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2月15日(火) 旧正月 旧暦1月15日
樹齢数百年の老樹ということであるが、いまなお樹勢旺盛ということ。 三鷹市の天然記念物と記されてあった。 角度をかえてみると怪獣みたいだ。 もう二月も半ばとなってしまった。 この間二月になったばかりなのに。 あんぱんのあんを見て食ふ二月かな 阿部青蛙 新刊紹介をしたい。 四六判ペーパーバックスタイル帯カバー付き 132頁 リトアニアの女性詩人サロメーヤ・ネリス(1904-1945)の物語詩である。 先に刊行したネリスの詩集『あさはやくに』と同じく木村文さんの訳による。 リトアニアの詩歌などはまだ日本ではほとんど訳されていない。 そういう意味では、木村文さんはその先駆者でもある。 本書は、リトアニアに伝わる民話もとにサロメーヤ・ネリスが物語詩に仕立てたもの。 物語は、水浴びを終えて帰り支度をする三姉妹のもとへ、へびの王が求婚にくるところからはじまる。 舞台は、主人公エグレの生まれ育った漁村、ヘビの王の住む海の底にある豪華絢爛の琥珀の城、夏至の祭りの短い夜の妖しく恐ろしい森、そして静かに凪いだバルト海……。 本書は、リトアニア語と日本語との対訳である。 日本語の目次を紹介すると、「エグレの約束」「連れ去り」「バルト海の精霊」「地上への郷愁」「父への誓い」「里帰り」「裏切り」『愛しの我が家」からなる。この目次をみると大筋がわかるのであるが、本書はあくまで詩を味わって欲しい。詩の形式で書かれているので散文よりも緊迫感がある。 へびの王がエグレをつれさるところを紹介しよう。 エグレの手を取り 遠くへと導く─ 虹の道が 深くへと続く。 海のうなりが止んだ、─ 太陽はもう見えない…… ここでは彼はなめくじではない! 醜いへびではない! 細くて蒼白で、 若くて、誇り高く、─ 彼の緑の髪は巻いている、─ その名はジルヴィナス。 ジルヴィナスが彼の名だ─ バルト海の精霊なのだ! 金のへびとともに歩き 鉄の波へと飛び込む。 ヘビは「バルト海の精霊」でありバルト海を支配する海の王だ。 やがてこの物語はかなしい結末をむかえることになる、ウォルト・ディズニーの世界のようにめでたしめでたしということにはならないのである。 どんな結末となるかは、この物語詩を是非読んでほしいと思う。 そしてそこには深い意味が隠されているのだ。 「あとがき」で木村文さんは、このように記している。 抜粋して紹介したい。 本書は、20世紀前半のリトアニア文学を代表する詩人サロメーヤ・ネリスが、リトアニアの民話を詩の形で語り直した作品です。原作の初版は1940年に出版されました。(略) 「へびの王妃エグレ」は、リトアニアの民話のうち、最も人々になじみのある話のひとつといえるでしょう。様々な人がそれぞれの「エグレ」を語っていますが、本書であるサロメーヤ・ネリス版が最も有名かつ美しいと言われており、リトアニアの自然の美しさや夏至の風習の妖しさが描かれています。 サロメーヤ・ネリス版の登場人物のうち、6人にだけ名前があります。まず、主人公のエグレ。彼女は漁村の大家族の末っ子です。そして、へび王のジルヴィナス。その名前は、物語の中で重要な意味を持っています。エグレとジルヴィナスには4人の子どもがいて、長男のアジュオラス、次男のウオシス、三男のベルジェーリス、そして末っ子の長女のドゥレブレです。エグレと子どもたちの名前はそれぞれ木の名前であり、リトアニア語でエグレ(Eglė)はモミの木(正確にはトウヒ)、アジュオラス(Ąžuolas)は楢、ウオシス(Uosis)はタモ(もしくはトネリコ)、ベルジェーリス(Berželis)は白樺、ドゥレブレ(Drebulė)はポプラ(正確にはヤマナラシ)のことです(訳文中では、正確さよりも木のイメージの浮かびやすさを優先しました)。登場人物の6人の名前は、リトアニアで実際によく名付けられている名前でもあります。 そして、木村文さんはこの物語詩が意味するものを以下のように記す。 この物語は、お伽話によくあるハッピーエンドではありません。しかし、圧倒的な悪も登場しません。ネリスがこの物語を通して描いているのは、全員が自らの正義に従った結果の不条理なのです。人間(エグレの生まれた漁村の家族)対自然(エグレが嫁いだへび王)という二項対立が成立しうる物語設定の中で、登場人物はみな立場に拘わらず身勝手で後先を考えていません。つまり、それぞれが一生懸命に生きて自身や家族のことしか見えなくなっているだけのことで、誰か他人を故意に傷つけようとしているわけではないのです。この物語の結末の不条理は、2020年3月以降のパンデミックの中に生きる我々にとって、少なからず心当たりのあるものではないでしょうか。 この物語詩がもつ現代的意義についての考察はいかがだろうか。 わたしはこの物語詩をおもしろく読んだ。簡単な話として終わらせていないところが、この物語詩に神秘性と奥行をあたえている。 この物語詩に興味をもってもらうために、もう一頁のみ紹介したい。 けたたましい稲妻が閃いた。─ 海が怒っている。薄暗く。 エグレは手をまっすぐ伸ばして、─ へびをその名前で呼んだ: ─ ジルヴィナスよ、ジルヴィナスよ、 もうお日さまは低くなった。─ ジルヴィナスよ、ジルヴィナスよ、─ 愛しの我が家はどこ? もし生きているのなら─ 白いミルクの泡を見せて! もし生きていないのなら─ 黒い血の泡を見せて! 終わりの安息もなく 海の深いところが鳴った。─ すると波という波が 遠くから押し寄せた。 本書の巻末に付記として、この物語詩が「能」として2022年にリトアニアにて公演される予定であると記されている。 2022年は、リトアニアの第二の都市カウナスで欧州文化首都が開催されます。その事業であるKaunas 2022において、地唄舞の花崎杜季女さんと義太夫の竹本越孝さん、鶴澤三寿々さんが、本書を基に、日本の伝統芸能の表現によるリトアニアの民話をモチーフとして制作した作品の公演をされます。公演は2022年4月下旬に、リトアニア国内の次の会場で行われる予定です。 ⃝カウナス応用科学大学芸術教育学部 ⃝カウナス文化センター ⃝トラカイ文化センター ⃝ドルスキニンカイ文化センター ⃝アリートゥス劇場 ****** 「舞台のあらすじ」も付記に記されている。 これについては、明日また、紹介したいと思う。 実現されればたいへんおもしろい試みでもある。 本書の装丁は君嶋真理子さん。 バルト海の荒々しさと、そこで流された血の色。 帯カバーをとると、深紅の赤の本となる。 扉。 1940年の刊行から今日まで、リトアニアで愛され続けてきた作品を、リトアニア語・日本語の対訳でお楽しみください。 定価2200円+税 この本の担当は文己さん。 北欧の神話のおどろおどろしさと、ネリスの文体がバランスよくマッチしている と感じました。 今回の本は、花崎流家元の花崎杜季女さんご公演とのコラボでもあります。 花崎杜季女さんはリトアニア友好協会の会員だそうです。 訳者の木村文さんは、刊行したら「へびの王妃エグレ」を引っ提げて、リトアニア友好都市の豊橋市、敦賀市、久慈市等を回って宣伝するつもり、とい うこと。 と文己さん。 木村文さんのエネルギッシュな行動力は目をみはるものがある。
by fragie777
| 2022-02-15 18:42
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