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5月1日(金) 八十八夜 旧暦4月9日
マーガレット。 五月だ。 初夏を感じさせる一日となった。 しかし、いつまでも春愁をひきずっているようで、気持ちは晴れやか、というわけにはいかない。 そんな時には、この小さな詩集をひもとこう。 きっと優しいわやらかな心となり、おおいに慰められると思う。 新刊紹介をしたい。 46判変形ペーパーバックスタイル 60頁 細身で薄く優しい表情をした詩集である。 詩人そらしといろさんの前詩集『暁を踏みわっていく』につぐ詩集である。 この一冊の本の清楚なたたずまいは、詩集の世界とよく響きあっている。 詩は、この詩集を開いたときから最後までさまざまな変容をみせながら、途切れることなくつづいていく。 「もうずっと静かな嵐だ」というタイトルのページを開くとこんな詩行ではじまっていく。 こんこんと 眠っていた 扉の青いノート 未使用で よく乾いており ボールペンのインクを ゆるやかに 吸いこんで 目覚める 定住する言葉 今は 文字として いつかは 線として ほどかれる 意味と 無意味が 交差して まっさらな 言語が生まれる 「もう二度と会えない君と僕の、すれ違いながら生きていくことについて。 忘れられない君との思い出、僕自身の記憶。 詩作品それぞれにタイトルはなく、詩集のタイトルがすべての作品の共通タイトルです。 30編の詩作品で流れを持った一つの詩作品になるイメージです。 」 とは、そらしさんのこの詩集にこめた思いでありコンセプトである。。 毎日 なにかが見えて なにかを見落としている すくいきれない 手のひらを 黄色い窓に押しつける 手のひらの ぬくもりのかたちに 感度を分けあう ひととき この詩集の担当のPさんは、「そらしさんの詩はすべて好き」という。 Pさんによると、 この詩集は1冊の青いノートにまとめられたもの。 ここに書かれていないものはなく、ここに書かれたものだけが詩集となった。 Pさんが中身を見せてほしいというと、「字がきたないからいや」ということで見せてもらえなかったと。 そらしさんならではの "ブルー"な視線で切りとった 誰もが日々見ている物の中に しずかな感情の起伏を やわらかな言葉で書き留めていく感じが好きです。 とPさん。 いくつかの詩行を紹介したい。 僕らの視線 まぶしすぎる 空色に 太陽は溶けていた 蒼白く とろけた 太陽の火葬場 僕らの内なる 骨の やわらかな曲線のうずき 雲の白さ かたさほどの 骨 と名付けたものを 僕らは一つずつ 交換して 大事にしていた あらゆる色彩が 風の円錐形に 細分化されていた むずかしい言葉はなく、どの言葉も日常の言葉として目にし耳にする言葉である。が、そこから立ち上がる言葉の繊細な音律はわたしの身体に波動のように触れてきて、その感触はやさしく懐かしく心地よい。 そう、ずっと読んでいたい、そんな一冊である。。 一言に名指せない 感情や感覚が 天地もなく膨らんでいる 空間ばかり 広々とあって 息を吐く 風を作る はぁ と吐けば温かく ふぅ と吐けば冷たく きみ と呼びかけて 作った風は 僕をそっと包んだ わざと外さない ゆるい鎖のように やがて沈殿する 足首にまとわりついた 名指せないもの 愛に似た 執念で もうずっと 静かな嵐だ 「大切な何かを喪失してから、新たな一歩を踏み出すような雰囲気の詩集です。」と、そらしといろさん。 たくさんの詩行を紹介したいが、是非この一冊を手にとっていただきたい。 心の琴線にふれてくる詩集である。 本詩集の装丁と本文レイアウトは和兎さん。 装画は、蒜山目賀田さん。 2018年に美術家と詩人のコラボ「ポエトリー・イン・ダンジョン vol.1 直角ではありません」(板橋区アートスタジオDungeon)でコラボしたことがきっかけで、今回装画を依頼されることになりました。 と、Pさん。 扉。 すっくと立った一冊。 静けさが支配している。 わたしは本書を読みながら、ふっと宮沢賢治の作品に出て来るジョバンニとカンパネルラのことなどを思いだしていた。あの作品を支配していた空気感、気配、それを感じていたのだった。 手触りだけを 頼りにして 振り返る場所のこと 最後におかれた詩行である。 そう、 手触り、、、 である。
by fragie777
| 2020-05-01 20:01
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