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11月16日(木) 旧暦10月4日
出勤途上に咲いていた冬菊 明るく呼び止められた気がして思わず立ち止まってしまった。 無造作に畑を取り囲むように道に沿って咲いている。 写真に撮っていたら、通りかかった老婦人が「本当にきれいね!」と声をかけてさっそうと過ぎ去っていった。 12日付けの「しんぶん赤旗」の「ほんだな」に、高橋修宏著『鈴木六林男の百句』が紹介されている。 2004年に85歳で死去した鈴木六林男の俳句を解説とともに紹介しています。戦争体験にこだわり「俳句表現によって〈戦後〉を問い続け、円熟や完成を拒み続けた」六林男。「戦場の虚しさ」を詠んだ「をかしいから笑ふよ風の歩兵達」「射たれたりおれに見られておのれの骨」、核実験の時代を背景とした「放射能雨むしろ明るし雑草と雀」など、その作品は「今日なおも不穏な可能性を秘めたまま、未知の読者の前に開かれている」といいます。 新刊紹介をします。 四六判ペーパーバックスタイル 114頁 佐々本果歩さんの前詩集『よるのいえのマシーカ』(2013年刊)につぐ第2詩集である。 この詩集は、二〇一四年頃から二〇二〇年頃に書いた作品の中から選んで一冊にまとめたものです。 すべて空想の中で作ったお話と詩です。 「あとがき」を抜粋して紹介したが、本詩集は前詩集より10年経っている。その間に書かれた作品である。 本詩集の担当スタッフは文己さん。 全体的には散文詩もおおく、一篇一篇が長いので、詩作品を最初の行から最後の行まで紹介するのは難しいが、ここではタイトルともなった「ねむりおちるつぶ」の詩をまず紹介したい。 ねむりおちるつぶ かなしいことをいつもまきまきにまきこまれて こわだかで輪郭をはっきりとさせるのがにんげんはすき うれしいことは空中で かたちなくただよいみえないまま ねむりおちる、ねむりおちるつぶ ばらばらになって、ときどきなかまをよぶ にんげんは、とらえることがにがてで 光輪がはげしくすがたをあらわすときだけ むねにぽっと やっとちいさなあかりをともすことができた きりかぶにすわるヤコーブセン 小さくもあり、大きくもあり 灰色の空気をまとう 青いみずうみのほとりで 木のにおい はっぱのにおい しめりけを感じて うでに折れた木の枝を抱く 菌類たちのかおりを抱く ゆうがた、空中にうかぶつぶ ヤコーブセンのくちびるからしみてゆく 太陽がしずむと、上からつぎつぎと落ちて めぐる たいないのひかり、粒子 優しいあちらの生命の 手のひらがほのじろくひかり 横たわるヤコーブセンをなでる ねむりひかるつぶがたくさんあつまり まるをつくると ヤコーブセンは一緒に からだじゅうのうぶ毛とまるまって 月まで届くことができるよ からだのなかの闇は、つぶとつぶにまぎれて 作り出された輪郭はくだける しなやかな、あちらの生命の吐き出す息に 風はつくられて ヤコーブセンの次はきみ からだはどんどんぐにゃぐにゃになり とらわれびとではなくなるよ それは、かんぜんに かんぜんな 流動する概念。 かんぜんに かんぜんな 流動する概念。 この一篇の詩が語るように、本詩集は、すべての作品がやさしい言葉で書かれてどこかファンタジックな雰囲気をまとっている。しかし、その世界は決して幸福な様相は呈していないのだ。ある不気味さと言っては言い過ぎかもしれないが、読者を安らかな終息には導かないのである。 「こわだかで輪郭をはっきりとさせるのがにんげんはすき」という詩の前書きが置かれているように、わたしはこの詩集を読んでいてこの1行へのアンチテーゼとして詩が書かれているように思ったのだった。あらゆるものはやさしい表情をうかべながら侵食しあい、その輪郭をうしない、変容し流動していく。 ひとつの固体のようなものがねむりおちつつ液状のつぶとなっていくように。 そんな不安感をともなった不思議さに満ちている詩集である。 担当の文己さんの好きな詩は「セイウチの夢の中の女」。 「ただよっているようなふわふわした世界観が好きです。」と。 最初の方の詩行を紹介したい。 セイウチの夢の中の女 ・なかまとはぐれる ・一匹は、ねつにとけはじめ じぶんのからだをみうしない ・巨大セイウチは、地の底の夢をみる ・娘は七色のうろこをもつ ・波しぶきひとつないよる ・巻貝は、大いびきで寝てるからすぐに見つかって 一瞬で むしゃむしゃ食べられる ・夢うつつの巻貝は、目が覚めている巻貝よりおいしいらしい ・なんか気が狂いそうと思ったら、セイウチの中にいたみたいです ・どこまでもつづく海のにおいと おなかいっぱいの夜 ・ずっとこんなしずかで自由な夜だったらいいのに この詩もまた、自身の輪郭をうしないつつそれぞれが変容し、夢想のなかに閉じこめられている。 ちょっとヘンな世界である。 校正スタッフのみおさんは、「地下カルテ置き場見習い」に惹かれました。「ぬるぬるの子ども」の描写がリアリティたっぷりです。 「ぬるぬるした皮膚をしたみどりいろの/こどもくらいの大きさのいきものが/地下のカルテ置き場の奥にいる/まいにち、ずっと暇そうに、ぬるぬる、ぬるぬるしているのが見える」 校正スタッフの幸香さんは、「黄子」が特に好きでした。大きな巻き貝を抱きしめ撫でる場面にはぞくぞくします。 「そして、自分の体の半分ほどもある大きな巻貝を両手で抱きしめやさしく撫でました。黄子がみた夢と同じように、巻貝は、血のような赤いしずくを 一粒だけ、たらりとたらしました。」 このようにメルヘンのような夢物語にみせつつ、そこにはグロテスクな奇妙な生き物が描かれているのである。 本詩集は多彩な語り口によって、詩が書かれておりそれぞれ読み応えがあるが、一貫しているのは、存在の根拠を手放しつつ輪郭をうしない変容していく生命体が描かれていることだ。存在することの不確かさか。 本詩集の装釘は、前詩集とおなじく、和兎さん。 金箔の文字のあしらいがおもしろく、シックな仕上がりである。 ややベージュがかった用紙も夢の中にいるような手触りがある。 この鳥籠の揺れをみていると眠たくなってくるような。。。 上梓後のお気持ちをうかがってみた。 2013年の前作『よるのいえのマシーカ』より10年が経過し、また新たな作品を出版する運びとなりました。“「よるのいえのマシーカ」の続編を”と要望をくださっていた方々のあたたかい応援により、本作が生まれました。心より感謝いたします。 前作と並べてみますと、より大人っぽく熟成された雰囲気の装丁で末永くお楽しみいただけそうな書籍となりました。 ふらんす堂様に改めて感謝申し上げます。 これからもゆったりとこれまで以上にのびのびと創作を続けて参りたいと思います。 そして、伺うところによると、佐々本果歩さんは、詩作のみならずいろいろな活動をされておられるようだ。 →https://twitter.com/KSasamoto1155 興味のある方は是非に。 ちいさくておおきいきみのそんざい ちいさくておおきい きみのいき、こえ てのひらにおちる てんくうからのあおいひかりのつぶ ゆめにみるまぼろし そらにひびく ぜんせからのなきごえは いまもここでひびいている 「てんくう」より
by fragie777
| 2023-11-16 19:09
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