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11月6日(月) 旧暦9月23日
晩秋の蝶。 ゆったりと飛んでいた。 さらに翅をひろげて。自慢そうだ。 翅の裏側はとっても滋味。 もうすぐ冬となるが、暖冬になるらしいので蝶にとってはありがたいことかもしれない。 しかし、生態系はすこしづつ狂いだしているのかも。 今日は、鈴木花蓑と石川桂郎の忌日である。 朝顔や静かに霧の当る音 鈴木花蓑 早朝、開いたばかりの朝顔の花の花弁は藍色も濃く無垢な美しさを湛えている。その花弁に霧が当たって音を立てたというのである。しかも「静かに」当たっていると。周囲の静寂と花蓑の心の静けさが捉えた「霧の音」である。全身をとぎすまして対象にぶつかる花蓑である。 新宿に会ふは別るる西鶴忌 石川桂郎 桂郎にとっての新宿は、新宿西口ばん焼酒場「ボルガ」を意味する。「ボルガ」に桂郎がいない日は無いほど通っている。「ボルガ」は画家や作家、編集者、俳人たちのたまり場である。友と酒を酌みながら、文学論や芸術論を交わし、中には艶話もあっただろう。そのような出会いと別れの酒場が「ボルガ」なのだ。桂郎はこの「ボルガ」での日々に、好色ものを得意とした西鶴の忌日を取り合わせ、句の世界に華やぎを添えている。「会うて」でなく、「会ふは」と強調したところに、桂郎の「ボルガ」への思い入れが見える。 新刊紹介をしたい。 藤田るり子句集『青葡萄(あおぶどう)』 四六判ハードカバー帯有り 104頁 二句組 著者の藤田るりこ(ふじた・るりこ)さんは、1974年東京生まれ、2001年に作句を開始し、藤田直子に師事。2009年「秋麗」創刊時に入会。2018年「秋麗新人賞」受賞、2020年「秋麗」同人。俳人協会会員。「秋麗」の藤田直子主宰は、師でありお母さまである。本句集は第1句集であり、序文を藤田直子主宰、跋文を「秋麗」の黒澤麻生子さんが寄せている。 序文を抜粋して紹介したい。 トランクを食卓にして青葡萄 句集名となった一句。この句も旅先である。熟れていない葡萄の下にトランクを置き、簡単な食事を摂っている光景。青葡萄を一粒摘んだかもしれない。旅情を感じさせるとともに、作者が冒険的な旅を楽しんでいる様子が伝わってくる。 異文化ばかりでなく、音楽、文学、演劇など、さまざまな芸術に関心を寄せてきた。それが、作者の作句の土壌になっている。 春の闇抜けゆく夜汽車窓に頰 小満や一夜限りのネイル塗り 海硝子(シーグラス)拾ふひるがほ閉づるまで 足指を砂に這はせて秋渚 るりこさんの句は、すべて実際の体験に基づき、客観的な言葉で詠まれている。作句態度として当然のことのように思われるが、迷いなくその態度を貫いていることは大きな強みである。頭で作り上げた句はなく、感情を露わにした句もほとんどない。その抑制の姿勢はるりこさんの美意識に因るところが大きいと思うが、加えてるりこさんは、早い時期から俳句という詩型の要諦を理解していたのだと思われる。また時々「秋麗」誌に寄せる句集評や吟行案内等の文章では筆力を存分に発揮してきた。 藤田直子主宰は母である以上に俳句の師として、細やかにそして客観的に藤田るりこさんの俳句とその成長に向き合っておられる。 そして、黒澤麻生子さんの跋文を抜粋して紹介したい。 ショールしてカフェからカフェへ旅めくよ リモートワークが続くるりこさんの、とある一日だろうか。コロナ禍で働く環境は一変した。カフェでパソコンを開くこともあるのだろう。安定した企業に勤めながらもどこかノマド(遊牧民)のような不安定さを感じているのかもしれない。ショールを巻くことで気持ちを奮い立たせ、また次のカフェに向かう。思えばいま、誰もがこんな不安をうっすら感じながら生きているのではないだろうか。終身雇用制度も崩壊しつつある現代社会を写し取った、普遍的で新しい感覚の句である。(略) るりこさんはこのように、日常を俯瞰しながら詠むことに長けている。それは天賦の才でありながら、長い年月をかけて育んできた俳句の審美眼によるところも大きいと思われる。以前、るりこさんから「幼い頃から自宅には俳句カレンダーが掛かっており、家族がそれぞれ好きな句に〇(マル) をつけていた」と聞いたことがある。そのような環境の中で、俳句の骨法、リズムが自然と身体感覚の中に取りこまれていったに違いない。選句の確かさ、高い美意識もまた納得のいくところである。 そして、「『まぎれもない己のある句』を詠むるりこさんの底知れない可能性を私は信じて疑わない。」と。あたたかなエールを送っている。 本句集の担当は、Pさん。Pさんの好きな句は。 麻布十番足の甲にも日焼して トランクを食卓にして青葡萄 船頭の佳き声を聴き冬の川 足指を砂に這はせて秋渚 風の香や誰とも会はぬ朝散歩 オムレツをぷつりと開く土用かな やはらかきことを誇りに花大根 麻布十番足の甲にも日焼して この「麻布十番」という地名、知る人はああ、あそこね、とすぐそのイメージを浮かべられるが、知らない人はまったくイメージづけられないかもしれない。選んだPさんは、「あのアッパークラスの人が住んでいる街に、サンダル履きで日焼けの足をさらす、物怖じしない感じがいい」ということで選んだらしい。藤田るりこさんは、やはり都会人であると思う。自然体で「麻布十番」を自身の庭(?)のように詠んでいる。ご自身の体験を素直に詠まれてのだろうが、「麻布十番」という固有名詞を詠みながら、「日焼けの足の甲」を詠むことによって改まった靴ではない、およそフランクな装いであることを示している。そんななりで、ハイクラスな町を闊歩しているのが小気味いい。はからいをみせずにきわめて自然に地名の固有名詞をうまく詠み混みんでいると思う。この一句から、気持ちの良い自信にあふれ、若さがまぶしい日焼けの足の持ち主がみえてくる。余談であるが、わたしは麻布十番にはほとんど行ったことがない。 足指を砂に這はせて秋渚 この句にも「足」が登場する。この足も多くを語る「足」である。「秋渚」という季語も素敵だ。夏のじりじりと足裏を焦がすような渚ではなく、秋になってそれなりに落ちつきをとりもどした気持の良い渚である。その砂浜に跣の足を這わせているのだ。この句、「足指」としたことで、読者にも足指に入り込んだ砂粒のざらざら感が伝わってくるようだ。しかも秋の砂浜である。しっとりとした冷たさがあり、作者の足指にまとわりつくような親しさも感じてしまう。この一句より、秋の砂浜にやってきて足指をはわせている作者の姿に、わたしはある倦怠感のような、あるいは秋思と言ってもいいのだろうが、そのようなもの憂さを見てしまう。夏の激しさの緊張感から解き放たれて、跣を砂浜に投げ出す作者、それはまた一枚の絵画のようであり、知的で物憂げな女性を彷彿させる。 銀杏の実臭し我生かされてをり 作者は、「あとがき」によると、信仰はもっていないが、キリスト教主義の学校で育ったとある。「青葡萄」という句集名の「葡萄」から作者はヨハネによる福音書のイエスの言葉を思い起こすという。この「我生かされてをり」という措辞は、キリスト教の宗教観が、若い頃から聖書に親しんできた作者のなかに根付いているゆえのものだと思った。そんなふうにごく自然に作者の内側からでたものとして、一句のなかにおかれている。おもしろいのは、「銀杏の実臭し」の冒頭の措辞である。美しいものを見て感動したりして生を実感するということはよくあることだが、銀杏のあのなんともいえない臭い匂いを嗅いだとき、自身の生を実感したのだ。その実感も、あるいは神の深いはからいによるものかもしれない、と思わせるのが、「我生きてをり」ではなく、「我生かされてをり」という言葉だ。この「生かされており」は、深淵を含んでいる。生きることはきれいごとではない、生々しい生の現場に直面しつつ、それにどう向きあいどう対処していくか、葛藤の日々かもしれない。答えは安易に出せない。しかし、自分が生かされているということだけは、現実なのだ。 と書いてきて、ちょっと自分に引きつけすぎた解釈かもしれないと今思ってしまった。。。。 ショールしてカフェからカフェへ旅めくよ この一句はとても好きな一句である。黒澤麻生子さんも跋文の最初にとりあげて、よき鑑賞をされている。この鑑賞を拝読して、コロナ禍の環境下での一句だということを知った。リモートワークで、カフェからカフェに移動しながら仕事をされていたのか。黒澤さんは、「どこかノマド(遊牧民)のような不安定さ」をこの一句に見出している。「遊牧民」のようというのがとてもいい。ただ、わたしはこの一句にふれたとき、コロナ禍ということは知らなかったので、旅人のように移動することの自由さのようなものを思ってしまった。「ショールして」という上五の措辞も、素敵なショールをお洒落にまとっていくぶん楽しそうにまるで「旅」をするかのようにカフェからカフェへと。なんでわたしは作者が状況を楽しそうに詠んでいると思ってしまったのだろう。それは、きっとこの俳句の文体によるのかもしれない。まず「ショールして」とあって、「カフェからカフェへ旅めくよ」まるで旅を喜んでいるようなリズミカルな文体である。黒澤さんの跋文を読んで、「旅めくよ」にやや心許なさもあるのかもしれないと思ったのだが、大変な状況でも楽しもうとしている作者の前向きな気持が伝わってきて、いいなあと思ってしまったのだ。「旅」というところにロマンがあって、好きな一句である。スタバからドトールまでの移動も「旅」って思ったらなんだか、魂がふくらむような気がしません? 秋の雨指が憶えてゐるショパン 藤田るりこさんが自選に選んでいる一句である。藤田直子主宰も序文にあげておられる一句だ。「雨垂れの音を聞いているうちに思わず指がピアノを弾く動きをしたという句。」と解説がある。藤田るりこさんは、序・跋にも記されているように文芸に精通しておられる方である。関心をしめすばかりでなく、いろいろと表現者でもおありのようだ。ピアノも当然弾かれるのだろう。この一句にはとても豊かな贅沢な時間が流れている。雨の音を聞いてショパンの旋律を思い起こし、かつてよく弾いていたその曲をおもわす指が動いてしまいそうになったということだが、そうなるためにはどんなに良き時間をすごしてこられたのだろう。「指が憶えてゐるショパン」がなんともカッコいい。ショパンを誰でも弾けるわけじゃない。ショパンよ、ショパン。当然自慢していいものだけど、この一句、自慢とかそういうのでなくて、きわめて自然体に当たり前に詠まれているので、誰にも文句を言わせない。。 校正スタッフの幸香さんは、「〈蜜を吸ふときの震へや夏の蝶〉夏の蝶のけなげさ、力強さが伝わってきてとくに惹かれた句でした。」と。 この第一句集には、主に二〇〇九年から二〇二三年春までの計三三〇句を収めました。二〇〇一年頃から若手のFAX句会などに参加しておりましたが、母である藤田直子の「秋麗」創刊を機に定例句会に参加するようになりました。 修道女に還る墓あり青葡萄 トランクを食卓にして青葡萄 句集名の「青葡萄」はこの二句から取りました。一句目は「秋麗」の句友とともに中村草田男先生のお墓にお参りした際、カトリックの墓地の一角に修道女のためのお墓があることを知って詠みました。私自身は特定の信仰を持ってはいませんが、キリスト教主義の学校で育ちました。葡萄といえば、ヨハネによる福音書の一節「わたしはぶどうの木、あなたがたはその枝である」を思い起こします。人は誰しも大きな一本の葡萄の木のなかの一枝であり、すべての人は(信仰という幹を通じて)互いに繋がっているのだ、という意味だと捉えています。 そしてヨハネによる福音書は「初めに言ことばがあった。言は神と共にあった。言は神であった」で始まります。私自身も葡萄の一枝であり、言語表現という営みを通じて、句友や、この句集を手に取ってくださる方、ひいては人類の文化や歴史に繋がっているのだと、句集を纏める過程で気づくことができました。 二句目は中国で詠みました。葡萄はシルクロードを経て日本へ伝来したそうです。異文化に触れるときには、かつて学んだ文化人類学や地域研究の視座に立って詠みたいとの願いがあります。 「あとがき」を抜粋して引用した。 本句集の装釘は君嶋真理子さん。 繊細な感じに仕上がった。 タイトルはツヤあり金箔。 表紙の布クロスは、美しい緑。 型押し。 見返しは透明感のあるもの。 扉。 花布は、緑。 栞紐は白。 近況報告虹の写真を送り合ひ コロナ禍の日々もるりこさんは明るく前向きに暮らし、同僚や友人や家族を勇気づけていた。コロナ禍以前も弱い立場の人へ常にあたたかい眼差しを向けていたるりこさんらしい態度で、私も大いに励まされた。 今後は仕事上でも趣味の世界でも、さらに活躍の場を広げてゆくであろうが、この句集上梓を機に、「秋麗」が送送り出す期待の俳人として、結社の内外で一層、活躍してゆくことを願っている。(藤田直子/序) 上梓後のお気持ちをうかがった。 (1)本が出来上がってお手元に届いたときのお気持ちはいかがでしたか? 爽やかな装丁に仕上げていただいて、とても気に入っています。 句集という形あるものを、ささやかですがこの世に残せてよかったなと嬉しく感じております。 (2)初めての句集に籠めたお気持ちがあればお聞かせ下さい 俳句を通じて、聖書に出てくるぶどうの木のたとえ話のように、いろいろな方と繋がり、交流ができればいいなと願い、句集名を『青葡萄』としました。 句集を手に取ってくださった方から、句会では目立たなかったような句を「いいね」と言っていただく時、この喜びは句集を出さなければ味わえなかったなとしみじみ思います。 どの句を選んでくださったかによって、お人柄が伝わってくるのも嬉しいです。 俳句を通じてさまざまな方と交流できる喜びを今、味わっています。 (3)句集を上梓されて、今後の句作への思いなどございましたらお聞かせ下さい。 これまでの句作を一冊にまとめてみることで、自分自身が今までどのように詠んできたかを振り返れたのとともに、詠んでこなかったものもあったように感じ始めています。 このたびの句集上梓がこれまでの自分のスタイルを脱皮できるチャンスになるのではないかと、自分自身の変化に期待する気持ちが湧いてきております。 藤田るりこさん。 秋の朝絹をなびかせ太極拳 いろいろな遊芸に精通しておられる藤田るりこさんであるが、太極拳もなさるのですね。 不肖yamaokaも致すんですのよ。 唯一、共通のものを見つけて嬉しかったです。 わたしができることといえば、これだけだけど、いまはサボりがち。
by fragie777
| 2023-11-06 20:46
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