景の白盗みあふ鵠かな いずれもオホーツクで出会った動物の句だ。「尾白鷲」は、冬のオホーツクへ行けば、高い確率で出会うことができる鳥である。文字通り、尾が白いのが特徴だが、実は幼鳥は全体的に褐色で白い部分が少ないのだと言う。年齢を重ねることで白さを増し、気高さを湛えてゆく生き物への賛美が感じられる一句だ。二句目、網走湖周辺の白鳥を詠んだものであろう。この時期の網走湖は完全に結氷している。その白一色の世界にあって、これまた真っ白な鵠が何羽か動いている。白い鳥が「近景の白」を盗み合っているという把握がユニークで、見逃せない一句である。 佐藤郁良さんの跋文は、鈴木総史さんとの出会いにはじまって、吟行の場をともにしつつ、遠く北海道の地へと就職してよりもずっとエールをおくってきたそんな思いのあふれた跋文である。 「総史もっと旅に出ようぜ」というタイトルで栞文をかかれたのが橋本喜夫さん。 「序文・跋文で二人の先生が、おそらくこの『氷湖いま』を褒めちぎっているはずなので、この栞文は総史君が凹むくらいに辛口で行こうと思って書き始めたのだが、これが聊か難しい」と記し、この若い俳人への期待をおしまないものとなった。 とんばうや蝦夷にあをぞらあり余る この句は最北の結社「雪華」での実質デビュー作かと記憶する。そしてある意味北海道生まれで、北海道育ちの多くの雪華俳人たちにインパクトを与えたと思う。つまり道産子は幼少時から大空を見慣れ過ぎていて、このように詠めないのだ。ここは東京生まれ、東京育ちで、すでに旭川移住時には俳人としての基礎と力量があったからこその、素直な蝦夷の大空への感慨であろう。(略) 「詩」とは「言葉という小舟で永遠に向かって旅に出る営み」だと思う。私は鈴木総史にただただ「うまい俳人」にはなって欲しくない。「永遠とつながる何か」をつねに感じさせてくれる謎と魅力ある作品を詠む超一流俳人を目指して欲しいと思う。 本句集は、逆編年体となっており、新しい作品から過去の作品へとさかのぼる形式である.作者としては、やはり赴任先の北海道でつくった作品をまず読者に読んで欲しいという思いがあったのだ。「氷湖いま」という句集のタイトルもインパクがある。 本書の担当は、Pさん。好きな句は、 音もなく蟻の巣は蟻吐き出して 鮭のぼる故郷の川をうたがはず 街の灯のゆらいで初雪と気づく 返信はなし壺焼を待つあひだ 粽解く十指を湯気にかがやかせ 鋤焼やどんどんつかふ生卵 白鳥のあかるさに湖暮れきらず 秋風鈴海より万の照りかへし 街の灯のゆらいで初雪と気づく この句、北海道の地であるからこその句として、櫂未知子さんも橋本喜夫さんもあげておられる。そうなのか、、北海道にくらしたことのない私にはその違いがよくは分からないが、寒そうな一句であると思った。「街の灯」とは、街角にある外灯のことか、それとも建物より洩れてくる灯のことなのだろうか。そんな夜の灯が一瞬視界をさえぎられるようにゆらいだ、目をみはってよくみれば、雪が降ってきたのだ。その大きな雪片が行く手をさえぎって作者の視界を暗くしたのだ。それを「街の灯のゆらぐ」と捉え、「初雪」へと導きだしたところがいい。雪の到来を感じつつ、いよいよ寒くなってくる街に夜空をみあげてひとり佇んでいる作者がいる。この句、句またがりにして「気づく」という終わらせ方が、巧みだ。「初雪」と気づいた作者の心のつづきが一句の余韻となって残るのである。 返信はなし壺焼を待つあひだ 友人たちと海辺へ遊びにきたのか。それなりに楽しんではいるが、その心はちょっとほかの人物にとらわれている。壺焼を食べようと言うことになって、やってきた。その前に携帯でメールを送ってみた、その人物に。壺焼の焼き上がるまで、(いったいどの暗いの時間だろうか。思うに5分から10分くらいか)、メール(LINE)チェックをしては返信をまつ。わたしがおもうに、この返信チェックは、たぶん1,2回ではなかったと思う。1分ごとくらにチェックしたんじゃないかしら、この句意からするとそんな感じ。焼き上がっていく壺焼への期待より、返信への期待の方が大きいとみた。いかがでしょう。わたしの読みは、、、。携帯電話が制覇している現代でこその一句である。「返信はなし」と先におき、「壺焼を待つあひだ」という具体性が面白い。「壺焼を待つ」という言葉で多くの情報が呼び起こされ、景がみえてくる。 鋤焼やどんどんつかふ生卵 この一句もおもしろい。序・跋にも栞にもあげられていなかったけれど、印象に残った一句だ。「鍋焼」は冬の季語である。「鋤焼」に生卵は、「蒲焼」に「山椒」、あるいは「カレーライス」に「福神漬」以上に必須である。もうなくてはならない「生卵」である。その鋤焼を食べている状況をかくもあっけらかんとリアルに詠んでみせた。「鋤焼」の季題に「生卵」がいい働きをしている。 ひとしづくほどにひひなの灯をともす これはわたしの好きな句である。「雛祭」の一場面を詠んだ一句だ。「ひ」の音の繰り返しがやさしい調べを呼び起こしている。そして「灯」以外をすべてひらがなにしたのも効果的だ。雛さまを照らしているやわらかなはかない「灯」まさにお雛さまにふさわしい「灯」。「ひとしづくほどに」の措辞が、小さなお雛さまの可憐さに響き合っている。「ひとしづく」ではなく、「ひとしづくほどに」の「ほどに」がこの一句に典雅なゆるやかさを醸し出す。 野遊の子は花の名で呼ばれけり これも好きな一句である。こういう句をつくる鈴木総史さんという人がいいなあって思う。「花の名」とあるので、読者はそこに自由な花の名前をあたえることができる、それも楽しい。「ももちゃん」でもいいし、「しおん」なんていうのでもいいし、そしてその呼ばれる子どものむこうに野遊びのうららかな風景がみえてくる。「野遊び」は春の季語。春になって手足がのびやかになり、子どもは活発に野原をうごきまわる。「そんな遠くに行っちゃだめよー」なんていう声も聞こえそうだ。あたたかな春の陽気に子どもも親もうれしくなって、身も心も解放されたそんな様子がみえてくる一句だ。 〈立子忌の咲いて名前も知らぬ花〉という句もあって好き。 校正スタッフのみおさん、「〈紫陽花や描けばカンバスは雨に〉 中七から下五へ句またがりになる作品がかっこよかったです」 同じく校正スタッフの幸香さん 「〈国歌あかるしスケート場に風吹かず〉 国歌斉唱やスケート場の独特な雰囲気を思い出します。」 私にとっての俳句人生の転機は、北海道へ移り住んだことだ。北海道に来てから、心にゆとりを持って俳句に取り組むことができるようになり、成長に繫がったと思う。これは、北海道という地のある種の包容力なのかもしれない。そんな北海道への感謝と敬意をすこしでも示したいと思い、句集名は〈氷湖いま雪のさざなみ立ちにけり〉より「氷湖いま」とした。 北海道に来て驚いたことがいくつかある。一つ目は、自然の厳しさである。一年のうち、四か月ほどは雪に閉ざされる。寒く厳しい世界にやって来たのだと実感した。二つ目は、冬の景色の美しさである。雪にはさまざまな貌があり、木々や湖は姿を変える。そんな北海道の冬は大変豊かで、まぶしく輝いていると感じた。これらは、ずっと東京に住んでいた私にとって大きな衝撃であった。本句集で、そういった明るさを詠んだ句が多い理由は、そこにある。また今回、北海道での最新の句から、東京での学生時代の句へと戻っていく、逆編年体で句を並べさせてもらった。そんなところも楽しんでいただけたら幸いである。 「あとがき」を抜粋して紹介した。 本句集の装釘は和兎さん。 タイトルのように寒さを感じさせる装釘となった。 タイトルは銀箔。 透きとおる用紙にタイトル名前のみ記し、下の表紙の白鳥がすけてみえるようにした。 帯をとると、表には二羽の白鳥が。 カバーをはずすと、 くっきりと白鳥があらわれる。 表に二羽。 裏に一羽。 見返しの色が、差し色となっている。 扉。 クータバイディング製本。 本がひらきやすい。 見返しの色が背にもとおっている。 どぶろくの瓶の吹雪を飲み干しぬ 北海道に渡る前の混沌とした苦しみを経て、極北の地に身も心も据えた著者の覚悟がこの句集からは滲み出ている。おそらく、東京に在住したままでは得られなかったであろう氷と雪の地ゆえの実りが『氷湖いま』にある。(櫂未知子/序) 上梓後のお気持ちをうかがった。 (1)本が出来上がってお手元に届いたときのお気持ちはいかがでしたか? 改めて、素敵な装丁で感動しました。それと同時に、第一句集を無事に刊行できたという安堵感がありました。 この句集がこれから多くの人の元に届くと考えると、今はワクワクしています。 (2)初めての句集に籠めたお気持ちがあればお聞かせ下さい 自身にとって初めての句集ということで、今までの俳句人生の区切りだと思っています。再出発に向けての句集と言ったところでしょうか。自分の故郷である東京と第二の故郷である北海道を繋ぐ、そんな句集にしたいと思って作りました。もちろん、母の故郷である愛媛の血もこの句集にはうっすら流れています。 句集を出すことで改めて世の中の皆さんに評価いただきたいと思っています。 (3)句集を上梓されて、今後の句作への思いなどございましたらお聞かせ下さい。 句集を出すことで、ひとつの区切りになったと思っています。今後は、山陰という新しい土地で、新しい景色を見ながら、新しい自分の俳句を探していきたいと思います。 櫂未知子さんと鈴木総史さん。 昨年の3月のご来社のときに。 北海道から現在は鳥取に移られた鈴木総史さん。 また新しい地にあって、ますます句作に励まれることだと思います。 俳句のみならず、お仕事、子育てなどなど、頑張ってくださいませ。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() 生きるにはふるさとを欲り夏蜜柑 鈴木総史
by fragie777
| 2024-04-12 20:50
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