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7月13日(水) 旧暦6月15日
出勤途上の朝の雀。 声がするとどうしてもその方向に目がいってしまう。 今日の日付の讀賣新聞の長谷川櫂氏による「四季」は、『原田喬全句集』より。 はへとりぐもをりてこの世の暗からず 原田 喬 鑑賞によると、長谷川櫂氏宅には、はえとりぐもが住み着いているらしい。ところで「はえとりぐも」ってどんな風体? と思ってネット上でその画像をみたところ、気持ち悪いような可愛いような、家にいたらちょっとぎょっとするような、でも、俳人・原田喬は、「この世の暗からず」と詠み、長谷川さんは、「なかなかかわいい生き物」と書いている。ということは、愛らしい蜘蛛でもあるようだ。蜘蛛の巣をはらずに餌をとる益虫であり、日常のなかでもよく出会う蜘蛛であるとのこと。わたしん家にもいるのかもしれないなあ。。。 新刊紹介をしたい。 四六判フランス装グラシン巻帯有り 188頁 二句組 著者の山下明宏(やました・あきひろ)さんは、昭和15年(1940)大阪・住吉区に生まれ、現在は大阪・住之江区にお住まいである。平成6年(1994)佐野美智氏より俳句の添削指導をうけたことにはじまり、平成7年(1995)「海門」入会、平成18年(2006)「海門」同人、平成19年(2007)「百鳥」入会、平成25年(2013)「百鳥」同人となる。俳人協会会員。本句集は平成7年(1995)から令和2年(2020)までの25年間の作品を収録した第1句集である。大串章主宰が序句を寄せている。 露けしや五百羅漢の中に座す 大串 章 大串主宰が二〇一七年の百鳥鍛錬会の折に彦根の天寧寺で作句されたものである。この鍛錬会では私が主宰の案内役をつとめ、彦根の吟行で主宰に同行させていただいた一期一会の機会として私の印象に残っており、主宰にお願いして序句にさせていただいた。 この句について山下明宏さんは上記のように「あとがき」に記す。 本句集の担当は、スタッフの文己さん。好きな句をあげたい。 苔の座にひんやり落ちし椿かな 退職の日が近づきぬ鰯雲 踏切や春の列車の長かりき 右手挙げ桜を愛づる車椅子 一列に登る五月の滑り台 先生と少し酒飲む良夜かな 先生と少し酒飲む良夜かな 「先生」とあるが、なんの先生かは記されていない。俳句の先生であるのか、それともかつての恩師であるのか、あるいは別の習い事の師であるのか、この句においては詮索は不要である。作者がどんな気持でいるかは、「良夜」という季語でいっぺんにわかる。つまりとても気持のよい美味しい酒を飲んでいるのだ。ただ、酒量はつつしみつつ、酔っ払って先生に失礼なことはあってはならないから、「少し酒飲む」ということになるのだが、この措辞がすごくいい。「先生」であっても、そこはけむたい存在ではなく、会えば酒を酌み交わしたくなる親愛なる「先生」なのだ。しかし、お互いもう若くはないのかもしれない、飲み過ぎは控え、それでも月をながめながらよもやま話をしながらゆっくりと酒を呑む。この「少し酒飲む」に、二人の間の心やすさや信頼感などがうかがわれ、よき時間が流れるのだ。酒を呑むことも楽しいが、すこしの酒でもそこに流れる時間が格別なのだ。多くを語らずとも良き時間がながれる、そんなもう若くない二人を月が照らしている。 鬼のまた妻にも棲みぬ豆を打つ これはわたしがまあって印をつけた一句である。まさか妻をめがけて豆を打ってしるのではないだろうと思うが、(そんなことをしたらさらに怖い?)この思いは口にださず、そう思いながら豆撒きをされているのだろう。しかし、こんな一句をつくってよろしいのかしらって思わず突っ込みをいれたくなるほど、奥さまの山下さんへの愛情はすばらしいのである、「あとがき」に「私が俳句に興味をいだいたのは、平成四年秋、単身赴任で長崎県の松浦市の紡績工場に勤務をしていた折、病気で入院中に妻が差し入れてくれた正岡子規の「病牀六尺」を読んだことにある。妻は、その後も、「花の大歳時記」(角川書店)や「日本の野鳥」、「日本の野草」、「日本の樹木」(山と溪谷社)を送付してくれ、自然の景観にも興味をもつようになった。」と記されており、俳人として今日があるのは、すべて奥さまのおかげなのである。しかし、上記の一句はそのときの正直な思いを俳句にされたのであろうし、俳句としては面白いと思う。本句集には妻を詠んだ句がところどころ出てくるのだが、さらに素晴らしいのはこの句集が妻を詠んだ一句でおわっていることである。「丹念に黴拭く妻の若きかな」と働く妻の若さをたたえている一句なのである。もうこれ以上なにもいうことはないご夫婦のよき関係である。「ときどきは無理言ふ妻や蕗の薹」という一句もあってわたしは好き。 厠にも歳月はあり暦吊る この句も好きである。本句集にはこの「厠」という語がほかにも二句でてくる。わたしにとっては「トイレ」というのが日常語であり、「厠」という言い方は余り聞かなくなったが、作者にとっては厠が親しい呼び名なのだろう。昭和の匂いのする「厠」のイメージは、やや古くさい今風のウォシュレットなどの設備のない住まいの端っこに暗くはばかるようにある場所、そんな感じだ。作者の家の厠がそうだというのではないけれど。厠は人間の排泄の場所として大切なところである。そこにも歳月というものがあるという認識を作者はもち、暦を吊るのである。カレンダーを置くのでなく、あくまで暦を吊るのである。歳月への認識をうながすのである。わたしなどはトイレと歳月の関係におもいをはせることはないが、こう言われてみれがもちろんその通りである。世の中デジタル化がすすみ、厠も歳月も吊り暦もすっ飛ばすように人間は生きつつある。作者は軽量化しつつある時と人のながれに、まるで楔をうちこみそれを堰き止めるかのように、厠を浮上させ歳月の重みを加え、暦をつるす。律儀に生きてこられた人間像が浮かび上がってくるのである。 戦死せる父を語らず飛花の母 「子を知らぬ父眠る島終戦忌」という父を詠んだ句もある。お父さまは戦死をされ、しかも、作者の存在をしらずに戦争ただ中で亡くなったのである。しかもその父について母は語ることをしない。桜吹雪のなかに立つ母を見ながら、父のことを語らない母を思っている。母の思い、子の思いがそれぞれある。作者の思いは父のことを息子に語らずにこれまで生きて来た母の心を思うのだが、いかんともし難いのである。父への断絶の思いをふかめながら桜がふりかかる母をただ黙ってみつめるほかないのだ。「飛花の母」がいさぎよくも切ない。 校正スタッフのみおさんは、 「普段着の母の遺影や鉦叩」の句が好きです。季語にしんみりしてしまいます。 と、母を詠んだ句を選んだ。 長生きをされたお母さまもやがて亡くなられたのだった。 翌年、大阪勤務となり、俳句を勉強したいと通信講座で佐野美智師の添削指導を一年間受けた。その折に「言葉は易く、思いは深く」を念頭に置いて作句に励んで行けば、「俳句は生涯の伴侶となりますよ」といただいた言葉がそのまま今に引き継がれてきた。 平成七年に茂里正治氏の「海門」を紹介され入会したが、残念ながら「海門」は平成十九年六月に終刊となった。丁度、現役の勤務を終えたので、これを機会に本格的に俳句を学ぼうと茂里師と師系を同じくする「百鳥」に入会し、大串章先生の指導を受けることになり、現在に至っている。 八十路に入り句歴が三十年近くなってきたのを機として、才能の乏しいものは、乏しいなりにこれまでの轍を自分で顧みるため句集をだしたいと思うようになり今回の発刊となった。 「あとがき」を抜粋して紹介。 「言葉は易く、思いは深く」は良き言葉ですね。 本句集の装釘は君嶋真理子さん。 フランス装である。 グラシン(薄紙卷)のフランス装は、表情がやさしく瀟洒である。 俳句との出会いが、第二の人生を感動のあるものにしてくれたので、句集のタイトルは「邂逅」とした。(あとがき) 本句集を上梓された山下明宏氏に、上梓後のお気持ちをうかがってみた。 句集刊行の所感 俳句で培った絆はお互いに心の許し合える強いものだと感じております。 今回の刊行に際しては森賀まりさんに大変お世話になり、改めて感謝申しあげます。森賀さんは「百鳥」の大阪句会の会長を務められている関係で、百鳥入会以降の長い間ご指導いただいているが、ご主人の田中裕明さんともつながりを感じております。 2009年「百鳥」の鍛錬会が奈良の明日香で開催された折に、森賀さんの運転されたワゴン車に大串主宰と同乗し、私は明日香のガイド役を任されておりました。その折に『田中裕明全句集』を森賀さんから購入させていただきました。その時以来この全句集を手元に置いて句づくりの参考にさせていただいております。 全句集の「夜の客人」の章に 爽やかに俳句の神に愛されて が掲載されていますが、俳句との出会いが神との出会いを感じさせるこの句から、私は今回の句集を俳句との出会い「邂逅」といたしました。 八十路に入り、集中力の持続が難しいことを感じる昨今ですが、二年がかりで何とか出版にこぎつけられて安堵しております。句集としてまとめるとどうしても自分史の色が濃くなってきます。私はサラリーマンの現役時代のまとめとして「出逢いと感動」と題して自分史を2006年に自費出版しましたので、今回の「邂逅」の刊行は第二の自分史の色彩が濃いかなと思わざるを得ませんが、ご容赦をお願いしたいと思っております。 出版作業については、大阪と東京との距離もあり、対面ではなく、メールと郵送を通じての作業となりましたが、担当の横尾文己さんには丁寧なご指導いただき、改めて感謝申し上げます。 山下明宏氏。 正座して傘寿迎ふる夏座敷 最後から二番目におかれた一句。 やはり律儀なお人柄がみえてくる一句である。
by fragie777
| 2022-07-13 19:50
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