ふらんす堂編集日記 By YAMAOKA Kimiko

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本気で遊ぶ住職たち。

10月30日(金)  旧暦9月14日


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神代植物園の道。
神がやどる木と呼ばれる桂の大木などがある道。
この植物園に来るとかならず通る道である。
木々の素晴らしさをおもう。(怖いときもある)




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この日はひさしぶりの秋晴れで、お弁当をひろげる家族連れの姿があった。





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出来上がってきた『鍵和田秞子全句集』、手にとってつくづくと感慨にひたる。

その向こうは、藤島秀憲歌集『短歌日記2019 オナカシロコ』(おなかしろこ)。

この二冊については、また改めて紹介をしたい。



わたしが出掛けているときに一本の電話が入ったらしい。

関西弁の女性からだ。(関西弁と断定はできないけれど、多分、そのよう)
「ブログの『編集日記』のファンやねん。毎日見て、元気もらってるんやわー」というお言葉。
で、
「ところで、yamaokaさんって、何歳?」
「ええっ、そのう、企業秘密です。」(よく言った! スタッフよ)
「わたしくらいかなあ」とその方。
「はい、そうだと思います」とスタッフ。

わたしはごくわずかな人を想いながらブログを書いているところがあるので、こういうお言葉は驚くのだけれど、でもとても嬉しいしわたしも励まされる。
さぼっちゃおうかなあって思うこともあるのだけど、老体(ここ注意するとこね)に鞭打って書いているのだ。
本の紹介などは別であるが、役に立つことを書こうなんておもっていないので、それでも元気を貰っているって言ってくださると、そうか、って思う。
わたしのヤクザな日々がすこしでもお役に立てれば、ふっふっ、調子に乗って書きますわよ。






新刊紹介をしたい。

福島吉美句集『モンローの笑み』(もんろーのえみ)



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四六判仮フランス装カバー掛け帯有り  200頁 二句組


著者の福島吉美(ふくしま・よしみ)さんは、昭和20年(1945)徳島県海部郡生まれ、現在は徳島市在住。すこしまえにふらんす堂から現代俳句文庫『福島せいぎ句集』を上梓された福島せいぎ氏の奥さまである。昭和55年(1980)「なると」入会、昭和60年(1985)「なると」同人、昭和62年(1987)「風」入会、平成14年(2002)「万象」入会、平成18年(2006)「万象」同人。「なると年度賞」受賞、平成23年(2011)徳島俳壇賞受賞。「なると」副主宰。俳人協会会員。
タイトルの「モンローの笑み」について、福島吉美さんは、「あとがき」で以下のように書いている。


 モンローの手型に溜まる秋の水
 十夜寺モンローの笑む絵天井

手型の句は、昭和六十二年に、日米親善俳句シンポジウムに参加した折に、第一席に選ばれました。絵天井の句は、四国遍路の途次に岩本寺で作ったもので、第三十二回徳島俳壇賞に選ばれました。世紀の大女優モンローの華やかな姿が印象に残り、句集名を「モンローの笑み」としました。

「モンローの笑み」というタイトルなので、内容はかなりハイカラ(これって死語?)かと思わせるのであるが、海外詠もあるけれど、わたしが興味をもったのは、お寺の生活の風景である。福島吉美さんは、徳島市にある宗派は真言宗大覚寺派の歴史ある「万福寺」というお寺のおカミさんである。ご主人の福島せいぎ氏がご住職。わたしなどまずあずかり知らないお寺の生活のくらしぶりが見えてそれがとても興味深かった。


 初つばめ滑車で揚げる屋根瓦
 駄菓子屋に山の子あふれ花の昼
 茹でる間にまた筍の届きけり
 海の底透ける小島に初荷着く
 蕗のたう見つけし母の声弾む
 青梅をもぎて病む掌にもたせたり
 村人の会釈の深し著莪の花
 手を握るだけの見舞や花の昼
 蛙鳴く宝石店の四方より
 象の背にゆられて登る春の丘
 指笛で馬を呼び込む夏帽子
 台湾の草餅届く誕生日
 住職の本気で遊ぶ水戦

これは担当の文己さんがあげた句である。海外詠もあげている。

 村人の会釈の深し著莪の花

この句、わたしもこころのとまった句である。「会釈が深い」ということは、きっとお寺のおカミさんであるということとあながち無関係ではないと思う。「青梅をもぎて病む掌にもたせたり 」「手を握るだけの見舞や花の昼 」という句を文己さんがその前後にあげているけれど、きっと仏道につかえる身として常日頃ともに暮らす人たちに優しい心で接しておられるのだろう、だから、この「会釈の深し」は村人の福島吉美さんへの思であり、またそれに応える吉美さんの挨拶に一句なのだ。著莪の花が、こころの陰影を呼び起こして句に深みをあたえている。いい句だと思う。

 駄菓子屋に山の子あふれ花の昼

これもいい句だ。駄菓子屋がなつかしい。山の子が桜咲く木の下にわんさかいて、狭い駄菓子屋さんをにぎやかしている。あたたかな山の日差しを感じる明るい一句。こんな風景、もう見ることもできなくなるかもしれない。この句集を拝読しながら、「この句いいわねえ」と言うと、文己さんもPさんも「駄菓子屋」にとっさに反応した。みな「駄菓子屋」の思い出を持っている。つぎの「ふらんす堂通信」のコラムは、「駄菓子屋の思い出」にしましょう。ということに。この句、「山の子」がとくにいい。

 茹でる間にまた筍の届きけり

お寺さんには、きっと竹の子の季節になると、たくさんの竹の子が届けられるのだろう。いいなあ。それも村人との豊かな交流がなければそうもいかない。竹の子というのが、いい。どんどん竹の子が届けられる、大鍋で茹でているのに。竹の子を茹でている匂いがこちらまで伝わってきそうな季節の匂いに満ちた一句だ。

  海の底透ける小島に初荷着く

気持ちのいい句である。「海の底透ける小島」という措辞によって呼び起こされた島のイメージ、そこに船にのって初荷がとどく。なんとも粛々としたいい空気がみなぎる。きびきびと働く人の風景も見えてきていい正月になりそうだ。

 住職の本気で遊ぶ水戦

これもお寺ならではの一句。「水戦」ってどんなことをやるんだろう。住職が「本気で遊ぶ」というのが健康的でいい。「水戦」は「水遊び」の傍題であるが、ここは単なる遊びというよりも、やはり闘いのレースだ。本気で遊ぶというところに肉体のぶつかり合いのようなものも感じる。この句、なにがいいってやはり「住職」だからである。「坊さん」でもなく、「僧侶」でもなく「住職」。「寺の首長である僧」と広辞苑にあるように、社会的な位置づけをされた住職である。だからこそ、裸になって、本気で遊びたいのだ。


 花茣蓙に修理終へたる仁王寝る

この一句もお寺さんならではの一句。





私と俳句との出会いは、俳誌「なると」を創刊主宰された森龍子先生にお誘いをいただいたときに遡ります。
そのころ、自坊の万福寺で、「松苗」(大櫛静波主宰)と「なると」の二つの結社が毎月句会を開いていました。私の夫の福島せいぎが「なると」の主宰を継承してからも「松苗」の句会は、しばらく続いていました。私は、二つの句会のお茶の用意をしたり、句会での互選の様子を横で眺めているだけで、さほど俳句に興味がありませんでした。
その後、「なると」の句会や吟行に参加するようになり、いつしか俳句は私の生活の一部になりました。句会や俳誌への投句が近づくと、深夜まで推敲していましたが、あるとき『俳句入門事典』(皆川盤水著)を読み、俳句の基本は写生であること、自然体で楽しむことを学びました。今では、句会や吟行で句友に出会えることが待ち遠しくなりました。全国誌の「風」や「万象」にも入会させていただき、各地への旅行や上京する機会が増えました。
このたび、家族にすすめられて、初めての句集を出版することになりました。日ごろは寺族としての雑用も多く、出版には思ったよりも長い月日がかかってしまいました。

「あとがき」を抜粋して紹介した。


装丁は君嶋真理子さん

題名にふさわしくおしゃれでステキな一冊になった。


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パール箔が効果的である。


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仮フランス装。
かがり製本であるので、開きがとてもいい。


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スピンは白。


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 台湾の草餅届く誕生日


元旦にお寺に届く初荷の句、
台湾の草餅に初鰹……吉美様のお誕生日の贈り物でしょうか。
楽しく読ませて頂きました。

と、担当の文己さん。


実は、福島せいぎ・吉美ご夫妻は、2017年(というと3年前!)にお二人でふらんす堂を訪ねてくださった。

以下はその時のブログ


→「編集日記」


その時のお二人のお写真。



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福島せいぎ・吉美ご夫妻。


本作りのやりとりは、ご主人である福島せいぎ氏が、担当の文己さんとしたのであるということだが、本が出来上がったときに、

「とても気に入りました。ありがとうございます」とお電話をくださったのだった。

文己さんがいなくてかわりにPさんが受けたのだが、文己さんは、

「ああ、お声が聞きたかった!」 と。






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by fragie777 | 2020-10-30 19:45 | Comments(0)


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