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7月19日(水) 旧暦6月2日
仙川駅前の百日紅。 ひときわ華やかだ。 仙川も今年は「おらぼ仙川祭り」をやるらしい。 いろいろと準備がすすめられている。 商店街の人たちも張り切っている様子である。 当日はものすごい人群となる予定。 友人の息子Kさんのビールバーはいつもビールの出店を出すのだが、スタッフのPさんはそこでビール売りのバイトをする予定。 「Pさんが売るとビールがよく売れる」っていう言葉にのせられて。。。 新刊紹介をしたい。 A5判ペーパーバックスタイル帯有り 70頁 五句組 第一句集シリーズⅡ 著者の松井努(まつい・つとむ)さんは、昭和49年(1974)山形県鶴岡市生まれ、現在は埼玉県白岡市在住。平成29年(2017)に俳誌「橘」に入会、佐怒賀直美に師事、令和2年(2020)第38回「橘」新人賞受賞。現在、「橘」同人。俳人協会会員。 本句集は、平成23年(2011)から令和5年(2023)までの作品を収録した第1句集であり、序文を佐怒賀直美主宰が寄せている。抜粋して紹介したい。 努俳句の特徴は、些細な身辺の出来事を実に楽しそうに一句にまとめ上げることである。必然的に子供や妻を詠んだ句が多いのだが、そのいずれもが実に明るく健康的で屈託のない作品であり、集中を通して次のような佳句を多く見ることができ、読み手の心を和ませると同時に、己が来し方をも改めて思い起こさせてくれる。これは努さんが「あとがき」に記しているように、「自由に俳句に向きあえるよう多くの協力をしてくれた妻や家族」のお陰であり、またその家族を明るくまとめ続けてきた努さん自身の努力の賜でもある。 花杏その名の吾子と樹を見上げ 逆立ちをひよいと妻決め春立ちぬ 子の背中まあるく洗ふ素秋かな 秋晴や句帳に吾子の描く天馬 また、努さんは勉強熱心であり、先人の俳句等も良く勉強して、忌日の作品にも積極的に取り組んでいる。何とも大御所ばかりよくぞ挑戦したものだが、次の句のようにそれぞれその作家の生き様を確かに踏まえている。また、最後の一句を句集名としていることからも、努さんの忌日の作品への拘りを窺うことも出来ようというものである。 うすあをき手紙の届く獺祭忌 立子忌のおまけに貰ふパンの耳 手拭の糸解れたる漱石忌 佐怒賀直美主宰は、たくさんの句をとりあげながらその情熱にエールをおくりつつ、松井努さんとそのご家族へ温かな眼差しをむけておられる。 本句集の担当はPさんである。 「ご家族を大事にしてことが句集の隅々から伝わるあたたかい一書です。」というコメントとともに選んだ好きな句は、 缶入りのドロップ振つて秋の虹 吾亦紅旅の途中に出す葉書 鉛筆に森の匂や入学す 潮風の匂の髪の昼寝の子 三色の子の歯ブラシや冬の蠅 花種を蒔く鍵ひとつ首に下げ 吾亦紅旅の途中に出す葉書 この句、「吾亦紅」が、旅の途上のしみじみとした心情を思い起こさせる。吾亦紅は、俳人が好む花かもしれない。華やかさからは遠い花であり、質朴の感もあり、しかし、見過ごすことのできない佇まいがある。心のなにかに触れてくるそんな花かもしれない。そして、旅の途中に出す葉書であるから、短い旅ではないのだろう。また相手はそれなりに大切な人なのだろう。電話やメールなどではすませたくない相手なのだ。ある時間をかけていま旅にあることを記しながら、そういう自分を思い起こして欲しいと思いながら書き留める。そんな丁寧な気持。そういう気持で向き合いたい相手に出す手紙。そんなふかぶかとした思いを吾亦紅だけは知っているかのように。吾亦紅によって、作者の内奥までが浮かびあがってくる、そんな一句だと思った。 三色の子の歯ブラシや冬の蠅 松井努さんは、〈軽トラックに三人掛けてトマト食ぶ〉という句もあって、句集を読んでいると多分三人のお子さんのお父さんなのだろう。この句の「三色の歯ブラシ」は単純に読めば、三人のお子さんのそれぞれ違う色の歯ブラシであるのだと思うが、しかし、三色が使ってある子の歯ブラシとも読めないこともない。が、この句を鑑賞するのにそれはどうでもいいことかもしれない。歯ブラシの明るい色遣い、子の歯ブラシであるゆえに、未来へと磨かれていく子どもたちのあるいは子どもの健康的な歯がみえる、そしてそこにやってきた冬の蠅、すでに命がおぼつかないヨロヨロとした冬の蠅である。明るく無機質で罪のない歯ブラシと命をかろうじてたもっている冬の蠅のあわれさ。その拮抗する対比が読み手のなにかに訴えてくる。これから未来にむかって生きていこうとする命にかかわるものの明るさと、かすかに命脈をたもっている生きものはかなさ。それがシンプルな景のなかに詠まれている。〈居酒屋の出口の時刻表に蠅〉という句もあって、こちらの「蝿」は生命力にみちていそうだ。すきな一句である。 うすあをき手紙の届く獺祭忌 この句はわたしの好きな句である。佐怒賀直美主宰も序文でとりあげている。なにが好きかというと、「うすあをき手紙」という措辞が、獺祭忌にふさわしいように思えるのだ。たとえば、「うすあをき」ではなく、「みづいろの」とかしたら獺祭忌には明るく軽量になりすぎる。「獺祭忌」には当然子規へのオマージュも籠められていると思うので、この「うすあをき」というなんともやや寒々しく安穏とした内容でないことを暗示する手紙であることが、子規の苦悩を暗示しているようでいい。もちろん子規という人物は自由にして闊達な精神をもった健啖家のエネルギッシュな人間であったけれど、苦悩がなかったはずはない。そんな子規へを思いつつ作者は「うすあをき手紙」を読んだのだろう。しかし、いったいどんな内容のものだったのか、ちょっと気になる。 正座してどら焼き齧る土用かな この光景がおもしろくて〇を付した。土用という夏の暑い盛りに、鰻ではなくどら焼きをかじっているという。しかも正座をしてである。どこかの家に客として呼ばれたのであろうか。和室に通された。そして出て来た茶菓がなんとどら焼きだった。大きい立派などら焼き、これは囓るしかない。正座をしてどら焼きをかじっている我が姿をおもいつつ、ああ、そういえば、今日は土用にあたる日ではないかとある感慨が呼び起こされたのである。ちょっとそんな自分をおもしろがっている一句か。「正座」の「ざ」、「囓る」の「じ」、「どら焼き」の「ど」、「土用」の「ど」の濁音がこの一句に安定感と軽妙なふてぶてしさを与えていないだろうか。好きな一句である。 句集の上梓は私のこれまで全ての句を見直す機会となりましたが、家族の句が多く、私にとって大切な存在であることを改めて思いました。私がボケ(天然も含む)を言えば、妻や子供たちがツッコミを入れてくれます。私が自作の上五・中七を言うと、すぐに次男が元気に下五を続けてくれます。そんな道化師的な父をいつも相手にしてくれてありがとう。家族を笑わせているのか、家族に笑われているのか、或いは両方なのかもしれません。 今後は、これまでに詠んだことのない季語にも、もっと積極的に挑戦して行こうと考えています。 「あとがき」を抜粋して紹介した。 本句集は第1句集シリーズⅡの一環として上梓されたもの。 ブックデザインは和兎さん。 ふらここの風戦火無き丘の風 この一句は、努俳句の今後の大きな広がりを確かに予感させるものである。これからが何とも頼もしく楽しみなことである。(序/佐怒賀直美) 上梓後のお気持ちをうかがってみた。 (1)本が出来上がってお手元に届いたときのお気持ちはいかがでしたか? 夢がひとつ叶ったという気持ちと、ほっとした気持ちがありました。 (2)初めての句集に籠めたお気持ちがあればお聞かせ下さい 句集を出すために、ひとつひとつの句を積み上げてきた感じはあります。 読んでくださる方にたった1句だけでよいので、心の灯になるような作品と感じて下さるとうれしいです。 (3)句集を上梓されて、今後の句作への思いなどございましたらお聞かせ下さい。 良い意味でいままでと変わらず、コツコツと地道に、句会に参加しながら、先生のご指導を受けながら、マイペースで長く続けてゆきたいです。 松井努さん。 「句集名は、生活に身近な、親しみあるものにしようと考え、「手拭の糸」としました。」と「あとがき」に。 句集のご上梓おめでとうございます。 第1句集刊行は、はじまりです。 さらなるご健吟をお祈りもうしあげます。 百日紅の咲く仙川駅前。
by fragie777
| 2023-07-19 19:46
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