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9月26日(火) 彼岸明け 旧暦8月12日
出勤途中、小学校の前でポニーに会った。 小さな車から下ろされた二頭のポニー。 ポニーの目にわたしが映っている。。。 ゆっくりとこっちを向いた。 もう一頭は、恥ずかしがり屋さん。 「こっち向いて」っていったら、さらに向こうをむいてしまった。 それでも、ほんのすこしこっちを見てくれたのだった。 小学校の児童たちが、このポニーに乗るのかしら。 なにゆえに二頭のポニーがここにいるのかは、分からなかった。 今日のわたしは、袖のふくらんだレースづかいのビーズのついた白いブラウスを着ていたのだけれど、 気づいてくれたかな、、 ポニーたちは。。。 新刊紹介をしたい。 A5判ペーパーバックスタイル 72頁 4句組 第1句集シリーズⅡ 著者の千鳥由貴(ちどり・ゆき)さんは、昭和55年(1980)年、奈良県生まれ、現在は兵庫県西宮市在住。平成26年(2014)「狩」に入会し、鷹羽狩行、片山由美子に師事、平成27年(2015)毎日俳壇賞受賞、平成28年(2016)「狩座賞(新人賞)」受賞、「狩」同人、平成31年(2019)「狩」終刊後、「香雨」入会。現在「香雨」同人、俳人協会会員。本句集に、片山由美子主宰が序文をよせている。後半の部分を抜粋して紹介したい。 『巣立鳥』を通して読むと、由貴さんの俳句は、対象を客観的に鋭く深く見ることから出発しているのが分かる。 一人立つ一人の影や秋の暮 重詰を地図のごとくに見渡しぬ 伴奏の教師を包む卒業歌 葛餅の影見当らぬ皿の上 餡パンに暗き空洞冬に入る 対象を見つめることは、やがて自分自身の内部にまで及んでくる。「秋の暮」や「餡パン」の句は、心の空洞に至るような孤独感を漂わせている。 俳句を始めたばかりの頃には見えなかったものが、いつの間にか見えてくる。それが俳句が分かるということだと思うが、すでに由貴さんの目は独自のものをとらえている。これからさらに感覚を磨き、さまざまなものが見えてくるのを楽しんでほしい。 片山由美子主宰は、この若き俳人におしまぬエールを送っている。 本句集の担当は、Pさん。 好きな句をあげてもらった。 大寒や犬のまなこの濡れてをり 春愁や銀紙まとふチョコレート 胎の子へ出したき暑中見舞かな 土間灯るごとし白靴置かれゐて 食みをれば鳥のこころにさくらんぼ おほぞらを平らに載せて蓮浮葉 春愁や銀紙まとふチョコレート チョコレートって、たいてい銀紙に包まれている。この句「まとふ」が春愁の気持を暗示している。「まとう」を辞書でひけば、『巻きつくようにする」「巻つかせる」「からみつかせる」などの意味がまず第一に出て来る。春愁の状態にいる作者にとって、目の前の甘いとろけるチョコレートも銀紙をピッタリとまとって作者を拒絶するかのようにそこにおかれてあるものなのだ。チョコレートをピシッと包み込んでいるこの銀紙、しばらくこの句を見ていると、その鏡のような銀紙に作者の春愁(の顔)が映っているかのように思えてくるのである。 魚よりもその影あらは秋の水 これはわたしの好きな一句である。俳句の骨法をよく踏まえたスキのない一句だ。秋水という季語のありようを具体的な魚の影をとおして詠んだ一句であると思う。動詞を使わず、無駄のない叙法は巧みだ。上五中七で一気に詠み下して、下五の「秋の水」という具象の季語でいいとめた。澄んだ秋の水が目のまえにまざと立ち上がる。 寒月や死のことを子に尋ねられ この一句は、著者の千鳥由貴さんが、自選十句のうちに選んでいるものだ。本句集は、身辺の生活に取材したものが多く、そこには子育ての句も少なからず収録されている。日々成長していく命と向き合う充実した時間だ。そんなときにはからずも子どもから「死」について尋ねられたのだ。その意味すらも十分に理解していない子どもから尋ねられた「死」のこと。身体を一瞬つめたいものがはしる。凍てつく大気のなかで、月の鋭いひかりに突き刺されたかのように、答えにつまる作者がみえてくる。〈秋蟬や子にも遠くに死のありて〉という句もあって、生をみつめることは、いやがおうにも死を見つめることになるんだと知らされる。 一人立つ一人の影や秋の暮 この句は、片山由美子さんが序文でも引いておられた一句である。「心の空洞に至るような孤独感を漂わせている」と書かれている。わたしも好きな句だ。「一人立つ一人の影や」とあえて一人をくり返すことによって、確かに孤独感を思わせる一句である。ただ、これはわたしの読み込みすぎかもしれないが、この上五中七の措辞にわたしは、「一人であること」をそのさびしさとともに引き受けていこうとする作者のひそかな決意のようなものも感じるのだ。「や」の切れ字にわたしはその心意気を感じるのだ。これが「一人の影を」だったらどうだろう。俄然ぐっと淋しくなる。「秋の暮」という季語によって「秋思」を思わせ、人間は本来的にひとりである、という理(ことわり)にしみじみと思いを深める、そのように思う作者がいる。この句、「や」の切れ字によって、この一句がまだ十分に若い作者によって詠まれたものであることを思わせる。そして、若くないわたしが好きな一句。 さつぱりと老いたる伯母や葛桜 素敵な伯母さまってまず思った。「葛桜」の季語が美しく老いておられる伯母さまを思わせる。老いに「葛桜」を配するなんて、上等だ。きっとこの句は、葛桜を召し上がっている伯母さまをみたときの実景なのかもしれないが、そうでなくても良い句だ。人間「さつぱりと老いる」って案外むずかしい。わたしもこんな風に葛桜が似合う老婦人になれたらいいなってつくづくと思った。だれよ、お前には到底むりっていうヤツは。まあ、いまからじゃ遅いか。。。 校正スタッフのみおさんは、〈食みをれば鳥のこころにさくらんぼ〉が好きであるということ。「鳥のこころにという視点の優しさに惹かれます」と。 おなじく校正スタッフの幸香さんは、〈秋冷や尾をもつものは皆垂らし〉が好きな一句ということである。 『巣立鳥』は、平成二十三年から令和四年の十二年間に発表した句のうち二一八句を収録した、私の第一句集です。句集名は片山由美子先生がつけてくださいました。 それぞれの章は発表年代順に並べています。前半の章の句を詠んでいた頃には妊娠と出産を経験し、後半の章の頃には感染症の大きな流行に対処する日々を過ごしました。〔略) 皆様からのご恩を深く胸に刻みつつ、これからも俳句の道を歩んでいこうと思います。 「あとがき」を抜粋して紹介した。 本句集の装釘は和兎さん。 しばらくは巣を眺めをり巣立鳥 几帳面で何事にも正確さを追求しているように見える由貴さんだが、年齢を重ねるとともにゆとりをもち、つぎの世界に進んでいくことだろう。いっそうの活躍が楽しみである。(片山由美子/序) 本句集上梓のお気持ちをうかがってみた。 (1)本が出来上がってお手元に届いたときのお気持ちはいかがでしたか? 作句や句の発表、句集を編む作業など、自分のずっとやってきたことが、突然こんなにも具体的で手にとれる形となったことに、ちょっとびっくりしました(笑)。一方で、この句集が私の新しい出発点になるのだという確かな実感もありました。 (2)初めての句集に籠めたお気持ちがあればお聞かせ下さい 『巣立鳥』のそれぞれの章は、句の発表年代順に並べてあります。前半の章では初期の作ならではの自由な発想、後半の章では今の私らしい作風をお楽しみ頂ければ幸いです。 (3)句集を上梓されて、今後の句作への思いなどございましたらお聞かせ下さい。 誰にでも、その人にしか詠めない境地というものがあるのではないでしょうか。私もそんな境地をどんどん追求していきたいです。句を読んだ人が、そこに描かれた自然の美しさにはっとして、一瞬なりとも世の中のつらいことを全部忘れてしまう、そういう句が詠めたらいいなと願っています。 羽ばたきをためらふなかれ巣立鳥 由美子 本句集に片山由美子主宰が贈られた一句である。
by fragie777
| 2023-09-26 19:16
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