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12月26日(月) 旧暦12月4日
山雀亭の前の大きな水たまりである。 近くにおおきく凍っている所もある。 踏みつけると予想以上の音を立てた。 25日づけの東京新聞の「句の本」に、楠戸まさる句集『日月(にちげつ)』が紹介されている。 一九四一年、神奈川県生まれで東京在住、俳句集団「翡翠会」代表の著者の第四句集。二〇一六年から二二年の三百二十句を収録。 梅雨深し谷戸の坊より煙立ち 戸袋の中のくらがり敗戦忌 新刊句集を紹介したい。 作者の本間清(ほんま・きよし)さんは、昭和11年(1936)新潟県生まれ、現在は神奈川県大和市在住。平成6年(1994)「狩」(鷹羽狩行主宰)入会、平成17年(2005)「狩」同人。 平成18年(2006)第19回村上鬼城賞受賞、平成29年(2017)NHK全国俳句大会飯田龍太賞選者賞受賞、平成30年(2018)毎日俳壇賞受賞、「狩」終刊、平成31年(2019)「香雨」(片山由美子主宰)創刊同人。令和3年(2021)毎日俳壇賞最優秀賞受賞。俳人協会会員。本句集は第1句集『南林間』(平成23年刊)につぐ第2句集である。 『泉の森』は、平成二三年より令和四年までの作品の中から三〇五句を収めた第二句集です。まだ早いとは思いましたが、今年八六歳を迎えて身体の動くうちにと思い、発刊を決意いたしました。 と、「あとがき」にある。 前句集が、平成23年(2011)の刊行であるから、すでに10年以上は経っていることになる。決して早くはないと思う。 本句集の担当は文己さん。文己さんの好きな句は。 身の内のもの動き出す雪解かな 麦刈りて少し近づく日本海 福を呼ぶものみな丸し酉の市 枯蔦の力にゆるみなかりけり どの蔓を引くも応へず烏瓜 椅子二つ窓辺に寄せて居待月 おのづから歩の合ふふたりあたたかし 麦刈りて少し近づく日本海 映像のように立ち上がってくる景だ。作者はどこに立っているのだろうか。手前に麦畑がひろがり、日本海を一望するようなやや高みにいるのだろうか。麦刈りの人の動きがみえてくる。こまやかな動きだ。対照的に海の横へとひろがる動きのない風景。麦秋の黄金色に日本海のやや暗めの濃紺が映える。麦が刈られてやや視点が低く見晴らしがさらによくなったことを「少し近づく日本海」と詠んだ。麦畑が日本海へ寄ったのではなく、日本海がぐっとこちらへと迫ったというところに迫力があり、ここが鑑賞のしどころであると思う。晴れやかな一日、日本海も夏の海となって青さを増している。 妻留守の日の風鈴の押し黙る 妻がいないことのおおきな空白。「風鈴」を詠むことによってその作者のひとりをもてあましているようなややさびしい空虚感が読者に伝わってくる。さびしいともそんなことはひとことも言っていないのに。リンとも鳴らぬ風鈴。ただただ静けさのみが家内を支配しているのだ。閑散とした部屋で、妻の不在が作者の心を占めているのだ。風鈴が「鳴らず」ではなくて「押し黙る」ということによって、風鈴にも疎外されている作者の無聊がややユーモラスに伝わってくる〈おのづから歩の合ふふたりあたたかし〉は、きっと妻との歩みを詠まれたのだろう。この句もいい句だ。 祭衆どつと乗り込み銀座線 「銀座線」とあるから、これはきっと浅草の三社祭の祭衆のことだろう。白足袋、白はちまき、白法被の出で立ちの祭衆がのりこんだのだ、どっと乗り込んできても白の涼やかさがある。そして祭にかかわる人間の生きのよさも伝わってくる。その気合いも感じられる。夏の風物の三社祭。都会でおこなわれる夏祭りのひとつの景でもある。地下鉄に夏の季節がどっと乗り込んだという感じ。季節感があふれている。 昼寝より覚め老人となつてをり この一句は、作者の本間清さんが自選句のひとつとしてあげておられるものである。昼寝より覚めて、歳をとったようという意味の俳句はみないわけではないし、結構よくある発想かもしれないが、この句の面白さは「老人となつてをり」ときっぱりと断定したことだ。浦島太郎かよ、って突っ込みをいれてもみたくなる。見ていた夢は竜宮城かと。まあ、そうではなくとも作者きっと昼寝で悪夢でも見たのだろうか、エネルギーを使い果たしたのである。疲れ果てておきたところ、すっかり年老いてしまった自分となっていたのである。「老人となつてをり」という措辞は、フィジカルなこととしての老人であることの認識だと思う。気分ではないのである。だから面白い。若いと思っていた自身が、「昼寝」をとおして「老人」に変貌してしまったのだ。もう逃げようもない。 校正スタッフのみおさんは、「〈巣に和毛のこして燕帰りけり〉の句が好きです。大切に見守っていたんだな、というのが「和毛」の表現から伝わってきます。」 もうひとりの校正スタッフの幸香さんは、「〈池といふ大きな日向浮寝鳥〉安らかな景に惹かれました。」 第一句集名「南林間」は、現住所の名前で私の名前の一字が入っていること、響きの良いこともあって決めましたが、第二句集名「泉の森」は大和市にあり、一番多く訪れた公園で、俳句を始めるきっかけにもなった公園でもあり、迷わずに決めました。 「あとがき」のことばである。 「泉の森」とは、作者の思い出の場所でもおありになるようだが、童話の世界に出てきそうな妖精がひそんでいるそんなことを思わせるタイトルだ。 本句集の装釘は、君嶋真理子さん。 前句集『南林間』と響き合うようにというのが本間清さんのご希望だった。 前句集の装釘も君嶋さん。 表紙の布クロスは、やや浅い紺いろ。 カバーを引き締めて、よくびびきあっている。 扉。 花布は紺と白のツートン。 栞紐はグレー。 泉をその奥処に蔵している森なのである。 きっと、綺麗な水が湧き出ていることだろう。 一度行ってみたい。。。 本句集を上梓された本間清さんに、上梓後のお気持ちをうかがってみた。 定年まであと3年というところで、胃癌の手術をするはめになり、そのリハビリで始めた散歩。そのついでに始めた俳句でしたが、先生や句友にも恵まれて俳句に夢中になり、寝込むこともなく30年が経ちました。 俳句は私にとって何よりの良薬だったのかも知れません。 第二句集『泉の森』を前にして一入感慨深いものがあります。 『泉の森』創刊にあたっては、横尾様はじめふらんす堂の皆さんには大変お世話になりました。有難うございました。 これからも身体には気をつけながら俳句ある暮しの中で生きてゆきたいと思っています。 本間清氏。 そうだったのですか。。 俳句によってご病気もきっと癒やされたのだと思います。 良き出会いを通しての今日があるのですね。 あらためて第二句集のご上梓、おめでとうございます。 さらなるご健吟とご健勝をお祈り申し上げます。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() 海見ゆる改札抜けて夏つばめ 本間 清 名栗の里山ではあちこちで薪を割る音が聞こえていた。 これは山雀亭の薪。
by fragie777
| 2022-12-26 19:38
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