ふらんす堂編集日記 By YAMAOKA Kimiko

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しかし、彼はちゃんと孤独です。

1月10日(水) 十日えびす  旧暦11月30日




しかし、彼はちゃんと孤独です。_f0071480_17253021.jpg

ご近所の丸池公園では飯桐の実がまだ美しい。


しかし、彼はちゃんと孤独です。_f0071480_17253460.jpg



歌手の八代亜紀が亡くなった。

彼女の歌はすぐに何曲か口をついてでてくるほど(音痴なので歌えないけど)、同じ時代を生きてきた歌手である。
さびしい。
俳人の平畑靜塔は、大の八代亜紀ファンで、句集に『矢素(やしろ)』と命名したのは、よく知られた話である。
声の質にもよるのだろうが、人のこころの淋しさにそっと寄りそう、しかし過剰にじめじめはしていない、そんな歌であり歌い方だった。
華々しい昭和の高度成長期の底辺で生きるひとたち、そういう人々をやさしく励ますそんな歌手だったかもしれない。







新刊紹介をしたい。


中西亮太句集『木賊抄(とくさしょう)』



しかし、彼はちゃんと孤独です。_f0071480_17255518.jpg
四六判ハードカバー装 160頁 二句組


著者の中西亮太(なかにし・りょうた)さんは、1992年生まれ、現在東京都文京区在住、2012年に句作を開始し、2014年「艀」入会(2016年終刊)、2019年「円座」「秋草」入会、2023年「麒麟」入会。本句集は、第1句集であり、序を山口昭男「秋草」主宰、跋1を武藤紀子「円座」主宰、跋2を西村麒麟「麒麟」主宰がそれぞれ寄せている。
序跋をよせられたそれぞれの主宰の方たちは、みなさんあたたかな言葉をこの若き俳人におくっておられる。
抜粋となるが、それぞれ紹介をしたい。
まず、山口昭男主宰の序文より、

 白魚の唇につかへて落ちにけり
 三和土まで闇の来てゐる五月かな
 古きものみな音大き南風
 こほろぎの髭の地面についてをり
 子の会話もはや悲鳴や花八手
 父親を跨いでゆけば霜柱

ものをよく見て、言葉を選んでいること。季語の奥行きを摑み取ることが出来ていること。特に前述した一物仕立ての俳句が際立ってきたことに目を瞠りました。
この大きな変化の結果が、第三十五回村上鬼城新人賞、第一回鈴木六林男秀逸賞の受賞として見事に実を結びました。

そして、武藤紀子主宰の跋より、

 倒れれば瞑る人形あきつばめ

私が宇佐美魚目先生に学んだ一番大切なものは季語のつけかたである。五七五とするすると詠むのではなく、五七で一度切って、五文字の季語をつける。この句でいえば最後の「あきつばめ」がそれである。魚目先生も亮太君の先生の山口昭男先生も「青」でご一緒していたので、おそらくこの句もその指導がよく効いているのだと思う。最後につけ合わせる季語はむずかしい。つき過ぎてもいけないし、離れ過ぎてもいけない。つかずはなれずのぎりぎりのところで一句がより深まるような季語を選ぶところに、成功か失敗の分かれめがある。この句は成功していると思う。

西村麒麟主宰の跋より、

 虫籠の虫仰向けに転がれり
 おでん屋の小さくなつて仕込みをり
 畑うつて小さき畑のいとほしく
 いつまでもひとり愉しくいなびかり
 完璧に傾く喇叭水仙よ
 露草の遠くのこゑに揺れてをり

彼の句からは時々寂しさを感じます。その寂しさが清潔で澄んだ世界を句集に醸し出しています。寂しさの全く無い詩はどこか浅い印象を受け、長くは愛せません。しかし、彼はちゃんと孤独です。


それぞれの主宰の言葉は、さまざまな角度から中西亮太さんの俳句の魅力を語っており、この三人の方々の文章をとおして再び本句集をよむと、中西さんの俳句の世界がさらにふくらんでくるのではないだろうか。


本句集の担当は、Pさん。

 おでん屋の小さくなつて仕込みをり
 寒鯉の口々に波起こしたる
 やはらかく鳥は巣箱を出づるかな
 古きものみな音大き南風
 イタリアの国の形の水を撒く


 おでん屋の小さくなつて仕込みをり

西村麒麟さんが、跋でもとりあげている句だ。麒麟さんは、「寂しさ」を感じ作者の「孤独」をおもわせる一句として。作者の中西亮太さんは、ときどきおでん屋に立ち寄るのだろうか。おでん屋という言葉からイメージされるものは、小さな大衆的なお店である。そう、八代亜紀が唄った「舟歌」などが流れていそうだ。狭いところに人々は身を寄せ合って酒を酌み交わす。この句はまだお客さんが来る前である。おでんの種を仕込んでいる風景だ。狭い店内の台所の一角で主が鍋をのぞきこみながらおでんの準備をしている。この句「小さくなつて」に作者の心情が投影された。身をおりまげて仕込みに集中するおでん屋の主人、たぶん一人で取り仕切っているのだろう。そんな小さな店の準備の一こまを、余計な言葉を省略して、端的な一句にしあげてみせた。このおでん屋、中西さんがときどき立ち寄るお店かもしれない、だから仕込んでいる時も立ち入らせてくれたんじゃないかなあ。。西村麒麟さんもこういうお店きっと好きだとおもうな。。。〈口々に雨をたづねるおでんかな〉という句もあって、わたしは好き。

 古きものみな音大き南風

こちらは、山口昭男さんが、序文でとりあげておられる。「ものをよく見て、言葉を選んでいること。季語の奥行きを摑み取ることが出来ていること」としての一句として。「古きものみな音大き」という上五中七の措辞をあまりに理屈や一般論で考えてはいけない一句なんだとおもう。つまり、作者の目の前にあったものの古いものたちが大きな音を立てた、それを一句にしたのではないか。この句「南風」の季語がいい、山口さんが語っておられるように。古いものがたてる大きな音も、「南風」の季語によって、なにか耳障りのよい気持のよい大きな音になっている。そしてその音を好ましく思っている作者がいる。この一句、句に配された「キ」と「イ」の音が句を引き締め、心地よいリズムを生みだしているのが、いい。

 をととひの夕焼のひとにあうてきし

こちらは武藤紀子さんが、跋文でとりあげている。この跋文の鑑賞がすべてを語っているので、わたしが野暮な鑑賞をするまでもない。この句、季語の「夕焼」のみが漢字、あとはすべてひらがな、それがとてもやさしい句の姿ともなっていて、そして「ひ」の文字が視覚的にも聴覚的にも効果的である。「恋人」ではなく「こひびと」と記したいようなそんな繊細さにみちた関係。作者がこの人によせる優しいやわらかな感情、それがみえてくる一句だ。さらに「をととひ」という時の間(ま)がとても甘美に思えてくる句でもある。

 糊あまくにほへる障子洗ひかな

著者の自選10句のなかのひとつであり、わたしの好きな句でもある。「障子洗ふ」の季題を詠んだもの。冬の用意のために古障子を洗って新しい紙を貼ることであるが、いまはなかなか障子のない家もあってこういう光景は目にしなくなった。この句、庭で障子を洗っている風景か。なんといっても「あまくにぼへる」がいい。この糊はご飯粒を煮詰めて糊にしたものだろうか。若い作者であるが、この「障子を洗う」という行為に気持を存分にいれている(本人が洗っていなくて、それを見ているだけだとしても)のが、「糊あまくにほへる」の措辞で伝わってくる。いいじゃないですか、甘い匂いのなかで障子を洗って張り替えるなんて。清潔な気にみちて人は気持ち良く濡れながら働き、これから貼られていく障子紙の白さまでも見えてくる一句だ。
 
 ざくざくと貝洗ひけり麦の秋

これもわたしの好きな一句。貝をあらっている。アサリくらいの大きさの貝だろうか。「ざくざく」という擬音語が納得できる大きさだ。「ざくざく」との措辞がちからづよい。この句「麦の秋」の季語がいい。「ざくざくと貝洗ひけり」の上五中七ではこの作者は閉ざされた音のなかにいる。「麦の秋」の季語によって俄然一挙に世界がひらけ貝の音から身体がはなれた。「麦秋」という気持のよい季節。明るく熟した麦畑を風がわたっていく。「ざ」と「ぎ」の濁音が一句を落ち着かせている。麦畑のみえる窓辺できびきびと台所仕事をしている人間がみえてくるようだ。

 
二〇一二年十一月末から二〇二二年までの十年間で作った句の中から二一九句をまとめました。温かい序文・跋文をいただきました山口先生、武藤先生、麒麟さんには心よりお礼申し上げます。この句集に収めた作品は例外なく、句会をはじめ、人の目に触れたものです。これまで句座を共にしていただいたすべての方に感謝申し上げます。

「あとがき」を抜粋して紹介した。


本句集の装幀は君嶋真理子さん。

作者の中西亮太さんのこだわりを生かして清潔な一冊となった。

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若い俳人の句集にしては渋い。
そしてとても素敵。


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装画は木賊。
木賊という植物もなかなか渋い。



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タイトルは金箔。

 
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表紙。


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角背が若々しい。


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見返し。
表紙とおなじ用紙である。


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扉。


モノトーンを基調としている。


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が、

花布とスピンは真紅。


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 伸びてゐる木賊と折れてゐる木賊



句集名となった一句である。



本句集の上梓後のお気持ちをうかがってみた。


(1)本が出来上がってお手元に届いたときのお気持ちはいかがでしたか?
「やっとできたー!」という気持ちでした。選句はするする進んだのですが、そのあと並び替えでしばらくごにょごにょしてしまいました。「秋草」の句会後の宴席で、山口昭男先生に「句集は編年体ですよっ!」と言われなければ、まだ出てなかったかもしれません。

(2)初めての句集に籠めたお気持ちがあればお聞かせ下さい
今回の句集には誰かしらに選をいただいた句だけを収録しました。句座を共にした仲間たちに支えられてできた句集です。
書名『木賊抄』は〈伸びてゐる木賊と折れてゐる木賊〉から取りました。大袈裟に言ってしまえば、この句ができた時はまさに“降りてきた”という感じでした。あの直観的な感覚をこれからの句作でも大切にしたいと思って書名としました。(それ以降、あの時ほどの経験はないのですが…)
 
(3)句集を上梓されて、今後の句作への思いなどございましたらお聞かせ下さい。
句集作りを通して、良くも悪くも自分の現在地を知ることができた気がしています。ただ、これから進むべき道は今のところよくわかっていません。そんなことを考えていたら、2023年はまったく句作ができなくなってしまいました…!
とはいえ、これまでの句を精算できたこともあり、少し身軽になった気もしています。2024年はあまり深く考えず、のびのびと健やかに俳句を楽しみたいなと思っています。




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中西亮太さん。

2023年1月30日のご来社のときに。



 

 初湯出て壮年の身になりにけり     中西亮太









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仙川で新しい年をむかえたヒドリガモ(♂)







 
 


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by fragie777 | 2024-01-10 20:22 | Comments(0)


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