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8月29日(土) 旧暦7月11日
武者小路実篤公園の竹林。 ほんとうに久しぶりに武者小路実篤公園に行く。 手には一冊の小さな詩集を宝石箱のようにかかえて。 詩人の手塚敦史さんが詩集をおくってくれた。 実篤公園の鯉の池のベンチに坐って読むことにした。 すでに夕暮れで風は秋風のひややかさがある。 『エイドラ詩編』 余白が美しく繊細な詩のことばでうめられている。 読み始めたのはいいが、蚊どもがやってきた。 わたしを攻撃しはじめて、そう長くはいられなかったのだ。 思っていたよりはやく退散することに。 こちらは虹鱒の池。 魚がうごくたびに水面に映った風景が空の青にうつくしく溶け出す。 この公園はやはり静かでいい。 蚊さえいなければ最高なのだが。。。。 新刊紹介をしたい。 四六判上製帯あり 172頁 2句組 著者の長井亜紀(ながい・あき)さんは、1968年新潟県生まれ、東京都在住。2001年「古志」に入会。本句集は第1句集であり、師の長谷川櫂氏が序句と帯に言葉を寄せている。 人生のこれより大いなる夏へ 長谷川櫂 本句集は5つの項目にわかれており、Ⅰ新潟 Ⅱ東京 Ⅲ京都 Ⅳ甲府 Ⅴ東京 と地名で章立てがなされている。これは長井亜紀さんが生活をされた場所ごとの章立てであり、そこでの暮らしを時間の流れとともに詠まれている。その過程には出産があり子育てがある。 いつの日も未来は真白夏に入る 本句集のはじめのほうにおかれた一句である。 長井亜紀さんにとって真っ白な未来へむけて、一句ずつ日々の暮らしのなかから生まれた句を丹念に書き記していったものがこの句集なのである。 つねに未来へ心のまなざしを向けながら、子どもをみつめ夫をみつめ自身をみつめ、季節を全身で感じ取りながら俳句を作り続けてこられたのだ。 柿食うて身体がずんと冷ゆる夜 うねるほど海は豊かにみのる牡蠣蚕豆やどの子も莢にねむらせん やはらかきところで抱く裸の子 担当のPさんの好きな句である。 柿食うて身体がずんと冷ゆる夜 柿は身体を冷やすという。だから女は食べ過ぎてはいけないってわたしは母に言われたように思う。小さな頃はどちらかというと柿は苦手で身体をあまり食べなかった。この一句、なんといっても「ずんと」が眼目だ。「冷え」というものにいったい重さはあるのだろうか。しかし、この一句にはたっぷりとした重さがある。柿をたくさん食べてその甘い水分が身体にたまって「ずんと」冷えだのだ。冷えに重さがあるということを柿をとおして知らされる一句だ。 蚕豆やどの子も莢にねむらせん 本句集を読んでいくと、多分亜紀さんは三人のお子さんのお母さんではないかしら、蚕豆の莢ってふかふかとしていてと少しの水分をふくんでいて見ているだけで安らかな気持ちになってくる。亜紀さんも蚕豆を剥きながらきっとそう思ったのだ。そして可愛いご自身のこどもたちを、魔法をかけて蚕豆の莢をちょっと大きくして、その中で眠らせたいって、ああ、いいな、わたしだって小さな女の子になって蚕豆の莢で眠りたいのに、「どの子も」とあるところに一人一人の子どもに注ぐ愛情と母のゆったりとして充足がある。食材をあつかいながらも思いは子どもへとかえっていく。 やはらかきところで抱く裸の子 この句も母となって実感した一句だと思う。目の前の裸子、瑞瑞しい生き物である。この「やはらかきところ」とは、どこだろうって最初おもった。裸子のやわらかさか、裸子は全部が柔らかい。では、抱く方の柔らかさか。大きく手を広げてあたたかな柔らかな胸で抱き留めることか。そう考えてくるとう~む、いったいどこだ、で、わたしは思ったのだ。つまり裸子がふれてくるところはすべて柔らかいところなのだ。膝にのってきたら、膝にのってきた裸子をやさしく受け止める、膝は裸子の柔らかさをたっぷりと感じる。そしてやわらかくなる。背中に裸子がとびついてきたら腕をうしろに回して裸子をしっかりと受け止める。背中もふっとやわらかくなる。全身全霊で裸子のやわらかさを感じている。ああ、なんて柔らかいのだろう。裸子をうけとめるわたしの身体はすべて柔らかくなる。おお、裸子よ。わたしのところにおいで! と思わず叫びたくなる。 はるのうみ波のこどもの波寄する これはわたしの好きな一句。長井亜紀さんは海をみていてもそこに可愛い子どもをみつける。これは春の海でこその一句だ。春の海のもつ明るいやわらかな波、「波のこどもの波寄する」という言い回しが童謡のように耳に心地良く、春の海の駘蕩としたさまが目にうかんでくる。 『夏へ』を読んでいただきありがとうございます。 季語に惹かれ一人で句作をはじめた頃、「古志」の新潟句会に出会いました。 長谷川櫂先生には日頃のご指導に加え、選句の労を賜り、句集名と序句をいただきました。厚く御礼申し上げます。 「古志」の皆さま、新潟句会の皆さま、お力添えいただきありがとうございました。 句集を編むと決めた日の新鮮な気持ちを忘れず、俳句と向き合いたいと思います。 「あとがき」を紹介した。 長谷川櫂氏の序句は、第一句集を上梓した長井亜紀さんの気持ちへのはなむけの一句である。 まさにこれからの真っ白な未来へむけての。 本句集の装幀は君嶋真理子さん。 長井亜紀さんには、造本へのこだわりがおありだった。 表紙の色、素材、カバーはつけない、箔押しを活かしたもの、等々。 ![]() 文字は金箔、表の平面から背、そして裏の平面へとカラ押しで葉の文様が押されているのだが、わかるだろうか。 角背が若々しく、長井亜紀さんに合っている。 花布は金。 栞紐は白。 シンプルに爽やかな一冊となった。 青梅を転がしたまま入院す 退院の輝く世界へサングラス (八月) サングラスの句は掉尾の句である。 退院の喜びにあふれた一句だ。 本句集には、長井亜紀さんの前をみつめる眼差しとその心が行き渡っている。 すこし体調をくずされたとうかがったが、ご快癒されつつあるということである。 句集のご上梓でさらに喜びが増しますように。 ![]() ![]() ![]()
by fragie777
| 2020-08-29 19:33
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