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5月25日(火) 旧暦4月14日
仙川駅前の紫陽花。 昨日行った皮膚科で「蕁麻疹」の薬を調合してもらって昨夜にそれを飲んだのだが、よく効いてかゆみは治まったが、朝から眠くて仕方がない。薬局で「このお薬は朝眠くなるかもしれませんよ」ということだったが、こんなに眠いとは。。しかし、痒いのと眠いのとどっちを我慢するかと言われれば、まだ眠いほうがいいかもしれない。 句集『シーグラス』を上梓された金子敦さんが、メールをくださった。 俳人の岡田耕治さんが、句集をYouTubeにて講評されているというのである。 こういう批評の仕方もあるのかと、びっくりした。 「香天」主宰の岡田耕治さんが、句集『シーグラス』の鑑賞を、you tubeでアップしてくださいました! ちなみに、岡田耕治さんは大阪教育大学の特任教授です。動画による鑑賞というのは初めてです。びっくり~! 温かく心のこもったお言葉に、胸がいっぱいになりました。 と金子敦さん。 わたしも昼休みに拝見したのであるが、一句一句それは丁寧に鑑賞されている。 新刊紹介をしたい。 著者の上田睦子(うえだ・むつこ)さんは、1930年東京生まれ、俳誌「寒雷」で加藤楸邨に師事し、俳句を学ぶ。1981年に第五回寒雷集賞を受賞されている。フランス文学者であり、訳書も何冊か刊行されている。青山学院大学で教鞭をとられているときに俳人かつ詩人の平井照敏に出会い、「寒雷」の楸邨へと導かれる。本書は、おもに「寒雷」に収録した散文を中心にそれに同人誌「島」に掲載したものなどを加えた俳句と散文の一書である。ただし、俳句と散文が別々に収録されているものではなく、俳句のかたまりが散文と合わせて一つのユニットになるように案配されている。それについて、上田睦子さんは、「あとがき」で、「定型短詩と散文が筆者のなかでいかに互いを必要としているかが現れ出た形になった」と書き、俳人の句文集としては斬新な試みともなった。本書は、一人の女性の俳句をめぐる思索の書であり、しかし、俳句についての思索であるというよりも俳句という詩型をその根底にすえた人間の思索の書というべきか。わたしは上田睦子さんの既刊の第1句集『風の歌』(牧羊社1986年)、第2句集『木が歩きくる』(ふらんす堂2004年)を手掛けたご縁があって、この度の刊行となった。 第1章の「句と文」より、最初の「くづるる」と題された章を抜粋で紹介したい。まず俳句が10句ほどおかれて散文がある。 うす衣の耳しなやかに動くべし くづれては貌くづれては鳥わたる 風立ちてジャコメッティと薄どち 古物屋の壺立つ昼や曼珠沙華 あら梅雨に直面をもて舞ひをさむ ひぐらしや掌を俎にひたと置く 朴の木あり月ありぬ影ひとすぢ 春雷や鯉のごとくに聞き了へぬ 流氷へひとりの帽はとがり佇つ 実のひとつ落ちオレンジの木のありぬ 見ること 「見るとは距離をおいて持つこと……」という。距離をおき、はなれたところで持つとは何という困難な作業であろう。手を垂れ、しかもひらいたままで対象を持たねばならぬ。何故なら手に触れ、胸に抱きとることによる所有は、おそらくその影が肌におちるほどの触れあいにしろ、必ずや滅びにいたるからである。見る行為は、対象を所有したいという激しい欲望、と同時に予め所有に絶望し、所有を否定する決意をふくんでいなければならぬ。決意するまでもない、人間が何ものかを所有するなどとは幻想にすぎないのだから。そしてこれはものと人間の関係のみならず、人間と人間の関係のあるべき姿と私には思われるのだ。すぐれた芸術作品に接して最も感動するのは、対象と作者は共にほろぶべきものとしてあり、互いに絶対的な溝、否定によってへだてられながら、なおかつ作者の密度の濃い激しい視線が対象に注がれている時なのである。そこで私は作者のいわば切ない視線に触れるのである。 このあと「歩くこと」という見出しのもとに散文がつづくのである。自選10句として提出された句群、そこに寄せた散文は著者の物と人への認識の考察ともいぶべき独自な哲学が展開される、そしてそのことはわたしの内面に食いこんできてわたしをはげしく揺さぶるものだ。 どうやらこの散文は、「わが作句法」というテーマでそれぞれの「寒雷」の俳人たちへ要求されたものらしい。ここには俳句の常套的な思考方法は存在せず、上田睦子の認識にもとづいた言葉によってまったく独自に展開されていいく。 第1章は、このように句と散文とのユニットによって展開していくのであるが、第2章以降について、上田睦子さんは「あとがき」にこのように書く。 第二章以降は自作の俳句をほぼ含まない散文を収録した。第二章に師・加藤楸邨をはじめとした先人の俳句を論じたもの、第三章に俳句について考えてきたこと、そして最終章には時、生きること、人についての考察や雑感など、様々なおりに書き溜めた文章を集めた。俳句作品の占める割合は散文に比べ小さいが、本書はやはり俳句の書として出来上がったと思う。 第2章などの俳人論もまた面白い。楸邨について書かれた文章を抜粋して紹介したい。 夢を出て真青な冬の竹の中 楸邨 (略)上五、夢を出て現実に覚めたのではなく、更なる夢に覚めたのである。冬の竹の色は実に青くて美しい。しかしこれは竹林の中であろうか? それとも一本の竹の中? 日本語では名詞は単数でも複数でも同じ形である。ここはおそらく複数。寒冷の竹林に楸邨が一人佇む。垂直に立つ真青な竹林のなかに。しかしもしこの竹が単数ならば楸邨はその竹の中に垂直に極めて細く立つ。いずれにしろこれが楸邨の切実な現実なのである。絶対の瞬間であり、永遠でもある。楸邨はこうした場に何時の過去かに在ったのだろう。それが楸邨の心底で熟成したのである。時が働く。(略) 楸邨は、俳句は人間の問題だという。人間としての要請に立って考えることだという。個としての楸邨は竹のようにまっすぐに、足は地下に根をはって立つ。そんな姿勢の楸邨は二つの視線に支えられ、空間的にも時間的にも私たちが認識する次元を瞬間的に越えたのだろうか。時間の不思議。(略) 最終章は、「ふしぎ、命、根」とあり「生きること、人についての考察や雑感」と「あとがき」にある。この賞には上田睦子さんのホスピスヴォランティアなどについても小さな声で語られている。ほぼ10年にわたって週一度、日赤医療センターの漢和ケア病棟で働いてこられたのである。そこより印象的だった一文を紹介したい。 桜町のホスピスでは研修のとき、「風のように」と言われました。これは、風のように病者に関われということ、つまり病者に過度な執着をもたないことと、外部のさわやかな空気をホスピスに吹きいれるようにということだと思います。これは正しい関わり方だとは分かりますが、何人かの病者には特別な共感と感謝を覚えざるをえませんでした。 こんな風に語りながら上田睦子さんは出会った病人の方で印象的だった方について書いていく。 本章でいえば、わたしは「穴(または管)の幻想」が面白かった。幼少期からの「穴」への執着である。白い百合を見るとメスをいれたくなってしまう衝動をおさえきれないという。「前の百合を球根から掘り上げ、茎にそってメスをいれねばならない。おそらく開かれた緑の真直ぐな茎が球根までみづみづと伸びているだけだろう。」そして、 植物ではない私の体内に穴(管)がある! それは柔らかで所々が袋のようにふくらんだ形状であり、その袋たちは、それぞれ、口から入ってきたものを消化し、吸収し、その滓が出口から出ていくという、絶妙な穴(管)である。人間の消化管は「体内の外」であるということは以前から聞き知っていたが、街の道路を通行人や乗物が通過するように極めて個人的なこの穴を外部のものが、その様態を順次に変えながら通っているという、この外をこの体が内包することが私が三次元であることの証しであるとは、当然とはいえまことに新鮮なイメージであった。 と書き記す。 俳句作品の占める割合は散文に比べ小さいが、本書はやはり俳句の書として出来上がったと思う。 「あとがき」の言葉である。圧倒的に多い散文である。しかし、上田さんは、「俳句の書として出来上がった」と書く。 上田睦子の身体にある俳句という核を中心にして、思索し続けた日々を記したものであるとわたしは思う。 以下、たくさんの句を紹介したいところであるが、好きな句をいくつか紹介したい。 花みづき死者のてのひら置きざりに 海桐(とべら)さくは夫に向きたるわが墓標 五月の指がまつさをな港をわたる 遠きバッハわが結氷は足裏より 老い母のもたぬくらがり実の芙蓉 流氷へひとりの帽はとがり佇つ ごろり寒卵わが前のふいの言葉よ ひぐらしや掌を俎にひたと置く すでにはるか少女の髪の泳ぎゆく 本書の装釘は和兎さんであるが、上田睦子さんをはじめそのご家族のご意向を尊重するものとなった。 装画を寄せられたのは、お孫さんのアンドロ上田グレンさん。 パリにすむご長女のお子さんである。 色のグレデーションにこだわられた。 カバーをとったところ。 扉。 目次 ![]() 花切れは金、栞紐は淡いブルー。 雪ふりつむ書なき書架にはひろびろと 牡蠣は美しい。「上部の天空は下部の天に垂れ下がり、そこにはもはや沼だけが、匂いからも見た目にもまるで潮のように満ちひきしている。」下北沢の市場の貝屋の主人が掌の上でこじあけた牡蠣は、有限の空間にまさに海のうねりを引き込んでいた。(牡蠣の内部で時がうねる/序にかえて) CDを聴くときはもっぱらこのBOSE(ボーズ)で聴く。 もう何十年とわが家にあるやつだ。 低音がよくひびく。 上にあるCDはラックにもどさずどんどん積み重ねて、アチャアー!!
by fragie777
| 2021-05-25 19:10
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