ふらんす堂編集日記 By YAMAOKA Kimiko

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ジェンダーの枠を超えた第一人者!?

5月17日(月)   旧暦4月6日


ジェンダーの枠を超えた第一人者!?_f0071480_17153805.jpg

卯の花。
八重のものもきれいである。



ジェンダーの枠を超えた第一人者!?_f0071480_17154124.jpg

これは葭鴨(ヨシガモ)。
仙川で久しぶりに見た。
昨年は一羽のみよくみかけたのであるが、ことしになって姿がきえ、どうしたものかと思っていたところだった。
帰らずに残り鴨となっているのか。
昨年も今頃から見かけたのだった。
真鴨くらいの大きさで、頭部の色がさまざまな色をもち、美しい鴨である。


ジェンダーの枠を超えた第一人者!?_f0071480_17154360.jpg

元気だったのが嬉しい。。。
日本画に登場するような鴨だ。






新刊紹介をしたい。


金子敦句集『シーグラス』(しーぐらす)


ジェンダーの枠を超えた第一人者!?_f0071480_17160257.jpg

四六判ソフトカバー装帯あり 198頁 二句組

俳人・金子敦(かねこ・あつし)さんの第6句集である。1959年生まれの金子敦さんは、すでに5冊の句集を上梓しておられる。第1句集『猫』(1996)、第2句集『砂糖壺』(2004)、第3句集『冬夕焼』(2008)、第4句集『乗船券』(2012)、第5句集『音符』(2017)とコンスタントに句集を上梓され、この度の第6句集の刊行となった。1997年に「俳壇賞」を受賞されている。「出航」会員、俳人協会会員。本句集には俳人の仲寒蝉さんが栞を寄せている。栞によると、金子敦さんと仲寒蝉さんは、Facebookともだちであるということだ。栞のタイトルは「美しい渚」。前半の部分を紹介したい。

 ゆく夏の光閉ぢ込めシーグラス

句集名はこの句から取られた。最初に聞いたとき「シーグラスって何?」が正直な感想だった。調べてみるとガラス片が波に削られて角が取れ風合いもすりガラスのようになったものらしい。金子さんが友人からもらったとFBにアップしている写真を見るとなかなか美しく、蒐集の対象となっているのも頷ける。この句にある通りその中に光が閉じ込められているかのような魅力を持つ。
『シーグラス』を読み通してこんなに「名は体を表わす」と言うに適う句集はないと感じた。実に様々な色がある。美しいけれども放つ光は原色でなく年月を経た渋みが加わっている。丸みを帯びて誰の心にも寛ぎと和みを届けてくれる。
金子さんとはFB友達だ。彼は私より少しだけ若いはずだが俳句の世界では十年も先輩である。しかも『シーグラス』は『猫』『砂糖壺』『冬夕焼』『乗船券』『音符』に続く第六句集。人生の半分以上を俳句と関わってきて扱う題材も自家薬籠中の物となり句風も確立されている。それでも色々と新しい発見があるのが最新句集のいいところ。それではこの美しい句集の渚を散策してみよう。

わたしも仲寒蝉さん同様、「シーグラスって何?」だった。インターネットなどで調べてはじめて知ったのだった。そしてそれを知ったとたん、「なんて金子敦さんらしいのでしょう」って思ったのだった。やさしい透明感があって、きれいな色彩、そしてやわらかな表情をしていて繊細である。まさに金子敦さんそのもの。金子さんって1959年生まれだから既に還暦を超えているのであるけれど、年齢の垢がすこしもつかない人だ。少年そのままにご自身の世界を大事にされて来た稀有な方だ。
仲寒蝉さんは、本句集を金子敦さんを形作っているこだわり(まさにそれが金子敦の世界である)をあげながらそのテーマに沿って俳句を鑑賞していく。食べ物、猫、音楽、写真、映画、演劇、子ども、海などなど。「海」の句を一句紹介したい。

 初空へ龍のかたちの波しぶき

金子さんは横浜に生まれ現在も横浜に住んでいる。海は日常的に見たり訪れたりしてきただけに、細かい写生から幻想的な俳句までその多様さ、守備範囲の広さには舌を巻く。巻頭の初空の句はスケールが大きく句集全体の序章として真に相応しい。

 白猫のまばたきのごと梅ひらく
 ゴージャスな指輪の並ぶ夜店かな
 小豆粒二つが目玉雪うさぎ
 聖書開くやうに北窓開きけり
 おのづから水葬となる海月かな
 月光を浴び人間になりすます

これは担当の文己さんの好きな句である。この句にたいして、金子さんのお返事。

ゴージャスな指輪の句、自選10句に入れた方がよかったかなぁ~(笑)自選10句って、その日の気分とか体調などで、全く違ってきますね。

この句、金子さんの童心がとらえた「ゴージャス」である。夜店の指輪はガラス玉でできていて子ども向けにつくられているもの。いっぱしの大人の女性は振り向きもしないだろう。少女が親にねだってかって貰うものだ。少年だっていいけど。しかし、男性(おとこせい)にこだわっている少年にはなんの魅力もないものである。金子敦という人は、性差や年齢や現実非現実などの境界をはるばると超えてしまう俳人である。先日、お電話をくださった。「すごくいい句集ができて嬉しくて」とおっしゃってすこしおしゃべりをしたのだった。その時に、「yamaokaさん、覚えてます? 以前ぼくのこと、ジェンダーの枠を超えた第一人者って言ってくださったんですよ。」「ええっ、わたしそんなうまいこといいました?」って思わず聞き返してしまったのだけど、そういえば言ったような気がする。句集を読んでそう思ったのだ。男性(おとこせい)にこだわる人であったらこういう俳句は絶対つくらないだろうな、という俳句をいともしなやかに作ってみせる、それは今までの俳人にはいないとおもったのだ。金子さん曰く、「第1人者って言われたことがぼく嬉しくて、フフフ」。そうか、確かに、そうだよな。ということでこのブログでふたたびそのことを書いておこうって思った次第である。そう、金子敦は、ジェンダーの枠を超えて俳句を詠んでみせた第一人者である。って。(太字にしてしまった)

 ネイルアート見せてもらひぬ星祭

この句など、まさにそれを感じる一句である。なんとも可愛らしい一句である。60歳を超えんとする男性が作った句とは一見思えない一句である。(そりゃ、わたしの偏見か……)金子さんにとっては自然体の一句だ。あらゆるマッチョ性を廃した世界が金子敦の俳句世界であり、それはジェンダーのみならず、境界というものがない世界と言ってもいいかもしれない。童心の眼差し、幻想や夢や記憶や金子敦をつくってきたものに対するこだわり、それを無理なく五七五の定型にしてみせる。その世界は極めて繊細だ。現実に彼をとりまくものへの観察の眼も尋常ではない。
 
 ういらうにさみどりの艶さへづれり
 でで虫の殻の微かな傷に風
 秋蝶に鋭き崖のやうな翳
 まだ僕は海月の骨を探してる
 一つづつ団栗洗ふぐりとぐら
 下闇を出て黒猫に戻りけり
 ひざまづき挿してもらひぬ赤い羽根

この一句、金子敦さんの優しさが滲み出ている。子どもに赤い羽根を挿して貰っているのだろう。人と世界にたいする目線の低さ、居丈高な権威主義とは無縁なそして美しいものをこよなく愛する金子敦さんがいる。

 聖書開くやうに北窓開きけり

文己さんもあげていたけれど、わたしも好きな一句であり、金子さんの俳句の巧さを思わせる一句だ。聖書を句材にするのはなかなか難しい。それを「北窓開く」という季語に取り合わせたところが並大抵な技ではないと思う。こんな風にどの句もきわめて自然体の顔をして読者の心にやさしく飛び込んでくるけれど、それは金子さんの俳句作家としての力量のなせる技であると思う。


「新緑の光を弾く譜面台 金子敦」という句が、東京書籍株式会社の中学校国語教科書『新しい国語』に採用されることに決まった。二〇二一年四月から四年間にわたり掲載される予定。誠に光栄なことである。それを記念して、同じ時期に句集を出しておきたいと思った。 


「あとがき」の一部を抜粋して紹介した。
このことが決まったとき、お電話だったかしら、とても嬉しそうに報告をしていただいたことを思いだした。




本句集の装釘は、君嶋真理子さん。


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「シーグラス」というタイトルが持っている冷たさと透明感がよく出ているのではないかと思う。


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「Sea glass」という文字はパール箔をつかった。


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帯は光沢があり透明感があるもの。


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表紙の用紙は、砂を意識させるようなもの。

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見返しの青とで、金子敦さんの好きな「海」を思わせる。


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扉。


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栞は、淡いブルー。



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これからも、自由に楽しく句作を続けていくことが出来れば幸せである。(あとがき)



 逃水を追ふ逃水のやうな吾

不思議な一句である。
好きな一句である。
「逃げ水」という難しい季語をつかって、自身のことを詠んだ。こんな風にご自身をおもっておられるのだろうか、金子敦さんは。
昨日このブログで詩人小笠原鳥類さんが紹介しておられたボルヘスのことば「俳句は人類を救う」ものであるとしたら、金子敦さんのような心の位相において、まさにその言葉は生きてくるように思ったのだった。ヒステリックなゴシック性とは無縁な、それは田中裕明さんにも通じるような、そんな心の位相。





金子敦さんが丁寧なお手紙をくださった。その一部より。

ふらんす堂さんの装丁は、美しいばかりではなく、気品が感じられるところがと ても好きです。今回も、青を基調とした色合いが「海」のイメージぴったりで す。表紙カバー左側の「sea glass」が銀箔のようになっていて、角度を変えて 見るとキラキラ光るところもお気に入りです。このキラキラ感はシーグラスその ものですね!






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金子敦さん。




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愛猫・すずちゃん。



それと、刊行日を「2021年4月21日」にしていただいたことも、とても嬉しかっ たです!この日は、愛猫「すず」の6歳の誕生日なのです。6歳の誕生日に、第6 句集! めでたい~♪ すずも大喜びです。


この「すず」という名前は、「金子みすず」の「すず」であるとのこと。金子さん曰く、「ほんとうは、みすずって付けたかったのですけど、それではあまりにもおこがましいと思って」。
 

どこまでも可愛らしいお方である。



(今日は太字なども使ってみました。)









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お気に入りのテレビに見入るわが愛猫・日向子。
日曜の朝8時45分よりNHKでやる番組「さわやか自然百景」である。
このテーマ曲が聞こえるやいなや、こうしてテレビの前に行き食い入るように見るのである。





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by fragie777 | 2021-05-17 19:51 | Comments(2)
Commented by 金子敦 at 2021-05-19 09:20
句集『シーグラス』の鑑賞文を書いていただき、どうもありがとうございます! 仲寒蝉さんに書いていただいた栞文と同じように、溢れる愛が感じられました。「ジェンダーの枠を超えた第一人者」という肩書は、ちょっと気恥しいですが、とても嬉しいです。何といっても「第一人者」という言葉の響きがいいですね!(笑) 
いつも、色々とお世話になり、本当にありがとうございます。感謝の気持ちでいっぱいです! 今後ともどうぞよろしくお願いいたします(^^)
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Commented by fragie777 at 2021-05-19 09:52
金子敦さま

おはようございます。
こちらこそ、更なるご縁をいただき感謝しております。
今回句集を拝見しながら、本当に金子さんは俳句が巧いと思いました。
田中裕明さんが、生前、俳句は巧くなくてはいけない。とおっしゃっていたことを思い出しました。
ブログでは紹介しきれませんでしたが、ほかにもたくさんのいい句がありました。
すずちゃんによろしくお伝えくださいね。

(yamaoka)

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