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8月31日(水) 旧暦8月5日
韮の花。 夏の花である。 土のしめった匂いがしてくるところに無造作に咲いていた。 今日は税金をいろいろと支払う日。 残暑の厳しい商店街をいちばん端にある芝信用金庫まで行く。 着いて中に入ろうとするとなんとシャッターが降りているではないか。 ややっ! いったい。 キャッシュコーナーは大丈夫そうである。 入ってみると、「昼休み」の表示がある。 11時半から12時半までお昼休みをいただきます。(キャッシュコーナーはその特権はないようで、果敢に働いていた) まあ、いままでこんなことなかったけど、そういうことなら仕方がないと、わたしは他の銀行2件と郵便局へ行って、用を足し、仕事場に戻ってお昼を食べてふたたび信用金庫へ。 窓口で、「お昼休みだったので驚いてしまったわ。」と言うと、担当の女性スタッフさんが、「申しわけございません!」と丁重に言う。 「これからずっと?」と聞けば、「いいえ、臨時なのですが、いつまでということははっきりしてないんです」とのこと。 まあ、こちらでその時間をはずせばいいことなので文句を言うほどではないが、まったくはじめてのことだったのでちょっと驚いたのだった。 新刊紹介をしたい。 四六判ハードカバー装帯あり 228頁 二句組 俳人・中村雅樹(なかむら・まさき)さんの第3句集となる。中村雅樹さんは、昭和23年(1948)広島県生まれ、昭和62年(1987)宇佐美魚目師事、平成2年(1990)「晨」同人。平成11年(1999)大串章に師事、平成12年(2000)「百鳥賞」受賞、「百鳥」同人。平成16年(2004)「鳳声賞(百鳥同人賞)」受賞。平成20年(2008)『俳人宇佐美魚目』にて第9回山本健吉文学賞、平成21年(2009)『俳人橋本鶏二』にて第27回俳人協会評論賞受賞。平成30年(2018)「百鳥」退会。令和元年(2019)「晨」代表となる。句集に『果断』(1997)、『解纜』(2007)、評論に『ホトトギスの俳人たち』(2017)、ほかに『橋本鶏二の百句』(2020)などがある。 『晨風』はわたしの第三句集。所属誌「晨」から一字を借りてこの集名とした。平成十九年から令和三年までの三五九句を収めている。その間、わたしの俳句の拠り所であった、宇佐美魚目と大峯あきらの両師を失った。他方でよき先輩と多くの句友に支えられてきたことは、何よりも有難いことと感謝している。 「あとがき」を紹介した。 二人の師を失われたとはたいへん悲しい出来事であったと思います。 採寸に一日かかり日脚伸ぶ 句集の前半に収められている句である。洋服の寸法をはかってもらっているのである。あたらしくスーツをこしらえるのであろうか、デパートで既成のものを買ったりはなさらず、洋服の仕立て屋さんで仕立てて貰うのだ。わたしの父などもそうしていたが、いまは既製服にもいろいろとあってそっちの方がはやくて便利っていうことあり、傾向としてはこういう誂え方は少なくなっていると思う。しかし、作者にはなじみの仕立て屋さん(この仕立て屋さんっていい言葉!)がいて、すべてを心得てくれている。だから安心して任せることができる。そうであっても、採寸だけで一日をとられてしまうとは、どういうことなんだろう。気合いの入った上等な洋服をしつらえる(このしつらえるっていう言葉もいいなあ)のだろうか。理由はいろいろと考えられるが、この一句を流れている時間がいい。日当たりのよき部屋の一角で、お茶をのんだりお昼をたべたり、おしゃべりをしたりして、寸法を図ってもらっているのである。こんな時間を過ごすことこそ贅沢というものだ。こういう贅沢は悪くない、21世紀のコンピュータ社会では失われつつある良き贅沢である。まるで谷崎潤一郎の『細雪』の世界であり、あるいは小津安二郎の世界でもある。作者は採寸が一日がかりであったことも不満なわけではなく、むしろそんなことを面白がっているような精神の余裕がある。後半に〈仮縫ひのものを身に当て秋の昼〉という句もあって、春の季節のみならず、秋にもなにか素敵な洋服を新調されたのですね。そういえば、田中裕明さんの句にも〈桜のはなし採寸のあひだぢう〉というのがあって、好きな一句である。大きなお世話でちょっとえらそうにいえば、こういう時間の手触りをひとりでも多くの人に経験してもらいたいって思っているyamaokaである。 絨緞や氷のやうなシャンデリア これはきっとホテルなど行われた豪華なパーティでの場面だと思う。季語は「絨毯」。ホテルには弾力のある厚い絨毯がしきつめられている。ふわふわと足を運ぶ。そしてたくさんの人と熱気、着飾った人々だらけである。、作者もきっと仕立てたばかりの一張羅(この一張羅ということばも好きだな)を来てこの会に臨んでいるのだろう。和服の女性たちの色のとりどり、ドレスを召した女性たちのエレガントなこと、タキシードを着こなした紳士たち、脂粉の匂いがたちこめた人のさざめき。なんという賑わいと華やかさ。そして会場をあかるく照らすシャンデリア。目もくらむような輝き。そのガラス細工のシャンデリアの冷たい光が作者を一瞬つらぬく。心臓が凍えるような冷たい光で。この句「氷のやうな」が眼目だ。一句のなかには、物質しか詠まれていない。絨毯、シャンデリア、そして、氷。実際に存在するのは、絨毯とシャンデリア。しかし読者の心に残るのはこの「氷のやうな」の「氷」の物質感である。 湖の風にかけたる大根かな 琵琶湖の風景だろうか。湖の風が渡ってくるところに大根が干されている。湖のそばで湖を感じながら生活している人の一風景だ。「湖の風にかけたる」が巧みだと思った。省略をきかし、まさに俳句ならではの表現であると思う。多くを語らずに、湖が見えてそこに暮らす人の生活がみえてくる。冷たく澄んだ湖の風、大根の白さ、空の青、湖の水平線、日差し、匂い、働く人の手、そういうものがすべてこの簡略な一句から立ち上がってくる。 神学生パウロの墓や草の花 この一句ですぐに思い浮かぶのは、新約聖書のペテロによる第1の手紙の有名な一節である。「人はみな草のごとく、 その栄華はみな草の花に似ている。 草は枯れ、 花は散る。 しかし、主の言葉は、とこしえに残る」(ペテロ第1の手紙第1章24.25節)。ここでは「神学生パウロの墓」に咲いている草の花である。神学を学びながら途中で亡くなったパウロという名の青年の墓にたつ作者がいる。かたわらの草の花をみて、作者の心にこの聖句が浮かんだのかもしれない。夭折ということの信仰における意味、あるいは草の花に喩えられるような人間の生の意味、墓の前にたつ作者の心をさまざまな思いが去来する。そして足元の草の花は石の墓のかたわらであくまでもやさしく揺れている。 船が船ゆらしてとほり日短か この一句。「日短か」が季語である。上五中七にたいして、なにゆえ「日短か」なのかといえば、そこには理屈はない、しかし、ここに漂うある気配のようなものが私は好きである。船と船とが行き交ったその瞬間の時間、大きな船がやや小さな船を揺らしたことで作者の心に呼び起こされたある感興。そして陽が沈まんとしているところに作者は気づいたのである。と書けばすこし理屈づけになるが、この「日短か」というかたちで言い止めたところに余韻がある。ってわたしは思う。好きな一句である。 校正者の幸香さんは、 大勢で気球をたたむ夏野かな に特に惹かれました、ということである。広々とした気持のよい夏野ひろがりとそこでこまごまと立ち働く人たちの姿が見えてくる。 ほかに、 舟となる板をたてかけ朝桜 秋風や馬に漢方ほどこしぬ 父母がわが木の葉髪をかしがり 大銀杏太初の言葉降る如し 山にふる雨音しづか一位の実 汗の人ダイヤモンドの目利きとは 革装の合本となり水の秋 空蝉の一枚の葉にひしめける 秋しぐれ若き爽波を知る人と 春を待つどんぐり山へ帰られし (悼 大峯あきら先生) 蓬髪の赤子に春の立ちにけり うぐひすの声に力や顔洗ふ 日雷送り迎へに舟を遣り 本句集は「令和俳句叢書」の一環として刊行。 装幀は、和兎さん。 タイトルはツヤ消し金。 表紙は青味がかったグレーの布。 花布と栞紐は赤。 屋根に人舟に人ゐて松手入 この景は、屋根にも舟にも松にも人の姿があるということか。ただただその景を述べているのだけれど、とても長閑である。海がみえる広い庭があって、屋根にも人がいて屋根を修理しているのか、そして松の手入れの職人さん。小さな舟に人がいて釣りでもしているのだろうか、いろんな人がそれぞれの何かを(仕事を)やっているのだが、それらを簡略化してシンプルな一句に仕上げた。これもまた俳句ならではの一句だ。好きな句である。 句集上梓後のお気持ちをうかがってみた。 〇今回の句集を上梓されてみて、改めて感じたことや見えてきたことがありますか。 これまでの句集については、句材やその切取り方に宇佐美魚目先生の影響があると言われてきました。 自分では特にそのように感じてはいませんでしたが、今回の『晨風』と比較するとたしかにそうだな、と思いあたることがありました。ただそのことで、今回の句集は大峯先生の影響を受けているというわけではありません。またそのように言われたくはありません。 いずれにしても影響によって生まれるような句は、まだ本当の私の句ではないような気がしております。 〇今後の課題となること、方向性などがありましたらお聞かせください。 とくに課題や方向性はありません。できれば、日常のなかの永遠の景、平凡な景に潜んでいるある種の恐ろしさ、句の中にこれらのものが少し現れてくれば、と思っています(このように言うのも魚目先生の影響でしょうか)。 〇この句集に籠めた思いなどございますか。 「晨」とは「朝」「あした」「夜明け」ということなので、新鮮な朝風を吹かすことができたら、と考えております。 それが同人誌「晨」の風となれば、望外の喜びです。 中村雅樹氏。 素敵なジェントルマンでいらっしゃる中村氏。 このお洋服も仕立てられたのかしら、なんて見入ってしまいました。 ![]() って、今日のyamaoka、ちょっとそのことにこだわりすぎかも。。。 ごめんなさい。
by fragie777
| 2022-08-31 20:05
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