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6月20日(火) 旧暦5月3日
梅雨の森。(神代植物園) シナノキの葉の緑。 よく見ると花のつぼみのようなのがみえる。 左には山毛欅の木があり、そのさきはシマサルスベリの木々、右は、ゆりの木やふうの木など大きな木々がつづく。 この道は好きな道である。 今日は新刊紹介をしたい。 四六判ハードカバー装帯有り 二句組 198頁 著者の吉岡麻琴(よしおか・まこと)さんは、1943年京都生まれ、現在は千葉県千葉市在住。俳誌「鵙」(1990年入会)を経て、2005年「いには」(村上喜代子主宰)入会、2020年千葉県俳句作家協会賞受賞、2021年「いには」同人賞受賞。現在「いには」同人、俳人協会会員、千葉県俳句作家協会会員。 本句集は、2005年から2022年までの17年間の俳句を収録した第1句集である。序文は、村上喜代子主宰が寄せている。 序文を抜粋して紹介したい。 麦秋を湖北の仏巡り来て 涅槃寺花供曽あられ賜りぬ 雁渡し堅田の松の器量よし 朝夕の挨拶お水取りのこと 籤引きは当たりばかりや地蔵盆 なんといってもこの句集の根幹を成しているのは、生まれ育った京都の行事や景観、風土を詠んだ句である。それらは、その土地で産湯を使った者の自然に身についた感性から捉えたもので、単なる報告や物珍しさの観光俳句では決してない。田舎暮らしが嫌だったといいながら、産土の地への愛は拭い去り様がないのだ。私もそうであるが、俳句を作るようになって豊かな自然の中で育ったことがどれだけ貴重だったかと、今あらためて思い知ることになった。 村上喜代子主宰は、句集名「琴柱」にもふれて、 句集名となった「琴柱」は、箏や和琴の胴の上に立てて弦を支え音を調節する大事な要である。吉岡さんは幼いころから琴に馴染み、京都當道会の津田道子門下として琴・三弦教室を開き長年励んできたという。多趣味でいろいろなことをやりながらも、自らの根幹を作ってくれたのは琴であったと述懐している。(略)琴は余技ではなく彼女の神髄を成すものであった。人に教えるまでに鍛錬した琴は間違いなく現在の彼女の精神や身体の柱になっている。句集名を「琴柱」とした彼女の思いが伝わってくる。いい題である。俳号を麻琴とした理由を今にして知ることとなった。 「琴柱(ことじ)」という言葉をわたしはこの句集ではじめて知った。そして、著者の吉岡麻琴さんにとって、「琴」がいかに大事なものであるかも知ったのだった。京都生まれでお琴の先生なんて思うと、あるイメージを想像しがちだが、句集を読んでいくと、サッカー観戦が大好きでファンクラブにも入って試合を見にイギリスまで行ってしまうというお方。おしゃべりが大好きで活発、しかも孤独も愛するという、わたしのイメージをおおいに覆してくれるお方であるようだ。つまりは守備範囲(?)がとても広いということ。それは素敵なことであると思う。 本句集の担当は、文己さん。 泣きさうで泣かないでゐる春の月 薄氷を蹴飛ばしてゆくハイヒール やんはりと鶯餅の持ち重り 飴細工の兎が跳ねて春惜しむ 山門を涼しき風と潜りけり 健やかに物忘れして栗の飯 文己さんの好きな句をあげて貰ったのだが、「吟行の多さに驚きました」と。 たしかにいろんなところへ行かれている。まさに行動人としての著者である。「おしゃべり好きにして出好き」とはご本人の言葉である。 泣きさうで泣かないでゐる春の月 いかにも春の月らしいなあ。冬の緊張感から解放された春の空気はたっぷりと水気を含んであたたかだ。春の月も「朧月」とも呼ばれるように朦朧として輪郭も定かでない。そんな春の月を「泣きさうで泣かないでゐる」と擬人化して詠んだのがおもしろい。この一句、「泣いている」のではない、あくまで「泣きそうで泣かない」でいる春の月なのである。この措辞によって、春の月の顔がぼおっとして輪郭をうしないやや歪んでいるような様子がみえてくる。こんな風にユーモラスに擬人化できるのも、春の月ゆえにこそ赦されるのだ。「スキ」があるのである「春の月」には。この句のとなりには、〈春の月大和大路を東入る〉という句もあって、わたしは好き。 薄氷を蹴飛ばしてゆくハイヒール ことし80歳になられるという吉岡麻琴さんである。わたしはきっとこの句はご自身のことを詠んだのではないかと思った。薄氷の張る季節は春といえどもまだまだ寒い。そんな時期にハイヒールで闊歩する。しかも薄氷を蹴飛ばして行くという勇ましさ。この心意気がなんともいい。薄氷であるので、ハイヒールに抉られればすぐに割れてしまう、しかもたっぷりと水気を含んだ薄氷である。ハイヒールは氷を跳ねとばし、水をまきちらし、ついでにやわらかくなった大地の泥をもはねとばす。天下御免の最強のハイヒールだ。あるいはご本人のことでなくても、そんな人物の様子をあっぱれと思っているそういう心持ちの見える一句だ。余談であるが、わたしはもう何年もハイヒールを履いていない。それでもハイヒールという女のステータスシンボル(そうかあ?)を意味するような、自身がそれを履いたらエレガントになれるかもというどうでもいい幻想をあたえてくれるもの、それを捨て去ることもできず1,2足シューズクローゼット(あえて下駄箱とは呼ばず)に残している。しかし、それらはまず、日々抹殺されているのである。。。だから、いいのよね、この一句の心意気が。 オリーブの葉は裏白で生ビール これはわたしの好きな一句。この脈絡のない(?)一句がおもしろい。オリーブの葉は裏が白いのか、そう作者は気づいた。そこになにゆえ生ビールをもってくるか、その飛躍がおもしろい。たまたまビールを飲んでいる時にオリーブの葉裏の白さに気づいたのかもしれないが、なにがあっても生ビールという感じで、生ビールがお好きなんだなあ、って。この句、オリーブという常緑の緑に葉裏の白がきわやかで清々しさを感じさせる、そう思うと生ビールがよほど美味いって思う。この句の「で」が作者のきっぱりとした人間性をも思わせる。 端つこも奇数も好きで木の葉髪 作者の自画像である。しかし、おもしろい自画像である。「端っこ」と「奇数」の組み合わせもおもしろいが、いったいこの組み合わせで作者の人物像は見えてくるのだろうか。どうだろう。とくに「奇数好き」ということは何を意味しているのか。ちょっとそんな風に叙してみただけか、そうであったらそれはそれでおもしろい、「木の葉髪」であるからもう結構な人生を生きてきたのである。そういう人物のすきなものが、「端っこ」と「奇数」とは、これ如何に? ほかにもたくさん好きなものがありそうな作者であるが、あえて「端っこ」と「奇数」をチョイスしたこと、そこに多くの意味を与えていないということ、そんな作者をわたしは好きかもしれない。〈竜の玉独りが好きで人が好き〉の句は本句集の掉尾にある。 毛皮着て音に聞こえし占ひ師 この一句には笑ってしまった。この句集のおしまいから二番目におかれている。「毛皮」が季語であるが、「占い師」に毛皮は似合いそうである。この一句の、「音に聞こえし」が絶妙である。平たく言えばその占いの手腕で世の中を制覇している占師である、わたしなどはすこし前に亡くなった有名な女性占い師を思い出してしまった。あるいはそうなのかしら、って。しかし、この句は現実の誰それを思うのではなくて、ゴージャスな毛皮と一流(?)の占い師との取合わせが誹諧味があっておもしろいのだ。自身の手腕と才量で「音に聞こえし占ひ師」となった人物にこそ、高価で贅沢な毛皮がふさわしいのだ。この一句、面白がりながらも作者の耳かき一杯ほどの揶揄がこめられているかもしれないが、しかし、その占い師に賛嘆もしているそんな気持が伝わってくる。 村上喜代子先生より句集上梓のお奨めを頂き、傘寿の記念にと思い句稿を整え始めますと、拙い句ばかりに躊躇いたしました。しかしどの句も私の来し方の一瞬を切り取った記録であることに気付き、そのことが大事かと決心いたしました。 俳句との係わりは、四十代半ばにして好きな旅が豊かになるかもと、公民館講座「奥の細道を読む」を受講したとき「鵙」にお誘い頂いたことです。五十代後半、体調不良で中断していたのですが、「いには」発足の年にご紹介を受け、お仲間に入れて頂き今日に至ります。 おしゃべり好きにして出好き」の私には、句会はおしゃべり会・吟行はお出かけと俳句は誠に好都合です。おしゃべりもお出かけも私の活力の源。傘寿を迎え俳句を続けていて良かったと思っています。 思えば、京都當道会津田道子門下として琴・三絃教室を開き、夫の転勤で千葉に来てからも子供が学校に行っている間に、沢井箏曲院や宮城会の先生に稽古に通いながら教室を続けました。定期演奏会の他にフェスティバルホールや国立劇場の舞台にも出させて頂きました。 琴柱を並べ調律をして始める琴の稽古が、私の根幹を作ってくれたように思えますので、句集名を「琴柱」としました。 「あとがき」を抜粋して紹介した。 装釘は君嶋真理子さん。 「琴柱」という句集名をイメージしたデザインを配したものだ。 きっぱりとしたお人柄にふさわしいものとなった。 表紙の布クロスの色は吉岡麻琴さんのお好きな紺。 紺のなかでも「花紺」の色鮮やかなものである。 見返しは金箔銀箔ちらしたもの。 扉。 花布は金。 スピンは、鮮やかな黄色。 共に傘寿という節目を迎え、これからますます俳句が生きる拠り所となっていくことと思う。俳句という言霊に元気をもらって励んでいきたいものである。 麻琴さん、句集『琴柱』のご上梓、心からお祝い申し上げます。(村上喜代子/序) 見本ができあがった際に、お電話で「本ってこんなにきれいだったのね!」と何度も何度もおっしゃって頂いたのがとても嬉しかったです。 本を開いて、和紙風の金銀の散った見返しから、作品へ移る統一感、流れが本当に美しく、スピンの黄色はご自身のテーマカラーだったとのこと。吉岡さんの明るく元気なお人柄にぴったりだと思いました。と担当の文己さん。 この度は拙句集『『琴柱』上梓に際しまして横尾文己さまには細部にわたりお心遣いを頂き美しい句集が出来たことを大変嬉しく思っております。 お手伝いくださいました皆様にも感謝の気持ちをお伝えくださいませ。 お届けしました皆様からはお褒めを頂いて恥ずかしい嬉しい日々を過ごしています。 吉岡麻琴さまから、今日わたしに送っていただいたメールである。 ![]() 吉岡麻琴さん。 ご来社くださったときに。 吉岡麻琴さま、 句集のご上梓、そして傘寿、まことにおめでとうございます。 句集を拝読していろいろな顔をお持ちであると思いました。 さらにさらに豊かな日々でありますように。
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by fragie777
| 2023-06-20 20:32
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