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2月10日(土) 旧元日
鶫(つぐみ) 久しぶりに行った井の頭公園にて。 落葉を蹴散らしながら飛び歩いていた。 井の頭公園に行くのは本当に久しぶり。 スワンボートは相変わらずの人気だった。 わたしはスワンボートに乗りたいと思ったことは一度もないのだけれど。。。 そのボートの間を水鳥が負けじと泳ぎ回っていた。 新刊紹介をしたい。 四六判ハードカバー装帯あり 170頁 三句(首)組 著者の西林節子(にしばやし・せつこ)さんは、1935年満州旅順市生まれ、現在は兵庫県宝塚市に在住。本集は句歌集である。俳句は、1954年に府立大阪女子大俳句部にて橋本多佳子の指導を受ける。俳誌「七曜」「天狼」入会。2000年「七曜」にて投句を再開し、橋本美代子の指導を受ける。2011年「七曜」同人。2015年「七曜」終刊後、「ぽち袋」(渡辺徳堂代表)に入会、所属。短歌は2007年「バンクーバー短歌会」に入会。松尾祥子の指導を受ける。2012年海外日系文芸祭大賞受賞。本集には、「ぽち袋」の渡辺徳堂代表が跋文を寄せている。 若狭井を指すや鵜の瀬の花筏 丹精の山葵等級付けて売る 藁塚の一隊歩き出す月夜 孔子廟の簡素な造り秋気澄む 洗練の対極として冬木の瘤 これら右記の抽出句に共通しているのは知的感性が句を作らしめているところだ。単なる写生から踏み込んだもので、これは『ペチカ』全句に感じられ、重量感を持つ一書となっている。 渡辺徳堂代表の跋文の一部を紹介した。 西林節子さんは途中中断があったものの長い句歴を持つ。そしてこの度の句集が第一句集となる。句歌集とあるが、短歌の数はおおくはなく巻末にある78首であり、本集の多くは俳句が占めている。橋本多佳子に出会ったのが作句の始まりだった。巻末のエッセイ「遠い日のことども」には、俳句との出会い、橋本多佳子と出会いのことが記されている。学生時代を終えようとしていたときに橋本多佳子より「俳句を続けることはこれでなかなか難しいことだけれど、あなたには出来ると思うわ」と声をかけられ、そのひと言が今日までの西林さんを俳句へとつなぎとめているのである。橋本多佳子から直接に俳句の指導をうけたという人もいまではほとんどおられないだろう。幸福な出会いをされた西林節子さんである。 本集の担当は、文己さん。 雛流す日本海まで十里ほど 春雨の止むまで昔話して 早暁の空耳かとも初蜩 藁塚の一隊歩き出す月夜 焚火守る氏子も老いぬ初詣 カーテンを引き廻したる一坪の病室は繭のやうな薄明 美しきけもののごとくしなやかに青田波うつ風渡るとき 文己さんの好きな俳句と短歌をあげてもらった。 春雨の止むまで昔話して 「春雨」は二月末ごろから三月にかけて、細い絹糸のような雨がいつまでも降り続く雨のことをいうらしい。「春の雨」とは厳密には時期がことなるようだ。この句においては、いつまでも音も無くしずかに降りつづく雨を感じながら、気持もおおらかにゆったりと昔話を心置きなくしているのだろう。「春雨の止むまで」というその時間があくせくすることのない時をおもわせ、昔話にお互い夢中になっており、ふっと気づいたらすでに雨はあがっていたそんな駘蕩とした気分を思わせる一句だ。句またがりが連綿とした時間がつづいていることを効果的にしているのではないだろうか。 藁塚の一隊歩き出す月夜 渡辺代表が跋文にとりあげ、作者も自選にいれている一句である。「たくさんの藁塚が夜は棒立ちの一団となって歩きださんとしていると断定。」と渡辺徳堂さん。藁塚は稲こきがおわった新藁を円筒形に積み上げたもの。点々と間をおいてそれらが立っているのをよく見かける。この句「月夜」がいい。月夜なればこそ、藁塚の一隊もまるで魔法にかけられたごとく歩き出す。昼間は藁塚そのものとしてその職務(?)を果たしているが、月夜の晩はなにかがちがう。作者には見えたのである。まさに藁塚たちが一斉に号令をかけられたごとく歩きださんとしているその光景が。。この句「一隊」という言葉が藁塚の風景をよくとらえていて、藁塚はけっして単独行動はしないのである。 啄木日記読み継ぐ毛布引つかぶり これはわたしの好きな一句である。句集の前半におかれており、1999年以前とあるので俳句をはじめた初期の句かもしれない。ということは作者が学生時代のことか。まあ、いつの時代の作者であってもいいのだけど、長じて西林さんは短歌もつくられるようになるので、若き日には短歌もよく読んだのだろう。夢中になって啄木をよむ若い女性の姿がみえてくる、詠み継ぐとあるから一日そこらじゃなく読んでいるのだ、しかも「毛布引つかぶり」で。いかに夢中になっているか、まわりのことなど知ったこっちゃない、という具合。いれこみようの深さがこの措辞で充分に言い表されている。こんな風な読書ができるのもしがらみのない学生時代であればこそ、なのかもしれない。『啄木日記」であるということから、胸熱くして読んでいるのだろうなあ。 土雛の古拙の目鼻点と線 おもしろい一句だとおもった。土雛の質朴さと風趣をシンプルに漢字をたくみに用いて詠んだ一句だ。ひらがな表記は「の」「と」のみ。「古拙」の言葉が活きている。下五の「点と線」と言い放つ措辞も効果的。無駄のない一句であり、まさに俳句という詩型を十全に生かしきった一句である。 クレーンの四肢ゆるぎなし去年今年 「クレーンの四肢ゆるぎなし」がなんともダイナミックに晴れやかである。そんな風に詠めるのもお正月だからこそか。上五中七で広々とした高さのある大空がみえてくる、そこを去年今年という時間が貫いていくのである。骨太の一句だ。そして晴れ晴れと気持のいい一句。「クレーンの四肢ゆるぎなし」には、万物満ち足りて時を寿ぐ、そんな心持ちも思わせるものがある。 カーテンを引き廻したる一坪の病室は繭のやうな薄明 巻末に収録された短歌より一首。文己さんの好きな短歌であるが、わたしも好きな一首である。西林さんが入院されていたときの一句である。個室でななく一般病棟は通常カーテンで仕切られている。この短歌そのカーテンで仕切られた空間を「繭のやうな薄明」が支配していると詠んだ。この感触がいい。繭のやうな、でわたしたちは一瞬繭のなかに閉じ込めれた感覚になる、そして、そこからうっすらと仄かな明るさの光を感じるのだ。「薄明」のほの明るさ。繊細な作者の心持ちが見えてくる一首だ。校正スタッフのみおさんも好きな短歌としてこれをあげている。「無機質な病室は、本当に繭のようですよね。」と。 俳句に出会ってほぼ七十年が過ぎました。その間の事情は俳誌「ぽち袋」に掲載して頂いた「遠い日のことども」に記しています。中断をはさみながらも今日まで続けた俳句を句集の形にしたいと思い始めて十年、かつて米寿の祝いにと母の句集を編んだのに自分がその年齢を超えようとしていることに思い至り愕然として重い腰を上げた次第です。引っ越しの多い人生で、子供時代を含めると二十回近い転居の末宝塚に居を定めもう一度俳句を学びなおそうと思ったのが二〇〇〇年、この句集ではそれ以後の句を主にまとめました。 二〇〇六年から十年余り夏の間の三、四カ月を夫と共にカナダの西海岸で過ごすのが恒例となり、滞在中にバンクーバー短歌会に参加して作歌を始め、よき指導者、異国の地で日本語を大切にする多くの歌友を得て七十の手習いながら俳句と短歌の違いに気付かされたことは大きな収穫で、そこで学んだ短歌も収めることにしました。 今後の私にどれほどの時間が残されているかは知る由もありませんが、息子たちや孫たちが〈おばあちゃん〉をひととき思い出すよすがになればというのもこの句歌集の目的の一つです。 「あとがき」を抜粋して紹介した。 西林さんは、バンクーバーに毎年行かれるようである。 この句集制作のときも「カナダのバンクーバーに行かれていらっしゃいました。」と文己さん。 装幀は君嶋真理子さん。 西林さんご自身もまた装幀にこだわられ、何度かの修正を重ねながらご希望にあうものに近づけたものとなった。 表紙の色はカバーの寒色系とはことなり、暖色系のもの。 これは西林さんのご希望である。 落ち着いた煉瓦色である。 型惜しがきっちりと押されている。 花布は金。 栞紐は白。 石炭一つ爆ぜてペチカの夜が更ける 句集名の「ペチカ」は、かつて住まわれた旅順の家にはペチカがあったその思い出の「ペチカ」である。本集には、掲句以外に「旅順の家」という前書きがある句が三句収録されている。〈ペーチカの記憶に若き父母姉妹〉など。 ペチカを囲んで家族が集まる。幼き日のよき日々だったのでしょうね。ペチカ、なんていい響きでしょう。ペチカ経験のないわたしは羨ましい。 本句集で、ちょっと気になった一句がある。 洗練の対極として冬木の瘤 一読印象的な一句である。ごつごつした冬木の瘤を詠んでいるのだが、洗練という観念に対極させている。というのは何となくわかるのだが、やや観念的な匂いが強いように思えたのだ。 しかし、この句には前書きがあった。「高野山 四句」という前書きのある最後の四句目の句。 そして跋文で渡辺徳堂は以下のように鑑賞しておられる。 〈洗練の対極として冬木の瘤〉は高野山塔頭での句かと思われるが、厳しく、連綿と続く、磨き鍛え抜かれた真言密教を「洗練」と抽象化して言い切り、巨木の瘤と向き合わせたのである。作者は「冬木の瘤」を醜い、汚い等とは言っていない。洗練された真言密教の対極に、自然の作り出した造形美として「冬木の瘤」を持ってきているのだと思う。 渡辺徳堂さんの鑑賞によって、この一句が真言密教へのひとつの批評であるということが分かったのだ。 今日の空。
by fragie777
| 2024-02-10 22:36
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