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11月25日(金) 旧暦11月2日
今日は25日、ふらんす堂の支払い日である。 この日にいろいろな支払を一挙にするのである。 そして銀行の残高をみて、スタッフたちのお給料が支払えるかどうかを確認するのだ。 支払い残高をみるとき、ちょっとドキドキする。 これはもう毎月のことなんだけど、ドキドキする。 経営者(といってもはしくれだけど、)の宿命よね。。。 「シリーズ自句自解Ⅱベスト100秋尾敏』が出来上がってくる。 わたしはこの一冊をたいへん面白く読んだ。わたしがこれまでに存じ上げている俳人のかたとなんと言ったらいいのだろうか、肌合いがすこし違うというか、しかし多分世代をおなじくすることもあってよくわかる部分もあり、興味がつきない。 読み進むうちに秋尾敏という俳人は「耳の人」だと思った。サックス奏者で趣味でジャズを演奏したりもされるようだが、俳句の鑑賞もまず、音をとらえることに鋭い感覚のある人だと思ったのだ。だから韻についても鋭敏である。「音通」という語彙も本書ではじめて知った。「音通」については、解説で詳しく語られている。 自解をすこし紹介したい。 漱石の鬱が漂う霧の街 曇り空のロンドンを歩いていると、この街に住んだ夏目漱石が内向していった訳が分かる気がしてくる。無機質の石の建物が作り出す町並みは空間そのものが硬質で、日本の市街地とは空気感が違う。石の部屋に幽閉された亡霊が見えても何の不思議もない。ここに、当時の石炭の煙によるスモッグが加わったら、私の精神だってひとたまりもないだろう。 しかし、よく考えてみると、私の精神に巣くっているのは、リアルなロンドンの景観ではなく、漱石文学の情念なのかもしれない。文学の力はおそろしい。世界俳句協会設立会議のために出向いたときの句。(『納まらぬ』平成十二年) ピーマンの輪切りの彼方まで夏野 輪切りにしたピーマンをつまんで目の前にぶらさげてみた。いささか芝居じみているが、ルネ・マグリット風の世界観で遊んでみたかったのである。ピーマンも季語になるが、作者の意識としては、この句の季語は夏野。高屋窓秋を想いながら詠んだ。あなたの夏野は、今も私の脳裏に広がっている、と。 「の」「の」「野」というo音の脚韻は意識的。「輪」「彼」「夏」のaの頭韻は偶然のようなものだが、そこにoとaの対照性が生まれている。俳句の調べは重要だ。ほぼ感覚的なものだが、私の場合、意図的に作り出すこともある。 (『納まらぬ』平成十三年) 夏帽子太陽よりもでっかいぞ 「軸」平成二十年七月号に「小学生のための三句」として掲載。空に麦藁帽を翳している子どもの姿を詠んだ。他は〈そら豆をふくろの外に出してやる〉〈タケノコだぜあくがつよいぜ〉。それぞれ、四年生、五年生、六年生を想定しての句である。 子ども俳句の導きが難しくなっている。私たちは、生活作文の延長としての生き生きとしたリアリズムを求めてきたのだが、その生活というもの自体がリアルと呼びにくいものになってしまっている。ボタンを押し、キーを叩き、パネルを擦る。それが一日の動作の大半だとすれば、そのどこにリアリズムがあるというのか。生活とは何なのであろうか。 (『ア・ラ・カルト』平成二十年) 幾万の蛍昭和という谷に 昭和は山ではない。谷である。みな、そこから這い上がってきた。戦争があって多くの人が死に、しばらく貧しい時代が続いた。そこから這い上がっては来たが、そこにはかなりの無理があった。 けれど、その昭和を振り返るとき、今より美しかった気がしてしまうのはなぜだろう。それはどこかもの悲しく、切実な寂しさを負った時代だったのに。初出は「現代俳句」。 (『悪の種』平成二十四年) 窓秋忌声潜めれば紙乾く 高屋窓秋の忌日は一月一日だから、それを詠む人は少ないが、高橋龍さんの〈終わりなき年の始の窓秋忌〉や大井恒行さんの〈歳旦の箸置きいくつ窓秋忌〉など味わい深い句もある。窓秋が元旦に没した年の七月二十九日に父が没した。平成十一年は忘れようのない年である。 窓秋氏には、平成四年、現代俳句大賞を受賞されたとき、ただ一度お目に掛かった。そのとき、たまたま私も評論賞を受賞したのである。その後、教科書の教材文を上田五千石さんにお願いしたら、例句に窓秋の〈ちるさくら海あをければ海へちる〉が引かれていて、いたく感動した。 (『ふりみだす』平成二十六年) 秋尾敏さんが、なんとなく存じ上げている俳人の方と肌合いがちがうってさきほど書いたけれど、それはこの巻末の「俳句をつくる上でわたしが大切にしている三つのおこと」の三つをみてもそんな風におもったのだ。秋尾敏さんは、三つを以下のようにあげている。 「1 世界観、あるいは状況認識」「2 韻律とリアリズムの相克」「3 ラングとパロール」。ここでは「音通」について書いている「2 韻律とリアリズムの相克」を抜粋して紹介しておきたい。 自解の六カ所で〈音通〉に触れた。厚手の国語辞典には載っている言葉だが、最近は使われない概念なので簡単に説明しておく。 俳句の〈音通〉は、五七五の句切れ目を、同じ母音、または子音でつなぐ手法である。 古池や蛙飛びこむ水の音 芭 蕉 この句の場合、五七の句切れ目の「やか」がa音の母音で共通しており、七五の句切れ目の「むみ」がm音の子音で共通している。これが〈音通〉である。 江戸時代には、比較的よく知られた技法だったはずだが、大正時代以降は廃れた。 あるいは、披講のスピードが速くなったことに関係しているかも知れない。昔のように句末を伸ばしてゆっくり読む披講だと、〈音通〉も聞き取りやすいが、現在の散文の朗読のような披講では無理である。〈音通〉だけではなく、頭韻や脚韻なども、ゆっくり読んでこそ感じ取れるものとなる。 江戸時代には〈音通〉は〈口伝〉とされていた。だから記録があまりない。(略) 〈音通〉は、〈口伝〉となったために、〈秘伝〉のように考えられるようになり、神秘性を加えられ、数々の迷信を生んだと思われる。例えば、池田謙吉編『芭蕉翁真筆連歌俳諧秘訣』(金池堂・明治二十七年刊)には、明智光秀の連歌の発句〈時そママ今雨が下知る五月哉〉では、上の「今雨」には〈音通〉があるが、下の「る五月」に〈音通〉がないため、光秀は「秀吉公に尻切られ」たと書かれている。こうしたこともあって、近代になり、〈音通〉は迷信として忘れられていったのだろう。 しかし、〈音通〉の本質は〈調べ〉である。作品の韻律をなめらかに整えるための手法なのである。(略) 以下「言語論」が展開していく。 この「音通」ということに着目すると、わたしたちがよく知っている有名句などは、この「音通」を効果的に用いている句が多いのかも知れない。しかし、思うに、こういうのって意図的にそうすることであるよりも結果的にそうになっていた、というのが多い気がするのよね。 本書について、秋尾敏さんに伺ったところ、この本の読者の対象としては、俳句を学ぼうとあるいはつくろうとしている若い人たちを対象にして書き下ろしたということだった。そういうことを念頭において、自句を自解する、というのもありだなって思ったのだった。 いか、句のみを紹介すると、 手に掬うべきものあまた寒の水 急ぐなよ葡萄は一粒ずつ青い どんぐりの数ほど愛は育まれ 泉渾々老いたエリーゼのために 男らは先を急げり雛祭 校正スタッフのみおさんは、「〈ピーマンの輪切りの彼方まで夏野〉の句にとても惹かれます。〈音通」の解説もとても勉強になりました」と。 わたしもおなじです。みおさん。 そして今日はお客さまがひとり見えられた。 新句集の句稿を持って、俳人の仁平勝さん。 句集についてのイメージはほぼ決まっており、前回の句集『黄金の街』とひびきあうようなかたちで、というのがご希望。 そしてここでばまだ明かさないが、句集名も決まっている。 装釘は、和兎さんに、ということ。 担当は、Pさん。 仁平さんより、句集のタイトルを聞いたPさんは、「まさに仁平さんらしい句集名!」と。 問題は、装画をつかうのだが、それをどうクリアするかということ。 わたしも傍らでみながら、どんな一冊になるのか楽しみにしたい。 ひさしぶりに仁平さんにお目にかかって、いろいろなお話をうかがうことができた。 そのひとつに、仁平さんが語るには、俳句における「取り合わせ」と「二物衝撃」の技法はおなじように考えられがちであるが、全然異なるということ。 そのことに触れながら、総合誌「俳句」12月号(今日拝受)の甲斐由起子句集『耳澄ます』の書評をされたということ。 わたしは拝読した。これは、いずれ「ふらんす堂通信」に転載させてもらう予定であるがずっと先になる。 興味のある方は、是非に読まれることをおすすめしたい。 始めと終わりの部分のみ抜粋で紹介しておきたい。 芭蕉は「発句は取合せ物也。二つ取合せて、よく取はやすを上手と云ふ也」といった。しかし今日、取合せにおいて「取はやす」ことが疎かにされ、「二物衝撃」という近代の手法が主流になった。遺憾のことである。 甲斐由起子句集『耳澄ます』は、何よりもまず、取りはやしの芸によって評価されていい。(略) 子規が「配合」を重視するのに対して、虚子は「いひ現はしやう」を強調した。本書は、「いひ現はしやう」を堪能できる一巻である。 仁平勝氏。 仙川駅の桜の木のしたで。 これは余談であるが、仁平さんは、大のジュリー(沢田研二)ファンなんですって。 二度もコンサートに行ったとか。 まわりはほとんどが女子だったんですって。 「あ、男がいた」って思ったらなんとそれは内田裕也だったとか。 わたしは仁平さんとも世代を同じくするので、そういう話はよくわかる。興味もある。やはりジュリーは素晴らしく美しかったって思う。 だから話が弾んでしまうのよ。 でも、仁平さんが、そんなに大ファンだったなんて知らなかったな。。。。
by fragie777
| 2022-11-25 19:33
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