ふらんす堂編集日記 By YAMAOKA Kimiko

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ドトールの椅子に置くのは。。。

10月20日(金)  旧暦9月6日


ドトールの椅子に置くのは。。。_f0071480_17080979.jpg

仙川で黄鶺鴒をみかけた。

かわいいな。。。




ドトールの椅子に置くのは。。。_f0071480_17081233.jpg
軽鴨が近づいていく。



ドトールの椅子に置くのは。。。_f0071480_17081563.jpg
これからの季節、この川は渡ってきた鳥たちによってさらに賑やかになる。




朝、ひさしぶりにモオツァルトのピアノ協奏曲を聴く。
リヒテルのピアノで20番だ。
学生時代によく聴いた曲なので、なつかしい。
最近は21番、23番ばかり聴いていたので、あらためて20番の第一楽章が流れてきたとき、ああ、やっぱりいいなあって思った。
一緒に収録されているのがベートーヴェンのピアノコンチェルト№3。
ベートーヴェンはまず聴かないので20番が終わって、曲が流れ出したとき、止めようかおもったのだけれど、聴くことした。
よく知られた曲ではあるけれど、モオツァルトの場合はこちらがどんなにだらけた状態であっても音がむこうから飛び込んできて、良い気持ちになる。しかし、ベートーヴェンはなんというかやや居住まいを正されるような気がして、心をくすぐる音であっても気持がのびやかになれない。これはわたしの偏見と聞かず嫌いと感性がおかしいのかもしれないので、賛成しかねる人がいてもわかるし全然へいき。
じゃ、バッハはどうなのよ。って言われば、俳人の草間時彦さんが、〈胡桃噛むバッハは真面目過ぎていや〉と俳句に詠まれていたけれど、こちらは、神への信仰がすべての曲に一貫して流れいて自己表現という自意識の束縛がないので(とわたしは思っている)わたしは好きである。へんかな。。
まあ、いいわ。




新刊紹介をしたい。

本井英句集『守る(もる)』


ドトールの椅子に置くのは。。。_f0071480_17083889.jpg
と
四六判ハードカバー装帯有り 204頁 二句組 令和俳句叢書  初句索引・季題索引つき


本句集は、俳人・本井英(もとい・えい)の第六句集となるものである。本井英さんは、俳誌「夏潮」の主宰であり、大磯鴫立庵二十三世庵主をつとめている。毎年、小諸でおこなわれる「日盛句会」の熱心な推進者のおひとりでもある。また、冊子「虚子研究」を毎年刊行されている。日本伝統俳句協会会員、俳人協会会員、俳文学会会員。
創刊主宰された「夏潮」の理念は、「ひたすら虚子を求め、さらに虚子の求めた彼方を探る」であり、本句集のタイトル「守る(もる)」は、「高濱虚子の昭和十四年の作「祖を守り俳諧を守り守武忌」の句に由来する。」と「あとがき」に記されており、さらに「(略)『虚子自伝』では、「俳諧の鼻祖といはれるのは山崎宗鑑、荒木田守武。祖先を軽蔑するものを憎み、俳諧を乱すものと戦ふ。守武忌を修す。」との自注が施されている。つまり虚子は最晩年に至るまで「守旧派」であった訳で、筆者もまた虚子に倣って「俳諧」を「守(モ)らん」との思いを昨今さらに深めている心情による。」とある。虚子の俳句に対する姿勢をそのまま己の姿勢として継承していこうというものなのだ。
そういうことから思うと、ややいかめしい俳句が並んでいるのかと思うとそんなことなくて、自在なおもむきの自然をこまやかな眼差しでとらえた読者に負担をかけない句が収録されている。たとえば、

 夏帽をかるく押さへる肘真白

「夏帽」を季語に、人間の行為の一瞬をスケッチしたような一句であるが。この一句から夏の太陽のまぶしさ、人間の溌剌としたエネルギー、開放的な空気感をともったリアルな景が映画の一シーンのように、いやもっと立体的に呼び起こされる。「肘真白」が巧みだと思う。肘としたことで若さがみなぎっている。ただただ目の前の一瞬の出来事を描写しただけであるのに、夏という季節の情報量はたっぷりとあり、印象はあざやかだ。

 露の身をいまドトールの椅子に置き

この句も好きな句である。珈琲店「ドトール」は仙川にもあっていつも賑わっているが、その「ドトール」をうまく詠み込んでいる。「露の身」がいい。命のはかなさを感じながらも人は珈琲店があればそこに入って一服する。ドトールに集結しているお客さんはすべて「露の身」である。そんな人間のひとりとしてドトールの椅子にこしかけているわけだが、この一句の良さは、叙法にあるとおもう。「いまドトールの椅子に置き」という中七から下五にかけてのややせかすような語り口と「置き」ととどめた納まりきれない居心地。露の身の刹那を珈琲店の硬い椅子の上においている不安感がうまく表現されている。その不安は、露の身でしかない人間の常であるのだ。この句にかぎらず作者は、固有名詞の使い方がうまいとおもう。〈手に提げて「とらや」は重し寒見舞〉〈江ノ電の涼しきは極楽寺のあたり〉

本句集は八年刊の作品を収録したものであるが。その間、本井英さんは、大病をされている。「あとがき」にはこんな風にある。

ところでこの句集に収められている八年間は、私にとっては試練の時期でもあった。平成二十九年晩秋、大分進行した「咽頭癌」が発覚。その治療のため、約四ヶ月間の入院治療を余儀なくされた。さらに翌年には、その晩期合併症に苦しんだ。時を置かず「前立腺癌」を発症。今年令和五年には新たに「喉頭癌」が見つかり、結局「喉頭」の全摘手術のために、「声」を失った。

 病ひには触れず日焼を褒めくれし

自選句にもいれておられるが、好きな一句である。本井さんは、逗子の海の近くにお住まいで、ボーダーのシャツと白いパンツが似合い健康的な日に焼けた方、という印象だった。しかし、大変な闘病の日々を過ごされたのである。この一句はきっとお見舞いのときのことだ。どんな具合だろうって病室にいっておそるおそる病人の顔をみたところ、おもいのほか元気そうで相変わらず日焼けをしていた。そこで嬉しくなって「おお、相変わらずいい色だね」とか言って、なごやかに笑いあった。この一句には見舞う側も見舞われる側も細心の心遣いを潜ませている。見舞う人に対してできるだけ元気にふるまう病人と、その気持ちを酌んで病気にはふれないようにする見舞い人、そんなおたがいの心根を通わせがさりげなく詠まれていて、いい句だ。いいご友人(?)をお持ちですね。この句もリアルなやりとりをただ叙しただけなのであるが、一句の仕立て方が巧みであると思った。

 充電のごとく冬日に身をさらし

この句も自選の一句である。術後の傷をもった肉体をたっぷりした冬日に横たえているのだろうか。「身をさらし」がのがれようもない術後の病身であることを暗示している。冬日はやさしくポカポカとあたたかい。充電するにはもってこいの太陽光である。「充電」に説得力がある。自然の力によって癒やされていく身体。しかし、この一句には、そうしている自身をやや自嘲的にながめている作者を感じてしまう、それは「さらし」の語彙ゆえか。〈癒えてゆく身に涼風をほしいまま〉こちらの句のほうが、作者の気持がすっきりとしているかも。

 ビル影のおよびはじめし浮寝鳥

都会のなかの一角にある庭園の景だろうか。ビルの建つ都会の広さと高さを巧みに詠んで「浮寝鳥」に焦点をしぼった一句である。さりげなく詠まれているが工夫のある一句だと思う。詠まれているのはビルの影と浮寝鳥のみ。しかし、ここには時間の流れと広大な空間がとりこまれているのだ。冬日の角度は低い。その影がおよぶのであるからかなりの射程距離となる。「およびはじめし」であるから、作者はすでにさっきからこの浮寝鳥とビルの影の関係を見ているのだ。五七五という短い詩型に事実だけを詠んで、都会の一空間を見事に浮き上がらせたと思う。

校正スタッフのみおさんは、〈玄室へつながつてゐる落葉径〉の句にとても惹かれました。明日香の石舞台古墳を思い出します・」と。

校正スタッフの幸香さんは、〈薔薇の名となりてより幸薄かりき〉は特に惹かれました。薔薇には詳しくなくて具体的には出てこないのですが、妙に納得させられてしまうのは、薔薇の花がもつある種の妖気のせいでしょうか」と。


ほかに、

 松蝉の声の潮の空に充つ
 雛の忌の立子の墓にチョコレート
 病室の鏡にも雪降り止まぬ
 手びさしの右手が疲れあたたかし
 不機嫌が許されし世や漱石忌


句集『守モる』は『本井英句集』、『夏潮』、『八月』、『開落去来』、『俳句日記 二十三世』に次ぐ私の第六句集であり、平成二十七年から令和四年に至る八年間の句作を収めたものである。(略)
平成十九年創刊の「夏潮」には、まことに誠実で心豊かな仲間達が集ってくれているし、令和元年に庵主をお引き受けした大磯鴫立庵にも「連句」の仲間、「俳句」の仲間がいてくれる。考えてみれば何と恵まれた晩年であることかと、我ながら驚く。あらためて仲間達と、家族に感謝の気持ちを伝えたい。

ふたたび「あとがき」を紹介した。

本句集の装釘は和兎さん。


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白を基調として赤がテーマカラー。


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この句集の装釘の素敵さは、この表紙の用紙につきると言ってもいい。
和氏のような風合いのあるむかしからある紙。


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タイトルは金箔押し。


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白をめくると赤の表紙。


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見返し。



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扉。


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花布は、白。


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スピンも白。



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 蜷が身をゆするたび砂ながれけり


この句集に収められている八年間は、私にとっては試練の時期でもあった。
今後、俳人としてどのように働くことが出来るのか。現在模索中である。(あとがき)より



上梓後のお気持ちをうかがった。

1、御句集を手にとった時のお気持ちをお聞かせください。。
ああ、おそらく、これが生涯最後の句集になるのだなあ。少々淋しい気持ちにもなるが、自分でも「好きな句」が幾つかあるから、まあいいか。

2,この句集にこめた思いは。
前句集『開落去来』は虚子の目指した方向を意識した句が幾つかあったつもりだが、その「方向」に心が逸ってしまって、今にして思えば、やや「前のめり」の句が散見したように思う。
それに較べて今回の句集は、「病気」を経たことで比較的のんびり編集出来た気がする。

3,これからのヴィジョンを。 
すっかり体力が無くなり、病気で「声」まで失った。具体的に何が出来て何が出来ないか。
大人しい「おじいさん」として暮らそうと思う。


いえいえ、「大人しいおじいさん」にはならないでくださいませ。
わたしのように「イカレタ老女」となる必要はありませんが、せめて、「ちょっとうるさいおじいさん、決してないがしろにはできないおじいさん」として、存在感をしめしてくださいませ。
是非に!


本句集をすすめているときはお声をきけないので、メールでのやりとりが中心。
お身体の具合はいかがなんだろうかと心配をずいぶんいたしました。
ご上梓後はお元気でおられると伺い、ホッとしております。

ますますのご健吟をお祈り申し上げております。



 マフラーに顎をうづめて憎みけり   本井 英



好きな一句である。



 


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by fragie777 | 2023-10-20 20:02 | Comments(0)


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