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2月27日(月) 旧暦2月8日
芽吹く木々。 辛夷の芽だ。 足元を見れば、 犬ふぐりが。。 風は冷たくても、ダンゼン、春である。 26日付けの讀賣新聞の長谷川櫂さんによる「四季」は、西池冬扇著『臼田亞浪の百句』より。 山蛙けけらけけらと夜が来る 臼田亞浪 「『けけらけけら』と笑うように鳴いているのは何蛙だろうか」と長谷川櫂さん。 「けけらけけら」と鳴く蛙に夜が来るように、それを聞いている人間にも夜が来る。 「けけらけけら」と蛙の鳴き声を聞く人間にはいったいどんな夜が来るのだろうか。。 今日の毎日新聞の坪内稔典さんによる「季語刻々」は、小澤實句集『瓦礫抄』より。 茹飯蛸みひらけるものなかりけり 小澤 實 「今は飯(卵)を持つイイダコのうまい時期。瀬戸内のどこかの漁港へイイダコを食べに行きたくなっている。」と坪内さん。 いいなあ、瀬戸内海の蛸とか魚とかはそれは美味しいんだろうなあ。もしかしたら私は魚介のほんとうのおいしさを知らないかもしれない。 新刊紹介をしたい。 A5判変型ハードカバー帯有り 182頁 作者の林昭太郎(はやし・しょうたろう)さんは、1941年(昭和16)千葉県生まれ、現在は千葉・佐倉市在住。1976年(昭和51)年に作句を開始し、「沖」に入会。途中、作句の中断があり、2004年(平成16)作句再開、「沖」に再入会。2006年(平成18)「沖」海鳴集同人、2013年(生成25)「沖」珊瑚賞受賞、「沖」蒼茫集同人。2015年(平成27)沖俳句コンクール入選一位。第1句集『あまねく』(2012年)上梓。俳人協会会員。本句集は、2012年から2022年迄の12年間の作品を収録した第2句集である。 本句集『花曇』の上梓について、著者はこんなふうに「あとがき」で書いておられる。 句集『花曇』は『あまねく』に続く私の第二句集です。2012年から2022年までの310句を収めました。 前句集『あまねく』のあとがきに「自分の目で校正できるうちにと上梓することにいたしました」と書きましたが、幸いなことにまだなんとか文字が読めます。これが最後のチャンスと思い上梓に踏み切りました。 本句集の担当はPさん。 虫の音を小さく分けて分譲地 桜貝濡れては色をとりもどし 風の無きときは陽にゆれ秋桜 パレットに春待つ指を通しけり 炎天を来し黒髪に火の匂 火照りたる耳持ち歩く春の雪 Pさんの好きな句をあげてもらった。 虫の音を小さく分けて分譲地 おおきな空き地だったときはいっせいに景気よく鳴いていた虫たちも、分譲地として小さく切り分けられてしまった今、分譲地ごとに鳴いている。実際に分割されたのは土地であるけれども、この一句の巧みさは、「虫の音を小さく分けて」と詠んで、下5の分譲地であることの現実で着地させていることだ。そうか、分譲地だからねと。威勢よく鳴いていた虫の音さへも分割された土地ごとにその勢いを失ってこじんまりとしてしまったのだ。狭い土地にぎゅうぎゅうと建てられる分譲住宅の現実を虫の音に託している。それでも虫の声が聞こえてくるのは嬉しい。わたしの家がまさにそうであるように。 パレットに春待つ指を通しけり やがてこのパレットに絞り出される絵具の色がみえてくるよう。明るい色彩にみちて。「春待つ指」が上手いと思う。春ともなれば絵心がいっそうかき立てられるもの。絵具の色もそろえたし、郊外にでてスケッチもしたい。パレットに通した指を絵具でよごして、思いっきり絵を描きたい。極度に狭い空間に焦点を絞って詠んでいるのだが、そこから広がる世界は際限なく広く鮮やかである。 着膨れて失せざるものに負け嫌ひ これはわたしの好きな一句である。滑稽なまでに着込んで着ぶくれてかっこ悪い、もう体裁などどうでもいいや、なんていう気持もある。そんな自分をあるいは鏡に映して笑ったりもするかも。しかしである、この作者、この着ぶくれのわが身をとおして、その身体の奥にあって決して消えることのない闘争心を見つめているのだ。「負けず嫌い」の気持を自負しているといってもいいかもしれない。この気骨がいいではないですか。厚着してまんまるとなって温厚にみえるかもしれないが、侮る勿れ、その負け嫌いの情念はなおも健全なのである。油断してはいけない。この句の前にある句「まばたきは瞬の黙祷冬銀河」は作者の自選15句に抄出されている。 包帯の中の脈拍新樹の夜 この句、すこし異常な感じがあって心惹かれる。どう異常かというと、「包帯の中の脈拍」がヘンだ。包帯に巻かれているのはどこだろうか、腕か、あるいは脚か、あるいは頭か、それとも胸か。それにしても、包帯の中の脈拍は見えない、包帯で覆われているわけだから感じるしかない。作者はそれを神経を研ぎ澄まして聴こうとしているのだ。なにかちょっと普通でない感性を思う。そして「新樹の夜」である。夜の静けさのなかに木々の緑はどんどん成長をしている。命のエネルギーが横溢している。そんな気配を十全に身に感じつつある夜に、包帯をした作者は、そのさきにある自身の命の鼓動に耳を傾けている。包帯の白、新樹の緑、夜の黒、それらの色に支配されつつ、作者の肉体の鼓動と木々の命の波動が重なっていく。あれ、わたし病的って書いたけど、どうなんだろう。しかし、包帯というものがやはり、健全さとは反対のベクトルを差しているようで、ゾクッとする。わたし好みである。 ほかに「朧夜を水の袋のやうに猫」「葉桜や常につめたき膝頭」なども心惹かれた。 タイトルの「花曇」は、高齢の私にはいささか華やか過ぎると思いますが〈水飴の気泡うごかず花曇〉によるもので、「モノに語らせ、目に見える俳句を」という私の作句信条がよく表れていると思いタイトルといたしました。 句集名について「あとがき」にこう書く著者である。 装丁は和兎さん。 前句集『あまねく』同様、林昭太郎さんのご指名である。 ピンクを中心に淡いいろを配した装丁となった。 タイトルの文字は、パール箔。 幅広の帯。 表紙は濃紺である。 角背に金箔がシャープである。 扉。 花切れと栞紐は白。 表紙の紺と花布とスピンの白によって、甘さから救われた。 清潔感もある。 格をうしわず、しかもスマートに仕上がった。 林昭太郎さんより上梓後の思いをうかがった。 (1)できあがってのご感想は。 デザイナーの目で見れば、タイトルの文字がやや弱かったかな、とか帯の用紙はカバーと大きく違った色合いにした方が、互いのレイアウトが邪魔しあわないで良かったかな?など、小さな反省点はありますが、大きくみれば「花曇」の感じがよく出ているデザインで良かったと思っています。 地の写真とパール箔の響き合いが素晴らしいです。 本文は全くイメージどおりの仕上がりで100パーセント満足しています。 (2)第一句集『あまねく』のあとの第二句集となりますが、第一句集とはちがう点や、この句集に籠めたお気持ちがあればお聞かせ下さい. 緑内障が進んで、目が見えにくくなっていますが、第一句集も第二句集も目に「見えるように詠む」という基本は全く変わっていません。読み返して、少しは進歩しているな、と楽しく読めました。第二句集を出して良かったと思っています。 (3)句集を上梓されて、今後の句作への思いなどございましたらお聞かせ下さい。 基本姿勢は変えずに深化していければ幸いだと思っています。これまでどおり楽しく作句して行ければと思っています。 林昭太郎さんご自身、職業がデザイナーでおられる。 山茶花の盛り山茶花散るさかり 林昭太郎 林昭太郎さま いろいろとお世話さまでございました。 ふたたびのご縁を感謝しております。 更なるご健吟をお祈り申し上げております。 今朝、わたしを起こしに来た愛猫・日向子。
by fragie777
| 2023-02-27 19:16
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