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12月19日(月) 浅草羽子板市 旧暦11月26日
力強い冬木。 雑木林の冬木立。 今日も寒い日となった。 わたしは自転車で仕事場に向かおうとしている。 厚手のダウンジャンパーを着込んで自転車にまたがった。 うん。 悪くない。 『岸本尚毅作品集成Ⅰ』が今日から配信となりました! 俳人・岸本尚毅さんのこれまでの句集収録作品にすべてを読むことが出来ます。 讀賣新聞の長谷川櫂氏による「四季」は、神谷章夫句集『引地川』より。 冬長きゆゑ良寛の顔長し 神谷章夫 良寛は「肖像がみな面長である」ようだと長谷川櫂さん。それは「長い冬を耐え偲ぶ人の顔にちがいない」とこの一句は語っているが、それは「雪国の遠い春を待ちわびる顔でもある」と。 新刊紹介をしたい。 四六判ペパーバックスタイル帯カバー装 166頁 二句組 著者の椎名果歩(しいな・かほ)さんは、1977年千葉県生まれ、現在は奈良市在住。2013年に「鷹」入会、2016年「鷹」同人、2021年「第40回鷹新葉賞」受賞。俳人協会会員である。本句集は第1句集であり、2013年「鷹」入会からの作品267句を収録している。序文を小川軽舟主宰が寄せている。抜粋して紹介したい。 大暑なり溜池の水浮腫(むく)みたる 水着着てマネキン沖を見るごとし 田楽をひよつとこ口に熱がりぬ 眩しさに目玉引つ込む深雪晴 ビル風に冬の噴水ゑぐれけり 松風に衣擦れの音空海忌 横つ面張る貨車の風柳の芽 鍵を刺す濁音桜蘂降れり 初糶や氷を抱へきれぬ蛸 瀬戸内に肩組む小島鰆網 (略)ここに挙げた十句には、いずれも果歩さんが目を凝らし、耳を澄まして、何かを摑み取ろうとした濃密な時間が背後にあり、そして俳句に到る言葉の出口を見出した喜びがある。 そのような作り方だから成功率はけっして高くない。いったい何を詠もうとしているのかわからない句も出てくる。そういう時も、果歩さんには何かが見えていたのだ。そこで見つけたつもりの出口が、たまたま読者に通じなかっただけなのである。根気強い試行錯誤の先にこそ、果歩さんの俳句のオリジナリティが生まれる。 果歩さんの俳人としての歩みを見つめながら、あたたかなエールを送っている軽舟主宰のことばである。 句集名は「まなこ」。 わたしはそれを聞いたときすこしドキリとした。しかもひらがな表記である。 漢字で書けば「眼」となり、それは一目瞭然として「目」のことであるとわかるが、「まなこ」とひらがな表記であると、漢字表記ほど直裁的に「目」にいかないで、すこしワンクッションおかれる感がある。「まなこ? ああ目のことか」って言う具合に。しかも、「眼」の表記より生々しい感じをあたえる。漢字表記よりはるかにインパクトがある。それらすべては著者の椎名果歩さんが望んだことなのだ。このタイトルについて、著者の椎名果歩さんは、以下のように「あとがき」に記す。 句集名「まなこ」は〈眩しさに目玉引つ込む深雪晴〉の「目玉」の言い換えである。「本質や価値などを見通す力」という意味もあるそうだ。自分なりの見通す目を得られるように、物ごとの向こう側にまで目を凝らしてゆきたい。 そうか、「眼」ではなく、「目玉」のことか。。もっと「睨み」を効かしたものだったのだ。 あなどれないタイトルである。 そんな著者の切実な思いをもって編まれた第1句集『まなこ』である。 本句集の担当はPさんである。Pさんの好きな句をあげてもらった。 参道に大きな風や巣立鳥 人許す西瓜の種をふつと吐き 春寒し手に包み拭くマグカップ タイムカード押し雪掻きに加はりぬ 空高し皿の底から巻くパスタ 眩しさに目玉引つ込む深雪晴 眩しさに目玉引つ込む深雪晴 句集名ともなった一句であり、軽舟主宰も序文でとりあげておられ、著者が自選10句にいれている一句だ。この句の眼目はなんと言ったって「目玉引つ込む」の措辞である。眩しさにおもわずギュッと眼を瞑ったのだろう。晴れた雪景色にたつとその白さが眼に痛いくらいだ。そして思わず眼を思いっきりつむる。その肉体の運動を、「目玉引つ込む」とはなんとも大胆な言いようをしたものだ。誰も思いつかないような言いようであるが、表現されてみれば非常なる説得力がある。思い切った表現をわたしたちのこころに定着させる。それが優れた句のもつ力なんだと思う。 人許す西瓜の種をふつと吐き これはよくわかる一句である。怒りをお腹に溜めていたんだろうと思う。思うに、悲しみは胸にたまるけれど怒りは腹にたまるのではないかと。西瓜の果肉はきっちりとお腹におさまっていく、そして種は口のなかにのこる。その種をふっと吐いたとき、許せなかった思いにとらえられていた身体もふっとゆるみその怒りも吐きだされたのだ。その怒りは腹にくすぶっていたものなのだ。甘い果肉に充たされたお腹は、苦い思いを吐きだしたのである。人を許すきっかけっていろいろとあるのかもしれないが、この句は説得力がある。「人許す」とまず上五において読者をやや緊張させ、中七下五をゆるやかに導き出し、種をはきだすことによる脱力感、そして人を許すことによって得た解放感を読者に感じさせる。いい感じのカタルシスをおぼえる一句だ。 ティーバッグ深く沈めて冬ぬくし わたしの好きな一句。この句は軽舟主宰の序文によると、椎名果歩さんが30代のときの作品であると。その前におかれた句が「冬ともし机の木目漣す」であり、自身の日常の身辺を詠みながら、内省的な目をおもう。一人住まいをあるいはしているのかもしれない。ひとりであることのたっぷりとした時間がみえてくる。ややさびしいとも心地よいとも、そんな時間のなかにいる作者をおもう。沈んでいくティーバックをじいと見つめる、それもまたかけがえのない時間なのだ。だから冬はじゅうぶんに作者にとってはあたたかなものとしてある。日常茶飯に追われているとこうはいかない。このたっぷりとした時間の、ある素敵さを作者は味わっているのかもしれない。わたしだけの豊かな時間。。。。 白日傘さらさら巻いて今日忘る これはとても好きな一句である。どうして好きなのかっていうと、うーん、なんだろう。「今日忘る」というさっぱりときっぱりと言い切った措辞がカッコいいなと。要はスカーレット・オハラ流にいえば、「明日は明日の風が吹く」っていうことよね。「今日忘る」を導き出すものが、「白日傘さらさら巻いて」という具体的な動作なのである。これもまた、カッコイイ美しい所作、そう、動作というよりも所作っていいたい、そう、まさに涼しい所作なのである。白日傘の白を読者に呼び起こしては、あくまで涼しい。そうか、「今日忘る」というこの心のありようもまた、涼しいのである。この句、夏の句とおもえばいっそうの涼感をよぶ。わたしもこんな風に心の涼しさをもちたいな。 ほかに好きな句をいくつか。 白藤や指の先より女老ゆ 封をして波立つ手紙夜の秋 笑ひ声ぶつけ合ひたる麦酒かな 『まなこ』には「鷹」に入会した二〇一三年秋以降の二六七句を収録している。制作年順によらず構成した。句を各章に振り分けることで、自分の現在と過去、心の表層と深淵に気が付いたり腑に落ちたりすることが多々あったのは得難い体験だった。 俳句を作り始めてから、それまで知り得なかった世界が眼前に現れ、自分を繋いでいた艫綱を解かれた思いでいる。特に近年は結婚、奈良への移住、転職と思い掛けない展開になった。一方で、日々の句作は自分自身の原点に立ち返らせてくれる。おかげで艫綱は解かれても漂流することはない。 「あとがき」を抜粋して紹介した。 句集名「まなこ」はあなどれないタイトルである。 本句集の装釘は和兎さん。 たくさんの目玉をはいするデザインとなった。 タイトルはツヤなし金箔。 扉。 黄緑色が本句集のテーマカラーだ。 いくつかの「まなこ」を紹介したい。 白日傘さらさら巻いて今日忘る 慣れない関西、それも奈良という古都にあって、果歩さんの新しい生活はまだ始まったばかりだ。満足できる一日もあれば、不満の残る一日もあるに違いない。。外に出れば鬱陶しいこともある。それでも白い日傘を閉じてさらさら巻いたら、それをけじめに今日のことは忘れてしまう。今日が嫌なのではない。今日より明日がもっと楽しみだからだ。そんな果歩さんの毎日からこの先どんな俳句が生まれて私を驚かしてくれるのか、期待は大きく膨らんでいる。(序・小川軽舟) 軽舟主宰はこの一句を、椎名果歩さんの生活に即しつつ、明日への声援を送りつつ、椎名果歩という俳人への期待をこめて鑑賞されている。さすがである。 序文に書かれているように、椎名果歩さんの夫君は、おなじ「鷹」同人の桐山太志さんである。 夫が俳句のライバルでもあることが果歩さんの意識に火を点けたのか、果歩さんは俳句という目を通して、あらためて世界を凝視し始めた。 と序文にある。 ご上梓の後のおもいをうかがってみた。 (1)本が出来上がってお手元に届いたときのお気持ちはいかがでしたか? 無事に刊行することができてほっとしました。 装丁にまで自分らしさが滲み出ている句集になりました。 (2)初めての句集に籠めたお気持ちがあればお聞かせ下さい 制作年順によらずに句を構成することで、自分の芯のようなものを確かめることができました。 今後の句作だけでなく生きていく上でも拠り所となりました。 (3)句集を上梓されて、今後の句作への思いなどございましたらお聞かせ下さい。 あとがきに記した物ごとの向こう側にまで目を凝らすということを心掛けつつ、まずは自分自身が驚くような句を作っていきたいです。 「自分自身が驚くような句を作っていきたい」。すごくいいですね。 さらにさらに「まなこ」を磨き研ぎ澄ましてくださいませ。
by fragie777
| 2022-12-19 20:04
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