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3月12日(火) 旧暦2月3日
花桃。 神代植物園にて。 ピンク色のものもあったけれど、白に目を奪われた。 朝から雨ふり。 こまかな雨。 歩きたくないのだけれど、最近の体重の増加をかんがえると、歩くことに。。 春って食欲をおさえることが秋よりも難しいって思いません。 昨日の会で岸本尚毅さんにお目にかかった。 高橋陸郎さんの句集『花や鳥』について話がおよんだ。 「読み応えのあるいい句集でした。」と。 「『あとがき』も読みました。要するに「私たちにしっかりせい」ということなんですよね」と、ニコニコとおっしゃる。 この句集『花や鳥」も在庫があっという間になくなりそうである。 再版をすることに。 初版本の署名本を欲しい方は、お早めに。 新刊紹介をしたい。 四六判フランス製本カバー装帯アリ 242頁 二句組 作者の丸山陽子(まるやま・ようこ)さんは、昭和21年(1946)新潟県高田市生まれ、東京・世田谷区在住である。平成10年(1998)「一葦」入会、平成19年(2007)「一葦」同人、平成22年(2010)「一葦俳句賞」受賞。現在は「一葦」同人。俳人協会会員。本句集は1998年から2023年までの25年間の作品を収録した第一句集であり、「一葦」の中根美保編集長が序文を寄せている。 もう二十年以上も前のことになる。島谷征良主宰と「一葦」の俳句仲間と共に、都内で開かれている丸山陽子さんの作品展の会場を訪れた。その時初めて「鍛金」という金属加工の技法があること、そして陽子さんの本職が鍛金作家であり、絵画工作教室の主宰もされていることを知ったのである。 陽子さんが「一葦」同人・大内淑子さんの勧めにより「一葦」に入会したのは一九九八年。以来、島谷征良主宰のご指導の下、句座を共にし、幾度となく一緒に吟行にも出かけた。現在は月に二回ほど句会をご一緒している。(略) 金箔を置けば夜なべの華やげり 秋の灯や道具をつくる道具たち 大寒や息を殺してきさげ研ぐ 金つ気の残るてのひら雛あられ バーナーの火の色を聴く秋の暮 すさまじや酸で穴開く作業服 薬包に漆包みて夜業果つ 陽子さんが本業とする鍛金とは、金属を絞ったり延ばしたりして作品を作る工法のことである。これらの句には、日々制作に励む中での実感が詠まれている。一句目、華やいだのは作品に施すために置かれた金箔ではなく、夜業そのものと捉えたところに独自の視点がある。二句目、さまざまな工程に応じて道具を自作することもあるのだろう。実際お住まいに併設されたアトリエには、金属を叩くためのチーク材で出来た大きな台や沢山の道具が整然と置かれている。「道具たち」という擬人法には、共に作品を生み出すための同志といった思いが込められているようだ。四句目、鍛金制作の骨太なイメージとひなあられの柔らかな彩りがごく自然に一句に収まっている。五句目、「火の色を聴く」という表現から、細心の注意を払って火の加減を見ていることが窺える。 句集名「鎚音」は、〈鎚音を子守唄とし子の昼寝〉に依るが、「鎚音は私の身の内を重低音のように流れている音でもあります。」と著者は「あとがき」で語っておられる。 本句集の担当はPさん。 枯葉踏む鳩に重さのあるを知る 透きとほる文鳥の爪梅雨寒し バーナーの火の色を聴く秋の暮 糊を練る篦に余寒の重さあり 幾重にも水をたたみて紙を漉く 空の一点破りて鷹の戻りけり 透きとほる文鳥の爪梅雨寒し 文鳥を飼っておられるのだろうか。文鳥の足の爪に目をとめた作者である。それがいつもより透きとおっているようにみえる。大気中の水分を吸っているかのようだ。細やかな観察である。そんなささいなことにも気づいてしまうほど、梅雨の季節の鬱陶しさに気分が沈みかちである。しかもその爪のガラスのように透きとおっているのを見ていたら梅雨寒が身に応えてきたのである。視覚から呼び込んだものが身体感覚をめざめさせたかのようだ。「梅雨寒し」という季語が説得力をもち、読者の背筋もひんやりと寒くなってくる。そして細い針金のような文鳥の透きとおった爪が目の前に迫ってくるのだ。 バーナーの火の色を聴く秋の暮 中根美保さんも序文でとりあげている一句である。「火の色を聴く」がいい。火の色の加減に心身を集中させている様子がみえてくる。作者は「鍛金作家」として作品づくりをしているアーティストでもある。火の色は作品をつくりだすための最も大切な要因なのだろう。バーナーの音のその大小によって火の加減も変わってくるのか。現場にいるものでなくてはわからない火の色である。この句には作品をうみだすべく火に向かい合っている人間の息を潜めた佇まいと、バーナーの音以外は静寂さが支配している。「秋の暮」の季語によって、その静寂さに深度がくわわる。作品づくりにはげむ人間の孤独な姿も暮色のなかに浮かび上がってくる。 金箔を置けば夜なべの華やげり 中根美保さんが取り上げ、作者も自選に選んでいる一句。わたしも好きな句である。この句も作品を生み出すべく悪戦苦闘されているその過程で得た一句だと思う。昼間は絵画教室の先生として忙しく働いておられる丸山陽子さんであるので、作品づくりは夕方から夜にかけて、ということが多くなるのだろう。「夜なべ」をしながらも、納得のいく作品づくりをと励んでいる。そんな作品づくりにおいて時には金箔をつかうこともある。作品に金箔を置いた。すると夜業の孤独な仕事のいとなみに華やかさが加わったのだ。というかこの一句、華やいだのは仕事の現場のみならず、作者のこころも明るく華やいだのである。「夜なべ」というやや暗さがこもる季語を用いながらも、作品をつくる喜びや楽しみをあじわう作者の心のゆとりがみえてくる一句だとおもった。このような心持ちで作品づくりにはげむ作者には幸せな充足感があるのではないだろうか。 指先に油じみあり更衣 「更衣」の季語を詠んだ一句である。更衣は人間の身体にまつわる衣服に関することがらである。だから、どうしても身体を意識する。この句の面白さは、その肉体の一点に意識を集中させたことだ。たぶんこの指先の持ち主は作者自身であろう。作品づくりはそうそうたやすいものではないらしい。序文によれば「鍛金とは、金属を絞ったり延ばしたりして作品を作る工法」と記されている。かなりの力を要求されるようだ。油がしみた指先は簡単に油を拭き取ることもできず染み込んでしまっている。軽やかな衣服に着替える更衣の季節になって、あらためて自身の指先に目がとまったのだ。しかし、わたしがこの一句が好きなのは、そんな油染みのある指先を作者が歎いているようには見えないこと。平然とうけいれている、むしろそんな自身の境遇を内心で誇りにおもっているような断定の仕方である。それがいい。〈金つ気の残るてのひら雛あられ〉という句もある。 一陣の秋風となり母逝けり 亡くなられたお母さまを詠んだ一句だ。この句、悲しみをおさえて母が亡くなったことを、「一陣の秋風と」なったと詠んだ。それ以上のことを言っていない。しかし、「一陣の秋風」という言葉に託した思いは、作者のこらえがたい悲しみ以上のものを語っている。心情をかたらず腹をくくったように「一陣音秋風となり」に託した叙法が、かえって深い悲しみを呼び起こし、それをこらえようとしている作者の思いの深さをわたしは感じる。「一陣の秋風」に込められた慟哭は深い。 私は、学生の時に専攻した金属加工法のひとつである鍛金という技法で作品を作ってきました。鍛金とは、昔でいうところの鍛冶屋で、文部省唱歌の「村 の鍛冶屋」ならぬ「街の鍛冶屋」を自認しております。その傍ら絵画工作教室を生業として四十六年。俳句歴は二十五年になります。鍛金・絵画工作教室・ 俳句の三本柱が私の生きる力になっております。 「あとがき」を抜粋して紹介した。 本句集の装釘は、和兎さん。 本句集これから紹介するように、丸山陽子さんの絵の作品を挿画として用いている。 ゆえに、その挿画を活かすよう白を基調とした一冊となった。 まずはカバーの挿画。 丸山陽子さんがご自身が住まわれている町の風景をすこしでも残すべくスケッチをはじめられた。 今回用いた挿画はすべてそのスケッチによるものである。 「半世紀経った今、街も随分様変わりしました。先日も、大きな緑地帯が、低層住宅になったり、竹やぶに囲まれたお屋敷が更地になってしまったりと、枚挙にいとまがありません。 そんな中、この街の面影を少しでも残せればと、スケッチすることを思い立ちました。今回句集に挿入しましたスケッチは、いずれも我が家から徒歩五分から十分の場所です。」と「あとがき」に記す。 タイトルは銀箔。 表紙。 扉。 本句集には5つの章に分けられているが、その章ごとに作者の挿画がある。 そのうちの幾つかを紹介したい。 句集の本文中におかれた挿画は色鮮やかそしてなつかしく、句集をよむ楽しさを与えてくれる。 鎚音を子守唄とし子の昼寝 作品を通して感じるのは、来し方に縛られることなく、日々新しさを求めて歩み続ける陽子さんの姿である。その力強い歩みに『鎚音』という名はまことにふさわしい。(中根美保/序) 本句集の上梓についての所感をいただいた。 句歴25年をまとめたつもりが、単なる句に留まらず、私自身の歴史を辿るにことになるとは、思いもよらないことでした。お陰様で今回とりあえず人生77年の総括ができ、不思議と身も心も軽くなりました。 これからは、おまけの人生と思ったら、もっと自由にもっと楽しく生きられそうです。 丸山陽子さん。 丸山陽子さま。 第1句集上梓を機にさらにますますものづくり、俳句づくりにお励みされますように。 そしてますます自由自在でありますように。 秋の灯や道具をつくる道具たち 丸山陽子
by fragie777
| 2024-03-12 19:57
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