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7月15日(金) 旧暦6月17日
神代植物園の木槿。 底紅である。 梅雨明けの宣言がすでにされたが、昨日今日の東京の天気など、梅雨ただ中という感じである。 わたしは今朝、愛猫のためにホッカホッカカーペットをつけてあげた。 わが愛猫はなかなかあなどれず、お気に召さないことがあると、ウンチをトイレにしないで床の上や畳の上にしちゃうのである。 それによって、わたしは至らなかったことを思い知らされるのである。 彼女専用のホッカホッカカーペットがあたたかくなっていなかったとか、キャットフードが少なかったとか、そんなことが原因だ。 ご本人はしらんぷりをして相変わらずシャナリとしている。 (あいすみません。気づかずに……)と心にでつぶやきわたしは後始末をするのである。 しかし、わたしも結構なドジなので、この間は愛猫を押入れに閉じこめたまま仕事に出かけてしまい、帰ってから鳴き声のする押入をあけたところ愛猫・日向子が飛び出した。そして後には、見事な〇〇〇が残されていたのだった。 彼女からするとマヌケな至らない飼い主におおいに我慢をしているのかもしれないけれど。。。 新刊紹介をしたい。 四六判ハードカバー装ビニール掛け帯有り 212頁 二句組 著者の山越桂子(やまこし・けいこ)さんは、1942年満州生まれ、現在は奈良県奈良市在住。1995年「朱雀」入会、「狩」入会。2008年「朱雀」同人、「狩」同人。2019年「香雨」創刊同人。俳人協会会員。本句集は、1995年から2018年までの作品を収録した第1句集である。帯を鷹羽狩行「香雨」名誉主宰、序を片山由美子「香雨」主宰、跋文を田中春生」朱雀」主宰が寄せている。 雪片に潔きものためらふもの 降る雪のひとひらひとひらを見ている詩人の眼がある。潔く地面に落ちてしまうもの、またためらうように宙に漂うものがあるというのだ。それだけの内容だが、ここには何か人の生きざまのようなものさえ感じられる。 鷹羽狩行氏の帯文を紹介した。 片山由美子氏の序、田中春生氏の跋をそれぞれ抜粋して紹介したい。 風止みて更なる梅の香りかな 幕下りてよりのほとぼり初芝居 蒟蒻の彩られゆく針供養 句集を編むにあたり、これまでの作品をあらためて拝見したが、どの句にもストレートに心情が表現されており、きっちりまとまっているのが印象的だった。早く から俳句の骨法をしっかり身につけ、何を作品にすべきかを的確に見極めていたことがわかる。(片山由美子) 星涼し開演を待つパイプ椅子 稲刈つてにはかに天の遠くなり 鏡めくロビーの床や初芝居 最近の佳句のうちで桂子さんの題材の広がりを思わせるものを抜き出してみた。 桂子俳句の深まりと独自の境地への展開を示す家集の誕生を慶ぶとともに、今後の活躍ぶりを期して待つことにしたい。(田中春生) 本句集の担当はPさん。好きな句をあげてもらった。 春寒や針孔逸れし糸の先 会うて来し温みを畳む白日傘 ひと結びして吸物へ三葉芹 土管より太き水音夏はじめ 灯火親しそれぞれの本卓上に 会うて来し温みを畳む白日傘 いい句である。人とあったその余韻のなかにいる。太陽の熱がほどよくぬけきらずにある日傘を畳んでいるのである。その温みをとおして会った人とのことを思い出しているのだ。温みは手にやさしく今日会った人の温もりであるかのよう、あるいはおたがいの気持の温もりであるかのように、丁寧に傘をたたむ、もちろんこれは折りたたみ形式の日傘である、だから、ワンタッチ形式の日傘のようにあっという間に収められてしまうものではなくてそれこそ時間をかけて畳むににふさわしい日傘である。この「温み」という語彙がすべてを語っている。それは恋愛真っ只中の激情は感じさせず、おだやかな良き交流の場であったことを思わせる。久しぶりに会った心置きない女友だちであるかもしれない。そこでかわされた会話やその人の佇まいなどが作者の心をあたたかく潤しているのである。白日傘の白が作者の貌をあかるく照らしている。ところで、日傘を畳むという行為について、おおざっぱに分けるとすると二通りがあると思う。丁寧にもとあったように畳んでいく、そんなことはせずにがばっとっくくって止め紐でなんとかとめる、わたしは断然後者。いばれることじゃないけど、ちゃんと畳んだためしがない、ときには畳まないで傘立てにほうり込むっていうこともある。こんな雑な人間に良き人との交流がはかれるかって。。。だめよ、きっと。はかれていないとおもう…。さびしいけど。 ゆつくりと墨磨つてゐる良夜かな この一句は、片山由美子氏も序文でとりあげている一句である。山越桂子さんは、句集名「墨の香」でもわかるように「長年、書にも打ち込んでこられた方である」とあり、書にかかわる作品をたくさんあげている。そのうちの一句である。「句意は明瞭で、それぞれ豊かな時間の広がりを感じさせる。」とあるように、情景がうかびあがってくるような一句だ。月が皓々と照らす座敷に坐ってこれから書にするための墨を心静かに磨る。静かだ。あるいは虫の音が聞こえてくるかもしれない。ゆっくりと墨をするという行為のみでこれほど「豊かな時間の広がり」を感じさせるのが不思議である。わたしは日常生活のなかで墨を磨るという行為はたぶん小学生以来したことがないのではないだろうか。硯も墨も持っていやしない。しかし、憧れる。墨を磨るという極めて単純にみえる行為が、流れ去っていく時間に拮抗していく、そんな人間の行為とさえおもえてくるのだ。月はそんな人間を取り囲む森羅万象である。星はうごき月も動いていく、星辰界はゆっくりと動いていく、そんななかで人は背筋ただしく、星辰界の円環的な動き対して、前後にゆっくりと体を動かす。そこには宇宙の一点としての我のみが存在する。ちょっとオーバーかもしれないが、こんな気持にさせてくれるのは良夜だからだ。 稲刈つてにはかに天の遠くなり こちらは田中春生氏が跋文でとりあげている一句である。「刈田の上に広がる秋晴の空。」と。気持のよい一句で稲の黄金色が残像として残り、それに対比するように空の青さがみえてくる一句だ。わたしはこの一句は、「空」ではなく「天」としたことによって、この一句が一句たり得たのではないかと思う。「空」だとしたらすこし月並みであるような。「天」とすることによって物理的な空ではなく、稲をそだててきた農耕民族の空に対する思いのようなものが託されているそんな「空」を思ったのだ。「天が遠くなった」という思いは、稲刈りを終えた人間のひとつの節目として思いだ、そんな感慨もあるのではないか、「天」は稲をそだて稲を刈り米をつくる人間の上につねにあり、人との精神的なつながりのようなものを生んできた。だから単なる「空」ではないのだろう、人は天を仰ぎながら農耕に励んできたのだ。そのことを直観した作者の一句なのではないかと思った。 方丈のおほかた隠れ糸桜 奈良にお住まいの山越さんは、奈良をたくさん詠んでいる。この句もどこかの寺院である。あるいは詳しい方はこの一句でどこかと推察できるのかもしれない。「方丈」という語彙がいい。「方丈の大庇より春の蝶」という高野素十の一句がすぐに思い浮かぶが、建物はちがってもあの「方丈」と同じ謂いである。寺院の一角と考えてよいと思うので、かなり大きな建物である。その建物がおおかた隠れてしまうような見事な糸桜なのである。美しい景だ。寺の建物を「方丈」とよぶやわらかな響き、そして糸桜の流れるような美しさ、シンプルな表現でありながら、景は豊饒である。まさに春爛漫の景色である。 句集『墨の香』は一九九五年から二〇一八年までの三二四句、主に「狩」誌掲載の中から収めた第一句集です。 夫が生前、「そろそろ句集だな」と気に掛けてくれていたこと、また「狩」の終刊が決まったことから、拙いながらも上梓することと致しました。(略) わずか十七音で表現できることの奥深さに、また五感すべてに訴えかける感動に魅了されて、気付けば俳句の虜になっていました。 収録句を整理する中で、一句一句から甦る鮮明な景色。ことに娘の結婚、孫の誕生。また度々の入院にも屈しなかった夫の姿、声までもが昨日のことのように思い出され、俳句の凄さを改めて実感しています。(略) 私がもう一つ身を入れているものに書の世界があり、その奥義を究め新しい息吹を感じたいと、一昨年より大学でのプログラム「書道探究」に取り組んで来ました。 書道・書写に携わっての長い年月、墨の香りと共にある日々の暮らしから、句集名「墨の香」を頂戴致しました。 「あとがき」を抜粋して紹介した。 本句集の装釘は君嶋真理子さん。 作者の山越桂子さんにはいろいろなこだわりがおありだった。 その一つ一つを本作り反映した造本となった。 タイトルの題簽は山越さんみずからによるもの。 カバーは白い用紙に見えるがきわめてあわいピンク色である。 表紙のクロスもご来社のときに決められた。 筆洗の勢いを感じさせる装画である。 花布は金、スピンは赤紫。 夫の忌の払ひ豊かに大文字 本句集の掉尾に一句のみで配された一句。 ご夫君への思いをこの一句に集約した。 書に俳句に、益々充実した日々を過ごされることを念じつつ、第一句集の完成をお祝いしたい。(序より) 墨の香の馥郁として緑夜かな 由美子 句集上梓の思いを語っていただいた。 ●一言 句集『墨の香』は私の第一句集です。思えば俳句を俳句を始めて二昔が過ぎてしまった今更ながらの句集ですが、上梓を気にしていた亡き夫への手土産ができたことを嬉しく思っています。 自筆のタイトルの墨文字にこだわっての装幀に私自身「知識があれば少しはスムーズに運ぶのに」と悔やむ中、親身に疑問にお答えくださり、アドバイスを頂いてとても感謝しております また、これまでに上梓された方々の刊行への深い思いに触れた気がして、改めて頂戴しました句集の重みを感じています。 試行錯誤を重ね、思いの叶った句集の仕上がりにホッとしているところです。 最後に鷹羽狩行先生に帯文を、片山由美子先生には序文を、田中春生先生には跋文を賜り、とても贅沢な、宝の一冊になりました。 有難うございました。 山越桂子さん。 山越桂子さま、ますますのご健吟をお祈りしております。
by fragie777
| 2022-07-15 20:10
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