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ふらんす堂編集日記 By YAMAOKA Kimiko

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したたかに死も生もうべなう。

8月24日(月) 棉柎開(わたのはなしべひらく)  旧暦7月6日



したたかに死も生もうべなう。_f0071480_17042383.jpg
丸池公園のほとりにささやかに咲いていたミソハギの花。

神代水生植物園などには群生して咲いているが、そんな風景はきわだって鮮やかである。

盆花として関東などでは供えられることが多い。






新刊紹介をしたい。


大石悦子句集『百囀』(ひゃくてん)


したたかに死も生もうべなう。_f0071480_17032828.jpg
四六判ハードカバー装 232頁 二句組 令和俳句叢書


俳人・大石悦子の第6句集となる。平成24年(2012)から平成31(2019)年までを収録。
句集名の『百囀』は、
 
 画眉鳥(ぐわびてう)を加へ百囀ととのひぬ

よりの一句である。

本句集を一読すれば、追悼の句が多いことに気づく。肉親や俳人との別れがひとつのテーマでもあるかのように句集の最初のほうから終わりまで死者へささげた句が貫いている。師・先輩、句友など石田波郷の師系につらなる俳人や所属する結社「鶴」の仲間への追悼句である。また、肉親である兄、妹への追悼句もある。昭和13年(1938)生まれの今年81歳を迎えられる著者であるなら、そこに沢山の別れがあることはある意味必然でもある。
いくつか紹介したい。
 
 ひまはりの咲いてさびしい夏もある  (悼 今井杏太郎さん)
 風筋に椎の花咲く葬かな       (麥丘人先生を喪ふ)
 同齢の死や八月の凄じき       (五明由美子さん逝く)
 絶景や兄のゆきたる初山河      (一月一日 兄髙橋良雄死す 七十九歳)

句集のあちこちに楔をうつごとく置かれた弔句によって、読者はそこに詠まれた死の現実にハッとさせられる。しかし、本句集を貫いているものは決して暗くはない。向日性をもった力強さとも言うべきものがある。
それは不思議である。
どうしてなのか。
多くの敬愛する人との別れがこれほどまでに詠まれているのに。
 
 女正月鯛の目玉を執念く吸ひ
 負暄(ふけん)してうまうま老いぬわれながら  (負暄 日向ぼこのこと)
 負暄して爺かと問はる然もありなむ
 柿膾をんな強気でありしかな
 安寝(やすい)せむ梟に眼を呉れてやり

句集の前半に置かれた句を拾ったのだが、このあっぱれなほどの人生への開き直り方、見事なまでだ。生活者としての骨太な精神がみえてくる。

 たましひのひりひり依りぬ春の雁
 自死もまた生くることなり朴咲きぬ
 燗熱くして兄の死を肯ひぬ
 形代に母の名書きしことのなし
 雪うさぎ亡き妹の名を遣らむ

つまり大石悦子にとって、死者は彼岸にいるものではなくつねにその傍らにいきいきとあるものなのだ。そういう意味で死はある意味親しいものでさえあるのではないか。
誤解をおそれずにいえば、死も生も受け入れそれにたじろがずむしろ積極的にそういうものであると肯う度量の大きさがある。だが、それのみならずここには俳人大石悦子が死者とともに生を謳歌する、その闊達な精神が見えてくるのだ。だからどこか晴れ晴れとしている。



本句集の魅力はそれだけではない。たくさんの句を上げたいところであるが、この句集を読むたのしみを読者から奪ってはいけない。

 春の夜の闇を遊のはじめとす

句集の掉尾におかれた句である。
この句もまた、はんなりとしたたたかに、そして粋であると思う。



『百囀』は『有情』につづく私の第六句集にあたります。平成二十四年から平成の代の終わる平成三十一年四月までの三五七句をもって一集としました。
かえりみますと、昭和六十一年に出した最初の句集『群萌』は、初心以来三十年分の俳句を収めたものでしたが、それ以降『百囀』までの五冊は、いずれも平成時代の三十年間に刊行したもので、たまたまの符合ながら三十年というくくりのなかで、自分自身の俳句を見直す機会に出会ったような思いがいたします。
書名とした「百囀」は多くの鳥の囀りのことで、大阪の郊外にあるわが家へ、四季をとおしてやってくる野鳥への親近の思いをこめて名づけました。

「あとがき」を抜粋した。


「百囀」は、家にやってくる鳥たちへの親近の思いで名付けたと書かれているが、本句集を読み通すと、それはまた、生者も死者もまじえたにぎやかな声にも聞こえてくるのである。





本句集は「令和俳句叢書」の第1回配本として刊行された。

装幀は和兎さん。


したたかに死も生もうべなう。_f0071480_17033130.jpg

和兎さんは、この「赤」にこだわった。
朱にちかい日本的な赤である。


したたかに死も生もうべなう。_f0071480_17033453.jpg
キイカラーといってもよい。


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したたかに死も生もうべなう。_f0071480_17034032.jpg

全体の仕上がりが華やかであっても子どもっぽくあるいは乙女チックにならないように心がけた。


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したたかに死も生もうべなう。_f0071480_17034657.jpg

表紙もおなじ赤で。

実は最初は、「花紺」だった。
わたしも好きな色であるが、「花紺」と呼ばれる着物の布の色がある。華やかな紺の色だ。
それにしましょうと大石さんに申し上げ、納得していただいたのだが、
和兎さんは、それでもいいけど、やはり「赤」がいいと。
クロスを発注してから、はたと悩んだ。
花紺もすてきだが、大石悦子という俳人にはやはり「赤」がいいと。
そこで急遽変更をしたのだった。


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大人の女性にふさわしい赤だ。


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見返しは模様のある透明感があるもの。


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扉は光沢のある用紙に一色刷り。
黒ではなくかぎりなく黒にちかいチャコールグレー。


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花布は金、栞紐は白。

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金箔の文字が品格をあたえた一冊となった。



本句集には好きな句がたくさんあるけど、あえて二句のみ紹介したい。

 吾を涼しというてよこせし文古ぶ

これは恋文のことだ、きっと。この「涼し」の「涼し」はなんとも素敵だ。
yamaokaなど、「暑苦しい」と言われたことがあったかもしれないが、「涼し」なんて言われたことないな。生まれてから一度は言ってもらいたかった。。。


 ファクスくる初雁とのみありにけり

これが一番好きな一句かもしれない。俳句をつくるもの同士のやりとりだろう。「初雁」とだけ記してあってもそれは素晴らしい挨拶なのだ。そういう季節になりましたね、いかがお過ごし? あるいは共に初雁をみたことの思い出がよみがえるかもしれないし、「初雁」を詠んださまざまな俳句を思い出しそこに思いをはせる、「初雁」とのみ記されてあっても、そこからひろがる世界は果てしなく、ともに初雁の空を共有する相手のことを思っている。季語にたくす俳人ならではの交流である。この簡潔さで豊かなものを共有できる、これが最高の粋なのではないかとわたしは思うのだ。



大石悦子氏にお願いして、近影のお写真を送っていただいた。



したたかに死も生もうべなう。_f0071480_19024190.jpg


  飾焚く八十の背をまつすぐに  






大石悦子さま

カッコいいなあって思います。
 




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by fragie777 | 2020-08-24 19:16 | Comments(0)


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