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1月31日(日) 旧暦12月19日
春近し。 昨日、仙川沿いを歩いて日差しのまぶしさにつくづくと、春が近いことを実感したのだった。 いま一月の暦をとりさって2月の暦にした。 立春まであと数日であることをいまさらながら確認。 フランス文学者でプルーストの研究者であり翻訳者でもある友人の高遠弘美さんから面白い本をおくってもらった。 ファニー・ピション著 高遠弘美訳 『プルーストへの扉』 白水社刊 定価2100円+税 タイトルで一目瞭然なように「プルースト入門」である。 プルーストは読書好きな人であるならば、一度は読んでみたいとおもう作家ではないだろうか。 その代表作『失われた時を求めて』はその甘美な匂いのするタイトルに引かれて、頁を繰ってみることはしても、大方挫折してしまう。 「難解」などさまざまな理由が考えられるが、なかなか一筋縄ではいかない小説である。 本著は、そんな読者を始め、これからプルーストを読んでみようという人にまことに格好な入門書である。 『失われた時を求めて』について、著者・ファニー・ピションはこう書き始める。 「プルースト早わかり」「本著の原題 Pruost en un clin d'oeil! の直訳)などと言えば、それはあり得ない企てのように見えます。『失われた時を求めて』は三千ページからなり、五百人の登場人物がいる、文学史上最長の小説のひとつだからです。作者は自分の作品を大聖堂に喩えています。圧倒さるほど大きいのに、細部を見ると、この上なく精緻な彫刻が施されている建築物と言えばいいでしょうか。作品の長大さと微細さはどちらも『失われた時を求めて』の特徴ですが、ある種の読者はそのせいで読む気をなくしたり、さらにはプルーストは読みにくいと言ったりするのです。 ささやかながら本書の目的はそうした先入観を払拭することにあります。本書が目指したのは、作者がどういう人間だったかを説明し、作品のさまざまなテーマを駆け足でめぐり、厳選したたくさんの引用をちりばめ、基本的な主要登場人物を紹介することでした。ひとことで言えば、『失われた時を求めて』を読んでみたいと思っていただくこと、それに尽きます。自分の人生を変えた本として挙げられるものはごくわずかですが、『失われた時を求めて』はまさにそうした本に属しています。(略) 本著は大きく三つにわかれ、第1は「マルセル・プルーストとはどういう人間だったのでしょう」、これはわたしはとても興味深く読んだ。第2は「なぜプルーストを読むのでしょうか」。これについて12の項目があげられているのだが、この切り口が面白い。たとえば、「人は誰でもいくらかはスノッブだから」とか「『幸せな愛などない』から」、「プルーストは異端でありLGBTだから」「どんな大人のなかにも子どもは存在し続けるものだから」などなど、わたしの興味のあるものからあげてみたのだけれど、ふふ-ーんって思って読んでみたくなるでしょう。そして第3は、「そうプルーストは読めない作家ではありません」ということで、「プルーストの書き方を理解する」とある。これはプルースト理解の一番の手引となるものだと思う。なにゆえ難解に思えるのか、それについての説明、プルーストの想像力にわたしたちの脳も鍛えられるかもしれない、とふと思う。また、『失われた時を求めて」には、500人もの登場人物がいるっていうことは、それを読みすすむことで一つの人生を人間観察もふくめてたっぷりと経験するようなものでもあるのではないかしら。 本著についていえば、まずこれを初めから終わりまで読み通すのでもいいけれど、『失われた時を求めて』を読みながらその傍らにおいて、手引き書として読む。そういうものであってもいいとわたしは思った。 巻末には、この著書に登場する固有名詞索引、プルースト関連年表(写真あり)、文献目録、が付されている。 訳者の高遠弘美さんの巻末の「あとがき」を抜粋して紹介したい。 ここ数年、私が気になって仕方のないことがあります。それは『失われた時を求めて』で「挫折」するかどうかを気にする方が少なくないということです。 さまざまな機会に申し上げていることですが、本には読むにふさわしい時があります。『失われた時を求めて』をいま読めなくても、あるいは生涯縁がなくても構わない、ただし出合うことができればこれほど豊かな読書の時間は滅多にないと思うのです。その代わり、全篇読んだかどうかを他人と競う必要もありません。読書とはきわめて個人的な経験であり、誰かと競って勝ち負けを争うような行為ではないからです。 ピジョンの本はどうして『失われた時を求めて』を読み続けるのかという問いにつねに立ち返り、訳者のひとりである私にさえ励ましを与えてくれます。これだけ薄い本なのに豊潤な印象を与えるのは、なぜプルーストを読むのかという問いに真摯に、ときにはユーモアもまじえて答えようとしているからです。 本書によって、マルセル・プルーストはわたしたちにぐっと親しい人間となり、『失われた時を求めて』を読んでみようかとAmazonを検索した人が、あるいは書店へと足を向けた人が確実にいるだろうなってわたしは思ったのである。 『失われた時を求めて』の輪郭がいきいきと立体的に立ち上がってくる、そんな一冊である。 表紙カバーの色合いもわたし好み。。。 かつて二度ほど訪ねたパリ・オルセー美術館。 その度にマルセル・プルーストの肖像画の前に立った。 ふたたび見ることができる日がやってくるのだろうか。。。。
by fragie777
| 2021-01-31 19:50
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Comments(4)
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