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9月8日(木) 白露 旧暦8月13日
蓼の花と糸蜻蛉。 井の頭公園の池である。 今日、著者の方におくるものがあって、宅急便にしようか、レターパックにしようかと悩んだ末、赤のレターパックにした。 ポスト投函となるので、スタッフさんに帰りがけに投函を頼んだのだった。 すると、 「ポストの口にはいりませんでした」ってスタッフさんが戻ってきた。 「あらら、そうなの」と受け取って、ひょっとしたらわたしだったら念力でねじ込んで(!)しまったかもしれないな、って思った。 だって、かつて出版社勤務のときに「ポストの口を押し開く女」としてちょっと有名(その界隈のみ300メートル四方)だったからである。 ぜったい入らないと思われていた郵便物を押しこんでしまったという実績を持つのだ。 そのことを得意そうにそばにいたスタッフの文己さんに話したところ、 「わたしもねじ込んだことが何回もあります」って言う。そして、 「そのあげく戻ってきてしまったのです。そういうレターパックがゴロゴロしてます。」ですって。 そうか、わたしの場合は、戻ることもなく相手に届いたのだった。 違いはなにか。。。 考うるに、これはもうポストに対しての念力の違いによる、ということしかないと思う。 こう丹田にぐっと力をいれて、「行けよ!」って念じるのだ。 今後、この念力の働かせ方を、頼もしい文己さんに伝授しようと思っている。 新刊紹介をしたい。 四六判ソフトカバー装帯有り 378頁 本著は郷田豪(ごうだ・すぐる)氏による、回文と連句を組み合わせたはじめての試みの1冊である。回文とは、広辞苑によると「➁和歌・連歌・俳諧などで、上から読んでも下から読んでも同音のもの。」本著には「プロローグ」として詳細な著者による解説がまずある。 ここにご披露する歌仙の集は、総合題『反照(てりかえし)四分の五』、 歌仙《春》「流し雛か」の巻 歌仙《夏》「ラムネも」の巻 歌仙《秋》「矢の菱」の巻 歌仙《冬》「理系訪ひ」の巻 歌仙《雑》「中今に」の巻 の独吟(どくぎん)五歌仙のセットです。句はそれぞれ沓冠(くつこうぶり)(上下)いずれから読んでも同じ文となる「回文(かいぶん)俳句(はいく)」で仕立てる趣向です。したがってどの句も「連句(俳句・川柳)」「回文」の二種類の洗礼を受けた奇跡の春秋一坐一大公演、かくして、かくの如く御免被りますれば東は火の山巓(さんてん)から西は海溝(かいこう)の底まで、ずいとご高覧賜りますよう切に願い奉りまする。 プロローグより抜粋した。 まずは最初の「流し雛か」の巻の最初の連句のみを紹介ておきたい。 ⑴ 流し雛か陽炎野外撮影がかなひしかな [春・仲春]発句 ⑵ 畑うねうねねうねう桁端 [春・仲春]脇 ⑶ にぎやかし霞は見ずか鹿山羊に [春・三春]第三 ⑷ 子乗るはふらここ怺ふ春の子 [春・三春]四句目 ⑸ 桶似るは三度目ひた見春の月 [春・三春]月の定座① ⑹ 箱庭に瀧北庭に古馬 [夏・三夏] 以下に著者による詳細な註解が付されており、⑴の「流し雛」の句についてのみ「註解」を紹介しておきたい。 ─ ながしびなか かげろふろけが かなひしかな 春のかげろうのなか、流し雛の映画のロケが……。万事のったりとした鈍い動きはどうやら予定時間を超えているようだがうまく進んでいるのかな 陽炎(かげろう):春、晴れた日に地面に見える空気のゆらぎ。季語三春(さんしゅん)(初・仲・晩)。流し雛も仲春の季語。三月三日の夕方、紙などで作った雛人形を川や海に流すこと。雛祭の元となった行事であり、紙の人形に穢れを託して流したことに始まる厄払いの行事です。 発句は長句(五・七・五)で、季語(きご)と切字(きれじ)が必要です。「切字」は、句の表現が完結したり主題を打ち出したり感動の場所を指し示したり音律を与えたりする役割を持たせた字(語)のこと。古来「切字十八字」があり、その中で発句には「や」「かな」「けり」が主に用いられます。上五下五を字じ余あまりにしてのんびりした雰囲気をかもしだしています。 この何ともおそるべき一書がいったいどんな著者によって記されたのであるか、まずは、郷田氏の数奇(?)な境涯を記した本著の巻末の略歴をそのまま紹介したい。 中国吉林省公主嶺街生まれ(1930)。鹿児島県姶良郡栗野町(現・湧水町)出身。中学(現・県立大口高校)受験に失敗し小学生浪人。熊本工専(現・熊本大学)に補欠入学。苦学して九州大学工学部卒業(1953)。以後、蛍光灯黎明期の照明技術者として汗を流す。26歳のとき格式のある博多の遊郭で自殺を図る。閻魔に心中じゃないと駄目だと断られる。返された遺言書を見て自分に文才があることに気付き第一作『暮るる奥』を書くが身内に酷評され出版を断念する。ブラジル居住4年目に入るとき第1335回東京都宝くじ一等賞(一千万円)に当ったので帰国することにし記念に純金150グラムをバンコ・アメリカ・ド・スウで購入し放浪生活が終わる。閻魔から勧められたこともあり、55歳、すこし早めの定年、古文研究に入る。俳句は、松尾芭蕉、與謝蕪村、正岡子規に私淑。 今年92歳になられる郷田氏の経歴である。 ちょっと驚いてしまう。。。 このような経歴の持主によって編まれた今回の『回文連句歌仙集《反照四分の五》」なのである。 以下は「あとがき」より。 「回文連句歌仙」と銘うちましたが、実はビミョウな出自をかかえています。 俳人は俳壇からの「脱走兵」だというでしょう。とてもまともな句集とは見てくれそうにありません。まして連句の達人にはゲテモノ扱いだし、回文同志からは、良くてハミダシモンか裏切り者、どうかすると「分派行動者」、セクトで粛清に遭わねば藩をこぞって上意討ち、です。バベル図書館の司書さんも本屋さんも、「分類」は何? どこの棚? 困るんだよねえ、こういう蝙蝠本。結局、園芸本や気象予報士の本といっしょの「その他」の書棚に寄り合い所帯。 「書物の鵺(ぬえ)的アナキスト」で美人薄命的炎上。結構じゃありませんか、と開き直っての御託でございます。 俳句・連句・歌仙・回文・古文……十把(じっぱ)一絡(ひとからげ)、文芸の隙間(ニッチ)産業として華々しく登場しましたものの、新しいが間もなく絶滅危惧種文学となることが火を見るよりも明らかな本書を茲にご愛玩のほど哀願申し上げる次第に御座いまする。前代未聞の文芸にとりくむこと二十年有余、どうやら結実の日を迎えそうです。 奇し晴れか反照千波枯葉敷く ─くしはれか はんせうせんぱ かれはしく 明るい日だこと。日光の粒が散り敷いた枯れ葉の上をこけつまろびつ…… この1冊について、このブログで興味をもっていただくためには、郷田氏による上梓後の文章などを紹介させていただくことも良いのではと思い、以下に記していきたい。なんというかサービス精神にとんだ、少しいや大いに笑ってしまう、そんな文章です。 ●出版を決意したいきさつは。 本を出そうと思ったのは90歳になったときです。ふらんす堂から本を出せたらどんなにいいだろうなと思った46歳以来です。東京神保町岩波ホールでジャンギャバンの「大いなる幻影」を観ているとき、ジャンギャバンが、たった今亡くなりましたと館内放送があったのがきっかけでした。まだ見たことも耳にしたこともない「ふらんす堂」から小さな本を出したいという「片思い」をかかえて過ごすようになったこと、考えると不思議なようですが、アメリカの女優シャーリー・テンプルに初恋したのが5歳のボクですから、こんなことがあっても不思議ではないのです。 憧れのふらんす堂からデビューできたこと、新しい本が届いた日が偶然妻の誕生日だったこと、何もかも、…こんなに嬉しいことはありません。その女房殿の第一声、「わあ美しい」…第二声、「…読みやすい」でした。 ●本が出来上がって手元に届いたときの気持ちはいかがでしたか? 産室の我が子を廊下の窓ガラスを隔てて見るようなデジタル配信本と異なり、「ほら、お父さんですよ」といわれて抱き上げた我が子の重みとぬくもりと乳臭さ、そんなリアルさが一挙に押し寄せたような不思議な感覚でした。 こんな完璧な原稿はそう無いだろうという自負がものの見事に崩れ去ったのは、ふらんす堂の校正スタッフの手を経て帰ってきた手元のゲラを見たときです。誤字・脱字・表現のゆらぎなどを訂正してくださるぐらいに安易に考えていたのですが、なんのなんの文章の内容にまで介入(?)してココはオカシイ、アソコはナッテイナイ、というのです。データまで証拠を突き付けてくるので反論しようがない。完膚なきまで打ちのめされたのは一度や二度ではありません。ほとんど全ページに亘って訂正を強いられました。安産だろうという思い込みが実際は難産になったのです。 「連句」は一か所変えるとドミノのように、それも前後に影響が及ぶのです。一例を挙げると、冬の巻の13句目、「山川のハゼ釣り」を詠んだ句にイチャモンがついた。ハゼは海の魚だというのです。屁理屈でごまかすしかない。(226ページ)冷汗三斗一再ならず。それも校正スタッフは「あなた、マチガッテますよ」といわず、「文学的表現?」と、来る。降参。白旗。バンザイ。 正直なところ、実に細やかで丁寧な校正に接し感動しました。校正というよりほとんど添削に近いのではないかと思えるほどの緻密な調査に基づいた指摘に、自らの杜撰な執筆姿勢に鑑み深く反省させられ勉強になったあのときの思いを新たにしました。 90歳を疾うに超えた老人が本を両手に抱いて共寝する姿をご想像ください。その嬉しさは子どものころ買ってもらった「講談社の絵本」以上のものでした。 ●著書にこめたお気持ちは? この本には、オマケのように「表」が付いていますが、できたのは付表が先です。意外に思うかもしれませんが、図書館に通い詰めて付表を調査する過程でできたのが本書で、いわば主人公は付表でオマケが本文です。日数も手数も付表がかかっており、可愛さで言えば苦労した分、付表70%、本文30%でしょうか。回文は余技で連句が本義。どちらも興味を持ってくださる方がいらっしゃれば本懐これに過ぐるものはありません。 表 ●今後の回文歌仙への活動は? いまわたしは自転車のチューブがパンクしたみたいな虚脱感の真っただ中に浮遊しています。 「回文歌仙」は卒業です。 いまブログに「回文短歌」を連載中ですが、今後は、その「回文短歌」と「三ツ物」です。短歌は一首もつくったことがないくせに回文短歌は作れるのです。そのひとつはもうこの本をご覧になった皆さんには、サンプルとしてお目に掛けています。本書295ページの「インテルメッツオ」です。100首作る予定で、さりげなくガンバッテいます。 「三ツ物」というのは本書の7ページに紹介していますが、端的にいえば「短歌と俳句を統合したもの(575+77+575)」という形式の定型詩です。(現在は廃れました)今生の最後の仕事になるのでしょうか、並行して創作中です。 なんというかすばらしいバイタリティーである。 本書の装幀は和兎さん。 口上。 本文。 「ユニークな俳論、独特な句会推敲の課程が面白く刺激的な一冊」と帯にある。 本書の担当は、Pさん。 コメントを貰っている。 以下に紹介。 郷田さんとは出版前にメールで何度もやりとりをしました。 やりとりの中で、90代の方であるとしり驚きました。 郷田さんはYoutubeのチャンネルも持っています。 88歳の米寿の記念に動画を作られたとか。(単純にスゴイ) →郷田豪 https://www.youtube.com/watch?v=X26CMbDzJgU ←必見です。 いつもはきはきと50代の方のようにメールで返事を下さって、編集作業は楽しい日々でした。 メールのやりとりだけでも感情豊かでとてもチャーミングな方で、コロナがもう少し落ち着いたら是非お目に掛かりたい方の筆頭です! 内容は歌仙・回文・連句という、アグレッシブすぎる試みの一冊。90代でこのエネルギーがあるなんてすごいなとぶ厚いゲラを捲る毎に思っていました。 独特のエスプリで自分自身にツッコミを入れながら軽快に進んで行く文章はテーマとは裏腹にすらすらと読めてしまいます。 エネルギーに満ちあふれた一冊です。 写真コメント このひとはいつも水中メガネを掛けています。魚座の生まれというのですが? 俳号は「宇呂」。実際に使うのはカナの「ロ」?? サカナの鱗のことをウロクヅといいますがそのウロだそうで…???
by fragie777
| 2022-09-08 18:59
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Comments(2)
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