ふらんす堂編集日記 By YAMAOKA Kimiko

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志捨つれば余生……

7月27日(木)   旧暦6月10日


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暑い盛りに咲く凌霄花。

見ているだけでも暑くなってしまう。

この日の暑さがよみがえる。


志捨つれば余生……_f0071480_17255428.jpg

しかし、

古びた家にさく凌霄花はいいものである。



屑箱へきちんと紙屑をいれないのも、トイレに行ってドアーをきちんとしめないのも、起き抜けのベッドをそのまんまにしておくのも、なにもかも暑さの所為!
って思いたいけど、
もうひとりのわたしがささやく。
そりゃ、おまえの生来のずぼらさだろう、って。
そうかもしれない。
きっとそう。
いや、ぜったいそう。

恥ずべきことである。

しかし、暑さゆえかそんなに恥ずかしくもないわたしがいる。






河北新報のONLINEで、浅川芳直さんが、岡田由季句集『中くらゐの町』より一句紹介しておられる。

 県庁と噴水同じ古さかな   岡田由季

高層ビルディングのような県庁ではなく、まるで要塞のような建築物なのだろう。(略)言葉は悪いが「おんぼろ」な外観なのだと思う。ところが、だ。庁舎前の噴水もそれと同じと年数のもの。そう気付くと、今度は途端に庁舎が愛しい気がしてきてしまう。(略)暑さを受け入れて生きる人間の逞しさと、古びた県庁の逞しさとが重なるようだ。




新刊紹介をしたい。


真板道夫句集『フランス山(ふらんすやま)』。


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四六判ソフトカバー装帯有り 188頁 二句組。


著者の真板道夫(まいた・みちお)さんは、昭和13年(1938)福岡市生まれ、現在は東京・杉並区におすまいである。平成6年(1994)職場句会より作句開始、平成8年(1996)「藍生」入会、平成20年(2008)「古志」入会、平成23年(2011)「円座」に創刊と同時に入会。現在は「古志」同人、「円座」同人。本句集は、1994年~2022年までの28年間の作品を「古志」に掲載されたものを覗いて、一冊にまとめた第1句集である。序文を「円座」の武藤紀子主宰が寄せている。

 
 初嵐一夜に崩る砂の城
 
「妻脳出血にて入院」という前書がある。この日を境に真板さんの穏やかで充実した生活は終わってしまった。私は一度もお会いしたことはなかったが、真板さんを支える聡明で明るく優しい奥様であると感じていた。家庭裁判所調査官のお仕事をされておられた奥様は、ご長女に続きご長男が生まれた後に退職されておられる。
この句集『フランス山』を出版なさるのもきっと真板さんが奥様をはげますためではないだろうかと、私は思っている。

武藤紀子主宰が序文に書かれているように、真板道夫さんは、奥さまにのためにこの句集を編まれたのだった。
本句集の担当は文己さん。
「広く読んで頂くために編纂したのではなく、奥様へ贈るためだけのものとしてお作りになった句集です。何度も自転車でふらんす堂に足を運んでくださり、直接の打ち合わせをさせて頂きました。」と文己さん。

 退職の明日よりかぶる夏帽子
 雛つつむ母の匂ひの桜紙
 はつなつの水を吸ひ込む砥石かな
 太陽の塔老いにけり雁渡る
 春めくや妻の背中にわれの影
 好きな木の芽立ち見に行くだけの旅
 はつなつや立ち漕ぎで行く深大寺 
 春コート妻と歩めば旅めきて



 退職の明日よりかぶる夏帽子

文己さんが好きな句にあげているが、わたしも好きな句である。「夏帽子」がはるかなるものを呼んでいるかのようだ。作者にとって「退職の明日」は、何かが終わった日ではなく、何かがはじまろうとしている日であるのだ。長い間働いてきた仕事の日常を離れて、明日からはあたらしい日が展開していくのである。そんな作者に寄りそうように夏帽子がスタンバイをしている。なんとも張り切った夏帽子である。作者の爽快にして前向きな力つよい歩みはこの夏帽子とともにある。「夏帽子」に託する作者の思いもみえてくる一句だ。〈志捨つれば余生地虫出づ〉という句もあって、背筋をのばして日々に向き合う作者の姿勢がみえてくるようで、好きな句である。いい句だ。

 はつなつの水を吸ひ込む砥石かな

わたしもいいと思った句である。なにがいいのだろう。まず「はつなつ」という平仮名表記がいい。「初夏の水」ではなく「はつなつの水」と表記することで、まだ水が春の余韻の柔らかさをのこしながらも冷たさを増しつつ水の勢いをましていくそんな質感を思う。その水を砥石が吸い込んでいるということだけの一句なのだが、初夏らしい気が立ち上がってくる一句である。砥石もまたはつなつの水を吸い込むことを喜んでいるような気がしてくる。「水」という液体物質を「砥石」という固体物質が吸い込むということが詠まれているだけの俳句であるが、それを支配しているのが「はつなつ」と言う季感であり、それが清新な気を呼び起こしている。〈はつなつや立ち漕ぎで行く深大寺〉という「はつなつ」の句もあって、文己さんが、「自転車で何度もふらんす堂までいらっしゃった」と記しているが、はつなつのみならず、真板さんは自転車でどこにでもお出かけになるようだ。しかし、深大寺に立ちこぎでいくのは、やはり「はつなつ」がいい。わたしも深大寺にはよく自転車ででかけるが、立ちこぎでいったことはない。こんど試してみよう。

 春月やいつかあひ似し影法師

この句は真板さんが自選句にいれておられる一句である。「いつかあひ似し影法師」とは、きっと長く生きてこられた奥さまとの影法師のことを詠んでおられるのだろう。しみじみとしたいい句である。春の月が照らす道を妻とあるいていて、ふっと影法師をみた。なんと似ていることよ、「いつかあひ似し」の「いつか」が長い歳月をおもわせる。いま気付いたのであるが、それは長い時間のなかで寄りそうようにして生きてきていつのまにか、という感慨がこめられている。「春月」がなんとも優しい光をなげかけている。同様に、〈春めくや妻の背中にわれの影〉もまた、妻とわれの影を詠んでいる。妻を愛おしくおもう心がその影をよむことだけで読者に伝わってくる。春の季節はことさらに妻を思う季節なのかもしれない。〈春コート妻と歩めば旅めきて〉もまた。

 杜若骨美しき少年期

こればもうわたしの好みの一句である。季語の「杜若」の表記が若々しい雄々しさを思わせるし、杜若の花そのものも背筋がとおった凜々しさがある。表記を「燕子花」にしたらこればもうダメ。「骨美しき少年期」が、贅肉のない少年のありようを想起し、「少年」ではなく「少年期」と抽象化したことで、肉体のもつ生臭さから解放された。清々しい一句だ。

 
校正スタッフのみおさん。〈持ち寄れる生計のにほひ針供養〉がとても好きです。それぞれに使い込まれた針の様子が伝わってきます。

校正スタッフの幸香さん。〈しりとりに交ぜてもらひぬ春の旅〉和やかな情景に惹かれました。

ほかに、

 仮の世の夫婦で探す桜貝
 葱坊主晩学ときにへこたれて
 あやとりのまた川となる日永かな


俳句は、平成六年、職場句会において見よう見まねで始めてから三十年近くになります。この間、「藍生」において黒田杏子先生に、「古志」において長谷川櫂前主宰、大谷弘至主宰に、そして「円座」において武藤紀子主宰のご指導を受けてまいりましたが、不肖の弟子故に、俳句を充分に理解し得たかどうか今なおよく分かりません。ですから、作った句は、芭蕉の言葉を借りて、「文台引おろせば即反故也」と放っておいたのです。
ところが、令和二年秋、五十年以上人生をともにしてきた妻が突然脳出血に襲われ、右上下肢麻痺、高次脳機能障害による記憶力の減退などの障害が残り、要介護五の認定を受けました。無論老老介護は不可能なため、今は老人施設に起居しております。コロナ禍のために会うことができない日々が続きました。かくて、私の余生を楽しむ夢は消え去り、十字架を背負う日々が始まりました。
しかし、その中にあって、僅かに救いとなっているのは、俳句の存在です。妻は俳句を読まず、私がどんな句を作っているのか関心を持たなかったのですが、それでも、私が句会や結社誌で好成績を収めると一緒に喜んでくれました。それが私の句作に大きな励みとなりました。
そして今、作った句を読み返すと、そこに私たちの哀歓が刻みこまれていると感じました。今後妻の意識が元に戻ることは、奇跡でしょう。でも、もし、その奇跡が起って私の句集を読む日が来たらどんなに喜んでくれることやら。これが、句集を編むこととした動機です。

「あとがき」を抜粋して紹介した。


本句集の装釘は君嶋真理子さん。


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「フランス山」は「横浜の港の見える丘公園」にある。
わたしも何度か行ったことがある。この辺は好きな場所だ。
大きな風車があり、その風車を装画とした。

→「フランス山」



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タイトルは黒メタル箔。


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 パリになきフランス山や鳥交る



句集上梓後の思いをうかがってみた。

◆装丁に込めた思い
フランスと風車小屋の組み合わせなら、アルフォンソ:ドーデの「風車小屋便り」を思い出します。若き日に岩波文庫で読んだ記憶があります。
しかし、妻にとっての風車小屋は、3年間住んだウインブルドンのコモンにあるwinndomillでしょう。ウインブルドンは、テムズ川の南の高台にあり、昔は風車が建てられていたのです。コモンのwndmillはもちろん現役ではありませんが、460ha(杉並区の8分の1)に及ぶ広大なコモンのどこからでも見える名物の建物です。
妻は、ウインブルドンコモンのほとりに住むことを誇りとしていました。妻は、恐らく装丁を見られることはないと思いますが、それだからこそ、表紙に風車をあしらっていただきたいと存じます。

◆刊行後のメールより
11日午後、句集を持って施設の妻に会いに行きました。
妻は、眠っていました。肩をちょっとつついて起こし、「ホラ、句集が出来たよ。眼を開けて」と呼びかけますと、薄く眼を開けました。眼の前に本をかざすと、気のせいか首をのばす素振りをしました。それだけでした。脳出血の後遺症で、高次脳機能障害がすすみ、意識が混濁下にあり、眼もほとんど見えないのに、夫の声を聞き分けて、妻は今出来ることを尽して、夫に応えたのだと思います。
私の句集編纂の目的は、これで達せられました。「あとがき」に書きましたように、この句集は妻のためにだけ、作ったのですから。
句集の発送は、ほとんど終りまして。宛先の多くは、3年前の発病以来、妻の病状を気遣って、さまざまな方法で励まして下さった方々です。感謝の気持を表すには、私にとれる最良の形が句集を読んで頂くことかな、と考えた次第です。


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真板道夫さん。

ご来社のときに。




本句集は、ひとえに奥さまのために編まれたものである。
しかし、30年近く俳句をつくりつづけてこられた真板道夫さんの渾身の第1句集である。
担当の文己さんもそうであったと言っていたが、わたしも好きな句がたくさんあった。
志高く日々を過ごされておられる一人の人間にであう一冊である。
多くの人に読まれて欲しいと思う。



 老いるとはものさがすこと日脚伸ぶ


この句には思わず笑ってしまった。。。
まさに、そう。。。






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by fragie777 | 2023-07-27 19:18 | Comments(2)
Commented by 蓬 at 2023-07-27 21:43
この時期になりますと必ず、細見綾子の

>暑き故ものをきちんと並べをる

という句を思い出し、ああ、そうだと反省だけはするのですが・・・。
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Commented by fragie777 at 2023-07-28 09:19
蓬さま

そうでした。
細見綾子の有名な一句がありましたね。
気持ちはわかる句ですが、実行はともないません。

(yamaoka)
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