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9月12日(火) 旧暦7月28日
9月の森。 ここでまた鷹の鳴き声を聞いた。 じいっと目を凝らしたが、姿をみつけることが出来なかった。 今日のこと、ある銀行の営業の女性から携帯に電話をもらった。 出てしまってから「しまった!」って思った。 しかし、出てしまったので、もうどうしようもない。 (わたしに営業してどうするのかなあ)って思いながら、電話を聞いている。 「まだお仕事をつづけておられるのですか」 この人、電話をくれる度にそう尋ねる。 (しちゃいけないのかよおー)って思わず心のなかで毒づいてしまう。 でも、そこは大人だから、 「ええ、そうなんです。相変わらず……」とやんわりと答える。 「今日もこれからお客さまが見えるんです」って嘘もついてしまう。 で、電話をおわらせてもらう。 ここだけの話だけど、わたし、多分ずっと仕事をすると思う。 老体に鞭打ってさ。 だから、「まだ、お仕事つづけてるんですか」なんて言わないで欲しいのよねー。 新刊紹介をしたい。 四六判ハードカバー装帯有り 174頁 一句組 本文二色刷り 著者の津久井たかを(つくい・たかお)さんは、昭和7年(1932)東京生まれ、現在は埼玉・所沢市にお住まいである。平成5年(1993)に「雨上」「椿」句会にて古川雨亭の下で俳句をはじめられる。平成8年(1996)「板橋区役所職員俳句部」にて、成瀬桃櫻子、鈴木直充の指導を受ける。平成15年(2003)「城北俳句会」に入会し、都築智子に師事、平成17年(2005)都交友会俳句部入会、赤羽暁雨の指導を受け現在に至る。「雨上句会」同人、俳人協会会員。本句集は前句集『座右』につぐ第3句集となり、鈴木直充「春燈」主宰が序句、岡部恒田「雨上」代表が跋文を寄せている。 残照のほのぼのぬくき桜かな 鈴木直充 序句である。 跋を書かれた岡部恒田代表は、本句集の巻頭句をとりあげ、 戦争と平和に生きて秋思かな この句は、今回の句集の上梓にあたり、全体に通底している思いであると感じます。津久井たかを氏は、昭和七年、東京生まれで先の太平洋戦争のときは多感な少年時代の中で、栃木県大田原町(現・大田原市)への縁故疎開を経験するなど戦争という時代に直面してきました。 その後、終戦直後の新憲法の発布、高度成長を経るなどして、日本は平和国家として、自ら戦争を行うことはなくなってきました。結果的に平和を享受し平穏な人生を送ってきたことを実感してきたのでしょう。 しかし、卒寿を迎えるにあたって、世の中の動きは、ロシアのウクライナ侵攻、中国の軍事力強化による日本周辺の不安定な国際情勢、安保法制の整備、さらに未曽有のコロナ禍に見舞われるなど、まさに「新しい戦前」という時代を感じてきたのでしょう。 まさに「秋思」という季語の重み、深さを実感する中に、これまで生きてきたということがどういう意味を持っていたのだろうかとの思いが募ってきたのでしょう。 この感慨を表す句には重いものがあります。 津久井たかをさんは、跋文に書かれてあるように、まさに昭和の激動の時代を生きてこられた方だ。それ故にこそ、平和の有り難さも人一倍わかる。しかし、その平和もそう長くはつづかず、ふたたび不穏な時代に突入しつつある。跋文にかかれているように「秋思」の季語が納得させられる。 本句集の担当は文己さん。 初めての手製の雑煮亡き妻に 子育ての心にも似て麦を踏む 地に生くるものみな美しき春うらら 新緑やいのちの光輝かす 三尺寝夢は名刹宮大工 文己さんの好きな句をあげてもらった。 初めての手製の雑煮亡き妻に 90歳をむかえられた津久井たかをさんは、現在お一人暮らしである。妻が存命のときは、きっとあれこれと家事はまかせっきりにしていたのかもしれない。妻が亡くなり、初めてお雑煮をつくった。それを亡き妻の霊前にささげたのである。しみじみとした感慨がある一句だ。亡き妻への思いがあれこれと作者の心に去来する。新しい年をむかえ、まず雑煮をつくって亡き妻と祝おうと言うのだ。巧くできたかどうか、妻が満足するようなものになったかどうかは、聞くすべはないけれど、もうこれは一所懸命妻の霊前にささぐべく作ったことを良しとしよう。この一句には妻不在への寂しさというものはあまり感じされず、亡き妻との対話をしているような充足感をわたしは感じる。それは「雑煮」という新年の晴れやかな食べものであるということもあるかもしれないが、妻を偲ぶことが妻とのよき思い出に生きる、きっと良き時間を共にしてきた妻なんだろうって、そういう関係性がみえてくる一句だ。 子育ての心にも似て麦を踏む わたしもこの一句には惹かれた。津久井たかをさんという人の生き方がみえてくるような一句だ。心をこめて丹念に麦を踏む。お二人の子どもを育てられた作者であるが、その子育てもきっとこの麦踏みに似ていたのだろう。いや「子育ての心にも似て」とあるから、 子育ての心ををもって麦を踏んでいるのだ。つまりは命あるものを大事にいつくしむその心をもって麦を踏んでいる。子どもや妻をみるときのあたたかな眼差しゆえに、〈地に生くるものみな美しき春うらら〉の一句もうまれるのである。 コーヒーを淹れて独りの涼新た 本句集には、90歳をすぎて一人でいきる津久井さんの自足のこころが貫いている。大いなる自己肯定とでも言ったらいいのか、だから読んでいて気持がのびやかになる。一人で生きることをそれなりに楽しみながら日々を過ごされている。〈布団干す纏ひつかれてよろめけり〉この一句など好きな句だが、生活上のこんな場面も一句にして決してクスリと笑っておられる作者がみえてくる。この自然体のよろしさ、こんな風に歳をとることも素敵なことである。〈小心こそ生くる術なり目高つ子〉この句も笑ってしまった。あるいはご自身に共通するものがあるのかもしれない。生活のささやかな局面を思う存分たのしめることができるなら、小心もまた素敵なことだ。 三尺寝夢は名刹宮大工 昼寝をしていた津久井さんの見た夢は名刹の宮大工になるということ。いい夢ですね。津久井さん。夢にも大らかな希望がありますね。宮大工っていうのがいい。悠久の時間を相手にしながら者を作り上げていくのだ。ロマンがある。90歳になってそういう夢をみてそれを一句にする、それもいい。そして、〈夕蛍いまは望まぬ不老不死〉という句も作られている。無理をせず時間のながれにまかせて、日々を生きる、そしてそんな感慨をこうして一句にする。俳句が身体の一部となっているように無理な口をついてくる。その力まない俳句のよろしさが読者を心地よくさせるのである。〈老い独り一間を城に年の暮〉 校正スタッフのみおさんは、「〈春陰や軽い頭痛のまま街へ〉の句が好きです。「軽い頭痛」がよく分かります…。」と 昨年二月私も九十歳を迎えました。これまでも、八十歳に傘寿を、八十八歳には米寿を記念し、それぞれ句集『風紋』・『座右』を上梓してきました。 そこで、今回も九十歳を記念し、第三句集『残照』を上梓しました。これは、文才の乏しい私が、誠におこがましいことですが、自分史として編さんし自祝するもので、ご容赦のほどよろしくお願い申し上げます。 今回は、第二句集以後の作句の中から一四〇句を選び編集しました。(私も戦後は、人並みに就職し、地方公務員として東京都等に勤務し、三十年ほどを経て、板橋区役所を最後に退職しました。この間私も結婚し二児を儲け、山坂はあるものの、平穏な日々を送ることができました。それまでに父母を見送り、またその後五十年連れ添った妻も他界してしまいました。そして今は、数多くいた親類縁者や友人もおおかた亡くなり、行方知れずになってしまいました。 そして、自分も九十歳を過ぎ、まさに人生のたそがれを迎えました。今は、 残照や故郷遠く涅槃西風 の心境です。 それでも、子や孫の支えを受けながら気ままに日々を送っております。そして生きている限り、諸先生のご指導をいただき、俳友の皆様のご厚誼を得ながら、これからも俳句に精進してまいりたいと思っております。 「あとがき」を抜粋して紹介した。 本句集の装釘は、君嶋真理子さん。 「残照」の句集名にふさわしく美しいオレンジ色の階調の一冊となった。 ツヤなしの金箔が効果的。 表紙クロスは上品なグレー。 扉。 本文は二色刷りである。 枠はオレンジ色。 花布は、濃いグレー。 一生に一句の一念寒昴 この一念はまだまだ残照となってはおらず、十分な気概をお持ちであると、この句集から感じられます。 次の句集の上梓は、是非「白寿」の時を期待します。(跋/岡部恒田) 上梓後に所感をいただいた。 第三句集『残照』をここに上梓でき、本当に嬉しく思っております。 自分のイメージしていた通りの句集に仕上げていただき、嬉しさもひとしおです。本当にありがとうございました。 俳句をはじめて、もう三十年以上になりますが、趣味からはじまって、やがて生きがいとなり、今では暮らしそのものと言えるかもしれません。そんなこんなで、これからも諸先生のご指導や俳友のみなさまのご厚誼を得ながら続けていきたいと思っております。 津久井たかをさん。 今年の4月6日のご来社のときに。 津久井たかをさま。 卒寿を迎えられ、まことにおめでとうございます。 米寿、卒寿と句集上梓のご縁をいただきました。 つぎは、是非、白寿のときにと願っております。 ご健吟をこころよりお祈り申し上げます。 到来の西瓜重なりさて如何に 津久井たかを このあくせくしない余裕、 いいなあって思います。 余談ですけど、 銀行の営業さんの言葉にきりきりするなんて、 わたし、ほんと、人間ができてないよねえ、 って思った。
by fragie777
| 2023-09-12 18:48
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