ふらんす堂編集日記 By YAMAOKA Kimiko

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人はだれかと、何かと、出会いつづけている。

7月15日(木) 盆・中元  旧暦6月6日



人はだれかと、何かと、出会いつづけている。_f0071480_17082449.jpg
繍線菊(しもつけ)の花。
夏の花である。


人はだれかと、何かと、出会いつづけている。_f0071480_17082613.jpg
少し濃い色のも咲いていた。

白もあるらしい。下野(しもつけ)の国ではじめて見つかったことによりこの名前がついたということであるが、下野草とはまったく別なものである、と歳時記にある。
この花を詠んだ句では古館曹人の句がいちばん好きであるが、このブログで何度も紹介したので、今日はちがう俳人の句を。


 しもつけの花を小雨にぬれて折る     成瀬正俊


この日もそうだったけれど、繍線菊の花をみるときって、たいてい小雨がふっているような気がする。
細かな雨が小さな花の粒のなかに消えて行く、しんみりとした思いにさせる花だ。







新刊紹介をしたい。



有住洋子著『陸の東、月の西』(りくのひがし、つきのにし)


人はだれかと、何かと、出会いつづけている。_f0071480_17084034.jpg

A5判正寸丸背フランス製本カバー装 160頁

著者の有住洋子(ありずみ・ようこ)さんの散文集である。有住洋子さんは、散文集をすでに二冊上梓され、ふらんす堂からは句集『残像』、句集『景色』の二冊の句集を上梓されている。個人誌「白い部屋」を年に数回発行をしておられる。この度の散文集は、この「白い部屋」に書き溜めたものを、一冊にしたものである。本書は二つの章にわかれ、1章は、さまざまな出会いをとおして触発されたことを中心に書き綴ってこられたものをまとめたもの。その出会いとは景色であったり表現行為であったり過去の記憶をよびさます何かであったりひとつの言葉であったり、有住洋子という人間の前に立ち現れたもの、彼女が手にとったもの、そこでたたずみ感応したものである。そこから言葉がつむぎだされその言葉がさらに触手をのばし、過去へあるいは未来へと領域をひろげつつ有住洋子を運んでいく。
本文より一節を引用して紹介したい。「あるときは橋」というタイトルのあるものから。

私は茫洋とした空間に惹かれる。冷たい風に向かって歩くのも、冬のきりりとした月を仰ぐのも好きだが、輪郭がおぼろで、先がどこまで続いているかわからないもの、絵でいうと余白が多いものは、もっと好きである。書物では奥行きのある物語。それで影についても考えるのだろう。影は、実像よりもずっと過去を覚えていて、それは現実よりも物語的なのに沈黙を好む、と思う。


本書に記されているものは、このようにあくまで有住洋子の心をとらえたものであり、そこで自由に筆をはしらせる。あるいみで渉猟の広さは圧倒的である。現代美術にはじまり音楽、詩、写真、小説、古典芸能等々貪欲なまでに好きなものを追求していく。俳人である有住洋子は、自身の書く散文に俳句や短歌あるいは詩の一節をおく、散文の平面にピリオドを打つようにそれらをおく。そのおかれた俳句によって散文が呼び起こされ、重層的な旋律にもうひとつの和音がくわえられて複雑な音を出すかのような効果がもたらされるのだ。
たとえば、「削られた時間」というタイトルの散文を抜粋して紹介してみたい。

〝生〟と〝死〟、その間にたゆたうものに思いを寄せているときに聴いたからかもしれないが、バルトークのヴァイオリン協奏曲第一番は、〝生〟よりも〝死〟に近いと思う。曲の中で〝死〟はやさしく聴く人に近づき、その辺りを漂いはじめる。曲に包まれるかと思うと、離れている。ときに柔らかく、ときに濃く、あるいはごく淡く。曲を聴くには老女になるのが相応しいだろう。聴いているうちに、彼女の過去がしばらく甦るが、やがてそれも退いてゆき、その後の揺曳と余韻がぴったりなのである。流れている第一楽章は八分四十一秒である。これを短いと取るか、長いと思うか。老いた身にこの時間はちょうどよいかもしれない。長いのはときに耐えがたい。
(略)

 蝶に会ひ人に会ひ又蝶に会ふ     深見けん二

バルトークの「二つの肖像」の一つ、「理想的なもの」と邦題されたヴァイオリンの曲は、ラヒリのいう「人生よりも本物に思える夢」を思い起こさせる。霧、靄、けむり、微かな虹を感じるこの曲が生まれたきっかけは、ある人への失意が大きく関係しているらしいが、その奥に広がる世界は、私情をはるかに超えている。この曲は、先に触れたヴァイオリン協奏曲第一番第一楽章の原型ともいわれる。エルネスト・アンセルメの1964年の指揮では、この長さは十分十三秒だった。

第2章では、おもに、さまざまな俳人とその俳句が登場する。時には詩の一節であったり短歌であることもある。その登場の仕方は、やはり有住洋子の散文に、詩歌が点綴するという形である。そしてそれは有住洋子流のやり方(?)における作品論なのである。彼女の散文世界のなかにおかれることによって、その詩句がある緊張をもって立ち上がってくる。散文の磁場の磁力を引き受けながらも、それ自体でありつづけようとする力、その拮抗を感じながら読者は読みすすむことになる。
抜粋して紹介したい。「蒸発する断面」と題したものより抜粋して紹介したい。ここでは正木ゆう子の俳句がとりあげられている。

 やがてわが真中を通る雪解川    ゆう子

アジアのタクラマカン砂漠の楼蘭の墓域は砂に埋もれている。舟形をした柩の一つにミイラ化した少女が眠っているが、あのあたりでは、水は彷徨う。この表現は、何と明確にその現象を言い当てていることか。湖は現れたと思うと消え、それから何百年ののちに、別のところに現れる。そのあいだ、どこに存在しているのか、だれも知らない。
タクラマカン砂漠のようなところではないが、ある時期暮した街を外れてしばらく行くと、砂漠と呼ばれる荒野があった。帰国後、祖母と過ごす時間がときどきあったが、そのときなぜか砂漠の夢を見た。ナミブ砂漠のように、砂がとても細かく、風が吹くと霧のように流れた。それでも夢の中では息苦しいことはなく、むしろうっとりと流れる砂を見つめていた。祖母は山の中腹に住んでいたから、目覚めると緑濃い山々が見えた。砂の霧の風景の断面に、祖母の山が見えた。祖母の山の風景の断面に、砂漠が現れた。タクラマカン砂漠に今もあるという湖は、何百年、あるいは何千年かに一度現れ、また消える。この現象は、湖の不揮発性メモリーだろうか。



「あとがき」の一節を紹介しておきたい。


ここに集めたものは、2014年から2020年までに「白い部屋」という個人誌に書き継いできた文を基にしている。そこには毎号一人のゲストの作品を載せるページがある。ゲストは生者も死者もいるが、その作品を入口としてはじまる鑑賞を、私は自由に書いてきた。その次のページはもっと自由に、何の制限もなく書いた。絵や写真、本、彫刻、町、河が流れるように出てくる。この二つのページを加筆、書き直しをした。違う視点が入り込み、書下ろしといっていいほどのものもあった。


本書を刊行するにあたっては、かなりの時間を要した。
最初におくっていただいたコピー原稿を拝読し、それから何回かにおけるやりとりがあった。この作業ははわたしには根を詰めるものであったが、その一方ある意味で編集者冥利につきるものだった。
原稿を読みながら、レイアウトや本の大きさなどのイメージが出来上がっていった。
著者の有住さんは、版元にいっさい任せてくださった。空間をいかしたものにしたい。美しいものにこだわる著者であるので、美しい一冊にしたい。そんな思いを抱きながら編集作業はすすんでいった。校正者の綿密な出典調べも心強かった。
一冊にできあがったとき、有住さんが喜んでくださったのが嬉しかったが、わたしたちも感慨深くこの一冊を手にしたのだった。



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装釘は和兎さん。

この挿画は、16世紀の画家コックの「聖クリストフォロス」と題したものである。
エッチングである。

和兎さんよりのいくつかの提案のなかで、有住さんがとくにこれを気にいられたのだった。


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タイトルや著者名ほか文字はすべて金箔押し。


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裏側にも「聖クリストフォロス」を配した。
解説によれば、聖クリストフォロスは、旅人の守護聖人。中世後期、この巨人の画像は格別の信望を集め、聖人の画像を見た人は、その日に限り急死するおそれはないと保証された。という。



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見返しいったいにも挿画を印刷。


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カバーととった表紙。
この本はフランス装であるが、丸背のフランス装というはじめての試み。
製本屋さんが、ある日、「丸背のフランス装ができるようになりました」と言って製本見本をもってきてくれた時から、丸背のフランス装で作りたかったものだ。


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折り返しの部分。


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扉。


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やはり聖人を。


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本文・目次。



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本文。


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巻末の参考文献。


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天アンカット。




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背の内側の青くみえるところはクーターの部分。
あざやかな青がひそんでいる。


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この本を書いているあいだ、書くきっかけや動機、刺激を与えてくれた人やものたちのことを、たびたび思い出した。ある人は、きっかけを与えたとは思わなかっただろう。あるものは、ただそこにあるだけだった。だがそれが私にとっては出会いだった。この世にまったく一人では生きてゆけないように(たとえ無人島にいたとしても)、人はだれかと、何かと、出会いつづけている。


「あとがき」を紹介した。


有住さんに上梓後のご感想をうかがってみた。

この一冊が生まれたときは、静かですが、計り知れない喜びを感じました。
その上に、何か不思議な感覚もありました。
それが何なのか、まだよくわかりません。
基になった小誌を整理し、書き直し、たくさんの訂正や推敲を経るうちに、どこか予想もしていなかった地点に着いた、という感覚があるからでしょうか。
どんな方に読んで欲しいですか。
固定観念や社会的地位などに捉われず、読んでくださる方々に、お届けしたい。
俳句、短歌、詩の区別なく、文学を、芸術を愛する方々に、お届けしたいです。
これからの展望はいかがですか。
小誌に連載をしているものを一冊にしたい。
物語の束もあるので、それも一冊にしたいです。

表現することにあくまでも情熱的な意欲をもっておられる有住洋子さんである。





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年数回発行しておられる個人志「白い部屋」










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by fragie777 | 2021-07-15 19:41 | Comments(0)


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