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7月9日(金) 旧暦5月30日
今日はこの世田谷線にのって出かけたのである。 世田谷線は、下高井戸と三軒茶屋をむすぶ私鉄であり、その名のとおり世田谷区の住宅街をトコトコとはしる二両編成の電車である。 ときどきこの電車に乗ることがあるのだが、好きな電車である。 かつては上町には安東次男氏が、宮坂には俳人の青柳志解樹氏が住んでおられ、何度かうかがったこともあったがもうすでに鬼籍の人である。 わたしが降りた若林という街にはカンナが咲いていた。 どうどうたる濡れっぷりである。 用事をすませ、下高井戸の駅で世田谷線から京王線に乗り換えようとしたとき、ひとりの女性に声をかけられた。 [yamaokaさん?」ってとても遠慮がちに。 わたしはその時iPhoneを夢中で覗いていた。 声がしたほうをみると、覚えのあるお顔だ。 「あらあ、ええっと」と、ほらすぐに名前が思い出せないってことあるでしょ。わかってるんだけど。。。 「遠藤です」 「ああ、遠藤由樹子さん!」 俳人の遠藤由樹子さんだった。 すこし前に上梓された句集『寝息と梟』を送っていただいたばかりだった。 「あらあ、この辺でしたっけ、お住まい」と尋ねると、 「三軒茶屋なんです。今日は調布の市民会館で俳句の教室があって、行くところなんです」 「ご指導をしておられるんですね。じゃ、途中までご一緒に」ということで、仙川につくまでに、すこしお喋りをしたのだった。 遠藤由樹子さんのお住まいは三軒茶屋で、しかも有馬朗人氏のお家のすぐそばであるということ。 「駅にいくには必ず有馬先生のお家の前を通って行くんです。散歩をしている有馬先生によくお会いしました」 「お会いすると必ず声をかけてくださって、励ましていただきました」と遠藤さん。 有馬先生はいつも明るくてニコニコとされていて、わたしも子どもを出産した時くらいからよく存知上げていた。会うと「お子さん元気」と声をかけていただいたことなどお話して、ひとしきり有馬先生のお話をしたのだった。 そして遠藤由樹子さんの師であられた鍵和田秞子先生のことなど。 遠藤さんにとっては言葉につくせないほどの思いのある師である。 わたしにとっても、鍵和田先生が句集『未来図』で俳人協会新人賞を受賞されたときからのご縁であり『全句集』をおつくりさせていただいた方だ。 しみじみとおしゃべりをしながらふっと思った。 こうして亡き人を語るとき、その亡き人はわたしたちの間にいきいきと蘇る。 有馬先生も、鍵和田先生も、遠藤さんとわたしがみつめる先になつかしい笑顔をみせておられる。ほんの短い時間であったけれどかけがえいのない時間を共有したように思ったのだった。 仙川駅についた。 「yamaokaさん、お元気で」と遠藤さん。 「今日はお声をかけてくださってありがとう。お会い出来て嬉しかった。コロナが明けたら、仙川に遊びにいらして。」 「ええ、是非に」 そう言ってわたしたちはお別れしたのだった。 午後のすでに夕方ちかくなってのこと、 ゲラを読んでいるわたしにスタッフのPさんが話しかける。 「きえぎわのせんこうはなびのやなぎかな、さて誰の句でしょう?」って。 「なになに、う~ん。もういっぺん言ってみて。現代俳人じゃないな。明治か大正期の俳人の句じゃない」 「おお、そうです」 「うーんと、男性でしょ」 「そう」 「花火と柳、かるい季重なりがあるから「ホトトギス」系じゃない」 「そう!」 何人かの俳人が頭ん中をよぎる。そして 「花蓑?」っておそるおそる言うと、 「アッタリー!! すごい、いい推理でしたよ」とPさん。 「どこで見たのその句?」 「歳時記カレンダーに書いてありました」ということ。 「だけどさ、ひょっとしたら伊藤敬子著『鈴木花蓑の百句』に入ってんじゃないの。だから当てたのかもしれない。憶えてないけど。」と私。 で、ゲラを読み終えてから、書棚にいって『花蓑の百句』をとりだした。初句索引でしらべたところ、 あった……。 「なあんだ、やっぱり収録されていたわ、ということは物覚えのわるいわたしの頭でも憶えていたのかなあ、記憶はないんだけど」とPさんに言ったのだった。 ということで、この句と鑑賞を紹介しましょう。 消えぎはの線香花火の柳かな 昭和五年 客観写生の手法で、即物具象を貫いた花蓑であったが、句会の後など遊びごころから会員と線香花火を楽しんだ折の作品であろう。 私もかつて線香花火を楽しんだことがあるが、点火してすぐ爆ぜる花火である。ぱちぱちときれいにまっすぐな火花を飛ばすが、最後になると威勢がおとろえて火花はやわらかな弧を描くようになり火玉が落ちて終わる。その終わり頃の曲線がちょうど柳の枝振りのように見える、それを「柳かな」と言い留めたのである。 本書の後半に収録された鈴木花蓑の作品であったということを申し上げておきたい。 この本の製作にあたってはいろいろと踏み込んで編集をしたこともあって、そういう意味からも花蓑の句が記憶の底にしずんでいたのかもしれない。 そうであっても当てられたのはちょっと嬉しい。 明日から休日。 一日でもいいから晴れてくれないかなあ。。。 花石榴
by fragie777
| 2021-07-09 18:52
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