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10月17日(月) 旧暦9月22日
受賞者の相子智恵さんを囲んで、第13回田中裕明賞授賞式・記念写真。 前列、左より佐藤郁良、髙田正子、相子智恵、小澤實、森賀まり、髙柳克弘、中列左より 如月真菜、清水右子、佐藤文香、佐藤智子、西川火尖、岡田一実、後列左より左右社・筒井菜央、俳句四季編集部・上野佐緒、「俳句界」編集部・伊藤友紀恵、「俳句」編集部・豊田晶帆の皆さま。 「俳句」編集部の豊田晶帆さんは、吟行会の取材から授賞式までおつきあいくださった。 お疲れさまでした。 皆さまから『呼応』の好きな一句と評をいただいてます。みな簡潔でとてもいい評をされていました。すべて電子書籍版『第十三回田中裕明賞』に収録します。 選考委員のお一人である関悦史さんは、体調不良のため急遽出席がかなわず、お言葉をいただきました。 関さんにお目にかかりたい方もきっとおられたと思うので、大変残念です。 新聞記事を紹介したい。 毎日新聞の坪内稔典さんによる「季語刻々」に伍藤暉之句集『BALTHAZAR』より。 ネフスキー通りを急ぐ夜学生 伍藤暉之 「掲出句のネフスキー通りはロシアのサンクトペテルブルクの大通り」と坪内さん。 サンクトペテルブルクの街はわたしの行きたいところ、ドストエフスキーの『悪霊』の舞台になっているところだ。 かつて旧ソ連時代に、モスクワに行ったことがあるが、サンクトペテルブルク(あのころはレニングラード)に足を伸ばせなかったのがいまでも残念である。「悪霊」のことを思いつつ、街を歩き、そしてエルミタージュ美術館に足をのばす。ロシアというと今は複雑な感情が起こってしまうが、サンクトペテルブルクはとても美しい街であるらしい。 伍藤暉之さんは、行かれたのだ。 新刊紹介をしたい。 四六判ハードカバー装帯あり 194ページ 二句組 著者の石井洽星(いしい・こうせい)さんは、1943年(昭和18)岩手県生まれ、現在は横浜市在住。2001年(平成13)に作句を開始、2013年(平成25)「秋麗」(藤田直子主宰)入会、2016年(平成28)「秋麗」同人、2019年(令和1)第9回「秋麗賞」を受賞。現在は「秋麗」同人、俳人協会会員。本句集は2003年から2021年までの309句を収録した第1句集であり、序文を藤田直子主宰が寄せている。 序文は「石井洽星さんはつぎつぎと新鮮な驚きをくださる方である。」という一節からはじまり、石井洽星さんの多彩さにふれ、また句歴にもふれておられる。「岩手県を郷里にもつ洽星さんは、ご親戚が岩手や宮城におられて東日本大震災の被害に遭われ、その衝撃で俳句が出来なくなってしまい、句作を中断した。しかししばらくして再開することを決心し、「秋麗」に入会されたのだという。」 第2章以降の作品が「秋麗」で学んだ句である。 数年前、転居をテーマに秋麗作品コンクールに応募した二十句が、特選第一席に選ばれた。本句集では「家移り」としてその一部が収められている。その中に家族の絆が感じられる句があり、胸を打たれた。 古雛どこかに父の香りして 春の日の娘へ渡す桐簞笥 歳時記は母からのもの春の月 本句集は洽星さんが愛して来られたご家族からの応援があったからこそ生まれた作品群でもあることを知った。 序文の一部を紹介した。 俳句を再開されてからの熱心な作者像がみえてくる。 そして、著者の石井洽星さんは、画を描く方でもある。 本句集の装画はご本人の手になるものでもある。 幸福のはじけてゐたる夕柘榴 風少し谿の紅葉を急かしをり 火蛾静まりガレのランプとなりにけり 秋を描く絵筆に白を含ませて 春眠やかの世の胸の広きこと 担当のPさんが好きな句である。 幸福のはじけてゐたる夕柘榴 夕暮れの柘榴をみて、「幸福のはじけてゐたる」と詠んだ。柘榴という果実をどう詠むかって人それぞれであると思う。かたちはいびつでごつごつしていて、色は地味。裂けて実がみえるとその紅さにはっとする。作者は柘榴が割れてきれいな透きとおった赤い実がみえたことを「幸福がはじける」と詠んだのだ。夕柘榴だから、夕日があたってさらに燃えるようだったのかもしれない。柘榴って人によってその印象はいろいろである。柘榴の実をみて、さびしいと詠んだ俳人もいる。やはり柘榴の実をみたときの精神状態とその柘榴のありようによるのかもしれない。ややグロテスクに割れていたりすると、いうにいわれぬ不安のようなものがわき起こるかもしれないし、その形態を面白がることもある。わたしは、柘榴をみるとやや唐突かもしれないが、マグダラのマリアを思いだす。新約聖書に登場するマリアの一人で、イエスの傍らにつねにいたマリアであり、自身の髪でもって香油をそそいだイエスの足を拭ったマリアだ。どうしてそう思うのか、釈然としないのだが、あるいはどこかで柘榴とマリアが描かれているルネッサンス期の絵画などをみたのかもしれない。よくわからんが。だからどちらかというと幸福というより暗さや深淵をともなった柘榴である。これはみな人それぞれに、柘榴へのイメージがあると思うが、作者の石井さんは幸福感に満ちたりていたのだ。この時の柘榴の赤い実は宝石のように輝いて美しい。 家中に絵を描きたし冬の濤 不思議な一句である。作者は画を描くかたである。それを思わせる句が本文にときにある。また。この句集の装画はご自身によるものだ。この句が不思議だなっておもうのは、ひとえに「冬の濤」の季語である。家中に絵を描きたいという欲望はどんな時におこるか、わたしは絵を描くことはまずないので、その心境は推し測りがたいが、作者は「冬の濤」を目前にした時に、そう思ったのだろうか、あるいは家中にいて、「冬の濤」なるものを想像して創作意欲が湧いたのか、これは「冬の濤」を家に描きたいということなのか、それとも「冬の濤」の激しさによって引き起こされた創作意欲が、なんでもいいから家中に絵を描いてみたい、ということなのか、などと自問自答してたのだが、藤田直子主宰は「家中の壁に絵を描きたい、それも激しい冬の怒濤を描きたいという熱情」とあり、そういうことであるのかと納得した。あえて「冬の濤」を家中に描こうというその熱情を藤田主宰は評価している。そりゃそうよね。わたしなど、冬の濤にとりまかれていたら、わたしなど寒くて寒くてやりきれなくなってしまうと思う。春の波ぐらいがいいかな。あるいは秋の波か、ああ迷う。って本気で悩んでも仕方がない。でもすぐに消し去ることができるんだったら、一日くらい波の絵にとりかこれて過ごしてみたい。こんときはやはり秋の波だな。。 春潮や女一生眠たくて こんどは「春の潮」の句である。この句を読んだとき、ひえー、これってわたしのこと?って一瞬思った。ほら、どこででも眠ってしまうyamaokaである。まさに寝てばかりいた「女の一生」としてわたしなど総括されても仕方がない。作者の場合はどうだろう。春波の音を聞きながら、ふっと眠くなった。それは身体的にわかる。その一瞬の眠さを、「女の一生」に捉え返したのが面白いのだ。そしてそう言われてみるとあるいはそうかも知れぬ、わたしの一生を振り返ってみると眠たい日々であったことよ、と。さらにこれを読んだ読者も春の波を思いながら、(ああ、そうかもしれない)なんて思わされてしまう、そんな一句である。 百色のクレヨン百色の秋思 この句は面白い一句だ。絵を描く方だからクレヨンは常に身近にあるのかもしれない。たくさんの色のあるクレヨンをお持ちである。(じっさいクレヨンに百色あるのかどうかはわからないが。)その色合いを微妙に変えながら百色がある。作者にとって、そのクレヨンの色が秋思を呼び起こすというのである。しかも色のちがいと同じように秋思もそれぞれ微妙に異なる。思うに、非常に鋭敏な感性の持ち主なのだ、伊藤さんは。色や音や形に身体が俊敏に反応するのである。今日は4句を選んでみてあらためてそう思った。選んだ句は本文中たまたまであるが、すべて色や音やかたちによって身体の反応が引き出されている。この句集、そこが面白いと思った。 この句集には二〇〇三年から二〇二一年までの三〇九句を収めました。 第一句集を編むにあたり、改めて来し方の句を読み返してみますと、一句一句にその時々の心情が懐かしく甦りました。それは大変豊かで幸せな時間でした。集名は「アトリエと思ふ厨の三月菜」から決めました。私の胸のアトリエから生み出された俳句であるという思いです。 これからも結社「秋麗」の標榜であります「まぎれもない己がある句」に少しでも近づけたらと思っています。 「あとがき」を抜粋して紹介した。 本句集の装釘は和兎さん。 装画を活かすことに心をくだいてもらった。 「アトリエ」の文字は白く。 よく見ると、白抜きをした上にパール泊を押している。 布クロスはおもきって黄色に。 見返しも黄色。 扉は絵をモノトーンで。 花布は、むらさきと白。 栞紐は、むらさき。 むらさきは黄色によくあう。 夕方はまだ明るくて花あふち 詩的な発想が豊かで自在な表現をもつ石井洽星さんの世界を多くの方々に知っていただける機会として、この句集の出版を心から嬉しく思う。(序・藤田直子) 上梓後のお気持ちを伺った。 (1)本が出来上がってお手元に届いたときのお気持ちはいかがでしたか? 装丁が自分の描いた絵でしたので、自分の世界を形に出来たことが嬉しかったです。 (2)初めての句集に籠めたお気持ちがあればお聞かせ下さい 第一句集という初々しさが出せればと、そして装丁の絵と俳句のバランスが取れればと思っていました (3)句集を上梓されて、今後の句作への思いなどございましたらお聞かせ下さい。 無事に出版出来て安堵いたしました。 来し方を第一句集に預けましたので、少し軽くなりました心で「まぎれもない己」を詠み続けたいと思います 石井洽星さん。 本人の描かれたパステル画を装丁に使用しました。 ご自身で描かれた絵は殆ど処分されてしまい残っている絵の中で色味が気に入られている作品だと仰っていました。 光る素材で描かれた繊細なパステル画だったので、その雰囲気が出るようにデザイナーと相談しました。 と担当のPさん。 石井洽星さま。 第1句集の刊行を機に、第2句集にむけてさらなるご健吟をお祈り申し上げます。 ありがとうございました。 昨日の吟行地、小石川後楽園の蓮池。 この破れ蓮になりつつある景を詠んだ句がたくさんあった。 それぞれ巧みに工夫して詠まれていたのが素晴らしい。 3年ぶりの吟行後の対面句会となったのだが、やはりいいですね。 おなじものをそれぞれ見ながら、それぞれが違う詠み方をし、すぐにその場でそのことを学びあうことができるということ。 吟行句会の醍醐味かもしれない。 来年も実現できることを望みたい。
by fragie777
| 2022-10-17 19:31
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