カテゴリ
以前の記事
最新のコメント
検索
外部リンク
画像一覧
|
4月12日(月) 旧暦3月1日
昨日の井の頭公園。 ボートに人懐っこく寄ってきた二羽のキンクロハジロ。 井の頭公園は桜がおわり、新緑が美しかった。、 今日は昼間は20度くらいになると天気予報で言っていたので、セーターはやめてヒートテックの上にちょっと厚目の綿シャツを着たのだが、どうやら甘く見ていたようだ。 仕事をしていて寒いなと思い、床暖房をつけて常備してあるウールの薄手のセーターを着た。 それでしばらく仕事をしていたのだが、やはり手の指が冷たい。 (手の指が冷たいっていうときは、身体全体も寒いのである) で、 抽出をゴソゴソしていたらホッカイロ出て来た。 大きい方があったので、それを腰のところにぺったりと貼った。 あとで暑くなってはがすことになるかもしれないな……と思いながら。 で、 その判断は間違っていなかったのである。 いや素晴らしい判断であった。 わたしはわたしを褒めてあげたい。 いまもなお、 わたしの腰にはりついたホッカイロはわたしの腰をほどよいあたたかさでささえ、良き一日としてくれているのである。 新刊紹介をしたい。 ある日メールをいただいてより、いくつかのやりとりがあって、この度歌集を上梓することになられた方だ。 四六判ペーパーバックスタイル 88頁 2首組 著者の神本秀爾(かみもと・しゅうじ)さんの初めての歌集である。この歌集には、「あとがき」も「著者略歴」もない。奥付に1980年生まれとあって、お住まいは九州の久留米市である。 とにもかくにも、予備知識なしに歌集を読んでいけば、わたしよりはるかに若い方による歌集であることがわかる。 そもそも歌集名の「アントロポセン」とは何か。 本歌集には、「アントロポセン」なる言葉をもちいた短歌が一首のみ登場する。 ぼくたちのアントロポセン今日の日を僥倖としてゼリーを食べる 「僥倖としてゼリーを食べる」とあり、思いがけない幸せにゼリーを食するのだ、で、「アントロポセン」とは、いったい、何なのか。インターネットでしらべたところ、「ノーベル化学賞受賞者のドイツ人化学者パウル・クルッツェンによって考案された「人類の時代」という意味の新しい時代区分。人類が地球の生態系や気候に大きな影響を及ぼすようになった時代であり、現在である完新世の次の地質時代を表している。」ということである。ふむふむと、わたしが完全に理解したわけではないかもしれないが、自然力より人口力がまさる時代になりつつある、ということか。それはいったい良きことなのだろうか。。しかし、神本秀爾さんは、そういう時代を思いも掛けない幸せとして「ゼリーを食べる」という。このゼリーを食べるというのは、とてもいい。やわらかくてあまくて透明で色が美しい、それを口にするのだ。しかもゼリーというお菓子はどこか幼年期へと人を誘っていくようなお菓子でもあって、そうなると「アントロポセン」という時代は悪くないのかもしれない。 で、本書のブックデザインも美味しそうなゼリーが並んでいるのかと了解した。 こんな風に。 装丁は和兎さん。 このゼリー、どうやら動物みたいだ。 こぐまのようである。 「アントロポセン」を祝してずらりと並んだ色とりどりのこぐまのゼリーたち。 いい。。。 本歌集の担当はPさん。 Pさんの好きな短歌を紹介する。 頭振り今日の視線を落としきり普段の顔で寝ぐらに戻る 定家が秋を見たのはきっと夜 昼は氷とかじっと見てたしとりあえず水と木とぼくが使える一人称を検索してる アルコール度数の高い感情はマングローブの森から流す Pさんの情報によると、著者の神本秀爾さんは、 ・カリブ海のジャマイカでフィールドワークを続ける人類学者 ・大学で学生や地域の方を交えて楽曲制作も行なっている・プロジェクト名は勤務先の所在する筑後地方からckgz(チクゴズ) という人物であるらしい。 しかもPさんとは年齢がちかく、本歌集にもちいられている用語はたとえば、ある音楽の一節であったりするのだが、大方のところよく分かったということだ。同じ風景をみてきた世代なので、その時代の感触を共有できるということらしい。 ぼくたちもいつか空も飛べるはず チキンだらけの学食メニュー これはオンラインショップで紹介した一首なのだが、Pさん曰く、校正の幸香さんが好きな一首として選んできたのをみて、「あっスピッツ」と思って紹介したということである。断っておくが犬の「スピッツ」ではない、1991年にメジャーデビューした日本のロックバンドのことである。わたしは子どもたちが聴いていたのでどうにか知っている。 この一首を紹介したことについて、著者の神本さんからは以下のようなメールをいただいた。 「ぼくたちもいつか空も飛べるはず〜」の歌はスピッツの「空も飛べるはず」 (1994)の引用で、他のもマイケルジャクソンの引用などありますので、ポップミュージックからの 引用があることなど言及していただければ、今回の試みのひとつなのでとてもありがたいです。 マイケルジャクソンもいるのだ。 この「アントロポセン」はそのような引用をみつけてそこに心を寄せるという楽しみ方もあるのである。 この歌集のひとつの魅力となっているかもしれない。 わたしyamaokaも最初から最後まで拝読をした。 で、やはりそういう楽しみ方はちょっと無理があるとおもった。なにしろ吉田拓郎の「♪アジアの片隅で 狂い酒飲み干せば♪」とか、「十五、十六、十七と私の人生暗かった♫」と藤圭子が謡う怨み節に心を掴まれた人間である。いまや腰にホッカイロを貼っている老女でもある。そして「空はとぶ希望などはもたず地をはう」世代としてやってきた。だからその試みにはなかなかついていけず、正直なところ、そういう読みはできなかった。ダサい世代なのよ。それでも、好きな短歌はあった。いくつかあげたい。 ベランダに転がったままのカメムシ さしあたってのぼくの墓石 しばらくは誰も登場してこない小説を書くふりをしていた ミッキーのTシャツを着てコンビニで「期限間近の夢があります」 この街は感情のセーブポイント ほろ苦さなら高瀬川沿い 山鉾の分だけ少し西側に傾きながら夏が始まる スーパーに梨が並びだした頃に暴走族は南下してくる 「先生の言ってることは欅坂みたい」と言われ否定もしない ベランダでしばらく濡れたTシャツを乾いた頃に着るような恋 Pさん曰く、大学の先生をしてらっしゃるので、相手は学生であるわけだが、彼ら彼女らがつかう若いボキャブラリーを取り入れて一首になそうという試みもある。と。 Pさんもわたしも好きな一首である。 第一歌集をこの度上梓された神本秀爾さんである。 これを機に、さらなる抒情の深みと韻律の律律しさを目指して短歌をつくりつづけていただきたいと思う。
by fragie777
| 2021-04-12 19:26
|
Comments(0)
|
ファン申請 |
||