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2月26日(金) 旧小正月 旧暦1月15日
あたたかな春の日の丸池公園。 実をのこした無患子の木。 わたしはこの無患子の木の実でつくったブレスレットをすこし前に見知らぬおじさま(森の番人?)から貰ったのだった。 東直子・穂村弘共著『短歌遠足帖』(たんかえんそくちょう)が出来上がってくる。 「おお、出来上がったか!!」 (岡井隆先生にご覧いただきたかったな、、、、、) そんな思いが心をよぎる。 待たれていた一冊である。 そして今日は斎藤茂吉忌である。三首のみ紹介したい。大島史洋著『斎藤茂吉の百首』より あかあかと一本の道とほりたりたまきはる我が命なりけり かなしみは光となりて額より放射するゆゑにわれはひれふす このくにの空を飛ぶとき悲しめよ南へむかふ雨夜かりがね 大井恒行さんのブログ「大井恒行の日日彼是」で、「ふらんす堂通信167号」を丁寧に紹介してくださっている。 24日づけのもの。今日気づいて、「まあ!」とたいへん嬉しくなった。 それこそよく読まれて懇切なる紹介、俳句も引いてくださって。。 髙柳克弘さんの「山頭火」については、「脱帽」とまで。。 「ふらんす堂通信」・・・、なかなかあなどれないよ・・。って大井さん。 でしょ! ってわたしたち。 大井恒行さま、 ありがとうございます。 ![]() 新刊紹介をしたい。 四六判ハードカバー装 196頁 二句組 著者の山下美夜子(やました・みやこ)さんの第1句集『月夜谷』(2010)につぐ第2句集である。山下美夜子さんは、1945年長野県飯田市生まれ、現在は岐阜県大垣市在住。俳誌「伊吹」を経て、1999年「天為」入会、2003年「天為」同人。俳人協会会員。本句集に有馬朗人氏が序文を寄せておられる。 『雛の夜』は山下美夜子さんの第二句集である。平成二十一年より令和二年までの作品三二五句が収められている。前句集『月夜谷』の際もそうであったが、極めて多数の作品から厳選してあるので、読み応えのある句集である。 そして美夜子さんの作品は何と言っても大垣とその周辺の風土を詠ったものが佳い。例えば虫送りである。 虫送る口伝の囃子笛太鼓 山暮れて実盛人形しろじろと 実盛虫焼かれて星となりにけり 斎藤実盛は、平宗盛に仕え、平維盛に従って加賀の篠原で源義仲と戦った折、髪を黒く染めて奮闘したが、稲につまずいて倒れたため手塚光盛に討たれたという。それで稲虫になったとの伝説がある。芭蕉の句に「むざんやな甲(かぶと)の下のきりぎりす」がある。石川県小松の多太神社に実盛の兜が保存してある。この伝説によって東海地方より西の地方で藁人形を実盛に見立てて焼いて蝗を追うのである。 序文の書き出しの部分を紹介した。こんな風に有馬朗人氏は、作品にそってたくさん句をあげて丁寧な鑑賞をほどこしておられる。 愛犬も夫の寝息も雛の夜 句集名となった一句である。「最後に夫が晩酌のあと愛犬宙と気持ち良さそうにうたた寝をしていた、家族三人の一番幸せな時間であった」という前書きが付されている。終わりから四句目におかれた句である。 そしてその次ぎは、 鳥雲に取り残されてしまひけり (夫山下満が一年三ヶ月余りの闘病の末、三月二日に旅立つ) 新盆は雨の一日となりにけり とつづき、 夫の忌や沈丁の香のひろごれり で終わっている。 「あとがき」に「優しかった夫満に、この句集を捧げます。」とあり、亡くなられたご夫君にささげられた句集であることがわかる。思いのこめられた一冊である。 人逝きて円座の窪み残りけり 映るまで馬を磨いて立夏かな老鶯やしづかに穂高うつす水 田から田へ雲を満たして植田かな 担当のPさんの好きな句である。 Pさんは、山下美夜子さんとお電話でおはなしする機会が多く、 「大垣市養老町にコハクチョウの群れがきて、今はそれを見に行っているとのこと、めだかを沢山飼われていたり、ご自宅の隣空き家に来るスズメにご飯をあげてい たり。」ずいぶんいろいろなことをお話くださったということである。「動物が大好き 」とも。 いいなあ、お隣のスズメをてなずけられるなんて、あんなに警戒心がつよいスズメだけど。ああ、でも鳥って餌には弱いかもしれない。 映るまで馬を磨いて立夏かな わたしもこの句には驚いてしまった。ええっ、そんなことあるのってまずおもったけれど、すぐに映像が立ち上がった。緑かがやく風景のなかに黒光りする馬のシルエット。馬は磨きこまれてなめらかな鏡となりその前に立つ人間の姿を映しだす。美しい一句だ。夏のはじめの光線のするどさもみえる。磨かれた馬は命のエネルギーを充満させてそこに立つ。 田から田へ雲を満たして植田かな この句も初夏の句である。やはり景が立ち上がってくる。植えられた苗のさみどりの色、そしてそこに映りこんだ雲、植田ごとにみえる白い雲と空とそして苗の美しい緑。この句の魅力は、景を切り取ったというよりも、読む人間の視点がうごきひらけていくという景を「田から田へ雲を満たして」と動的に感知させる仕組みである。読んでいる人間の眼前に気持ちの良い植田の景がひろがっていくのだ。そして植田を吹く風まで頰に感じる、そんな一句である。 香水のほのかに聖書朗読会 わたしの好きな一句である。この句、「悼 山本直美様(長崎)十二句」と前書きのふされた句のなかの一句である。亡くなられた山本直美さんが、カトリックの信仰を持たれていた方らしく一連の句はそれを思わせるものだ。作者は聖書朗読会に参加されたのか、あるいはそれを見ていたのか。聖書朗読会はわたしの経験では10人以内の信者たちがあつまってお互いがお互いをみえるかたちに坐って、それぞれが聖書を順番に読んでいく、ただひたすら読んでいくというものだ。静かな夏の夕べだったのだろうか。教会の開け放った窓から風が入ってくる。ふっと香水が匂いたった。誰かがつけているのだろう、ほんのかすかな匂いだ。「聖書朗読会」という場で香水の香りも清らかな匂いを放つかのようだ。華美をきらう清楚な信者たちの集まりであることを「聖書朗読会」が語っている。この句につづく〈夕鐘や定家葛の白き香よ〉も悼み心のある美しい一句だ。 入口の多き教会小鳥来る 教会ってこれはキリスト教の教会だろうか、十字架があって入口もたくさんある。すべての教会がそうでなはないが、この教会は入口がたくさんあるのだろう。多くの人に開かれた教会、そんなイメージも呼び起こす。小鳥来るが季語であるが、これは思うに、入口がたくさんあるから小鳥が来ると解釈してしまいそうになるが、そうではない。まず入口の多い教会という建物を目の前にした。そのことに驚いていたら、はるか上空を渡り鳥の群がやってきた、という大いなる時空を呼び込んでいる一句なのだと思う。時間の波にさらされながら立ち続ける風通しのよい教会、はるか遠方からやってくる渡り鳥たち。それらが出合った一句とみたい。 ひよんの笛机上に風の吹く日かな 「平成二十四年一月二十日 NHK全国俳句大会特選」と前書きがある。この句の前には、〈ひうひうと風栖むひよんの実でありぬ」という一句。作者は風を詠むのが上手いと思う。机上のひょんの笛があたかも風を呼び込んだかのように思わせる一句だ。 第一句集『月夜谷』から早いもので丸十年が経ちました。 この度も、第二句集『雛の夜』を上梓するに当たり、第一句集と同様、有馬朗人先生には御多忙中にも拘らず、二〇〇九年から、二〇二〇年までの全句をお目通しいただき、選を仰ぎました。また、序文の労をお執りいただき心よりお礼申し上げます。 第二句集は「十年一日」の如く特に切れ目もなく句作して参りましたものから、発表した年度ごとに並べました。 尚、先生には夫山下満の闘病の際あたたかな励ましをいただきましたこと、心より感謝申し上げます。 夫満は、薬石効なく平成三十一年三月二日に永眠いたしました。毎日病院通いをする私を支えてくれた、姉の矢澤瀞子、田口洋子に、本当にありがとう。 夫が元気だった頃は吟行の運転手、また海外吟行の折は留守番と、快く送り出してくれました。優しかった夫満に、この句集を捧げます。 「あとがき」を抜粋して紹介した。 なお、この句集の編集中に、有馬朗人氏が急逝された。 十二月七日の夕刻、NHKのテレビのテロップで有馬先生のご逝去を知り茫然自失、ただただ狼狽えるばかりです。ここからはご序文の暖かいお言葉を胸に、句を詠んでゆく所存です。 有馬先生のご冥福を心よりお祈りいたします。 「あとがき」の最後に寄せられた一文である。その驚愕と悲しみはいかばかりかとなんとも申し上げようもない。 が、更なるご健吟を祈るばかりである。 本句集の装丁は、前句集とおなじく和兎さん。 集名が「雛の夜」で、なにゆえ、「犬」の装画と思われた方もあるとおもうが、それは先に紹介した一句によるものであり、著者の山下美夜子さんが強く希望されたのである。 表は犬の半身のみ。 裏にまわれば全身がみえるようになっている。 表紙はさくら色。 この色も山下さんのご希望である。 犬のシルエットの型押しを表と裏に配した。 見返しはマーブル模様。 花切れは肌色と白のツートンカラー。 栞紐は肌色。 鷹柱しづかに満ちる風の声 琵琶湖周辺の風景が生き生きと描かれている。このような句から美夜子さんは写生力に優れていることが分る。 (有馬朗人・序より) 有馬朗人先生著の『ゆっくり行こう』の中から、「能力=素質×教育+努力」の式 が書いてある。 俳句は、真向に、地道に、ひたすらに努力するしかない。 ミューズよ私にもう少しの力を与えて下さい。 山下美夜子さんからいただいた句集上梓後の「一言」である。 人逝きて円座の窪み残りけり 美夜子
by fragie777
| 2021-02-26 20:07
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